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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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21 からっぽやみ魔王 大変な目 ? に合う

 プリムラが大司教と対峙している頃、おれたちはおれたちで大変なことになっていた。

 

  前日、移送(トランスファ)で目的地の近くにある村に到着したおれたちは、一夜の宿を頼むことにした。というのもシャーリーが移送(トランスファ)の速度に耐え切れず、へたばってしまったせいだ。

 「こんなことぐらいで情けない。」

 アウローラが呆れたような顔で倒れているシャーリーを見下ろす。

 「あんた…たち…と…ちがって……こっちは……繊細…に…でき…てんの…よ。」

 まさしく息も絶え絶えというやつだ。

 「どこかで休まないとな。まさか、野宿という訳にはいかないだろう。」

 「こんなやつにそこまで気遣う必要はありませんよ。ご主人様。」

 あくまでもアウローラは冷たい。

 「まあ、そう言うな。あそこにある村で尋ねてみよう。」


 そうして、シャーリーをアウローラに背負わせ、おれたちは村を訪ね、一夜の宿を頼むことにした。

 ところが、困った問題が起きた。

 村長いわく、

 「いま、村には王国の調査隊の方々がお泊りで、部屋がないのですよ。」

 申し訳なさそうに語る村長を見て、どうしたものかと悩むおれだ。

 「連れが長旅の疲れで体調を崩しているんです。なんとか一晩寝る場所を貸してもらえませんか?」

 粘るおれの顔と、後ろでアウローラに背負われ、ぐったりとしているシャーリーを見て、村長はほおっておけないと思ったのか、一旦、家の奥へ引っ込み、しばらくして玄関に戻ってきた。


 「私の部屋をお貸ししましょう。さ、どうぞ。」

 「ありがとうございます。恩にきます。」

 村長の恩情でおれたちは一夜の宿を借りることができた。


 シャーリーはすぐにベットに寝かされ、おれとアウローラは村長から食事を提供された。

 「本当にありがとうございます。助かりました。」

 「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。」

 「村長さんは大丈夫なのですか?」

 「ええ、幸い家に泊まるはずだった方々が別の方で一晩過ごすことになりまして、丁度部屋が開いたんですよ。」

 「そうですか。申し訳ありません。」

 おれは屈託のない笑顔で頭を下げると、村長の奥さんが煮込みスープと黒パンを出してくれた。

 「さあ、なにもありませんが、召し上がってください。」

 「遠慮なくいただきます。」

 村長に勧められるまま、おれたちは出された料理に口をつけた。


 「あなたがたはどちらから?」

 「ボルマの街ですよ。」

 「ほお、それでどちらまで。」

 村長が好奇心丸出しで尋ねてくる。

 「南の港街までね。仕事でいくんですよ。」

 「ほお、仕事で?」

 「ええ、こう見えても私たちは商人でしてね。」

 「商人ですか。どうりで見慣れない服装だと思いました。」

 「ははは、恐縮です。」

 なにが恐縮かわからないが、適当に話を切り上げて、早々に部屋に引き上げた。


 部屋は二階の奥で、その中にはベットがふたつと数点の家具しかない。すでにシャーリーは、片方のベッドで寝息をたてて眠っていた。

 おれとアウローラはもう片方のベッドに座ると、明日の事を話し合った。

 「明日はプリムラを探しに森へ行ってみよう。」

 「本当にいるのでしょうか?」

 アウローラは懐疑的だ。

 「ま、いまは彼女の言葉を信じるしかないな。」

 「そうですね。」

 おれたちの声に反応したのか、シャーリーが寝返りをうつ。


 「ともかく明日は朝一番にここを出よう。もう寝るぞ。」

 「はい、ご主人様♡」

 二人してベッドに入った途端、アウローラがおれに抱きついてきた。

 「おいおい、隣にシャーリーがいるんだぞ。」

 「構いません。500年ぶりなんですよ。もう我慢できません。」

 甘い声でおれの胸を指でなぞる。

 「しょうがねえな。セレクション(空間閉鎖)」

 おれとアウローラの周りだけが他の空間と切り離される。これで音が外に漏れることはない。

 

