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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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15 黒竜vs勇者パーティ② アウローラ、割り込む

 「おお、やったか。」

 グレイの顔に喜色が浮かぶ。しかし、それはすぐに苦色に変わる。

 アーロンがすんでのところで黒竜の足から逃れていたからだ。

 「そんな遅い動きでおれが潰されるかよ。」

 アーロンの大剣が黒竜の足に振り下ろされる。


 金属音とともに大剣が弾かれる。


 「くそ!かてえなあ」

 今一度、黒竜の足に斬り込むが、結果は同じであった。


 「ばかめ。竜王がそんな剣で斬れるかよ。」

 黒竜の強さにグレイは期待を膨らませる。

 「竜王、そいつを粉微塵にしろ。」

 グレイの命令が黒竜に届き、黒竜の口が大きく開く。


 「息吹(ブレス)か!?」


 「フィアンマ・ディスパラーラ(巨炎の一撃)!」


 巨大な炎の塊が黒竜の横面に命中する。

 その衝撃に黒竜の顔がそれ、息吹(ブレス)はあらぬ方向へ発射された。

 おかげでその線上の建造物はすべて破壊され、そのまま王都の外壁に激突すると、外壁を破壊して消えていった。


 それを天守の塔で見ていたショーマ王がつぶやく。

 「このままじゃあ、埒があかんな。」

 ショーマ王の身体が不意に浮かびあがり、そのまま戦いの場へ飛んでいった。


 そのころ、おれたちはと言うと、ようやく王都が見える場所まで飛んできていた。

 「王都でなにかが起こっているな。」

 「どうやら黒竜(ペット)が暴れているようです。」

 アウローラの目には王都での出来事がはっきりと目に映っている。

 「早く行かないとエーネシャルがあぶない。」

 ローデシャルがじれったそうに叫ぶ。

 「アウローラ、スピードアップしてくれるか?」

 「わかりました。」

 アウローラのスピードが急にあがり、その風圧におれたちの顔が潰れる。

 「り・竜王様、き・つ・い・で・す。」

 ローデシャルがまっさきに根を上げた。

 

 アーロンは黒竜の頑健さに辟易していた。

 「くそ!ユーリッド、身体強化をたのむ!」

 「あら~、余計な手出しはするなって、言ってなかった?」

 上空のユーリッドがからかうように返事する。

 「うるさい!早くしろ!」

 「身体強化してやれ、ユーリッド。」

 二人のやり取りの間に別の声が割り込んだ。

 その声に思わず二人が同時に振り仰ぐ。


 空中にショーマ王の姿があった。


 「「ショーマ」」


 「アーロン、手こずっているようだな。」

 ショーマ王が冷たい目でアーロンを見降ろしながら地面へ降りてくる。

 「あんたが出て来るほどのものじゃあないぜ。」

 黒竜の方に顔を向き直したアーロンは、強気な姿勢を見せるがショーマはそれを一笑に付す。

 「アーロン、武器を授ける。使え。」

 その言葉にアーロンの目が大きく見開く。

 「武器?」

 もう一度振り返る。


 するとアーロンの目の前で、ショーマが手をかざすと、地面や空中から光の粒が湧きだし、それがショーマの周りに集まり出した。

 「創造(クリエイション)

 ショーマの手の前で光が集結し、やがて剣の形へと変わっていった。

 

 一本の剣が出現すると、それを地面に突き立てる。


 「それは……?」

 アーロンはその剣を手に取ろうと近づいた。

 

 そのとき、黒竜の尻尾がアーロンに襲い掛かる。


 「エスピーナ・カウティベリオ(荊の束縛)」

 ユーリッドの詠唱とともに黒竜の足元から荊の蔦が急速に伸び、その尻尾と言わず、全身に絡みついた。

 その強力な束縛は黒竜の動きを止め、アーロンは尻尾の餌食にならずに済んだ。

 「礼は言わねえぜ。」

 「期待してないわ。身体強化(リインフォース)

