表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第一話_叢雲

降り頻る雨によりぬかるんだ足場の悪い道を馬車が通る。


普段よりも揺れ動く馬車の中で、まだ午前中だというのに薄暗い外の景色を窓から聞こえる雨音と共に呆然と眺める。


何気に、馬車の中に一人でいるこの時が唯一の安らぎのように感じる

それに、今日は雨なんて降って、、、ほんと、なんて素敵な時間なんだろう



いっそ、このまま学園など行かず、どこか遠い国の町に行ってしまおうか、、?


本当に、、、この時間がずっと続けばいいのに、、


「、、流石に御者に悪いか。今だって雨の中運転してくれているのだし、、褒美を渡さないと」


自虐を含んだ愁いの表情を浮かべ、ぼんやりと遠くを見つめて物思いに耽る。

そんなことをしていると、必然的に私の脳は暇を持て余すことを許さぬという様に、無意識下で直近の出来事を整理しようと今朝の一切を頭の中で再生し始める。




________ディニタス家  執務室前


コンコンコンッ___ 


屋敷内で最も荘厳な扉の前。

ノックを3回打って、もう後戻りできない状況に自分を追いやる。


「入れ」


と、一言声がかかるとカチャリと音を立ててドアノブが握られ、奥から重厚な年季の入った軋み音とともに開かれる。


「お忙しいところ失礼致します、お父様」


淡々と執務をこなす父の前に歩み、深々とカーテシーをして見せると、一瞥したきりすぐさま机に向かいペンを持つ手が再び動きだす。


「何のようだ」


顔も向けず口を開き、冷淡に言葉がかけられる。


「今朝は朝食にいらっしゃらなかったのでご挨拶と、学園へ戻りますので出立の報告をしに参りました。」


「、、、そうか。名に恥じぬ行いを徹底するように、以上だ。」


「はい、それではお父様もくれぐれもお身体にお気をつけて。」


部屋を出て、再度扉が閉まるまで頭を下げ執務室を後にする。



これが、この家の日常。


この家に生まれたこの私、レイラ・ディニタスの変わらない日常



荷物を使用人に任せ積んでもらっている間に母の元へ向かうことにした


コンコン、コッ___ガチャッ


「レイラ!」


「!?  お母様、どうかなさいましたか?」


3回目のノックを待たずに扉が開き、驚く間もなく中へ招き込まれた


中へ入り母直属のメイドに視線を送ると、察してこくりと控えめに頷く


「お母様、お身体は変わりありませんか?」


「突然そんなことを聞いてどうしたの?私はいたっていつも通り、良くも悪くもないわ」


「それは良かったです。本日は天気が悪いそうなので少し心配で」


「あら、そうだったの。あなたは本当に優しい子に育ちましたね。」


そう言ってまるで幼い子を撫でるように私の頬を掠めた


「それも全て、お母様のおかげです」


「あらあら、ふふっ」


嬉しそうに顔を綻ばせる母、すると何かを思い出したのか窓の方へ顔を向けた。


「そういえば、馬車が用意されているようだけど、旦那様は何処かお出かけになるのかしら?もしかして、何か緊急のことでもっ、、」


「お母様、あれは私が用意させた馬車です。」


”今の母”は、知らぬ、予定にない準備が着々と進められている現状に憂惧し、顔を曇らせた。

焦燥に駆られ、呼吸を乱し始めるのを感じすぐさま事の詳細を告げた。


「まぁ、、どこかへ行くの?」


「明日からまた学園が始まりますので、もう間もなく学園の方へ出立します。」


「あら、そう、、くれぐれも気をつけるのよ?私は貴方やルオメン(レイラの兄)が居なくなるたび心配で、心配で、、」


「大丈夫ですよお母様、うまくやっていきますので」


その時迎えの執事がやってきた


「お嬢様、出発の準備が整いました。」


「ええ、今向かいます。」


「かしこまりました。」



「それでは、行って参ります。お母様」


「ええ、、」


そうして、暗雲立ちこむ空の下馬車に乗り込んだ___



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