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1 娘の作ったゲームアプリに転生したようです

目にとめてくださり、どうもありがとうございます!


詰まりすぎていて読みにくいとのご意見いただいているので、修正しました。他のエピソードも順次修正します。ありがとうございます。

『いたたた…これは、どっか折れてるかも…』


地面に転がった私は、どうか骨折だけですんでいますようにと思ったところでハッとする。


『子ども!さっきの子は?』


顔を上げると小さな手が見えた。その手が動いていることに安堵し、


「大丈夫?」


と声をかける。すると


「本当に大丈夫なのか?きちんと見せてみろ」


と男の子の声がして、目の前の小さな手を握った。


『あれ?』


なぜか自分の手を握られた感じがする。


「ほら、立って…良かった立てるな。まったくどうしてついてきたりしたんだ」


そう言って目の前の男の子、13,4歳くらいだろうか…が私の顔を見つめている。


「おまけにミルクの缶を倒して…中身が入っていたら無事ではすまなかったぞ?」


 男の子は私の頭を撫で、髪を整えてくれたようだ…見下ろすと、肩にかかる髪の色はきれいな栗色で、ふんわりカールしている。もう一度男の子を見る。同じような栗色の柔らかそうな髪、青い瞳。見上げる形になるということは、私のほうがこの子よりも小さいということだ。


『ええと…』


 さっき私はかばった子に大丈夫かと聞いたつもりだったのだけれど、この人は私が大丈夫だと答えたと思っているようで…なんだか…足元を見れば小さな足が見える。


 ああ、これは、夢…そうでなければネットでよく読んでいた転生モノという…?と、考えたところで思っていたより焦っていたのか、息ができなくなった私はそのままその場に膝を付き、多分気絶した。


 目が覚めると可愛らしい感じの部屋だった。子ども用の部屋だとわかる壁紙、しっかりした生地だけれど小花柄のカーテン、そして寝たまま横を向くとベッドの脇で大人の女の人が編み物をしていた。咄嗟に目をつぶって寝たフリをしながらこれまでのことを思い出す。


 私は伊皿子塔子、60歳。定年まで児童保護に関わる仕事をしていて、年度末に退職した。愛する夫に3年前に先立たれ、でも娘と息子がいて、楽しいこともたくさんあって、これからはオタク趣味に生きていこうと考えていて…5月末のイベントのチケットを受け取りにコンビニに向かっていた時に…車を駐めた材木屋さんの前で暴れている子どもに出会って、止めようとして…


『あの子が店先の材木を蹴ったら倒れてきて、思わず子どもに覆いかぶさったんだったわねぇ…で、気がついたらあの男の子に大丈夫かと聞かれて…』


 さっきの子が私にミルクの缶を倒したと言っていたから、その事故と前世の事故が重なったということか?



 さっき気絶しただろうことからもわかるように決して落ち着いているわけではないが、60年も生きてきたし、長い期間仕事もして社会人だった私だから、とにかく今は焦らず考えることが重要だと自分に言い聞かせる。さっきのように息ができなくなっては大変なので、ゆっくり静かに息をする…


 自慢じゃないが常に何かにハマって生きて来た生涯オタクなので、妄想力もすごい私だ。いつか転生したらとネット小説を読んで考えたことがないとは言わない。そう、冷静に分析してみよう。ここはどこ?私は誰?これは夢?または生死の境を彷徨っている状態?または本当に転生?または…それより、あの時の男の子はどうなったのかしら…無事だといいのだけれど…全然冷静になんてなれないな!?このままもう一度気絶したいよ。


 そこでドアが開けられる音がして、誰かが入ってきた。寝たフリをしながら耳をそばだてる。情報、重要。


「…お母様、ベルの容態は…」


「大丈夫よ、大きな怪我は見当たらないし、さっきあなたが助けた時は自分で立ったのでしょう?びっくりして気絶しちゃっただけだと思うのよ」


「でも…僕がもっと気をつけていれば」


「ユーゴ、あなたのせいじゃないわ、気にしないで」


「でも、ベルが僕についてくるのはいつものことだし、もう少し気をつけていれば…」


『男の子はユーゴっていうのね、そして私はベル…ユーゴとベル…どこかで聞いたような…』


そこで私は思い出す。


「ユーゴォ!?」


「は、はいぃっ?」


 私の大声にユーゴが飛び上がって返事をする。そして同じく驚いている女の人…私の母親であるクロエと二人して私を見ると


「ベル!目が覚めたのか?」


とベッドに駆け寄ってきた。


 結論から言うと、ここは前世で私の娘のマリエが制作に関わった人気ゲームアプリ、『ルナと魔法のジュエル』通称『ジュエルナ』の世界のようだった。


 と言っても、子どもの頃から始まるのだとまだるっこしい!と没になった初期のシナリオの一つで、初期設定では主人公だった私、イザベルは最終的には本当のヒロインである隣の領地の男爵令嬢ルナの友達となった。


 さっき私を心配してくれていた兄のユーゴは攻略対象の一人である。しかもあの後仕入れた情報によると、この世界では私にはユーゴの他に姉のマリーがいて、それは最終的にはなくなった設定だった。


 つまりここはまったくもって『ジュエルナ』にならなかった世界だ。ならば、私はここで普通に暮らしていいだろうということ。もちろんゲームの設定がどうであれ、現代人の私は自分の幸せのために最適と思える行動をとるつもりではある。


 兎にも角にも前世が60歳の私としては慌てて行動するのは良くないとわかっている。どれくらい設定が残っているのか、とか今はいつ頃のことなのか、とか、もう少し情報を集めようと思ったのだった。大きな事故やなにかがあるなら避けたいし、そうであってもどうせゲームが始まるまで数年あるし。


 心配され安静を余儀なくされていた私だったが、おかげで看病してくれるメイドや執事からこの世界についてだいぶ詳しい情報を得ることができた。特に主人公に関わることはわかってよかった。


 ここは思った通り『ジュエルナ』と大体同じ世界で、隣のタヴァナー男爵領には主人公であるはずのルナと両親、そして兄のダニエルとカイが存在している。


 ルナは私と同じ10歳であること、そして私、ベルことイザベルはトウワ子爵令嬢で14歳のユーゴお兄様と16歳のマリーお姉様がいることがわかった。


 細かい設定は変更されているだろうが、ありがたいことに、娘のマリエのほぼ初の仕事だったことから何度も相談され、夫と一緒にゲームもプレイしていたせいで、この世界のことは大体頭に入っている。


 世界観が大体同じなら、戸惑うことは多くても生きていくことはできるだろう。これを生きているというのならば、だが。そこを考え始めるとにっちもさっちもいかなくなるのでやめた。人間諦めることも必要。


 そう、頑張っていればいいこともあるだろう。『なんくるないさぁ』と前世で朝の支度をしながら見ていたドラマのありがたい言葉を思い出す。


 テレビ大好きっ子だった幼少期から、死ぬまでずっと好きだったマンガやアニメやネット小説たち。そのおかげで正気を保っていられるのかも。妄想力たくましいオタク人生を送ってきてよかった…のか…?


 なにはともあれ、私はここで、イザベル・トウワ子爵令嬢として10歳から人生をやりなおすことを受け入れたと同時に、前世であれば『ダメ。ゼッタイ。』(これ、薬物乱用防止用だけど)な児童虐待案件であるルナが今どうしているかを調べて、状況が悪ければ救済することを心に誓った。

お読みいただきありがとうございました。

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