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加速する世界ふたたび  作者: ひなたひより
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第16話 晴香の憶測

 加総研の部室。仁王立ちで腕組みしている晴香の前で大志は正座させられていた。


「さっきのは何だったのよ!」


 謎の男子生徒と晴香の学園ときめき告白シーンを覗き見していた大志には、もう何も言い訳できなかった。


「すみませんでした」


 ここは素直に謝っておこう。変にややこしくしたりすると晴香の事だ、相当ここから長引くことになりそうだ。


「聞いてたんでしょ。ひょっとして尾行けてたの?」


 晴香は猜疑心をありありと浮かばせて問い詰める。


「いえ、報道部で聞いたら男子生徒と出てったって聞かされて探しに行ったんだけど……」

「ふーん」

「その……悪気は無かったんだよ。つい、気になって……でもごめん……」

「そう、気になったんだ……」


 語気荒く叱咤されるのを覚悟していた大志だったが、意外と晴香が大人しかったので様子を見ようと顔を上げた。

 青筋を立てている筈の晴香の表情が何となく落ち着いているのを見て、大志はほっとした。


「で、全部聞いちゃったんですよね。私達の話を」

「まあ、男子の話し声はあんまりよく聴こえなかったんだけど、戸成の声はよく通るし全部聴こえちゃって……申し訳ない」


 大志はもう一度手を合わせて頭を下げた。

 いくら親しい間柄でもやってはいけない事をしてしまったのは大志にも十分わかっていた。

 晴香は少し恥ずかしそうにしている。


「じゃあ私がなんて返事していたのかも聴こえてたんだ……」

「あ、うん……それは本当にごめんなさい」


 大志は流石に自分のデリカシーの無さを猛省していた。


「もういいよ」

「へ?」

「だからもういいって」


 晴香はまだ不満顔だったが意外なほどすんなり大志を許してくれた。


「ごめんな。もう絶対しないから」

「当然です」


 平手打ちも飛び出す事無く、晴香にしてはあっさり解放してくれた。


「コーヒー淹れるよ。お菓子もね」


 大志は後ろめたさを少しでも挽回しようとするかの様に、そそくさと用意し始めた。


「ねえ先輩」


 晴香がコーヒーカップを手にした大志に話しかける。


「正直に言って。私が男子に告白された時どんな気分だった……」


 晴香にしては小さな声だった。大志はそう訊かれても素直にその時浮かんだ事を言い辛かった。


「そりゃまあ、ちょっと、あれだよ……」

「あれって……」


 晴香は大志の次の言葉をじっと待つ。


「びっくりしたよ。でもそりゃそうゆう事もあるだろうなって思ったけど」

「それだけ?」


 大志は晴香が断った時に安堵したことが自分でも引っ掛かっていた。

 何と答えたらいいか迷った後、言葉をひねり出す。


「それとちょっと心配した……」


 晴香の表情がぱっと明るくなる。


「そうなんだ……へへへ」


 晴香はコーヒーを準備している大志の隣に並ぶ。


「私が淹れたげる」


 何だか機嫌を直したみたいな晴香にほっとするも、こういう時は素直に謝るのが一番だなと胸を撫で下ろしたのだった。



 幸枝が抜けているのが残念だったが、昨日、河合明日香から聞かされた事のあらましを晴香から大志は聞かされていた。


「気になる事が幾つも有りました。私の憶測ですけど黒川仁美は能力者です」

「そんな、まさか……」


 河合明日香によると黒川仁美は高校入学前までは殆ど誰とも話をしない変わった娘で通っていたらしい。

 仁美は美しい子では有ったが、人と関りを持つことに極端な抵抗の有る精神的障害を持っていた。

 親同士で交流の有った明日香は、その事を知っていたのでそういう子なのだと理解しつつ仁美と友達付き合いをしていた。

 ずっと学校の誰からも変人扱いされながら毎日を過ごす仁美の事を、明日香は仕方のない事だと思いながら見守ってきた。

 しかし高校に入ってからしばらくして仁美は豹変した。

 そのあまりの変貌ぶりに明日香は驚いたのだと話していた。

 相変わらず女生徒とはまるで口を利かない仁美であったが、男子生徒とは特に抵抗なく話しだしたのだった。

 そして仁美と話をした男子生徒はことごとく仁美に熱を上げていた。

 確かに仁美はひときわ目立つほどの美しい娘だったが、生徒だけでなく男性教師も仁美に一目置いている様な雰囲気が有ったのだと言う。

 明日香の話はそれだけでは無かった。

 ただ単に男子から人気があると言うのならばまだ不自然ではない。

 仁美にはそれだけだとは考えにくい様々なうわさが付いて回っていたのだった。


「その噂の一つが女生徒が乱暴された事件よ」


 晴香は大志の前であまり言いたくなさそうな感じで話を続けた。


「黒川仁美に付き合ってる彼氏を取られたって逆恨みした女生徒がいたの。実際はその彼が黒川仁美にのぼせ上っていただけのようだったみたいだけど、女生徒はそうは思わなかった……横取りされたって思った女生徒は他の女生徒も巻き込んで陰湿な仕返しをし始めたの。仕返しは相当しつこかったみたいで、黒川仁美の机は落書きされたり、靴が一足無くなったり、鞄の中を荒らされたりと酷かったらしい」

「そんなことが……」

「そんなある日、その女生徒が男子生徒に取り囲まれて、制服を脱がされて下着だけにされたの」


 大志は想像してしまい紅くなってしまった。


「もう、なんかやらしい事考えてるでしょ。ちゃんと聞いてよね」


 晴香はちょっと膨れながらも話を続けた。


「そして学校の中を男子生徒に追いかけまわされたの。その子みんなに下着だけの姿を見られて、次の日から学校に来なくなったって言ってた。それからは男子からの報復を恐れて、誰も黒川仁美にちょっかいを出さなくなった」

「そうか……」

「その後も相変わらず男子からはモテまくっていたけれど、女子は黒川仁美が近づいてくるとみんな逃げだしていたらしいわ。そして彼女は突然転校した。こっちの高校ではまだ大人しいみたいだけど、先輩は彼女にもうやられちゃってるよね」


 晴香は厭味たっぷりに毒のある言葉を大志に浴びせた。


「お、俺は、そんな事無いぞ。クラスメートでいい子だなってくらいしか思ってないんだぞ」

「さあどうだか」


 取り繕う大志に、晴香は冷たい一言で返す。


「とにかく普通じゃないって思いませんか? いくら何でも男子生徒が学校で堂々と女生徒の服を脱がすなんて考えられない。それと実行した複数の男子生徒はなんでそんな事をしたのか後で首をひねっていたらしいし」

「やっぱり戸成が言ってた催眠術かな」

「そんな生易しい物じゃ無いんじゃないかな。私は先輩とはタイプの違う能力者だと睨んでいます」


 大志は渋い顔をしながら腕を組んだ。


「そうか……そうだとしたらやっぱりまずかったかな……」


 大志がしきりと何か悩み始めたのを見て、晴香は怪訝な顔をした。


「なに? 先輩何か私に隠してる?」


 大志は晴香の追及に、言いにくそうに口を開いた。


「その、話の流れでさ……明日一緒に帰る約束しちゃって……」


 晴香のこめかみに青筋が浮き上がった。


「馬鹿なの!? このトウヘンボク!」


 晴香は切れると死語で罵倒する。

 大志はもう死に絶えた罵りの言葉に、大した語彙力だと感心しつつも大反省していた。

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