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3 主人公との出会い

ベルちゃん、順調に中身60歳で生きてます。

 こんなふうに農産物に恵まれている我がトウワ領だが、ルナの住むタヴァナー側の領地は土地は痩せている。それでも、鉱山のごく僅かな範囲で魔鉱石が採掘できるので、狭いが有効な土地だ。


 お父様に教えてもらったところ、今では採掘量が少なくなってきている魔鉱石は神殿での祈祷に使われるのが主で、普段の生活に使われることは稀なのだそうだ、だから少量でも質の良いものが求められる。


 そこに何度も何度も魔力を重ねて込めて神殿に納め、それが信仰の対象となっているのだと。魔力が強く込められた魔石は本当の危機の場合は守りの力を引き出すことができ、王族や神官を守る盾となるため、貴族は平時の魔石への魔力の注入といざという時のために魔法が使えるように訓練しておく務めがあるので魔鉱石が必要となる。


 その魔鉱石は今では殆どをタヴァナー領から購入しているのだった。


 ただし今ではそんなに強い魔力をもつ者は多くなく、お父様でさえこの前作ったヒョーカ用の氷は私にのせられてつい作ったものなので、実際に商売として作るなら普通に燃料を使って作る氷が必要だそうだ。なるほど、家でそうそう魔石が使われないのは採掘量が少なく既にあるものも貴重だからか。


「それにしても、タヴァナー領はその貴重な魔鉱石を採掘しているのだから、もう少し潤っていてもいいのだがな…」


 お父様は憂いた顔でそう言った。確かに魔力は多く必要となるが、それは回数をこなせばなんとかなるし、やはり大切なのは良質な魔鉱石だ。


 ただ、ルナの魔力が解放されれば魔力を込めるところも解決してしまう。まあ、現時点でソレを知っているのは私だけなのだが…それにしても、まだ解放されていない弱々しい魔力しか感じられないルナにそこのところまでも負わせようとしているのだから酷いものだ。


 ルナも魔法学園へ行ったらそのまま帰って来なくなるわけだ。ルナの家族ならそれなりの魔力があるはずなのに、なぜ自分たちでは何もしないのか理解に苦しむ。


 一体どんな人たちなのだろうと思いながら会ったタヴァナー家の人々は想像以上に残念だった。とりわけ現在18歳だというダニエルは、自分の娘が原型を考えたキャラとは思いたくないような人物で、ルナを蔑ろにする言動だけでなく、私にまで失礼だった。見た目は金髪緑目で麗しいのだけれどね…


「子爵といっても女は領地を継ぐわけでもなし…嫁に行くくらいしか役に立たないな。ああ、なんなら俺が娶ってやってもいいぞ。10歳のくせに物言いはしっかりしているし、顔もまあまあ可愛いし」


「…(こいつ、何言ってんの?しかも私10歳なんだけど?)」


 これは多分だけど娘が入社した時に話していた最悪上司がモデルだな…と思った。


 セクハラパワハラでマリエたち新人はだいぶ嫌な目にあっていたようで、帰宅してからしょっちゅう怒りを爆発させていたけど、こんなところで使っていたか。


 ゲームではここまでの人物とはわからないくらいのモブだったんだけど、実際にこうして会うとなかなかキツイわ…まあルナが幸せになる過程で断罪されるからね…。


『ああでも私がいろいろ防いだら断罪されなかったり?それはちょっと』、なんてことを考えるのに逃避したくなるほど、既に成人しているにも関わらず残念な物言いのダニエルに私達は無言になってしまったが、父親であるジョセフ・タヴァナー男爵は何を思ったのか


「おや、照れているようで、可愛らしいですなぁ。そうだ、うちにもお嬢さんと同じ年の娘がいるので、良ければ御子息に嫁入りさせましょうか。それに、うちにはもう一人カイという息子もおりますから、そちらも呼びますかな。息子と娘を交換なんて、なかなかいいアイディアなのでは?わっはっは」


