1-1:酒を飲んだら飲まれました。
ここからは少し昔の話をしよう、俺がまだ大切な天使に出会っていなかった頃の話を。
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質のいい学生服、さすが貴族御用達の学園なだけはある、辺境の男爵家の末っ子が普段着る服よりも数倍は上等だ。
まぁ茶髪でブラウンの瞳、どこにでもホイホイいるビジュアルの俺が着たって誰にも褒められることはないけど。
ケッと言う文字が似合う捻くれた笑みを浮かべ、少しガッカリしたように肩を落とし、自身の頬をスっと撫でた。
今晩開催される卒業生の送迎パーティーの支度を済ませるため、寮にある古びた姿鏡の前に立って自分をまじまじと観察し、どよんと憂鬱な気分浸っていた。
ちなみに彼が卒業する訳では無い、まだ彼は1年生だ。
俺、デリック・レンガデには前世の記憶がある、日本人の会社員、帰宅途中に車に轢かれて死んだ。
はっきりと自覚したのは3~4歳頃だったろうか、正直あまり覚えていない。
自分の事くらいちゃんと覚えとけって?仕方ないだろう、ほんとに何となく段々と自覚して行ったんだ、幼少の頃の記憶って断片的にしか思い出せないんだよ、だから何か大きな衝撃を与えられたみたいなことは全然なく、多分元々記憶がぼんやりと備わっていたんだ、だから決して俺の脳みそが悪いとかそういう事ではなくてだな?
…まぁこんな言い訳みたいな話は置いといて、本題に入るがここは乙女ゲームの世界だ。
前世で姉がいたんだがそいつがめちゃくちゃやり込んでて高校生くらいのときだったか。実家には1つしかテレビが無かったので強制的にそれを鑑賞していた。てか姉の独裁国家だったから、嫌だと言っても睨まれて黙るしかないそんな流れだ。
作品名は「彼女に捧げる心臓」略して「かのしん」と言う。
乙女ゲームには珍しい仕様で攻略対象が一人しかいない、その名も『ヒロイン全肯定溺愛botアルノール・ヴェーデルラ』、他は全員当て馬だ、つまりヒロインの『イヴ』とアルノール通称『アル』、二人の独壇場だ。
そしてなんとオメガバース、NL乙女ゲーでありながら、BL御用達みたいな設定を使っているのだ、そのせいなのか、設定を駆使した結果ヒロインのライバルその1はΩの男である。
察しのいい方なら気づいたとは思うが、そうだ、ライバルその1が俺である。
そして更にここからが重要だ、ライバルその1はヒロインが入学してきて少し経った頃にあっさり殺される。
は?って感じだよほんとに、殺された理由はまぁあまり言いたくは無いが、発情期の俺が男主人公、アルノール・ヴェーデルラを襲ってイヴ一筋のアルにあっさり刺殺される。
呆気な、虚し~。
そうならないため俺は目立たないようアルに近ずかないよう、ひっそりと学園生活を送っている。
そんな窮屈学園ライフが始まってもうそろそろで1年が経つがゲームの本編は次の新学期からなのだ、つまり後数ヶ月くらい、イヴが数ヶ月後入学してきてアルと出会い色んな障壁(俺を含む)を乗り越え結ばれる。
ゲーム展開という名の死期が迫ってきてるじゃねーかと思ってる人もいるだろうけど大丈夫だ。
アルと俺は一切関わりがないのだ、かのしんではイヴが入学する前から俺がアルにちょっかいを掛けていたと言う描写があったが、ちょっかいは愚かこうして目立たないように生活しているくらいだ、何を罰せられるんだって話だろ?
そして将来はとある計画を練っている。これを成功させるべく俺は営営と計画を進めている。