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加速する世界ふたたび  作者: ひなたひより
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第27話 読み違えた時刻表

 電車に揺られること二時間半、大志たちはローカル線のホームに降り立っていた。


「凄い。無人駅だわ」


 晴香は寂れた駅のレトロ感あふれる光景を前に、首から提げた無骨な一眼レフを構え夢中でシャッターを切りだした。

 

「ここいらは無人駅だらけだよ。そのうち何とも思わなくなるって」

「へへへ、いいの撮れちゃった」


 晴香が大志のもとに駆け戻ってきて自信満々で見せる。


「どれどれ?」


 大志が小さな画面を覗き込む。


「どうよ?」

「んー、ちょっと暗いな。またまとめて今度見せてくれ」

「いいわよ。今度先輩の家でみんなの撮った写真の発表会やりましょうよ。そんで一番を投票で決めるの」

「あ、それお前だけ有利じゃないか。俺たち全員、携帯のカメラだろ」

「それはデジカメを持ってこなかった人が悪いの。私は重いのを我慢して持ってきたんだから」

「なんだよ、戸成は毎日持ち歩いてるんじゃないか。小狡い奴だ」


 ははは、と談笑しながら肩を並べて歩く二人は誰が見ても仲良さげに見えた。


「さあ行くぞ。ここからはちょっと路線バスに乗るんだ」

「あ、まだ乗るんだ。あとどのくらい?」


 幸枝が訊くと大志はバス停の時刻表を見ながらこたえる。


「20分ぐらい。そんな遠くないけど……」


 大志の口調がおかしいので幸枝は時刻表を覗き込んだ。


「今日って祝日だよね……」


 幸枝は時刻表を指でなぞった。しかしそれは指でなぞる必要もないぐらいスカスカだった。


「あと一時間半も無いじゃない!」

「えーーー!」


 あのおしとやかな仁美でさえも、すっとんきょうな声を上げた。


「なに? 丸井ひょっとして時刻表調べてなかったのか」


 瀬尾が一応聞いてみた。


「すまん。平日の所見てた。計画通りここまでは上手くいってたんだけど」

「歩くしかないか……」

「バスで20分て、歩いたらどれぐらいかかるのかな」


 幸枝がぞっとした様に呟いた。


「そんなのちょろいもんよ。私、足には自信あるんだ」


 晴香はそう言って軽快に一歩踏み出す。


「さあ、みんな私についてきなさい!」


 意気揚々と先に行こうとする晴香に、大志は後ろから声を掛ける。


「戸成、折角張り切ってくれてるのに水を差したくないんだけど、こっちなんだ」


 晴香が振り返ると、大志は重い足取りの皆を連れて反対方向に歩き始めていた。


「それを先に言いなさいよ!」


 晴香は赤面しながら追いかけてきたのだった。



 今回の旅の目的地は大志の祖母の家だった。

 めぼしいキャンプ場は流石にゴールデンウィークだけあって予約でいっぱいだった。そこで今は介護施設に入っている田舎の祖母の家が空いているので、寝泊まりさせてもらおうと考えたのだった。

 天候が良すぎて気温が上がったせいでそこそこ汗をかき、息を切らしながら一行は山道を登っていた。


「登りばっかりじゃない」


 晴香はさっきまでの前向きな元気はどこへやら、急こう配の道に呪いの言葉を吐いていた。


「お前さっき足には自信あるって言ってたよな」

「自信は有っても疲れるものは疲れるの。先輩のせいだからね」

「丸井君にみんな段取りを任せちゃったししょうがないよ。私は歩くのだって楽しいよ」


 仁美がそう言うと大志は少しデレッとした。


「ごめんね黒川さん。もし重かったら俺、荷物持つよ」

「ううん。大丈夫だよ」


 仁美は額に汗を浮かべながらも楽しげに笑顔を見せた。


「じゃあ私の荷物持ってよ!」


 何だか気に食わなかったのか、晴香は大志に自分のリュックを押し付けた。


「お前は滅茶苦茶元気じゃないか。自分で持て」

「なによ黒川先輩の時と態度が違うじゃない」


 ブツブツ言いながらも歩いているうちに目的の所に到着した。


「まずはここだよ」


 大志がにこやかに案内したのは、いわば古民家と呼ばれるにふさわしい農家だった。


「あれ? 誰もいないって言ってなかった?」


 幸枝はその生活感溢れる佇まいに首を傾げる。大志からはホームに入ったおばあちゃんの家を使うんだと聞いていたので、てっきり空き家だと思っていたのだった。


「ここは叔父さんち。ばあちゃんちの鍵をおじさんにもらってからなんだ。それとここで取り敢えずやることが有るんだ」

「何を?」

「その前にみんな今、丁度お昼過ぎだよな」


 誰も言い出さなかったが丁度全員が空腹を感じ始めていた。


「お昼は叔父さんがご馳走してくれるんだ。夜は自分たちでカレーだけどね」


 ご飯が食べれると聞いて晴香が目を輝かせた。


「やった。丁度お腹が減ってたところなんだ。お店もないしどうするのかって思ってたんだ」

「へへへ、抜かりないよ」


 胡麻塩頭の小柄なおじさんは、日焼けした人懐こそうな笑顔で皆を迎えてくれた。

 

「大志か、見違えたな。えらいでっかくなったの。それと男ばっかりで来るもんだと思ってたのに女の子もいるでねか」


 おじさんはまずしばらくぶりの大志の体格に驚き、女の子が三人も一緒だったことにさらに驚いたようだった。


「昼飯いっぱい用意したけんども、女の子の方が多いんだったら余っちまいそだな」



 もてなしてやろうと叔母の用意してくれた田舎料理は結構な量だった。

 確かに女子が混ざっているとなると多めだったが、大志と晴香の食欲が凄かったお陰で綺麗に食べ終えれた。

 作ってくれた叔母さんもちょっと驚いていた。


「なあ大志食い過ぎでねか? 腹いっぱいだとしゃがんで働くの辛いかも知れんぞ」

「心配ないよ。予定通りで頼みます」


 叔父さんと大志の会話に瀬尾が怪訝な顔をする。


「さっきおじさんが何か変な事言ってなかった? 働くとかなんとか」

「ああ言ったよ」


 大志はニコニコしてテーブルに向かって座るみんなに発表した。


「実は叔父さんに昼ごはんだけじゃなくって、夜のカレーの食材をもらえることになってるんだ。それで、もらうだけってのは申し訳ないと思って農作業の手伝いを買って出たんだ」

「そう言う事か」


 一同は成る程と納得した。


「私は大賛成。面白そうじゃない」


 晴香がいつもの好奇心をむき出しにして喜ぶ。


「私もやってみたい」


 仁美も手を挙げてやる気を覗かせた。


「勿論私もやりたい。ね、瀬尾君もやりたいよね」

「うん、楽しそうだ。丸井も人が悪いなあ。先に言ってくれよ」


 大志は瀬尾に言われてニヤリと笑った。


「それでいいんだよ。だってサプライズなんだから」


 そこへビール瓶を持ったおじさんが戻って来た。


「大志、一杯やるか?」

「叔父さん、滅茶苦茶未成年だって。健全な高校生に勧めちゃダメだよ」

「あ、そうか」


 叔父はその後、めずらしい若者たちと語り合いながら午後からの農作業も忘れて結構飲んでいた。


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