12 からっぽやみ魔王 黒竜の後を追って、寄り道する
「そこをどけ。」
アウローラは、二人を自分の前からどかすと、がれきに埋まった大扉に相対した。そして、軽く息を吸うと、大扉に向かって一気に吐いた。
竜の吐息が大扉に向かって放たれると、一瞬で大扉は瓦礫とともに粉々に粉砕され、そのまま大音響を残して、その先にある洞窟を真っすぐ穿っていった。
粉塵が舞い上がり、細かい砂利が降り注いだ後、大扉は消失し、目の前に大きな穴が開いていた。
「この穴をまっすぐ進めば外に出られる。」
二人に顔を向けて笑顔を見せるが、二人はアウローラの吐息の威力に腰を抜かして言葉もない。
それはローデシャルも同様だ。
アウローラは、おれのところに戻ると、腰に手を回し、ローデシャルは荷物のように抱え込んだ。
「さあ、まいりましょう。ご主人様。」
「よし、まずはボルマの街だ。」
おれの言葉を合図に、アウローラは翼をひと羽ばたきし、天井に開いた穴へ向かって飛び上がっていった。
それを二人の騎士は呆然自失で見送っている。
外に飛び出したときには、太陽が山の向こうに沈もうとしているところだった。
いろいろなことがあった一日が終わろうとしている。
「ご主人様、ボルマの街に着くころには日が暮れていると思います。」
「そうだな。どうするローデシャル?」
「どうするって、ボルマの街に今日中に着くのか?」
ローデシャルは2~3日かかると思っていたのだろう、おれとアウローラのやり取りに目をパチクリさせている。
「私にかかればボルマの街などあっという間だ。」
と言った時、アウロ―ラが困ったような顔をなった。
「あの、ご主人様。それでボルマの街はどこなのでしょうか?」
おずおずと尋ねるアウローラ。その問いに驚くおれ。
「アウローラ、ボルマの街を知らないのか?」
「私が寝る前にはなかった街です。」
「おまえ、何年寝てたんだ。」
おれが呆れ顔をすると、アウローラは照れくさそうな顔をした。
ま、おれもあまりこの辺の地理に詳しいわけではない。
「ローデシャル、教えてやってくれ。」
と、ローデシャルにふる。
突然ふられたローデシャルだが、竜王様のためならばという気持ちを顔に表し、ある一点を指差した。
「この先にまっすぐ行くと、森があり、その先に残してきた一団のキャンプがあります。それを目印に道沿いを進むと村が見えます。その村を通り過ぎ、次と次の次の村を通り過ぎた先にボルマの街があります。」
ローデシャルが丹念に教えてくれる。
「だそうだ。アウロ―ラ。まずはキャンプを見つけよう。」
「はい、ご主人様。」
アウローラはローデシャルの指差した先を目指し、まっすぐ飛んでいく。
やがて、森が見え、すぐにキャンプが目に入った。
その後ろに伸びる道をたどって、今度は村を目指す。
飛行は順調で、目印の村を次々と通り過ぎ、日が丁度、山の向こうに隠れた頃、ボルマの街に到着した。
「アウローラ、街の中心部までゆっくり飛んでくれるか?」
おれの指示に頷いたアウローラは、街の中心部めざしてゆっくり飛んでいく。
やがて、暗がりの中に見覚えのある建物が見えてきた。
「あれだな。アウローラ、屋根に降りてくれるか?」
おれが指図すると、アウローラが頷き、その屋根の上にゆっくりと降り立った。
「ご主人様、ここが目指す場所ですか?」
「そうだな。ローデシャル、ここで間違いないか?」
「たぶん、間違いないと思う。」
アウローラから屋根の上に下ろされたローデシャルは、下の方を見下ろしながら答えた。
「さて、どうやって入ったものか?」
「玄関から入られては?」
アウローラが怖いことを言う。
