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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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11 からっぽやみ魔王 黒竜の行方を考える

 明るくなった通路を入口へと進む、おれたち三人。

 やがて、瓦礫で塞がれた入り口に辿り着いた。

 「確かに塞がっているわね。」

 アウローラが腰に手を当てながら状況を確認する。

 「あの竜王様。他に出口とかないのでしょうか?」

 「その竜王様っていうのやめてくれない。アウローラでいいわよ。」

 「しかし…」

 気安く語るアウローラに、ローデシャルは相変わらず恐縮している。そのやりとりを見ているおれは、なんとなくおかしくなった。

 「これくらいなら大丈夫でしょう。」

 アウローラが瓦礫を撫でながらそう告げる。

 「大丈夫とは?」

 ローデシャルが怪訝な顔つきをし、おれはアウローラが何をしようとしているのか、なんとなく察しがついた。

 「ローデシャル。下がった方がいいよ。」

 おれはローデシャルの腕を引っ張り、アウローラから離れた。

 

 アウローラは、瓦礫の前で軽く深呼吸すると、右手を瓦礫に軽く触れた。

 「なにをするつもりでしょう?」

 「まあ、見てな。」


 そう言う間に、アウローラの口から気合が一閃した。

 気勢が右手から瓦礫に向かって迸る。


 その刹那、瓦礫に無数の亀裂が走ったと思うと、大音響とともに瓦礫が吹き飛んだ。


 粉塵と細かい瓦礫が飛び、目があけられなくなる。

 「アウローラ、もう少し手加減できないのか?」

 「すみません。ご主人様。起きたばかりで加減がわかりませんでした。」

 粉塵の中から出てきたアウローラは、ほこりを払いながらすまなそうな顔をする。

 

 やがて粉塵が収まり、見通しが良くなってくると、入り口を塞いでいた瓦礫がきれいさっぱりとなくなっていた。

 「これで通れますね。ご主人様。」

 アウローラはほめてほめて光線をおれに浴びせながら、その身体を摺り寄せてきた。隣ではローデシャルがこの状況を目の当たりにして、信じられないという目つきで立ち尽くしている。

 「さあ、行くぞ。ローデシャル。」

 おれが軽く背中を叩くと、我に帰ったローデシャルはおれとアウローラの後を急いでついてきた。


 同じ状況が、外でも起こっていた。

 崩れた元神殿で途方に暮れていたギャルソンとロザリオは、何もする気が起きず、瓦礫の上に座り漫然と過ごしていたが、突然、大音響とともに瓦礫が吹っ飛ぶのを見て、目を丸くした。

 「なんだ!?」

 「何事が起こったんだ!?」

 粉塵が収まるの待って、様子を伺っていると、地下空間の奥の方から三人の男女が姿を現した。

 ひとりは見覚えのあるエルフの女だ。しかし、あとの二人の男女は見覚えがない。

 持ち前の警戒心から二人は身構え、剣に手をかけた。


 「おまえたちは何者だ!?」

 ギャルソンが誰何する。


 その声におれが反応し、その方向に目をやる。

 「あれ、鮮血騎士団のふたりだよな。」

 「そうですね。生き残ったようです。運のいいこと。」

 ローデシャルが侮蔑の目で二人を見やる。

 「だれなんですか?ご主人様。」

 「おれたちといっしょに来た護衛だ。」

 「ご主人様のお仲間ですか?」

 「そんな大層な奴らではない。」

 

 そんな話をしているそばから、ふたりはジリジリと近寄ってきた。

 二人の目は警戒心と畏怖で血走っている。

 それを見て、おれは両手を上げながら逆にそばに歩み寄った。

 「そう警戒するなよ。戦う意志も襲うつもりもない。」

 二人を安心させようと、柔らかい口調で語りかけるが、二人の警戒心は解けない。


 「もう一度聞く。おまえたちはだれだ?」

 「だれだと言われても……」

 竜王とその夫だなんて言っても信じないだろうし。

 

