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加速する世界ふたたび  作者: ひなたひより
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第49話 オープンキャンパス

 まだ朝の早い時間帯。

 大志は晴香と新幹線の指定席に並んで座っていた。

 大志はオープンキャンパスに行くと親を半分騙し、晴香は来年東北大学を受験したいから見に行ってくると、母親に適当な説明をした。

 恐らく、晴香の母は娘に転校の事で少し引け目を感じていたのだろう。

 旅行会社に勤めている晴香の母は、提携先の旅館まで手配してくれて送り出してくれたのだった。


「お互い上手く抜け出せたな」

「そうね。実は私、幸枝先輩とオープンキャンパスに行くってママには言ってあるんだ」

「え? どゆこと?」

「先輩と行くなんて絶対言えないから、幸枝先輩とオープンキャンパスに行くことにしといた。合宿の時に撮った写真を見せて、この先輩に誘われたって嘘ついといたんだ。そんで昨日は幸枝先輩に別に用もなかったけど電話を掛けて、それっぽく打ち合わせしてるみたいにママに見せといた」

「おまえ、流石だな。前から思ってたけど、なりふり構わない奴だ」

「先輩も私と一緒とは言ってないんでしょ」

「ああ。一人旅って事になってる」


 朝ご飯をちゃんと食べないで家を出て来た二人は、なかなか美味しい駅弁を食べながらたくさん話しをした。

 今日は大学の方だけで、父親に会いに行く予定は明日だったからか、晴香は落ち着いた感じで楽しんでいる様だった。

 大志もそんな晴香と旅をする事をなんとなく楽しんでいた。

 そうして色々話していると何時の間にか、列車はもう少しで仙台駅に到着しようとしていた。


「教授と会うの久しぶりだね」

「ああ。でも戸成はしょっちゅう電話とかオンラインとかで話してるんだろ」

「まあ、加総研の顧問だしね」

「え? 玉出先生じゃなかったっけ?」

「あれはユーレイ顧問。ほんとの顧問は勿論、篠田教授よ」

「そうだよな。まあそうなるよな」


 駅を出て、大志は初めての東北の地を踏みしめた。


「なんか、ちょっと感動。東北に来たの初めてなんだ」

「あ、私もだよ。ママと北海道は旅行で行ったこと有るけど東北は初めてなんだ」

「そうか、戸成もか。一緒だな」

「うん、一緒だね」


 その時、聞き覚えのある声が聴こえてきた。


「おーい」


 まさかとは思ったが篠田教授だった。

 駅を出てすぐのターミナルで手を振っている。


「教授!?」

「え? どうして待ってる訳? 何でこの時間に到着するって知ってたの?」


 ちょっと意外だった教授の登場に驚いたが、大志たちは手を振るスーツ姿の教授の元へと小走りに向かった。


「先日はありがとうございました。でもどうしてここに?」

「君たちを迎えに来たんだよ。二人ともオープンキャンパスの時間に丁度いい新幹線に乗ってくると思ってね」

「加速していらしたのかと思いました」


 晴香が気の利いた言葉で、また教授を喜ばせる。


「ははは。私は加速できないただのおじさんだよ。本当に加速できる人は理論上いる筈だけど、まあ生きてる間に会える事は無いだろうね」


 今すでに会っている。皮肉なものだ。


「恐縮です。まさか足を運んで下さるとは」

「水臭いな。君達を案内するのは私に決まってるじゃないか。説明会の後は私の講義に出てくれるんだろ?」

「勿論です。それを楽しみに来ました」


 教授は頬を染めて感動している様だった。


「講義の後、大学の中を案内するよ。それが終わったら少し観光しないか? 私が案内するよ」

「いや、そこまでして頂くなんて……」


 流石に二人とも遠慮した。


「いいんだよ。予定があるのなら私は遠慮するけど、そうじゃないのなら君たちをもてなさせてくれ」



 まさかの教授の登場にいきなり驚いたが、教授も歓迎してくれていたので結局甘える事にした。


 大学の門をくぐると、二人ともちょっとした高揚感に満たされた。


「何だか、緊張しちゃう」

「俺も」

「ははは。まだ門をくぐったばかりだよ。色々見て、存分に楽しんでくれ」


 説明会の開始時間になって、一度教授とは分かれた。

 教授は理工学部の講義の段取りをしに行き、大志たちは講堂で大学の紹介を聴いたのだった。


 説明会が終わると、予め登録しておいた教授の授業に出席した。

 広い教室には、たくさんある席の数の半数ほどの受講者が集まった。

 大志と晴香は前の方の席に座った。

 開始時間前に教室に入ってきた教授は、二人の知っている感じよりも少し大きく見えた。

 ちらと、大志たちを見た後、教壇に立つ。

 広い教室全体に届くよう、教授はマイクを使って挨拶をした。


「皆さん、こんにちは」


 生徒達が遠慮がちな返事を返す。

 そんな空気感を愉しむように教授は言葉を続けた。


「よく来てくれましたね。私は篠田小五郎と言います。こうして皆さんが理工学部の講義に来てくれたことを歓迎します」


 そして講義が始まった。

 60分の講義はあっという間だった。

 大志は、本当の意味で教授は頭のいい人なのだなと感じていた。

 難解な言葉を避けて丁寧に説明し、高校生の身近な話題を話の中に散りばめて、関心を引き出していた。

 大志がイメージしていた講義とは違ったが、いい意味で裏切られたと感じていた。

 そして授業の最後をこう締めくくった。


「今日の講義は理工学の話でしたが、どの分野の学問にも様々な可能性が有ります。私は少し人間の可能性についての研究をしていますが、ここに集まった皆さんは、自分の中にある可能性にこれから向き合うのだと思います。そしてそれを今隣に座っている仲間たちと共に、この大学で探してもらえたらと私は思っています」


 たくさんの拍手をもらって、教授は教室を後にした。

 勿論、大志と晴香もたくさん拍手を送ったのだった。



「なんか教授を見直しちゃった」

「ああ、おれもだ。これからあんまり馴れ馴れしくするんじゃないぞ」

「どうして? 教授だってその方がいいみたいだよ」

「そうかも知れないけど、戸成のは度を越してるんだよ」


 ここで待っていてくれと言われていた中庭で、二人は大きな樹の木陰で暑さをしのいでいた。

 ほんの少し風がある。

 真夏のこの時期にしては過ごしやすい日だった。


「これから学食でお昼ご飯だね」

「ああ。教授が案内してくれるって。お薦めがあるとか言ってたな」

「美味しかったら毎日楽しみだろうな」

「え? 戸成もその気になってる?」

「先輩が受かったら考えようかな。そんでここでも加総研を立ち上げるの」

「戸成ならそう言うと思ったよ。そんで篠田教授に顧問を頼むんだろ」

「そういう事。それでその時に先輩が教授の探してた加速能力者だってカミングアウトするの。どう? 面白いと思わない?」

「正気か? そんなことしたら俺は一生教授に追いかけられ続けるんじゃないか?」

「おーい、お待たせ」


 手を振りながら軽い足取りで教授は走って来た。


「いやあ、ちょっと片付けで手間取ってね、早速学食に案内するよ」

「すみません。お手数かけます」

「いいのいいの。今日の日替わり定食はアジフライなんだ。美味いぞ。他にも食べてもらいたいのがいっぱいあるんだけど、それは入学してからゆっくり食べてくれ」


 やはり教授の中でドンドン大志の未来は出来上がっていた。


「なんだか盛り上がってたみたいだけど、何の話をしてたんだい。やっぱり加速理論とか?」


 まともに正解されて、二人とも微妙な顔をしたのだった。

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