6 ゲームとは違う世界線で生きていくことに
これで完結です。お読みいただきどうもありがとうございました!
その後、お父様は王都へ行って1ヶ月程奔走していた。当然タヴァナー領のこと、ルナのことだろう。その間、タヴァナー男爵はうちの領地に派遣されている憲兵に連れて行かれ、どこぞに収容されていたようだ。
その間、ルナとカイ様は、まだタヴァナー男爵の罪が確定していないこと、まだ子どもで逃亡の恐れがないことからうちですごしていた。
みんなの気持ちが落ち着いた頃から、お父様を待ちながら、私達は魔法の練習を再開した。カイ様のおかげでこの先ルナは思ったよりも苦労しないかもしれないけれど、だからと言って何もしないなんて性に合わない。
メンバーはもちろんルナと私、ユーゴお兄様とカイ様だ。場所はあの裏の林の空き地。まずは私からだ。
「ルナ、私も魔法の練習をしていたのよ。ほら」
ええいと両方の掌に力を込めて隙間に魔力玉を作る。思わず
「カーメーハー…」
と言いかけるが、さすがに恥ずかしくなってそのまま「ハァ〜〜〜」だけ伸ばす。大人の握りこぶしくらいの大きさになったところで、目の前に置いた台の上の魔鉱石に魔力を込めようとするが、どうしてもうまく入らず、魔力は石の上を滑るように広がりそのまま霧散してしまう。残るのは…
「ゔゥ゙ェ…」
…二日酔いだけだ。
「ど、ドボジデ入らなィ゙んだろう‥ヴェ゙…」
地面に膝をつき四つん這いでオエオエ言っている私のところへ駆け寄ってきたルナを涙目で見上げる。
「だ、大丈夫?ベル…」
「う…ま、魔力玉は作れるようになってきたけど…石に入ってグれなィ゙の…ゥ゙…」
ルナが学園に行く可能性はまだあるのに、このままじゃ私は入学できないかも。そうしたらルナは学校で酷い目にあっちゃうかも…。想像したら涙が溢れる。
「どうして…できないんだろう…」
ユーゴお兄様もそばに来て背中を擦ってくれる。
「ベルはまだ小さいんだから、今からそんなに無理をする必要はないんだ」
「でも、ルナは…」
先日のカイ様の領地でルナが魔法を練習してきたという話と魔力玉を消し去った姿を思い出して、自分の不甲斐なさに悔しさも感じる。もちろんルナは主人公だけれど、脇役は脇役なりに努力して結果を出したい。
「…うーん、魔鉱石の上を滑る感じだったよね…」
カイ様も近くに来た。そして、
「ねえ、ベル、ちょっとルナがやっているところを見てみる?」
と言った。
「ルナが…?」
「うん、そうすれば何かわかるかもしれないだろう?自分のやり方でうまくいかないなら他を試してみるのも一つの手だと思うよ」
カイ様が私の手を取って立たせてくれた。
「大体、俺は魔力を魔石から引き出して使うことはできるけれど、魔力玉をそこまでの大きさに作ることはできないし、もちろん石に魔力を込めることはできない。ベルは魔力の引き出しも魔力玉作りもできて、その上魔力も込めようとしているんだろう?すごいことだよ。だから元気出して。まだまだ大人になるまでには時間があるし、焦らずいろいろ試してみよう?」
優しく微笑むカイ様の言葉に、私は頷き、
「ルナ…あなたが魔力を込めるところを見せてもらえる?」
とお願いした。
ルナはもちろんだと答え、すぐにやって見せてくれた。驚いたことに、私のイメージは魔鉱石の上から魔力を押し込むものだったが、ルナは最初に魔鉱石の中の不要な物を引き出してから魔力を込めた。フレンチトーストを作る時にギュッとバゲットをプッシュしてから卵液を染み込ませる感じと言えばいいだろうか…料理でしか説明できないのは前世で他にそんなに特技がなかったからです…。
とにかく魔石から魔力を引き出すことはできるので、その要領でやってみれば、果たして、これまでと比べれば、驚くほど簡単にできてしまった。
「わ…私にも、できた…」
魔力玉の大きさも十分だったようで、できた魔石をお母様に見て貰ったところ
「すごいわね。私がこれを作れるようになったのは成人してからよ」
と頭を撫でてもらった。私は嬉しくて、カイ様のところへ走って行きながら
「カイ様、ありがとう!カイ様がいろいろ試してみようって言ってくださったから!」
と言ったところで勢い余って、カイ様にどーんとぶつかってしまい、私はそのまま仰向けに転がったカイ様に抱きとめられた。
「ぅわっ!ご、ごめんね、大丈夫?怪我はない?」
悪いのは私なのに、カイ様が謝ったのがおかしくて、でもカイ様は自分がしっかり踏みとどまれば転ぶことはなかったからと言ってくれた。