 と言ったものだから、お父様のこめかみに青筋が立った。親子両方同じモデルか?と一瞬苦笑したが、このチャンスを逃すまいと私は


「私と同じ年のお嬢様がいらっしゃるのですか?ぜひお会いしたいです!」


なんて精一杯可愛らしく言って、ルナと次男のカイをその場に呼んでもらい、ルナとの面会を果たしたのだった。


「初めまして、私はトウワ子爵が娘、イザベル・トウワです。どうぞベルとお呼びください」


「は…初めまして。私はタヴァナー男爵が娘、ルナ・タヴァナーです。ルナと…」


「ルナね、ええ、もちろん。よろしくお願いするわ。同じ年なんてとても嬉しいの。仲良くしてくださる?」


「え、ええ私も、その…嬉しいです」


 やや気弱な様子に心配になるが、思っていたほどではない。それに大丈夫、学園に入ってしまえば幸せになれる。攻略対象者を決める必要はあるけどね。


「ねえ、ルナ、私達ここに来るまでにいろいろと領地をもり立てるための策を練ってきたの。ぜひ遊びにいらして。そして感想を教えてくださいな」


「え?私がですか?」


「ええ、ルナに来てほしいの。ねえ、お父様、いいでしょう?」


「え、あ…ああ…そうだな。もし男爵がお許しになればだが。うちは歓迎しよう」


渋々だが了承してくれた。


「お兄様、私達が考えたアレやコレをルナに実際に体験してもらいたいわ。きっと楽しいって言ってくださるもの。もし駄目なところがあったら教えていただければ、もっと良くなるわ。同じ子どもに聞いてみるのは大切だって、そうは思いませんか?」


いつも以上に熱心に語る私に、お兄様もお父様もタジタジで、ウンウンと頷いてくださった。


「なんだ、じゃあ俺も一緒に行こう」


誘ってないのにダニエルが口を出してきた。私は、


「ダニエル様もですか?勉強や領地の視察でお忙しいのではありませんか?」


と牽制してみたが


「大丈夫だ。俺はなんでもできるからな。第一、ルナ一人ではなんの役にも立たん」


「そうですか、ではどうぞご一緒に。そうだわ、カイ様も来てくださるでしょう?」


 ゲームの通り見た目は金髪緑目とダニエルに似ているが、性格は静かで礼儀正しさの感じられるカイは今後ルナを守ってくれるようになるはずなので仲良くしておきたいと思った私の返答に、お父様もユーゴお兄様も顔を引きつらせた。


 ダニエルなんてきた日には頭痛の種が増えるだけだと思っているのだろう。それはその通りだが、ここでどうあってもルナとつながっておかねば、と考えた私は、再度男爵にダニエルとカイにも来てもらえるように精一杯可愛らしくお願いした。


 型通りの挨拶を済ませた後、


「改めましてイザベル・トウワでございます。カイ様、どうぞよろしくお願いいたします」


「あ、ああ…カイ・タヴァナーだ。ルナと仲良くしてくれたら嬉しい」


「もちろんですわ。ぜひルナ様と一緒にトウワ領へいらしてくださいね!ここに来るまでに私とお兄様で熱々のサンドイッチや冷たいヒョーカという食べ物、それに草の上を滑り降りる芝すべりという遊びを考えついたので、きっと道中も楽しんでいただけます!」


「ヒョーカ…シバスベリ…ええと、それは…」


カイは私の熱心な様子に驚いた顔をしていたが、冷たいお菓子や草原での遊びや変わったお茶なんかの説明をしたらかなり興味をもってくれたようで、ルナが行く時には必ず一緒に行くと約束してくれた。うんうん、やっぱり子どもは美味しいものと遊びが必要よね。


 領地に戻ってから、私とルナはせっせと手紙のやり取りをした。


 領地でアイディアを出したヒョーカや出来立てのベーコンチーズサンドが売れていること、プレイパークでは草の上での芝すべりの他に木の枝から吊り下げるブランコが人気なこと、アイディアを出したことで売上の一部を自分でもらえること、それを元手に何か商売をしたいと思っていること、これからの女性は男性同様自らの人生を自分で決めていく必要があると思っていること、なんかだ。


