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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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14 黒竜vs勇者パーティ① 黒竜、王都襲う

 大門の出来事はすぐさま、早馬と遠話器で王都に知らせが走った。

 二人が食事をしている間である。


 それは騎士団に伝えられ、すぐさま王宮に情報が上がった。


 「由々しきことだぞ。黒竜が来るとは。」

 会議室に集まった大臣たちが口々に騒ぐ。

 「騎士団長、王都の防衛は大丈夫なのか?」

 「早く安全な場所に避難せねば。」

 「しかし、大門から王都までわずかだぞ。避難する時間があるのか?」

 大臣全員がうろたえ、収拾がつかない。


 「陛下が入られます!」

 秘書官の一声にその場にいた全員が直立不動となった。

 騒然としていた会議室が水を打ったように静まる。

 そこへひとりの若者がゆっくりと入ってきた。

 エーネハイム王国国王、ショーマ・イヅツ・リーデルモンドだ。


 金糸銀糸に宝石を使ったボタンで贅沢に織られた服に、真っ赤なマントを羽織ったショーマ王は、一番上座の席に座ると居並ぶ大臣たちを見廻した。

 「ずいぶんと騒がしいようだな。」

 その一言に一同が緊張する。

 「陛下、いま黒竜の対策を論じていたところです。」

 一同を取り仕切る総務大臣が口を開いた。

 「対策?してどんな対策が上がったのだ?」

 「それは……」

 総務大臣の口が淀む。

 「ふっ、ろくな案もでず、ただ騒がしくしていただけだろう。」

 国王の一言にだれも反論できず、うなだれているだけだ。


 そうして、沈黙が流れる。


 「黒竜にはアーロンを向かわせる。」

 「えっ?」

 「大将軍殿をですか?」

 「ついでにユーリッドもな。」

 「大魔導士殿も……」

 二つの名前を聞いて、会議室の中がざわめいた。

 「ここでおしゃべりするよりも早く片がつくだろう。」

 「ならば騎士団を同行させ、援護を…」

 「いらん!」

 大臣の提案を一喝で却下する。

 「アーロンとユーリッドの邪魔になるだけだ。ふたりに任せておけ。」

 「は、おおせのままに。」

 再び、会議室に沈黙が流れる。


 「今日の会議は終了。みな、ご苦労であった。」

 ショーマ王がそう宣言すると、だれも異論を挟まず、そんな彼らを無視して王は部屋を退出していった。

 残された大臣たちの間から大きなため息が響く。

 「相変わらずだな。」

 「我々はお飾りか?」

 「しかし、いまは王の判断が最善であろう。」

 「確かにあのお二方以上に適任はおるまい。」

 再度、部屋の中に深いため息が響く。


 ショーマ王はピカピカに磨かれた廊下を黙々と歩いて行く。

 行き先はこの城で一番高いところ。

 天守の塔だ。

 

