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加速する世界ふたたび  作者: ひなたひより
3/58

第3話 影響されてる?

 始業式から帰ってきた大志が自分の部屋でしばらく寛いでいると、予想より早く晴香が自転車でやって来た。


 せっかちなのは知ってるけど、いくら何でも早すぎるだろ。


 スタンドを立てる晴香に二階の窓から手を振ると、すぐに気付いて手を振り返してきた。


「やけに早かったな」

「へへへ」


 玄関の扉を開けて晴香を招き入れると、さっさと家の中に入ってきた。


 この感じは春休みでしばらく会ってない間に色々動き回って溜め込んでる感じだな……。

 じっとしてたら死んでしまう魚がいるけどあれと同じか……。


 大志は意気揚々と階段を上がっていく後ろ姿に、満充電されている雰囲気を感じていた。


 部屋に入るなり晴香は口を開いた。


「あ、お昼食べてくるの忘れてた」

「そうだと思った。いくらなんでも早すぎるし」


 大志は何となくそう思っていたので別に驚きもしなかった。


「インスタントラーメンしかないぞ」

「え? ご馳走してくれるの?」

「仕方ないだろ。どうせ自分の分作るつもりだったから別にいいよ」

「やった」


 晴香は素直に喜んでいる。


「ちょっと待ってろ」


 大志は晴香を部屋に残して階段を降りて行った。

 大志の両親は共働きだったので早い時間に帰ってくると、たいがい母親はまだ帰宅していなかった。

 インスタントラーメンは幾つも常備していたので、大志は結構手際よく作り終えると湯気を立てたどんぶりを部屋まで運んだ。


「おまたせ」

「あ、いい匂い」


 晴香は座卓に置かれたインスタントラーメンの匂いを吸い込んだ。


「卵とチャーシューまでついてる」

「いつもは卵だけだけど戸成のためにちょっと付けといた。試合観に来てくれたし」

「やった。ね、食べていい?」

「ちょっと待った」


 大志は箸で自分の分のチャーシューを取って晴香の麵の上に載せてやった。


「もひとつおまけだ」


 晴香は嬉しそうに目を細めた。


「さあ食べよう」

「いただきまーす」


 ズルズルと汁を飛ばしながら、二人はインスタントラーメンをすする。

 大志がふうふう言いながら食べている姿を、晴香は時々上目遣いに見るのだった。


 食べ終えてから食器を片付けると幸枝がやって来た。

 玄関扉を開けると幸枝はすぐに訊いてきた。


「もう来てるの?」


 晴香の自転車を見て気付いたみたいだった。


「あいつ昼飯も食わないで来たんだ。今二人でインスタントラーメン食べ終わったとこ」

「なんだ、私も混ぜてよ」


 幸枝はやや拗ねた感じだった。


「これから新学期の計画発表するって息巻いてた。なんか嫌な予感がするんだけど……」


 その大志の予感は当たっていた。



「え? もう一回言ってくれる?」


 大志と幸枝を座らせて晴香は一人立ち上がり、新学期からの計画を力説した。しかしその内容がちょっと理解出来なくて大志は訊き返したのだった。


「だから新しい部を立ち上げます」


 晴香は今の報道部分室? を大志の加速研究にこれからも快適に使い続けられる様、いっそ新しい部を立ち上げて堂々と使ってやろうじゃないかと言い出したのだった。


「それいったい何部なんだよ。オカルト研究会か何かか? それにお前も俺も部活入ってるじゃないか」


 春休み中これを温めていたのか。しかし今のままで満足しない向上心は見上げたものだった。

 一方、幸枝は困り果てた顔で晴香に向き合う。


「私は部活やってないけど、まさか私が立ち上げるなんてことないよね」

「それは大丈夫」


 晴香は自信に溢れた物言いで、さらなる説明をしだした。


「兼部って手が有ります」


 晴香は相当な自信をみなぎらせて力説した。


「兼部している生徒って結構いますよね。幸枝先輩は生徒会だったからそこの所よく知ってる筈。部活に所属していても新部を立ち上げて兼部してはいけないなんて決まりはなかった筈ですよ」


 幸枝は眉間に皺を寄せて渋い顔をした。


「たしかに……」


 晴香は何か言いたげな幸枝の口を塞ぐかのようにたたみかける。


「私が新部の代表として部を立ち上げます。丸井先輩と幸枝先輩は部員登録お願いします」

「いや、俺たち三年だし。もうすぐ引退だろ?」


 大志は何言ってんだと首を横に振った。


「いい若いもんが守りに入ってどうするんですか!」

「いやそれって結構歳のいった人が若者に言う台詞だから」


 大志はいつの時代の熱血漢だよと多少呆れた。


「攻めて攻めて攻めまくる。それしかない!」

「いや、お前はそうかも知れないけど、こっちは受験も有るんだ。今から新入部員になりますって届け出たら先生に頭を疑われかねない」


 晴香はあの分室を堂々と使うために色々計画を立てた。恐らくいつもの感じでなりふり構わず、あらゆる手を使って分室を取りに行くのだろう。

 きっとそれは三年生の受験勉強とかは念頭に入れず、進めているに違いなかった。

 勢い半端ない晴香を大志は必死で踏みとどまらせよう奮闘する。

 そこへ幸枝が手を挙げた。


「部として活動するにはうちの校則だと最低6人の生徒が必要よね。それを満たさなければ同好会に入れられるから、あの分室は使えない筈よ」


 晴香はニヤリと口元に余裕を浮かべた。


「部員はちゃーんと用意します」

「どうやって?」

「すでにユーレイ部員を三人手配済みです」


 あっさり言い切った晴香の前で二人は頭を抱えた。


「それって不正よね」

「いいえ? ただ単に部活に顔を出さない欠席者扱いです。ちゃんと卒業アルバムには写真に載るよう召集します」


 まるで知らない奴と卒業アルバムの記念写真に写るってどんな感じなんだよ……。


 大志は必ず成功させてみせると意気込む晴香に最後の質問をした。


「そんで一体何部なんだよ」

「よくぞ聞いて下さいました」


 晴香は相当温めていたのか自信満々に言い放った。


「その名は加速総合研究調査部かそくそうごうけんきゅうちょうさぶ。略して加総研かそうけん!」

「え? もう一回言ってもらっていい?」

「……だから加総研だってば……」


 大志が耳を疑い訊き直すと、流石に恥ずかしかったのだろう。何だか晴香は耳たぶを赤く染めながらトーンダウンした。


「お前、夜の人気ドラマに影響されているだろ」

「え、何の事? ちょっと言ってる事分かんないなー」


 晴香は絶対目を合わそうとしなかった。

 しかし大志と幸枝の頭の中には白衣を着ている晴香の姿がありありと浮かんだのだった。

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