 10歳の子どもにしては重たい話題から、家で丸助という犬(名前はおでこが丸いから。前世で飼っていたのは同じ理由だったけれどデコ助だった)を飼い始めたことや、勉強(普通の勉強は全く苦労しないんだけど、貴族のマナーが…)が難しすぎて時々逃げ出して叱られるといった子どもらしいことまで、何でも書いた。


 視察を終えて3ヶ月後、私はルナとそんなふうに文通を続けながら、勉強やユーゴお兄様に習った魔力の循環を猛練習していた。


 ユーゴは前世で言えば中学校のような場所…昔の寺子屋の年上用といった風だが…に通っていて、読み書きや簡単な魔法の使い方を学んでいた。


 マリーはもっと魔法に力を入れている学校に通っているのだが、ユーゴはそこまで魔力が高くないということで、普通の勉学に力を入れることにしたようだ。


 私は入学まであと3年あるが、兄に頼み込んで教えてもらい、練習に励んでいる。最初は主人公の設定だったせいか、私の魔力量もなかなか多いようだ。


 でもこれがまた大変で、練習するとなんとなく二日酔いのような気持ちの悪さに襲われる。どうも魔力を練り上げる時に不要な物質が体の中にできるようで、そのために具合が悪くなるようだ。それってやっぱり二日酔いと同じなのでは、と思うが、とにかく練習する。お父様もユーゴも他の貴族もそうだが、この二日酔いのような症状を避けるためにあまり魔法を使わないのだという。


 え、何それ、頑張りましょうよと思いつつも、わかる、二日酔いって本当にこの世の終わりみたいな気分になるもんねとも考える。


 それに練習したからといって完全に平気になるわけではないのも飲酒と一緒で、無理をすれば体を壊すことにもなりかねない。それでも向いていればある程度、人によってはかなり、できるようになるし、この辛さも軽減されるようになるというので頑張っているのだ。


 それにしてもこうして練習していると、魔石をさっと使ってくれた領地でのお父様を思い出して、流石だなと思う。いつもは私にメロメロだけど、いざという時は頼りになるんだろうなと思えて嬉しい。


 ゲームでのルナを思い出すと、ルナは学園に入るまでは魔石作りに四苦八苦していたけれど、入学後はすごかった。どれだけ魔法を使っても、魔鉱石に魔力を注ぎ込んで魔石を作っても平気だったのだ。


 それは酒豪が強靭な肝臓をもっているのと同じで、魔法を処理するシステムが体の中にできていたということらしい。ルナが魔鉱石に魔力を注ぐとその種類によって鉱石は魔石や時に宝石にまで姿を変え、1年ほどその輝きが保たれるほどだった。


 普通は強い魔力持ちの貴族が頑張っても魔力が保たれる期間は1〜2週間もつかどうかということだし、引き出した魔力を水も氷も火も風も土も治癒も…と全属性に変換できたルナがいかに規格外だったかがよくわかる。まあ、ソレくらいじゃなきゃヒロインは務まらないよね。


 視察後自領に戻ってわかったのは、我が家では母とマリーお姉様が魔力が高いほうで、家の中で使っている魔石は殆ど二人が魔力を込めている。


 ほう、魔力は女系で引き継がれると考えていいってことかしらね?


 最近は魔石ではなく別な燃料を使うほうが一般的になっているが、貴族として魔法を使えることが必要なことから訓練としてやっているのだ。


 ルナは王都に行った後はたくさんの宝石を作っては人助けをしていた。宝石にまでなると魔石として以外にも宝飾品としての価値が上がるからね。小さな欠片でもそれをもらった人は相当助かる。


 ルナって本当にイイ子だわ…やっぱり彼女が元気にすごせるように私もうんと頑張ろう。いざとなったらルナと一緒に王都の学園に行くことも念頭においてできることを増やしておかなくては。


 そう考えて、その一環として、私はこんな幼少期からの魔力増加と制御をと努力しているのだ。ゲームが始まる前の今の努力がどれくらい影響するかわからないが、できることはしておきたい。


 それに魔力についての能力は女系ということがわかったので、練習は無駄にならないだろうと思っての特訓だった。頑張るぞ!

お読みくださり、どうもありがとうございました。

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