 「竜王様よ。」

 そう思っている横で、ローデシャルが堂々と宣言した。


 その言葉を聞いて、二人は一瞬ポカンと口を開け、続いて高笑いを始めた。

 「竜王だと。そのきれいなねえちゃんが竜王だというのか?」

 「竜王ならさっきグレイが乗ってどっかへ飛んでいったよ。」

 ギャルソンとロザリオが続けてローデシャルの言葉を否定した。

 「おい、エルフの女。おまえ、さっきの崩落で頭でも打ったのと違うか?」

 「まともな答えを応えてもらおう。」

 ギャルソンがロングソードを抜き、おれたちに突きつけた。

 それを見て、アウローラが不敵に笑う。


 「ローデシャル。言ってもわからなきゃ、見せてやればいいのよ。」

 そう言った途端、アウローラからすさまじいスピードで何かが伸び、ギャルソンのロングソードを弾いた。


 ロングソードは宙をクルクルと回って、アウローラの手に収まる。

 「なっ!?」

 ギャルソンが空になった自分の手と、アウローラを見て、驚愕する。

 アウローラの後ろに尻尾が見えるからだ。

 「アウローラ、人様の前で尻尾を見せるのは失礼だろう。」

 おれが注意すると、アウローラが恐縮して首を縮めた。

 「申し訳ありません。ご主人様。」

 アウローラは、おれの注意を素直に受け、尻尾を身体の中にしまった。

 「一体、何が起こったんだ?」

 「ギャルソン、もしかしたらあいつらの言う通りなんじゃあ。」

 ロザリオが目の前の現実に恐怖を覚え、ギャルソンも自分の剣が相手の手の中にある事実に直面し、冷や汗を流す。

 

 「本当に竜王なのか?」

 ギャルソンが恐る恐る聞く。

 「だからさっきから言ってるじゃあないですか。」

 ローデシャルが自慢げに答える。

 「じゃあ、グレイと飛んでいった竜王は何なんだ。」

 「あれは、番犬だそうよ。」

 「番犬……?」

 ギャルソンとロザリオは、ローデシャルと同じような反応を見せている。それを見てローデシャルは、おかしそうに笑う。自分と同じ反応をすることがうれしくて仕方がないのだ。


 「ところで、その黒竜はどこへ行ったか知らないか?」

 笑うローデシャルを横目に、おれは二人に尋ねた。

 「そんなの知るわけないだろう。」

 ロザリオが不貞腐れたように答えると、アウローラがギロリと睨んだ。

 途端に怯える二人を見て、アウローラに抑えるよう目で指示する。

 「思い当たることはないのか?」

 やさしく問うが、お互いに顔を見合わすだけで、答えを口することはない。

 「本当にないの!?」

 その二人の態度に苛ついたのか、アウローラが声を荒げ、瓦礫を踏み潰した。

 それを見て、二人がいっそう怯える。

 「アウローラ。」

 子供に「めっ」という感じでアウローラを睨むと、アウローラはすまなそうに身をすくめる。それを見て、ローデシャルは信じられないという顔つきで、おれとアウローラを交互に見た。

 「すまないな。アウローラは短気なところがあって、でも、とっても優しい()なんだよ。」

 おれがそう取り繕うと、ギャルソンの目つきがすこし柔らかくなった。

 「本当にどこへ行ったか知らないのだが、思い当たることはある。」

 ギャルソンがとつとつと話し始めた。


 「たぶん、グレイは王都に向かったのだと思う。」

 「王都?」


 ***************************************


 グレイの目の前にどこまでも青く、透き通った青空が広がっている。

 目の下にはわた雲が流れ、目の上にはまぶしいばかりの太陽が輝いている。


 あのときもどこまでも青い空だった。


 大地はどこもかしこも赤黒く染まっているのに。


 おれたちダークエルフはどこに行っても厄介者だった。

 同じエルフでも同一種族と認められず、忌避され、疎外されてきた。

 他の亜人からは同じエルフだと恨まれ、憎まれ、爪はじきされた。

 エルフ自身が高い自尊心から他の亜人を下等種と見下し、共生を拒んできたためだ。


 だからおれたちは、居場所もなく、転々と渡り歩く流浪の民となっていた。


 貧しくはあった。

 それでも肩を寄せ合い、なんとか平穏に暮らしていた。

 

 それが人間と魔族との覇権争いと言う身勝手な戦争ですべてぶち壊しになった。

 それに巻き込まれ、仲間は散り散りになった。

 