 長い階段をショーマ王は息を切らすことなく登っていく。

 ついてくる秘書官のほうが息を切らしている。


 ショーマ王が塔の展望の間につくと、すぐにベランダに出る。

 王都が彼の眼前に広がっている。

 王都の門に目を向けると、馬を駆って走る一人の男がいた。

 「ふっ、アーロンのやつ、相変わらずだな。うん?ユーリッドのやつはどこだ?」

 「私ならここよ。王様。」

 ショーマ王の頭の上から声がする。


 それに反応して顔を上げると、塔の更に上に杖に乘った女性が浮いていた。

 「ユーリッド、まだ、向かわないのか?」

 ショーマ王がこまったような顔をして見上げると、杖の上の女性(ユーリッド)は笑みを浮かべる。

 「私まで行く必要ある?」

 「退屈そうだから仕事を与えたのだがな。」

 ショーマ王が皮肉な笑いを浮かべると、ユーリッドは迷惑そうな顔をする。

 「私だって忙しいのよ。」

 「男を侍らすのがか?」

 その一言にユーリッドはバツの悪そうな顔で頬を掻いた。


 「わかったわ。行くわよ。ただ、アーロンのやつが全部片づけちゃうかもしれないわよ。」

 「それならそれでいいさ。おまえは黒竜が襲ってきた原因でも探ってもらおうか。」

 「わかったわ。王様のお願いなら仕方ないわね。」

 ユーリッドは笑顔を残して、宙を飛んでいった。


 「黒竜一匹でこの王都を襲うとは、ずいぶんと見くびられたもんだな。」

 ショーマ王は、アーロンとユーリッドが向かった方向を望みながら、一人呟いた。

 そこへ秘書官が息を切らしながら到着する。

 「少しは鍛えておけ。」

 ショーマ王は秘書官を一瞥すると、プイっと南の空に目を移した。


 空が明るくなり始めている。


 まもなく夜も明ける。


 戦いが始まろうとしていた。



 アーロンは単騎で南の門を目指していた。

 ひさしぶりの戦い。

 心臓が高鳴り、気持ちが高揚している。

 「ひさしぶりの戦闘だ。」

 まるでご馳走にでもありつこうかという期待感に満面を染めたアーロンは、さらに馬に鞭を入れる。

 それを刺激に馬のスピードが更に上がった。


 南の門が眼前に迫る。

 門番がいつもどおり門を護っていた。

 「門を開けろ!」

 アーロンの大声に、門番は慌てて門扉を開く。


 開き切る前にアーロンの馬はその間を駆け抜けていった。


 あっという間に遠ざかるアーロンの後ろ姿を門番たちは呆けた顔で見送った。

 その上空を優雅な姿でユーリッドが通り過ぎる。


 街道を疾走していくアーロンの馬に、ユーリッドの乗った杖が上空から近づいてくる。

 「アーロン、お急ぎのようね。」

 駆けるアーロンの横にユーリッドが並んだ。

 「ユーリッドか?余計な手出しはするなよ。」

 「しないわよ。めんどくさい。」

 本当に面倒くさそうな顔をするユーリッドに、アーロンはニヤリと笑い返す。

 「そうか。ならいい。」

 「でも、アーロン、本当に手助けしなくていい?あんた、黒竜と戦うの初めてでしょう。」

 「問題ない。おれの得物があれば黒竜など真っ二つだ。」

 子供のような強がりにユーリッドは微笑む。

 「じゃあ、がんばってね。私は高みの見物しているから。」

 そう言い残してユーリッドの乗った杖が高度を上げていった。


 それを見送るアーロンの目の端に、黒い飛行物体が映る。

 「あれか?」

 アーロンは馬を止め、南の上空を凝視した。

 いまだ闇が覆うその空を黒い飛行物体がすさまじいスピードで通り過ぎていく。

 「くそ!高すぎるぞ。」

 アーロンは馬を返すと、黒竜と思われる飛行物体の後を追った。


 「もうすぐ王都だ。」

 「あら、目の前になにかいるわよ。」

 シャーリーが黒竜の進む方向に浮かぶユーリッドを見つける。

 「大魔導士ユーリッドか。」

 

 「なになに⁉どうして、私の方に黒竜がくるわけ?」

 ユーリッドは慌てて黒竜を避けようとする。


 「黒竜、おまえの息吹(ブレス)で目の前の女ごと王都を破壊しろ。」

 グレイの命令に黒竜が反応し、その口を大きく開けた。


 黒竜の口の奥からすさまじい質量を伴った息吹(ブレス)が放出される。


 「きゃあ!」

 ユーリッドが急旋回して黒竜の息吹(ブレス)を回避した。

 