 ゆっくりと共寝ができる。


 「お先にごめんね。プリムラ」

 

 そして夜は更けていく。


 次の日の朝、おれは日差しに起こされ、ベッドの上で伸びをする。

 隣ではアウローラが寝息をたて、もうひとつのベッドには──寝ているはずのシャーリーの姿がない。周りを見ると、窓辺に寄り添って立っている。

 「どうした?」

 「しっ」

 声をかけるおれに、シャーリーは口の前に人差し指を立てた。

 その目は窓の外を見つめている。

 

 「囲まれている。」

 「えっ」

 おれも窓辺に歩み寄り、そっと外を覗いた。

 外には人っ子一人いない。

 

 それが却っておかしい。


 「確かに人が見えないが、囲まれているとは?」

 「向かいの家の陰を見ろ。」

 そう言われ、向かい側の家を見ると、建物の陰に隠れて人が立っている。

 「他の家にも同じように隠れてこちらを伺っている。」

 シャーリーは窓辺から離れると、ベッドの上に座った。


 「家が妙に静かで、変な雰囲気が漂っていたから、気になって外を見たらあの様子だ。」

 「おれたちを捕まえる気か?」

 おれの不安にシャーリーは考え込む。

 「王都の件がもう伝わったとは思えんが。」

 「ああ、そう言えばこの間から王国の調査隊がこの村に宿泊していたと言っていたな。村長が。」

 おれの何気ない言葉にシャーリーは目を剥いた。

 「なぜ、それを早く言わない!」

 「いや、おまえはへばってすぐ寝たし、アウローラは離してくれなかったし。」

 おれが顔を赤くすると、シャーリーは呆れたような顔をした。アウローラは呑気にまだ寝ている。


 「ともかく、早くここを逃げ出す算段をしないと。」

 「そうだな。おい、アウローラ起きろ。」

 「むにゃむにゃ、ご主人様、もう朝ですか?」

 寝ぼけまなこでこちらを見たアウローラは、両手をおれの首に巻き付けると、顔を近づけてきた。

 「ご主人様、目覚めのキッス」

 「おい、目を覚ませ。緊急事態だ。」

 おれの言葉に目を見開いたアウローラは、居住まいを正すと、真剣な顔に変わった。

 「何がありました?ご主人様。」

 「どうやらおれたちを捕まえようとしているらしい。」

 「えっ?だれが。」

 「たぶん、王国の調査隊だ。」

 おれの代わりにシャーリーが答えると、アウローラは着ている物を脱ぎ、別空間の箱(サブスペースボックス)から新たな秘書の服を取り出し着替えだした。

 「着替える意味があるのか?」

 呆れたように問うシャーリーに、

 「皺だらけの服で応対するのは失礼でしょう。」

 と、着替え終わったアウローラはすまし顔で答える。

 「なにをするつもりだ?」

 「戦うんですよ。」

 「アウローラ、面倒事はできるだけ避けたい。ここは逃げの一手だ。」

 「逃げるんですか?」

 がっかりするアウローラを宥めながら、おれたちはドアの近くに集まった。


 そっとドアを開け、忍び足で部屋を出ると、辺りはシンと静まり返っている。

 どうやら家人たちは他へ避難したらしい。


 階段のところへ辿り着き、シャーリーが様子を伺う。

 「下の階に誰かいるな。」

 「三人ほどいるな。ひとりは玄関前。ひとりは裏口。後のひとりは居間でこの階段を見張っている。」

 アウローラが細かく状況を説明すると、シャーリーが驚いたような顔をした。

 「なぜ、そこまでわかる?」

 「耳と鼻があれば簡単にわかるだろう。」

 当然のように言うアウローラを見て、シャーリーは呆れたような顔つきになる。

 「それよりどうやって逃げるかだな。」

 「私が囮になります。その間に裏口から逃げてください。」

 「それがいいですね。そうしましょう。」

 アウローラの案にシャーリーは即座に同意した。

 おれもそれしかないなと、了承する。


