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加速する世界ふたたび  作者: ひなたひより
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第17話 待ち伏せ

 夕刻の通学路。大志は晴香と並んで帰り道を歩く。

 大志はさっきから一言も口を利かない晴香の方にちらと目をやる。


 完全に怒っている。平手打ちが飛んでこなかっただけまだましか……。


「悪かったよ。俺も軽はずみだった」


 しかし約束してしまった仁美に何というべきか。そこが大志にとっては一番の悩みの種だった。


 ホントはちょっと明日の事、ときめいていたのにあんな話の後じゃ一緒に帰る訳に行かないだろうし。でもドタキャンして彼女を傷つけてしまうのは忍びないし……。


「どうしようかな……」


 思わず口に出していた。


「どうしようかですって?」


 晴香がすかさず反応した。


「いや、こっちの話です……」


 余計な事を言ったらまた切れられる。そんな雰囲気が漂っていた。


「明日どうするつもりなんですか」


 逆に晴香に尋ねられて大志は返答に詰まった。それを今悩んでいる最中だからだ。


「戸成には申し訳ないんだけど、今日断ったから明日もって言い出しにくくって……」

「えっ? 今日も誘われたの?」


 晴香は意外だった様だ。


「ああ、今日だけで二回も。でも戸成とミーティングする約束してただろ」

「そこはブレなかったわけね。先輩にしては上出来だわ」

「俺はそんなに優柔不断に見える訳?」

「ええ。とっても」


 サラッと言われて、ちょっと傷ついたが何も言い返せなかった。


「こんな事、戸成に相談するのはどうかと思うんだけど、どうかな、やっぱり一緒に帰るのまずいかな」

「まずいに決まってるでしょ。能力者かも知れないんだって言ってるでしょ」


 大志は大きなため息をついた。


「それに相手が能力者だとしたらこちらは対抗できる程の情報が無いの。加速能力は強力だけど、発動できなければ先輩に勝ち目は無いわ。慎重に行動しないと」

「そうだよな。やっぱり危ないよな」


 完全に行き詰まって、大志はその場で頭を抱えた。


「困ったな。俺一人じゃ何にも出来そうにないや……」

「それだわ!」

「は?」


 晴香はちょっといい事を思いついたみたいだった。


「先輩は何にも心配しなくっていいから、明日は黒川さんの誘いに乗って帰りなさい」

「え? いいの?」


 途端に大志の顔がだらしなくなった。

 晴香はイラっとして語気を強める。


「そのだらしない顔何とかならないの? とにかく明日は誘いに乗って帰ったらいいから」

「やった。あ、いやそうするよ」


 急にデレッとしだした大志を置いて、晴香はスタスタと足早に歩き出した。


「トンマ!」


 振り返って死語で罵った後、晴香はそのまま帰って行ったのだった。



 翌日の放課後、大志は胸を高鳴らせながらその瞬間を待っていた。


「丸井君、じゃあ帰ろうか」

「う、うん。そうだね」


 涼し気な声で言われた後、緊張を必死で隠しながら仁美と並んで学校を出た。


「丸井君、今日は何だか緊張してる?」

「え、そう見える? やっぱり隠せてなかったか……」


 仁美は恥ずかし気に頭を掻いた大志に、クスリと笑みを浮かべる。


「じゃあ、一緒だね」


 ドッキーン!


 大志は内心飛び上がった。ちょっと警戒していた筈なのに骨を抜かれてグラグラになっていた。


 落ち着け。舞い上がるな。まだ学校を出たばっかりでこれからなんだ。今からこんなんでこれからどうすんだ。


 冷静さを何とか取り戻そうと心の中で奮闘していた時だった。


「おやおやそこにいるのは丸井先輩では有りませんか」


 校門を出てすぐの所で晴香に声をかけられた。


「こんな所で会うなんて偶然ですねー」


 なんというわざとらしさ。やってて恥ずかしくないのかと神経を疑った。

 晴香の後ろからひょっこり幸枝も顔を出す。


「あれ、大ちゃんじゃない。黒川さんも、奇遇ねー」


 何だ? 新喜劇か? ゆきちゃんもよくこの酷い芝居に乗って来たな。


「丁度私達も帰ろうかと思ってたところなんです。そうですよね幸枝先輩」

「そうなの。丁度たまたま私達も帰ろうかなって思ってた所だったの」


 成る程そういう作戦か。見えすいてはいるが黒川さんも無視できないだろうな。


 案の定、仁美は苦笑いをしながら固まっていた。


「ここで会ったも何かの縁。みんなで一緒に帰りましょうよ」


 何だその台詞は、三流舞台演劇の匂いがするぞ。


 晴香はずかずかと大志と仁美の間に割り込んできた。


「女子同士盛り上がりましょうよ。丸井先輩はおまけと言う事で」

「そうね黒川さん。帰りにそこそこ美味しいたこ焼き屋に寄ってかない? まだこっちに来たばっかりで不案内でしょう。一緒に行きましょうよ」


 晴香と幸枝に迫られて、仁美は視線を一切合わさずにしぶしぶ頷いた。


「じゃあ行ってみよう」


 晴香が先陣を切って歩き出す。

 女子二人に挟まれるように連行されていくかのような仁美の後に続いて、おまけに成り下がった大志は何とも言えない気持ちでついて行くのだった。

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