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三話

わたし的、春っぽいお弁当のおかず

なんといっても、ゼッタイに、たまご焼き


「そのたまご焼き、何か入ってるの?」

「はい、青海苔です」

「へー、青海苔なんだね、そうなんだ、初めて」

「え、そうですか」


わたしの家では、普通なのだけれど、ほかでは、そうでもないようだ

青海苔入りのたまご焼き、ミナさんに食べてもらった

こういったやり取りは、前よりずっとスムーズにできるようになったかな


「んー、おいしい、香りもいいね」


よかったあ


「今度、やってみるね、わたしも」


ほんと、この人は、いい笑顔するよなあ

人を笑顔にもするし、ステキな人だなあ

こういう人になりたいんだよなあ


この前、外を歩いたとき、少し、花の香りがした

毎年のことではあるのだけれど

その香りで、ちょっと、憂鬱な気持ちになってしまった


だんだんと暖かくなってきて

だんだんと景色に色がついてきて

だんだんと春の陽気になっていって

だんだんと人の動きが活発になっていって

そして、わたしは、だんだんと不安になっていく


「そうだ、お弁当屋さん、できたね、来週開店だって」

「郵便局のとなりのとこですか?」

「そうそう、開店セールあるらしいから、行ってみよう」

「はい、行きましょう」


春は、不安の香りで満ちている

春が近づいてくることへの不安

春がわたしのまわりにあふれていくことへ不安


学校に通っていたころの春というと

クラス替えで、知ってる子と一緒になれるかなあ、とか

どんな先生が担任になってくれるのかなあ、とか

勉強、難しくなるかなあ、できるかなあ、とか

なんとも子どもらしい不安ばかりだった

いまなら、なんでそんなことを、というようなこと


学年がひとつ上がったことへのうれしさはあったのだけれど

それ以上に不安の方が圧倒的に大きくて、そして、強かった

変化が多い季節、毎度、毎度、そりゃあもう、不安で不安で仕方なかった

大人になって、そういったものは、小さくなってきたように思うのだけれど

子どものころの不安な記憶というのだろうか

そういったものが春の香りとあいまって

わたしの中にきっちり保管されているようなのだ

それが、春の訪れとともに呼び起こされ

不安な気持ちとなって表れてくる


「お花見もしたいよねえ」

「そうですねえ」

「しよう、お花見」

「しますか、お花見」


ミナさんが、ゆっくり立って、窓を開けにいく

心地よい空気が、ふわり、入りこんできた

さらり、吹いた風に、桜の香りがまじっていた


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