ユーゴお兄様はお行儀が悪いと私をカイ様から引き剥がし、カイ様にも『全く、油断も隙もないな』と何やら文句を言っていたが、私はカイ様の優しさに心がほんわか…というかドキドキした。
いや、何考えてるの私。相手は子どもだよ?と思ったけれど、ベルの体は子どもだからか感情が引っ張られるようで、その後も練習でカイ様に応援され、褒められるたびにそのドキドキが増えていった。
私の推しはランドルフ様であってだね…それに心の中には今でも愛する夫がいてだね…なんとなく年に似合わない罪悪感を感じる10歳児である。
そんな感じで過ごした1ヶ月後、晴れてルナはトウワ家の養女となった。そして、カイ様は
「カイ、君は成人するまではうちに住むが、成人したら自分の領地に戻って領主となり管理するんだ。しっかり勉強するんだよ」
とお父様に言われて、何度も頷き、お礼を言って泣いていた。カイ様が成人するまではトウワ家がタヴァナー領を管理するが、それはあくまでも領主代行であるということだ。ルナも今は彼女の力のことがあるから、守るためにもうちの養女となるけれど、きっとタヴァナーに戻るだろう。
その後だけど、ルナは酷いことをする両親や兄から離れることができたし、うちで魔力操作や何やらをしっかり練習したので、カイ様が領地で行う魔石の管理も手伝って、それと共に収入も安定するどころではなく、かーなーりー潤って、なんと、学園に行く必要はなくなった。
そして、ずっとルナを大事にしていたユーゴお兄様と仲良くなって、二人は結婚することになったのだ。
ルナが一度うちの籍から抜けてタヴァナーに戻り、すぐにまたうちの籍に入ってと書類の手続きは手間だったけれど、身はずっとうちにあったから、二人はいつも寄り添っていて、とても幸せそうだった。ルナを大事にしているユーゴお兄様は妹の私から見てもなかなか尊敬できる人物だった。偉いぞ、兄者。
そして、私はと言えば、あれからもずっと一緒にすごしたカイ様のことが大好きになってしまい、ルナが行かないのならと学園にも行かず、成人後はタヴァナー領へ行って一足先に領地を立て直していたカイ様と結婚することになった。
カイ様は親切で、我慢強くて、誰にでも公平で、でも私にはとても甘くて優しかったのだから、そんなの好きになってしまうに決まっている。
結婚を決め、婚約した頃には、私は前世のことは殆ど思い出すこともなくなっていたけれど、そんな中、たった一つ、タヴァナーへも連れて来た犬の丸助の名前だけが前世の欠片のようだった。
「丸助、おいで」
もう成犬で大きくなったけれど相変わらず丸いおでこの丸助を抱き上げて顔を舐められる。
「お前はずっと可愛いねぇ。大好きよ」
「俺達が結婚するなら、お前にも相手を見つけてやらないとな」
そう言ってカイ様も私の腕の中の丸助のおでこを撫でる。
「それはいいわね!丸助、どう?嬉しい?気が合う子に会えるといいわね」
「もう立派な成犬だし、早く見つけてやろうな」
「家族が増えたら嬉しいわ」
「そうだな、子どもが生まれたら、名前は…デコ助にしようか」
「ええ…って‥ええっ?」
前世で飼っていた犬と同じ『デコ助』という名前に驚いてカイ様を見ると、にっこり笑って彼は言った。
「俺は最初から気付いていたよ、塔子。氷菓や芝すべりや緑茶の話をしてくれた時からね。一緒に行った北海道旅行を思い出した。ルナへの手紙の内容も君が言いそうなことだったし、それに丸助の名前を聞いて」
「あ…あ…あ、あなたなの?」
「塔子を残して死んでしまって未練が大きすぎたのか、気付いたらここにいた。発売されたゲームとはちょっと違うなと思ったけれど、マリエの思いを少しでも良い形で残したくてルナを大事に育てたんだ。塔子、君が来てくれて本当に嬉しかった。今の俺は君の推しではない人物だけれど、それでも選んでくれて幸せだよ」
「あ、その…あの…」
「これからよろしくね。ベルと塔子、呼ばれるならどっちがいい?」
「…ベルで…お願いします」
カイ様、前世で夫だった人の笑顔が眩しすぎて、目をつぶったまま返事をした私だった。
おしまい
完結できました。本当に目にとめていただき、どうもありがとうございました。少しでも面白いと思っていただけたら評価をお願いいたします。結局カイ様推しな話になってしまいました。
いつか、カイ目線のあれこれとかを…と思っていたのですが『俺の転生先に、愛する妻も転生してきた 〜定年退職目前で10歳に転生かよ?〜』として書くことができました。こちらもお読みいただけたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。