「いや、騒動はなるべく起こしたくない。どこか屋根裏に通じる窓とかないか?」
「あれがそうだと思います。」
ローデシャルの指差す方向に、屋根から突き出た窓らしいものが見える。
「よし、あそこから入ってみよう。」
おれたちは屋根を器用に歩きながら、窓辺に近づく。
ローデシャルが窓に手をかけると、鍵がかかっているのか、開かない。
「壊すと音がして、家人に聞かれる恐れがあります。」
ローデシャルが方法を考えていた時、アウローラが横から割り込み、窓ガラスに向けて拳を構えた。
「おい、アウローラ。音を立てるのはまずい。」
「音を立てなければよろしいのでしょ。」
そう言うと、目にも止まらぬ速さで拳を突き出す。
すると、音もたてずに窓ガラスに丸い穴が開いた。そして、そこから差し入れた手で鍵を開ける。
「ざっと、こんなものです。」
「すごいです。竜王様。」
アウローラのドヤ顔に、ローデシャルが尊敬の眼差しを向ける。
「よし、入るか?」
2人を無視するように、おれは窓ガラスを開けた。
屋根裏部屋は真っ暗だ。
ただし、アウローラは暗視のスキルがあるため、問題はない。
「物置のようですね。」
アウローラは周りを見ながら出入口を探す。
おれとローデシャルは、恐る恐るアウローラの後についていく。
「ここに出入口らしきものがあります。」
そう言って、床の蓋をひっぱりあげる。
下も同じような物置のようだ。
誰もいないことを確かめ、アウローラが梯子を伝って降りる。続いておれ、そしてローデシャルと降りる。
案の定、下も真っ暗だ。
「気を付けてください。そこに荷物があります。」
アウローラの折角の注意なのに、おれは荷物に小指をぶつけ、思わず出そうになる悲鳴を我慢した。
「大丈夫ですか?」
アウローラが心配そうに寄り添うと、おれはジェスチャーで大丈夫と伝え、そんなやりとりを他所にローデシャルが見つけたドアを細く開け、辺りを伺った。
「人気はないようです。」
おれたちは順に部屋から出ると、下に降りる階段を探した。
蝋燭の灯りだけの薄暗い廊下を歩き、突き当たりに下に降りる階段を見つける。
それを慎重に降りると、今度は煌々と灯りのついた廊下だ。
階段の途中でとどまり、注意深く伺っていると、男が二人、こちらに歩いてくる。
見つかるとまずい。
そう思う間に、アウローラの姿が消えた。
瞬きの間に男二人を気絶させている。
相変わらずの強さだ。
二人を最寄りの部屋に引き込むと、これからのことを考えた。
「屋敷のなかにはまだまだ相当な人数がいるんだろうな。」
「だと思います。」
「なら、かたっぱしから倒してやります。」
アウローラが物騒なことを言い放つ。
「いちいち倒していては、辿り着くのに時間がかかるし、ローデシャルの仲間が人質に取られたら面倒だな。」
「そうですね。しかし、どうしますか?」
ローデシャルがおれに縋るように聞いてくる。
そこでおれの目がアウローラに向く。
「アウローラ、ひとつ暴れてきてくれないか?」
「それはもちろん喜んで致しますが、さきほど、それでは時間がかかると言っておられませんでしたか?」
アウローラが怪訝そうに聞き返す。
「アウローラが暴れているうちに、ローデシャルと仲間を助けに行く。」
「しかし、居場所が?」
ローデシャルの不安そうな問いかけに、おれは気絶している二人に目を落とす。
「こいつらに聞くさ。」
そう言って、ひとりの襟元を掴み、引っ張り上げると頬を2・3回、強めに叩いた。すぐに気がつくと、恐れと警戒の目を向けてくる。
「おい、ここにエルフが捕らわれているだろう。どこにいる?」
「なんだと?」