 その横を息吹(ブレス)が直線的に通り過ぎ、そのまま王都の外壁に激突した。


 大音響とともに外壁が粉々に粉砕してなお、息吹(ブレス)の勢いは弱まらず、そのまま王都の街並みを蹂躙していった。

 その直線上にあった建物はすべて破壊され、そこにいた人々はすべて物言わぬ肉塊と化した。


 生き残った民衆に恐怖が伝播していく。

 我も我もと逃げ惑い、街中がパニック状態になった。

 それを見下ろすように黒竜が外壁を飛び越え、街中に侵入していった。


 「竜王よ。あの大聖堂の鐘楼におれたちを下ろしてくれ。」

 グレイが命じると、王都の中でも華麗に建つ大聖堂の鐘楼に黒竜は近づいていく。


 近づく黒竜に大聖堂にいる修道士、修道女は我先にと大聖堂から避難していった。

 黒竜は空中でスピードを緩めると、大聖堂の屋根にその身を下ろした。

 グレイとシャーリーは黒竜の首伝いに鐘楼に飛び移り、逃げ惑う民衆を見下ろして、悦に浸る。

 「よし、竜王よ。まずはあの城を破壊しろ。」

 グレイが王都の中央にそびえる王城を指差す。

 その命に黒竜の首が王城へと向く。


 口が開き、黒竜の息吹(ブレス)が王城に向かって放たれた。

 まっすぐ進む息吹(ブレス)が、王城の手前で目に見えない壁に遮られるように四散する。

 「なに!?」

 グレイが目を見張るそばでシャーリーが理解したように笑う。

 「大規模な防御結界が張られているようね。」

 「防御結界?」

 「大司教フォベリオのせいね。」


 黒竜の息吹(ブレス)を撃たれた王城の方では、城内が大騒ぎになっていた。

 「王城が攻撃されたぞ。」

 「ここは安全ではないのか?」

 「たれか!私の身を守れ!」

 大臣、政務官など王城の中にいた者すべてが恐怖に慄き、パニック状態に陥った。

 

 ただ一人をのぞいて。


 天守の塔でショーマ王だけが、平然と見守っている。

 「フォベリオの結界が効いたようだな。だが、それもいつまでもつか。」 

 他人事のように呟くショーマ王の言葉に、後ろに控える秘書官は全身を震わせた。

 「陛下、すぐに安全な場所にお移りください。」

 秘書官の言葉に彼は振り返り、じろりと睨んだ。

 「安全な場所?この城のどこにそんな場所がある?」

 「そ、それは……」

 王の問いに秘書官は何も答えられない。

 「心配するな!」

 そう言い放って、王は再び聖堂に乘る黒竜を睨んだ。

 

 (確かフォベリオは魔女探索に出かけていたんだったな。すると結界が破壊されるのも時間の問題か?)

 ショーマ王は腕を組み、この状況を楽しんでいるような笑みを浮かべる。


 一方、鐘楼に立つグレイは苦々しい顔で王城を睨んでいた。

 「くそ!竜王よ。今一度、息吹(ブレス)を放て!」

 その命に黒竜が再び口を開き、息吹(ブレス)を放った。

 しかし、結果は同じく息吹(ブレス)は遮られ、四散する。

 「だめか。」

 悔しがるグレイのそばでシャーリーがほくそ笑む。

 「だめじゃあないわ。結界に亀裂が入っている。竜王の攻撃に耐えられなくなってるってことよ。」

 「ほんとうか?」

 グレイの顔に明るさが戻り、再び王城を睨みつけた。

 「よし、もう一度息吹(ブレス)を…」

 「あぶない!」

 シャーリーがグレイの上にかぶさり、床に伏した。

 

 それに少し遅れて、すさまじい威力の炎の塊が黒竜の背中にぶつかった。

 〈ギョォエエェェ~‼〉

 悲鳴とともに黒竜がバランスを崩し、大聖堂の屋根を崩しながら地面に落ちていく。

 

 「竜王!」

 グレイが鐘楼の柵に縋りつきながら下を見る。

 シャーリーは炎の飛んで来た方向に目を向けた。


 「ユーリッド」

 その視線の先に空中に浮かぶユーリッドの姿があった。

 

 「さすがに黒竜ね。一発じゃあ仕留められないわ。」

 自慢げな笑みを浮かべるユーリッドは、鐘楼にいる二人の男女に気が付く。

 「へえ、あんなところに人が。逃げ遅れたって訳じゃあないわね。」

 

