2-1:子は親に似ると言うけれど。
と …まぁ昔の話はこのくらいにしようか。
そんなこんなでその後も色々あって今に至る訳だ。
アルや貴族社会から逃れるために国外まで出て、ひっそりと息子とのんびり生活。
そりゃまぁ……幸せすぎる~!!!!
俺がΩじゃなかったら、相手が俺を殺すかもしれない奴じゃなかったら。なんて、色んなことを考えてたりもしてたが、結局はその全てを得てリアンと巡り会ったんだ。この子のおかげで自分が不幸だと嘆いていた境遇が幸福なものだと思えるようになった。
「リアン~用意はできたか~??」
「うんできたよ~」
今日は街で祭りがあるのだ、今年一年の豊作を願って神様に祈りを捧げるそうだが、実際はみんなどんちゃん騒いで楽しむというのが本音だ、その際に出店やらなんやらで賑わうのでせっかくならリアンを連れて行ってあげようと思い立った訳だ。
「ほらリアン仮面をつけてあげるよ」
「ありがとう父さん」
この祭りでは皆が仮面をつける。付けていなかったら変な目で見られたり怒られたりもするのだ。なんでも神様が仮面を信仰の証としたらしく、外せば街の豊作を願っていないと見なされるらしい、なので仮面を外してはいけない。
デレクはシンプルな白のマスカレードマスク、リアンは猫の形を模した顔全体を覆う仮面だ。
ちなみにこれは認識阻害仮面だ、とても高価な魔道具だが、とある伝手を使って貯めた貯金で逃亡する際に購入したのだ。自然血族だけが認識出来るという仕組みである、なのでたとえ番であっても血が繋がっていなければ認識するのは困難だそうだ。そして持ち主の成長に合わせて仮面も成長していく優れものだ。
一応念の為だ、リアンの見た目はあまりにもヴェーデルラの血が濃すぎる。異国とは言えヴェーデルラ公爵家は有名なためなにか勘繰られでもしたら面倒だ。
「この2つの約束だけは守ってくれ、1つは手を離してどこかに行かない。2つ目はその仮面を絶対にとってはいけないよ…絶対にだ。
「はい父さん、僕絶対にどこかに行かないし、仮面も絶対に取らない!!」
可愛いっ、真剣な顔でドヤってるなんて立派なんだ!!
ピンッと手を挙げるの点数高すぎる限界値突破だな。
♢
「おぉ~賑わってる、昔来た時より人が多い気がする。はぐれたら大変だから絶対に手を離すんじゃないぞ?」
「うん、勿論だよ父さん」
デレクはリアンの手をいつもよりも少しだけ強く握ぎり人混みの中へと入った。
小さな頃だがデレクは姉達とこの祭りに来たことがある。
「デレク絶対手を離しちゃダメよ?」
幼いながらにもしっかりとデレクの姉として責任感を持ったヘイズはデレクの手をぎゅっと握っていた。
「もしもの時はこの私が絶対に探し出してやるさ」
そしてその隣にいつもいるリザリー。
「まず迷子にならないようにしなきゃなのよリザ!!」
「ははっごめんごめん」
そういえば案の定俺ってば迷子になったんだよなぁ~。
俺よりも姉さんが大泣きしてたっけ。改めて思い返すと笑えてくるな。
デレクはクスッと鼻で笑った。
その時はヘイズやリザリーにデレクが手を引いてもらう立場であったが今となっては彼が息子の手を引いている。そう考えるとなんだか感慨深いと昔を懐かしんでいた。
今頃二人はどうしてるんだろうか、二人の間に子どもができたと風の噂で聞いた。二人には手紙を残したけどやっぱり逃げた当初は探されてたっけな。
敵を騙すには味方から、たとえ姉さんたちであってもリアンに危害が及ぶかもしれないなら居場所は伝えられない。
だけどいつか会いに行こう、この子がもう少し大きくなった時に、二人に会わせてみたな、二人の子どもにも。そしてあんなことがあったんだと昔のように姉さん達と談笑できたらきっと楽しいだろうな。
「父さん、あそこにある串焼き食べてみたいな。」
「買ってくるからそこの噴水の所で座って待ってるんだよ?」
リアンのために串焼きを2本購入してリアンの待つ噴水へ戻った…が。
「リアン、リアン何処だ?」
案の定迷子になった。
「OMG…。」
子は親に似ると言うけれど。こんな所似なくていいのにいいいいい!!!!!
なんで一緒に買いに行かなかったんだ俺は。近いから油断した、目を離すべきじゃなかった。
賢いと言ってもまだ4歳になったばかりなのに、迷子になってしまってきっと今頃俺のことが恋しくて泣いてるはずだ、何がなんでも早く…早く見つけてあげなくちゃ!!!!
デレクはリアンの足を休ませてあげられるかと思い、座って休んでいるようにと配慮したがそれが返って仇となった。
「リアン!!何処だい出ておいで~!!!!!」
リアンのことだからそう遠くには行っていないはずだ、それに賢い子だから迷子になったと分かったらその場でとどまってくれているはず。
デレクは近くにある出店の店主たちに黒猫の仮面を被った男の子はいなかったか?と聞いて回ったが誰も見ていないと首を横に振った。それもそのはず認識阻害仮面なのだから当たり前だ。
リアンの捜索は日が落ち始めても続いた。
来た場所を辿ったり、子どもが好きそうな雑貨屋の中や、サーカスのテント、当て物屋、小さな路地至る所を駆け回った。
「見当たらないどうしよう。」
デレクは息が上がり肩を上下していた、仮面をつけていたのも相まって余計しんどかったのだろう。体力も限界が近ずき自分の浅はかさを悔いた。どうして子どもを1人にしてしまったのか、あの子に何かあったら自分は生きていられないと。
「リアン…リアン出てきてくれ頼む、お願いだよ、父さんが悪かったよお願いだ。」
脚がふらつき盛大に転けた。足首がぐねり酷く傷んだ。デレクの体力は底を尽き、地面に着いた体が持ち上がらなくなる。
情けない、動け、動いてくれよ、何が父親だ、自分の子どもさえ守れない父親失格だ、俺一人で絶対にあの子を守ると決めたのに。
このままあの子が帰って来なかったら俺は…俺は。
「大丈夫か。」
下を向いて歯を食いしばるデレクに男が声をかけた。
黒い仮面にローブをまとった男は、足をくじいたデレクに膝を着き手を差し伸べた、デレクはなんだかその男に懐かしいようななんとも言えない既視感を覚えていた。