 ユーリッドの魔法でアーロンの身体が淡い光で包まれる。

 体中に力が漲るのを感じながらアーロンは地面に刺さった例の剣を抜いた。


 「へえ、すげえな。この剣。」

 「竜撃剣(ドラゴンバスター)だ。」

 ショーマ王がもっともらしく告げる。

 「よし、大トカゲ。覚悟しやがれ。」

 アーロンの叫びに触発されたのか、黒竜が大音量で咆哮する。

 

 その衝撃に突風が吹きすさび、瓦礫が舞い上がる。

 常人ならその威圧に身体が竦むが、アーロンには効かない。


 「うるせえ!」


 アーロンの足が地面を蹴り、一瞬で黒竜との間を詰める。

 黒竜も拘束する荊の蔦を引き千切り、応戦態勢に入る。

 拘束から開放された黒竜の尻尾が、アーロンを薙ぎ払おうとすさまじい勢いで飛んでくる。

 それを軽快なフットワークで躱すアーロンは、黒竜の目の前で高くジャンプする。


 竜撃剣(ドラゴンバスター)が上段から振り下ろされる。


 それを前足で弾き飛ばそうとする黒竜。


 以前ならアーロンの剣は黒竜に通用しなかった。しかし、


 〈ギャアォォォォ~‼〉


 黒竜の悲鳴とともに前足の指が、真っ黒な血を撒き散らしながら吹き飛んだ。

 「さっきとは段違いだな。」

 竜撃剣(ドラゴンバスター)の威力に驚きながらアーロンはさらに黒竜に追撃をかける。対して、アーロンを近づけまいと黒竜が息吹(ブレス)を放つ。

 

 息吹(ブレス)が真正面からアーロンに迫る。


 「うおおおおお‼」


 アーロンが竜撃剣(ドラゴンバスター)を縦一文字に振る。

 

 その剣勢で息吹(ブレス)が左右に裂けた。


 「なに!?」

 「すごい」

 グレイとユーリッドが同時に驚く。

 「覚悟しな。大トカゲ。」


 「くそ!エア・レストレイト(風の束縛)」

 アーロンの周りにつむじ風が巻き起こり、それがアーロンの身体に絡まりつき、その四肢を抑え込んだ。

 「うむ、これは?」

 アーロンが追撃できなくなる。

 それを見たユーリッドが建物の上にいる二人を睨む。

 「余計な邪魔をするんじゃないよ。」

 ユーリッドの周りにフォーコ・ランチャ(火炎槍)が複数出現し、グレイに向かって放たれた。


 「防御魔法(シールド)

 シャーリーの張った防御魔法(シールド)にフォーコ・ランチャ(火炎槍)が次々と着弾し、防御魔法(シールド)はあっという間に打ち砕かれた。

 「そんな魔法で私のフォーコ・ランチャ(火炎槍)が防げると思っているの。」

 嘲笑を浮かべながら次弾を撃とうとする。


 「くそ!」

 「グレイ、不利だ。ここは引こう。」

 シャーリーが退却を提案するが、グレイはそれを拒否する。

 「うるさい!竜王がいるんだ。こんなやつら、ものでもない。」

 意地になっているグレイは状況がわかっていない。シャーリーの中である結論が出る。


 「隠れ身魔法(ステルス)

 シャーリーの姿が風景に溶け込む。


 「フォーコ・ランチャ(火炎槍)」

 ユーリッドの火炎槍が次々とグレイに襲い掛かる。

 「防御魔法(シールド)

 しかし、グレイの魔量(エネルギー)ではユーリッドの火炎槍は防げない。防御魔法(シールド)は簡単に破られ、グレイは炎に包まれた。

 「ぐあああ!」

 熱さに悶えながらグレイは、建物から落ちる。

 

 落ちて地面に叩きつけられたグレイは、必死に叫ぶ。

 「シャーリー、治癒…魔法…を…」

 しかし、その声は虚しく虚空に消える。


 「あれ?もう一人いたはずだけど。」

 ユーリッドが首を傾げながら、その目に魔量(エネルギー)を込める。

 「逃げようたって無駄だからね。」

 ユーリッドの口元に残忍な笑みが浮かぶ。


 グレイたちとユーリッドの争いの間に、アーロンは束縛を力づくで引きちぎり、竜撃剣(ドラゴンバスター)を構えなおした。

 「こんどこそ引導を渡してやるぜ。」

 不敵に笑うアーロンの足が地面を蹴った。


 疾風のごとく駆けるアーロンに向かって、黒竜の尻尾が払い除けようとする。

 しかし、アーロンのスピードはそれを掻い潜り、黒竜の目の前に到達すると、袈裟懸けに竜撃剣(ドラゴンバスター)を振り下ろした。

 