 アウローラはおれたちを残して階段を下りていった。当然、階下にいる見張りの騎士に見つかる。

 「おまえひとりか?他のやつはどうした?」

 「知らないわ。起きたらわたしひとりだった。」

 アウローラの返事に驚いた騎士は、二階を見上げる。玄関の仲間はアウローラを拘束しようと近づいてきた。

 「私をひとりにしないで。」

 そう言うとアウローラは、階段を上がろうとした騎士の襟首をつかみそのまま引っ張ると、玄関から近づいてきたもう一人の騎士に投げつけた。


 「うわ!」

 

 二人は折り重なるように吹き飛び、玄関を壊して外へ飛び出していった。


 裏口にいた騎士が、玄関の異常な物音に気付き、居間の方へ駆け付ける。

 

 目の前にいる不審者(アウローラ)を見つけ、すぐさま抜刀。振り下ろそうとする剣をアウローラがすばやく左手で押さえると、右拳で軽く鳩尾を突く。それだけで騎士は吹き飛び、廊下を転がった後、気絶した。

 それを見届けたアウローラは、身を翻し、壊れた玄関から外へ出て行った。


 破壊音とともに二人の騎士が路上に吹き飛んで来た光景を目の当たりにした騎士たちが、それぞれの持ち場から飛び出し、村長の家から出てきたアウローラを囲んだ。

 「大人しくしろ!」

 「田舎芝居のような台詞を吐くのね。」

 アウローラがからかうように言うと、囲んだ騎士たちが一斉に剣を抜いた。


 総勢で10人ほどいる。

 ひと目で多勢に無勢というのがわかる。


 しかし、アウローラは楽し気だ。

 それが騎士たちには不気味に映った。


 「この人数だぞ。無駄な抵抗はやめておとなしく投降しろ。」

 リーダーのような騎士が叫ぶが、アウローラはそれを無視し、自分を囲んでいる者たちの挙動を伺っている。


 緊張感が辺りを覆う。

 

 それに耐えきれなくなったのか、二人の騎士が襲い掛かった。

 アウローラは笑いながらそれに応じる。

 振るう剣先を掻い潜り、アウローラの掌底が一人の鼻面にヒットし、もう一人の騎士の腹に蹴りを入れる。二人を軽く払い除けたアウローラの後ろから別のひとりが斬りかかった。

 その刃を躱し、同時にその胸に肘を入れる。

 騎士は白目を向いて地面に蹲った。


 あっという間に三人もの騎士が倒される。

 「どうしたの?もう終わり?」

 「一斉にかかれ!」

 リーダーの叫びに囲んだ皆が一度にアウローラに襲い掛かった。


 表の騒動で出来た隙を幸いに、おれたちは裏口に向かった。

 裏にいた見張りも表に向かったらしい。誰一人いない。

 おれとシャーリーは外に出ると、裏道を通って村の出口へと駆けた。


 村の外へ通じる道を見つけた時、その前に5人ほどの騎士が立っている。

 「しまった。こっちにもいたのか?」

 引き返そうと振り返った時、着いてきているはずのシャーリーの姿がない。

 「えっ?」

 戸惑っている隙におれは囲まれ、取り押さえられた。

 後ろ手に縛られ、引き連れられていく。


 その様子を隠れ身魔法(ステルス)で姿を消したシャーリーが見ていた。

 「ふふふ、ごめんね。」

 そう言い残すと、シャーリーは姿を消したまま村から出ていった。


 通りではアウローラが10人相手に大暴れし、そのほとんどを打倒(うちたお)していた。

 そこへ捕まえたおれを引き連れ、騎士たちがやってくる。

 「やめろ!これが見えないか?」

 騎士のひとりが剣を抜き、縛り上げられたおれの喉元に突きつけた。

 「ご主人様!?」

 「アウローラ、ごめん。」

 驚くアウローラを見ながらおれは苦笑いを浮かべた。

 「きさまら、ご主人様を。」

 「動くな!一歩でも動けば、こいつの……」

 と、言いかけたところで、おれに剣を突きつけた騎士のその腕が無くなった。

 