「さっさと吐いた方がいいぞ。おれの愛人は気が短い。」
そう言って、おれが目を上げると、つられて男も目を上げた。目の前にアウローラの美しい顔がある。
「そんな脅し、おれには効かんぜ。」
「五体満足でいたかったら早く話した方がいいぜ。頭と口さえ残っていれば他はいらんからな。」
「ご主人様、最初は右腕ですか、左腕ですか?」
アウローラが美しい顔に残忍な笑みを浮かべて尋ねてくる。
それは恐怖として男に伝播する。
この顔は嘘や冗談ではなく、本気でやるつもりだ。
「おまえ、利き腕はどっちだ?右か?」
おれがそう言うと、アウローラが男の右腕をぎゅっと握った。
激痛で男の顔が歪む。
「いてて!やめてくれ!」
「じゃあ、教えてくれるか?」
「……」
「時間があまりないんだ。さっさと話さないと手足がなくなるぜ。それにおまえが死んだとしても、もう一人いるからな。」
そう言うとおれは気絶しているもう一人に視線を移した。
「右腕を引き抜きます。」
アウローラの握る手にさらに力がこもる。
「まってくれ!教える!教えるから助けてくれ。」
「素直が一番だ。で、どこだ?」
「北側の地下牢だ。」
「どこから入る?」
「一階の北側に地下におりる階段がある。そこから降りればいい。」
「そうか、ありがとう。」
そう言った刹那、男の首筋にアウローラの手刀が入る。
再び気絶した男を床に放り出して、おれはアウローラに指図する。
「じゃあ、アウローラ。これから大暴れしてくれるか?その間におれたちは地下牢にいく。」
「畏まりました。」
アウローラが恭しくお辞儀する。
すると、その部屋の窓を開け放し、外へ飛び出た。
それを確認すると、おれはローデシャルを連れて、部屋から出た。
「すぐに騒動が起こる。あまり時間がないから急ぐぞ。」
おれたちは階段の方へ進んでいく。
同じ頃、飛び降りたアウローラは、外庭に降り立つと、玄関の方へ歩いて行った。
数歩歩くと、男たちが5人ほどわらわらと出て来る。
「だれだ?おまえは」
いかにも無頼者という格好の男が誰何する。
「さあ、だれでしょうね。」
「なんだと?」
誰何した男が訝しがる。
「怪しい女だな。おい、その女をつれてこい。」
リーダーらしき男が前にいた男に命じる。
「女、おとなしくついてきな。」
「あら、こわい。」
舌なめずりをしながら近づく男に、アウローラはか弱き乙女のマネをする。
「こわいことないさ。気持ちよくさせてやるぜ。」
如何にもわかりやすく、男の目が嫌らしい目つきになる。
「じゃあ、私も気持ちよくさせてあげる。」
そう言った途端、アウローラの拳が目にも止まらぬ速さで男の顔面にヒットした。
瞬時に男が吹き飛ぶ。
何が起こったわからない男たちは、吹っ飛んでいった男を目で追った。
そこへアウローラが瞬間的に移動し、呆然としている男二人に続けざまにパンチを見舞う。
見舞われた男二人は、倒れるのではなく、その場から消え、次の瞬間には建物の壁に激突していた。
「ひっ」
残った男が素っ頓狂な悲鳴をあげる。
「応援を呼べ!」
リーダー格の男がロングソードを抜き、戦闘体制を取ったまま叫んだ。それに呼応して悲鳴を上げた男が建物に向かって駆け出した。
「あなたも逃げなくいいの?」
アウローラが不敵に笑う。
「うるさい!」
恐怖を気合で抑え込みながらリーダー格の男は、アウローラの胴を切ろうとロングソードを薙いだ。
男の感覚から言えば、相手の胴を真っ二つにしたはずだ。
しかし、現実は違う。
目の前のアウローラは何事もなく、冷めた目で立っており、男の手にあるはずのロングソードはなくなっている。
「なっ⁉」