 黒竜がそれを防ごうと右の前足を突き出す。


 竜撃剣(ドラゴンバスター)が光の線を引く。


 黒竜の前足が断ち切られ、真っ黒な血を撒き散らしながら宙を舞う。


 〈ギャアアアアア───‼〉


 大音量の悲鳴とともに黒竜が後ずさりした。


 「とどめだ!」


 アーロンがその剣で黒竜の心臓を刺し貫こうとしたとき、黒い影が上空より急速に舞い降り、その剣を弾いた。


 「だれだ!」

 「ここまでよ。」

 目の前に立ったのは、見たこともない服装に眼鏡をかけた美しい女性。


 そう、アウローラだ。


 アウローラとアーロンの間に殺気が絡まり、新たな戦いが始まろうとしている。


 が、その前に時間を少し遡ろう。


 猛スピードで王都に向かうおれたちは、外壁の近くまで来た時、王都の中心で暴れ回っている黒竜を見つけた。

 「やってる、やってる。」

 アウローラが楽し気に眺める。

 「ローデシャル、妹さんが捕らわれている屋敷ってのはどこだ?」

 おれがローデシャルに尋ねると、ローデシャルはアウローラの高速飛行に耐え切れず、なかば気を失っていた。

 「まずいな。アウローラ、近くに下ろしてくれないか?」

 「承知しました。ご主人様。」

 アウローラは王都の東外れに着地した。

 ここはまだ黒竜の被害は受けてないようだが、街中は大混乱しているようだ。住民が右往左往している。

 おれはローデシャルを地面に横たえると、頬を軽く叩いた。

 すぐにローデシャルが気が付く。


 「ここは?」

 「王都の東外れだ。」

 「ああ、そうか。すみません。介抱してくれて。」

 ローデシャルは起き上がると、軽く頭を下げた。

 「それはいいが、ローデシャル。ゴーリーの屋敷の場所はわかっているのか?」

 「ええ、仲間から場所は聞いている。」

 そう言って、ローデシャルはゴーリーの屋敷の方向を指差す。

 「一人で大丈夫か?」

 ローデシャルが指差す方向を見た後、おれは心配そうに彼女を問いただす。

 「大丈夫です。ありがとうございます。ここまで連れてきてくれて。」


 そのとき、すさまじい音が王都に轟く。

 その方向を見ると、黒竜がだれかと戦っている。

 「すごいな。」

 「早く助けに行かないと、エーネシャルの身が危ない。」

 ローデシャルが心配顔で黒竜の戦いを見つめる。

 「アウローラ、黒竜を止めてくれるか?」

 「畏まりました。して、ご主人様は?」

 「ローデシャルをゴーリーの屋敷に送り届ける。」

 突然の申し出にローデシャルは驚いた。

 「テヴェリスさん、いいのですか?あなたにも所用があると言ってましたよね?」

 「ああは言ったが、さすがにこのままひとりでやるのは、目覚めが悪い。」

 おれはバツが悪そうに頭を掻くのを見て、ローデシャルが感謝の笑顔を見せた。

 「ありがとうございます。」

 「アウローラ、あっちはたのむぞ。じゃあ、行くか。」

 おれはローデシャルを背負うと、「スライド(摩擦軽減)」と唱えた。

 氷の上をすべるように、おれたちはゴーリーの屋敷に向かって駆けた。


 それを見送ったアウローラは、再び黒竜とアーロンの戦いの場に目を移し、そこへ向かうべく翼を広げた。


 そして、前の場面に戻る。


 黒竜を庇うように立つアウローラを、はじめ不思議そうに眺めていたアーロンは、やがてその行動に怒りを覚えた。

 「なぜ、邪魔をする?」

 「悪かったな。こいつはわたしの番犬でな、あとできっちり躾けておくから、ここは許しちゃくれないか?」

 軽く言い訳を言うアウローラに、一瞬呆れかえったが、アーロンの怒りは更に募る。

 「ばかいうじゃあねえ。こいつのせいで王都がどれだけ被害を受けたかわかっているのか?」

