終活中の彼女、最後に僕を捨てて欲しい
「終活をする」
就活を辞めた彼女は、そう言った。
だったら、僕を最後に捨ててよ。
「あなたってわたしのモノだっけ」
「モノっていつのまにか増えているよね。僕はもう君のモノだよ」
「あっそう。じゃあ、最後に捨てるね」
「でも所有欲ってよくないよね」
「えっと、あなた頭大丈夫?」
「大丈ブイッ! 自分のモノだなんて本当は、物は誰のものでもなくて、諸行無常なのに。無我の境地に立てば、全て自分のモノなんてなくなるのに」
「えっと、仏教本かマル系にでも影響受けた?」
「己の肉体だって、なぜ自分のモノだって言える。あ、僕は君のモノだよ」
「わたしの肉体はわたしの好きにしていいでしょ」
「じゃあ、君の肉体をそのままにサイボーグを作って魂だけ移動させたと仮定したら、どうかな」
「うん。じゃあ、わたし、行くね」
彼女は哲学する葦から逃げていった。
「敵前逃亡は銃殺だぞ」
と叫んでやった。
「死ぬ前に君の肉体をください。僕の身体を自由にしていいから。君の肉体を僕に所有させてください」
「え、いやだけど」
「だって、受精卵があれば肉体は2人分になって、これはもう結婚して幸せになるしかないよね」
「いや、わたし、終活中なんだけど」
「安心してくれ。君の就活したくないから終活するっていう意思は尊重する。僕のお嫁さんに永久就職だっ!」
「君、就活してたっけ」
「今から頑張るっ」
「もう遅くない」
「ちなみに卵子を凍結して保存させてくれてもいい」
「うん、殺そう。平和のために」
「君に僕を殺せるかな。逃げろー」
「俺、頑張ったよな」
「うん、最後に捨てていいんだよね。定年退職したら財産分与しようね」
「ちょっと待って。働きます。労働最高。定年なんてないです。生涯現役なんで」