第4話 二宮金次郎
図書室はこの棟の三階だ。
ゾンビも、まだ聴力がついたくらいなら、ゆっくり進めば気がつかれる心配はない。
もし、気が付かれたら、俺の鞄の教科書かなにかを投げれば、囮として使えるだろうから、そうして進めは良い。
2階の廊下に1体だけ、ゾンビを確認したが特に気がつかれもせず、図書室前に辿り着いた。
ガチャガチャ
扉には案の定鍵がかかっていた。
手に入れた鍵を使ってみた。
カチャ
やはり図書室の鍵で間違いなかった。
俺たちは図書室の中に入った。
「誰もいない……」
見る限り誰もいないし、特に変わった様子はなかった。
「ここでなにをすれば良いの? メリーさん、分かる?」
池田はメリーさんを受け入れたのか、普通に話しかけていた。
「そんなの、わっかんないわよ~。適当に探してみれば良いじゃない」
役に立たないメリーさんだ。
「まっ、取り敢えず、カウンターの中の引き出しとかかな?」
RPGゲームなら何か役にたつアイテムとかが入っていたりする場合もあるのだ。
トン
その時、視界に入らない本棚の後ろから物音がした。
人の気配がする……。
「だっだれだ!!」
俺は叫んだ。
しかし、返事がない。
「気の所為か?」
人の気配はするから気の所為ではないはずだが、怖くてなかなか確認しにいけない。
当然、池田も固まっている。
「ふぅ、情けないわね。そんなんじ守れないわよ。誰とは言わないけど……。私、確認しようか?」
メリーさんが頼もしい。
「とりあえず、痛いのは嫌だから、電話してみる。」
「えっ? 電話?」
「詳しいことは後でね」
ピリリリリ、ピリリリリ
本棚の後ろから着信音がする。
やはり誰かいるのは間違いない。
「わたし、メリー、今図書室にいるの」
横でやられると不思議な気分になった。
「あ~、こいつは、大丈夫ね」
メリーさんは安心していた。
「大丈夫?」
「そっ、本棚の後ろにいるのは、金ちゃんよ」
「金ちゃん?」
訳がわからなかった。
「二宮金次郎よ」
「二宮金次郎? それで金ちゃん?」
「そうよ。とにかく、金ちゃんは温厚だから、危険はないよ」
「そっ、そうなんだ……」
横で池田が安心している。
ガタ
本棚の後ろにから、音が聞こえる。
どうやら、出てくるみたいだ。
ゆっくりと姿が現れた。
そこには、薪を背負って、本を広げている姿ではなく、薪の代わりに、ショルダーバックをかけ、手には携帯ゲーム機が持たれていた。
さらに、目が赤くなっている。
まるで怒っているようだ。
「あれが二宮金次郎? 俺の知っている姿とだいぶ違うけど……」
メリーさんに尋ねる。
「金ちゃん、どうしたの? その格好は?」
メリーさんは、二宮金次郎に近付いていく。
ドカ!
金次郎の手がメリーさんを叩き落とした。
「いったー。ちょっとなにすんのよ」
メリーさんは怒っている。
だが、二宮金次郎は反応せず、攻撃体制に入っているように見える。
「何処が温厚だ!!」
「ねぇ、二宮金次郎の後ろにあるの、薪と本じゃない?」
池田は金次郎の後ろを指指した。
部屋の隅に、薪と本が乱雑に置かれていた、
「そうみたいだな」
「ちょっと~、ボサッとしてないで、なんとかしてよ」
メリーさんが必死に金次郎の攻撃を避けている。
「金ちゃんの姿も性格も違うけど、本人に間違いないんだよ。多分、薪を背負って本を持たせれば元に戻るかもだよ。だから、はやく」
メリーさんが助けを求める。
「やっ……やってみるか」
俺は決意する。
「池田はここにいてくれ。ヤバそうになったら、逃げろよ!!」
俺はそういって、薪と本の所に走った。
「重い……」
石で出来ているからか、予想以上に重い。
「はやくして~」
メリーさんが限界に近付いているようだ。
「分かってるよ」
かなり重いがなんとか、薪だけは持てた。
しかし、本も必要だ。
「これは私が持っていくから、早く」
入口にいたはずの池田が、本を持ってくれている。
「……ああ」
俺たちはメリーさんに集中している、二宮金次郎の背後から一気に薪を背負わせた。
そして、俺はゲーム機を叩き落として、池田が本を持たせた。
すると、二宮金次郎の目が青くなり、動きも止まった。
「たっ助かった~」
メリーさんが安心している。
「金ちゃん、大丈夫?」
「…本…借りれますか?」
「えっ?」
いきなり、意味不明な事を言い出す。
「良かった。戻ったんだ」
メリーさんは喜んでいる。
よく分からないが、これが普通のようだ。
「本、借りれますか?」
二宮金次郎は繰り返す。
「ほら、あんた、図書委員でしょ? 貸してあげなさいよ」
池田が背中を叩きながら言った。
「わかったよ。でっ、なんの本ですか?」
俺は二宮金次郎に聞いた。
「この本なんです。後、こちらをお返しします」
図書カードに記載して、本の貸し出しをした。
「この本、返します」
本を受けとると、本の間から鍵が落ちてきた。
「んっ? 鍵? これは……?」
俺は二宮金次郎の方を見ると、もう姿がなかった。
「あれ? 二宮金次郎は?」
二人に聞いた。
「いっ今、消え……ちゃった……」
池田は、キョトンとしながら教えてくれた。
「金ちゃんは勤勉家だから、用事すむとすぐに行っちゃうよ」
メリーさんが教えてくれた。
「そうなのか……」
「でっ、その鍵は何処の鍵なの? さっさっと次に行かないと、ゾンビ増えるわよ」
そうだった。
鍵には3-6とかかれていた。
最初にいた、俺たちの教室だった。
「さっきまでいた、俺たちの教室じゃないか」
「でも、鍵なんてかかってなかったけど?」
「たしかに、普通に出れたな」
「ねぇ、これ、普通の鍵にしては小さいんじゃない?」
メリーさんが指摘してきた。
言われてみると小さいような?
「どれ?」
池田が覗きこんできた。
「ねぇ、これロッカーの鍵じゃない?」
「ロッカーの鍵?」
言われてみればそんな風に見える。
「まぁ、行ってみれば分かるわよ。早く行きましょ」
まぁ、ここにいても時間だけが過ぎてくだけだし、俺達は自分達の教室に向かった。
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