 「そいつは悪かった。あやまるよ。」

 素直に頭を下げるが、アーロンはそれでは収まらない。

 「ふざけるな!」

 竜撃剣(ドラゴンバスター)を改めて構え、殺気を迸らせる。

 それに触発されたのか、それともグレイの命令が途絶えたのが原因か、黒竜が狂ったように咆哮を上げた。

 

 「うん?」

 「なに!?」

 アウローラとアーロンが同時に黒竜を見上げる。


 「【隷属の魔冠】の主が死んだか?」

 後ろに控えるショーマ王がボソッと呟く。


 「また、暴れ出すってかい。」

 アーロンが舌なめずりをする。


 「こら、おいたはだめよ。」

 アウローラがいきなり跳躍する。

 その高さは黒竜の頭を軽々と超え、その握った拳が黒竜の頭を殴りつける。


 衝撃が黒竜の全身に走った。


 黒竜は伏せの格好で地面に倒れ、そのまま意識を失ってしまう。

 その頭にふわりと着地するアウローラは、さわやかな微笑みをアーロンとショーマ王に向けた。


 「何もんだ?この女。」

 アーロンの疑問はショーマ王の疑問でもある。

 (得体の知れない奴が現れたな。)


 「これで勘弁してもらえない?」

 黒竜の頭から飛び降りたアウローラは、アーロンに向かって小首を傾げて許しを請う。

 しかし、アーロンの血の滾りはアウローラの謝罪では収まらない。

 「そんなことで許せると思うのか!」

 「ええ、だめ?」

 アウローラが困った顔をする。

 「おまえがこの竜を煽って王都を襲わせたのだな。なら、おまえが責任を取れ。」

 「別に私が襲わせたわけじゃあないけど、責任ってどう取ればいいの?」

 

 「大人しく投降しろ。裁きをかけたうえ処刑する。」

 後ろに控えていたショーマ王が冷たく言い放った。

 「へえ、嫌だと言ったら。」

 アウローラが不敵に答える。

 「この場でおれが処刑してやるよ。」

 アーロンが代わりに応える。

 「おもしろいことを言うわね。」

 アウローラの目に殺気が点る。

 「アーロン、ここは任せてよいな。」

 「ああ、陛下の手は煩わせないよ。」

 アーロンの喜色を含んだ返答に、ショーマ王は軽く頷き、浮遊魔法(フロート)を唱えて上空に浮かびあがった。

 「あら、あなたは退場ってわけ?」

 「裁きの場で会おう。」

 冷たい笑みを残して、ショーマ王は王城に向かって飛んでいった。


 残ったのはアウローラとアーロンだけ。

 ユーリッドはシャーリーの行方を追っていて、この場にいない。


 「さあ、どうする?おとなしくするか、それとも抗うか?」

 「そうねえ。なんかあなた、戦う気満々のようだから付き合ってあげるわ。」

 「そうかい。じゃあ、さっそく始めようか。」

 アーロンは再度、竜撃剣(ドラゴンバスター)を構えなおした。

 それに対して、アウローラは自然体で立っている。


 「得物がないなら貸してやるぜ。」

 アーロンが冗談めかしく言うと、アウローラは不敵な笑みで答える。

 「いらないわ。自前の得物は持っているから。」

 「なら、遠慮はいらねえな。」

 アーロンが地面を蹴った。


 一瞬でアウローラとの間合いを詰める。


 竜撃剣(ドラゴンバスター)が一閃する。


 バックステップをしてそれを避けるアウローラ。


 それを見て、喜びをあらわにするアーロン。

 「やるねえ。姉さん。そういえば、名前を聞いてなかったな。」

 「私の名前はアウローラ。」

 「そうかい。改めてアーロンだ。いくぜ。」

 律儀に名乗り合った二人の間に殺気がぶつかり合う。


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