 「よけいなことをしやがって。」

 グレイがエア・ソー(風刃)を放つ。

 しかし、ユーリッドの目の前でそれは掻き消える。

 「ふふ、私に魔法を撃つなんて怖いもの知らずね。」

 ユーリッドが両手を掲げる。

 「フィアンマ・ディスパラーラ(巨炎の一撃)」

 両手の上に巨大な炎の塊が出現する。

 「竜といっしょに死にな。」

 それが鐘楼に向かって放たれる。


 「くそ!」

 グレイとシャーリーは鐘楼から慌てて飛び降りた。

 起き上がった黒竜はその炎の塊に向かって息吹(ブレス)を吐き出す。

 息吹(ブレス)とフィアンマ・ディスパラーラ(巨炎の一撃)が鐘楼を挟んで激突する。

 すさまじい閃光が大聖堂を包み込み、爆音と爆風と四散する炎が辺りの建物を薙ぎ払う。

 二人は飛行魔法と風魔法で、辛うじて爆心から避難し、離れた建物の屋根に降り立った。

 

 「無茶するわね。」

 「竜王は無事か?」

 粉塵と爆煙に包まれた大聖堂を透かして見ると、黒い大きな影が蠢いている。

 やがて、爆煙の中から黒竜を頭を出した。

 「無事なようね。」

 「よし、竜王よ。あの生意気な魔法使いを蹴散らしてやれ。」

 グレイの命令に黒竜が翼を振るい、旋風を巻き起こしながら宙に飛び上がった。


 「アーロンはなにをしているのよ。私一人に押し付ける気?」

 ユーリッドは飛び上がる黒竜を睨みながら愚痴をこぼす。

 そんなユーリッドにお構いなく、黒竜が目の前の魔法使いを噛みちぎろうと口を開けて迫った。

 「そうやすやすやられるユーリッド様じゃあないわよ。」


 「フォーコ・ランチャ(火炎槍)」

 

 ユーリッドの周囲に炎の槍が複数出現する。

 それが次々と黒竜めがけて発射され、黒竜の身体のあちこちに着弾する。


 〈ゴアァァァ──‼〉


 しかし、黒竜はそれを物ともせず、咆哮を上げながらユーリッドに噛みつく。


 ユーリッドもそれを紙一重で躱す。


 そして、またフォーコ・ランチャ(火炎槍)を放つ。

 背中、翼、そして頭と着弾するが、黒竜は意に介さない。


 「なんなのよ。こいつ!」


 「竜王がそんな攻撃に怯むか!」

 グレイが歓喜するように叫ぶ。

 

 そのとき、ユーリッドと黒竜の戦いを遠く天守の塔で見ていたショーマ王が、おもむろに右手を天に向かって伸ばした。

 上空に黒雲が集まり、その中で光がランダムに瞬く。


 「ペネテュリィート・サンダー(尖雷(せんらい))」


 雷鳴とともに稲光が落ち、黒竜の翼を貫いた。

 

 〈ギャオォォォ──‼〉

 

 悲鳴とともに黒竜の高度が下がる。

 そこへ恐ろしいほどのスピードで駆けてくる一騎の馬がいた。

 その背に乗るのは、アーロン。

 彼の身長の3分の2はあろうかという大剣を振りかざし、黒竜に向かって突っ込んでくる。

 

 「うおおおおぉぉ!」


 アーロンの騎乗する馬が飛び上がる。

 

 そのまま大剣が一閃した。


 金属がぶつかり合う甲高い音が響く。


 黒竜がアーロンの一振りからくる衝撃で地面に叩きつけられた。

 その間に着地したアーロンは、馬から飛び降り、地面に伏せる黒竜の前に仁王立ちする。


 「やっときたわね。アーロン。」

 上空ではユーリッドが杖に乗ったままホッとした顔をした。

 離れた建物の上では、グレイが苦虫をかみつぶしたような顔をし、シャーリーは成り行きを面白がっている。

 「竜王、何している!立ち上がってそいつを踏み潰せ!」

 グレイが焦ったように叫ぶ。

 それに答えて黒竜がゆっくりと立ち上がった。


 「さあ、こい。大トカゲ」

 黒竜に向かって煽るが、黒竜はアーロンの言葉を理解していない。ただ、じぶんに敵対する動物という認識だけ持っている。

 後ろ足で立ち上がった黒竜は、アーロンを踏み潰そうと右足を上げ、彼の上にその大きな足を落とした。

 

 地響きが鳴り、土ぼこりが舞い上がる。 


 誰もが、アーロンは踏み潰されたと思った。

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