 続いて、その騎士の腕と思われる物体が空中から落ちてくる。剣を持ったまま。


 「へっ?」

 騎士たち一同が何が起きたかわからないという顔をしたまま、次の瞬間、皆の首が吹き飛んだ。


 首を失った騎士たちの身体が次々と地面に倒れる。

 その後ろには凶暴な顔をしたアウローラが、いつの間にか立っていた。

 手には血に濡れた長刀が握られている。

 

 「アウローラ……」

 おれがやっちまったなという顔で後ろを振り向くと、アウローラは長刀を別空間の箱(サブスペースボックス)に仕舞ってすぐ、おれに抱きついてきた。

 「大丈夫ですか?どこもけがはありませんか?痛いところとか苦しいところとかありませんか?」

 矢継ぎ早に心配の言葉を投げかけてくるアウローラは、おれを縛っている縄を引き千切り、おれの身体のあちこちを触ってくる。

 「大丈夫だよ。アウローラ、どこもけがはしていない。」

 「よかった。心配で生きた心地がしませんでした。」

 やっと安堵したのか、いつもの優しい顔に戻ったアウローラは、誰かを探すように周りを見渡した。

 「ご主人様、あの女は?」

 「彼女なら先に逃げたよ。」

 アウローラの問いかけに、おれの答えを聞いた彼女は、また、怒りの顔に戻る。

 「ご主人様を置いて自分だけ逃げたんですか?」

 「別にいいじゃないか。おれもアウローラも無事だったんだから。」

 「ご主人様は女の人に甘いんじゃあないですか?」

 拗ねるように頬を膨らませるアウローラの頭を宥めるように撫でたおれは改めて周りの様子を伺った。

 

 どうやら他に騎士たちはいないようだ。

 であれば、早々にここを立ち去った方がいいな。


 そう思ったおれは、アウローラを促して村を立ち去ろうと、村の出口の方へ歩いて行った。途中、二人の騎士と村の住人を見かけたが、皆、アウローラの恐ろしさに震えあがり、近づこうともしない。

 

 無事、村を出たおれたちはプリムラがいるはずの森へと向かう。


 そして、場面はプリムラと大司教たちの戦いの場に変わる。

 

 プリムラは、騎士たちが放ったホリネス・チェーン(聖なる鎖縛)でがんじがらめにあっている。しかも、彼女の魔法は大司教が掛けたバレナ・ディヴィナ(聖なる結界)で防がれている。

 まさしく、絶体絶命であった。

 そのはずなのに、プリムラの表情に焦りの色はまったくない。

 フォベリオに一抹の不安が過った。

 しかし、その不安は心の奥底に仕舞い込み、普段の自信ありげな大司教としての態度を見せる。


 「もはや、あなたは囚われの身。このまま王都まで連れていきます。」

 「さっきも言った通り、私はここを離れる気はありません。」

 「お願いしているわけではないのですよ。これは命令です。」

 そう言ってフォベリオは詠唱を唱え始めた。


 「エスピナ・サグラダ(聖なる荊)」


 フォベリオの発した詠唱とともに光が天から降り注ぎ、その光に当たった黄金の鎖が荊に変化し、その棘がプリムラの身体に深く食い込んだ。

 見るからに痛ましい光景だ。


 「これで少しは従順になりますね。」

 「ずいぶんと無体なことをするのですね。せっかくお茶をもてなしたというのに。」

 「確かにおいしいお茶でした。あなたのような()()が入れたわりには。」

 フォベリオの口に嘲笑が浮かぶ。


 しかし、それはすぐに消えた。


 プリムラの身体から恐ろしいまでの殺気が迸り始めたからだ。

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