一話
「みくにちゃん、煮物、おいしそうだね」
となりの席のサワダミナさんにいわれた
「はい、上手にできたんですよ」
ミナさんとは、ほとんど毎日、一緒にお弁当を食べている
休憩室でだったり、今日みたいに、自分たちの席で電話番をしながらだったり
「おー、いいですねえ、やりますねえ」
なんとなくホワホワした感じなのだけれど、中身はとてもしっかりした人で
わたしは、ミナさんのことを、だいぶ信頼している、憧れの先輩でもある
「自分なりに、ですけど」
「自分がおいしく食べるためにつくってるんだから、自分なりでいいと思うよ」
「はい、そうですね」
こういうときは、すすめてみた方がいいのだろうか
「あの、食べますか?」
「え、あ、ごめんね、そういう意味じゃなかったの」
「そうなんですか?」
「あ、うん」
違ったかな、わたしの対応
「んー、でも、食べてみたいかな」
おっ
「あ、はい、どうぞ」
自然にできたかな、もう少し、自然に、スマートに、やり取りできたらいいな
わたしの料理は、基本、わたしのためにする料理でしかない
誰かに食べてもらう、おいしいと言ってもらう
ときには、あんまりかなあ、というような顔をされる
そういったことは、これまでになかった
自分がおいしければそれで十分、という料理は
気軽ではあるのだけれど、上達することはあんまりないのかな、と思う
だから、そういう意味での、さみしさ、みたいなものは、あったりする
ミナさんと一緒にお弁当を食べるようになって、少し意識が変わったかな
食べてもらうことはないにしても、中身を見られるだろうから
そこらあたりを意識してみたり、見栄えとか、色合いとか
写真を撮って、SNSに、ということはないけれど
やっぱり、少しくらい意識してしまうな、人の目というのを
だから、少しは上達してるのかも、あくまで自分的にはなんだけど
「ぜんぜんおいしいよ、すごいね」
「おいしくはできたかもですけど、全体的に茶色くなっちゃって」
「あー、そうだね、煮物はねえ」
今日は、朝、ちょっと時間がなくて、色合いまでは、考えてられなかった
よりによって、と少しへこんでしまった
「でも、茶色いお弁当って、おいしいんだよね」
「え……」
「いろいろいわれちゃうことあるけど、わたしイヤじゃないんだ、茶色いお弁当」
そういってくれるのはうれしい
気を使ってくれて、なのかもしれない、フォローみたいな、かもしれない
でも、素直に、とてもうれしい、と思える
見ると、ミナさんのお弁当には、ハンバーグが入っている
ミナさんは、ハンバーグが好きなのかな、たいがい入ってるから
今度は、ハンバーグにも挑戦してみようかな
そんなことを考えた