「こんな剃刀、振り回しちゃあぶないじゃない。」
男のロングソードはアウローラの手にあり、それを後ろに放り投げた。
「うそだろ」
男の血の気が引いた。
その青白くなった顔にアウローラの手がかぶさり、顔面を握るとすさまじい力で男を振り回す。
「うぎゃあぁぁ~!」
変な悲鳴を残して、男は塀を超えて外へ放り投げられた。
その悲鳴を聞きつけたか、先程の逃げた男の報告を聞いたのか、さきほどの倍する男たちが建物から飛び出してきた。
「まだまだ楽しめそうね。」
アウローラは唇を軽く舐める。
表の騒動が起こったのを見計らって、おれとローデシャルは階下に急いで下りていった。
見つからないように壁に寄り添いながら進むおれたちは、見とがめる者はいない。
皆、アウローラに引き付けられて、外へ出ていったものと思える。
一階に辿り着いたおれたちは、北側にあるという地下への階段を探した。
「きさまらだれだ⁉」
見つからずに済んだのはここまでか。
階下にいく階段を探していたおれたちを、先に商会の人間が見つけてしまった。
「どこから入った?」
男は一人。
ちょうど部屋から出てきたところだった。
ローデシャルが素早く動く。
右フックが男の顔面を狙うが、左腕がそれを防ぐ。
男の右拳がローデシャルの左下から急速に伸びる。
それを頭を反らして避けたローデシャルは、その態勢のまま右足で股間を蹴り上げた。
男の息が止まり、苦悶の表情を残しながら蹲る。
「いこう。」
蹲った男を残しておれたちは、地下につながる階段を下りた。
地下は薄暗いが、所々に灯っている蝋燭のおかげで視界は開けている。
「だれだ⁉」
地下牢の前に立つ二人。両方とも短剣を握っている。
毎度同じような言葉をかけて飽きないのかねと思いながらおれたちは身構える。
その後ろには牢屋があり、なかにはエルフが複数人蹲っていた。
ローデシャルがすばやく動く。
あっという間に二人の間に入り、右の男の顔面に拳を、左の男の顎に蹴りを入れ、瞬時に気絶させた。
すぐに倒れた男から鍵を抜き取り、地下牢の鍵を開ける。
なかなかやるもんだと感心していると、地下牢からエルフたちがわらわらと出て来る。
「ローデシャルか?」
「助けに来た。」
そう言ってエルフたちの手枷を外していく。
「逃げるよ。」
「いや、この首輪がある限り逃げられない。」
「そうだ。逃げれば首輪が爆発する。」
皆がローデシャルと同じような鈴の付いたチョーカーのようなものを首につけている。
「くっ」
ローデシャルもそれに気づいて唇を噛む。
「ちょっと見せてくれないか?」
おれがローデシャルのそばに歩み寄る。
「無駄だ。はずせっこない。これを外すには専用の鍵が必要なんだ。」
あきらめ顔で言うローデシャルの首をおれはそっと触った。
「ふむ、簡単な術式が施されているな。これなら外せるな。」
「じょうだんを言うな。」
「まあ、見てろ。」
おれはローデシャルの首に手をかざし、「デリート(術式解除)」と唱えた。
すると首輪から術式が浮かびあがり、散るように消えていった。
途端に鈴が落ちて、首輪が外れた。
「なにっ?」
ローデシャルが驚きの顔で墜ちた鈴を見た後、おれの顔を見る。
「これで首輪が爆発することはない。」
おれは笑顔で告げた。
今年もあと1ヶ月あまり。
ここまでなんとか続けられました。
まだまだ、先は長いです。
結末まで一生懸命がんばりますので、みなさんの応援、ポイントのほどよろしくお願いします。
あと、タイトルとあらすじを少し変えました。
前から自分でも思っていましたが、愛人=妻という位置づけで確定のようです。
では、そういうことで続きをどうぞ。