 やがて、魔王によって魔族側が優勢になり、戦争も収束が見え始めた頃、勇者が顕現した。


 三年前に王都に突如現れた勇者は、仲間とともに魔王討伐に乗り出すと、魔族の軍勢を次々と撃ち破り、ついには魔王をも打ち倒した。


 これで、やっと平和がくるはずだった。


 しかし、勇者は戦うことをやめなかった。

 次に王国の人間以外の者を次々と撃ち滅ぼし始めたのだ。

 魔王の軍勢に加担していない亜人や魔族を。

 他の領地の人間を。

 ただ、自分側の人間でないというだけで。

 勇者のお眼鏡にかなわない者たちというだけで。


 おれたちも襲われた。


 逃げ惑い、助けを求めた。


 しかし、他の亜人やエルフ、人間たちはおれたちを見捨てた。あまつさえ、おれたちを生贄にして自分たちの命を守ろうとした。

 当然、おれたちは蹂躙され、虐殺された。


 生き残った者たちは、奴隷になるか、野垂れ死ぬかのどれかしかない。


 おれが住んでいた村も勇者に加担する軍隊に、焼かれ、殺され、攫われた。

 おれも傷つき、倒れ、死ぬような目にあった。


 それでも自分たちをこんな目にあわせたやつらに、

 おれたちを見捨てたやつらに、

 そして、勇者に、

 

 復讐するまでは死ねない‼


 泥水を啜り、草を齧り、おれは必死になって生き延びた。


 そんなおれを拾ったのが、鮮血騎士団だ。


 単なる気まぐれか、それとも哀れみか、それはわからないが、あいつらはおれを拾い、食い扶持を与えてくれた。だから、与えられた分だけの働きをした。

 傭兵として、命じられるまま、殺せと言われた相手を殺していった。

 その働きが認められ、騎士団の中でも主軸に登っていった。


 そして、こんどの依頼だ。

 チャンスだと思った。


 竜王を手に入れられれば、勇者を倒す力となる。

 おれたちを虐げたやつらに復讐ができる。


 それはすべて王都にいる。


 

 「グレイ、なにを考えているの?」

 シャーリーが不意に尋ねてきた。

 「ふっ、昔のことを思い出していた。」

 「そう。楽しい思い出?」

 子供のような笑みを向けるシャーリーに、グレイは乾いた笑いを浮かべる。

 「ああ、ぞくぞくするような思い出さ。」

 グレイの中で改めて復讐の炎が燃え上がる。


 グレイの目の前には青い空が広がる。その先には王都がある。


 ***************************************


 「どうして王都だと思うんだ?」

 瓦礫に埋まった地下空間で、おれとアウローラ、ローデシャルにギャルソンとロザリオが車座で話し合っている。

 「グレイは王都にいる人間、特に勇者に特別な思いを持っているからな。」

 「特別な思い?」

 オウム返しに聞くおれに、ギャルソンはため息をつきながら答える。

 「復讐さ。」

 その言葉にロザリオも頷く。

 「ほぉ、でも勇者は魔王を倒して、この世に平和をもたらしたんじゃあないのか?」

 おれは勇者の存在意義から想像して、そのようなことを言うと、ロザリオが鼻で笑った。

 「平和?どこが平和だっていうんだよ。魔族や亜人、異人種を狩りに狩って、奪うだけ奪って、そのあとに残った土地をあちこちの王族や貴族どもが奪い合って、争いはつきることはねえ。これを平和っていうのかい?」

 一気にまくしたてるロザリオの目が血走ってくる。


 よほど思うところがあるのだろう。


 「国王は何をしているんだ?」

 「その国王が争いを煽っているのさ。」

 おれの疑問にロザリオが被せるように答えた。

 「煽ってる?」

 「国王が率先してあちこちで領地を奪い、国を奪っているのさ。ま、そのおかげでおれたちの仕事がなくなることはないがな。」

 最後に皮肉っぽく語ったロザリオは、大きくため息をついた。その横で黙って聞いていたギャルソンが、ポツンと呟いた。

 「その国王が勇者様さ。」


 その言葉におれの口がだらしなく開いた。


 「そんなことになっていたのか?」

 呑気なおれの言葉に、ロザリオとギャルソンは呆れ顔でおれを見た。

 「おまえ、一体どんなド田舎の村に住んでいたんだ?」

 その言葉を聞いたアウローラが殺気を放った。

 「きさまら、ご主人様に対してなんという無礼な口を利く。」

 その殺気に二人が身をすくめた。

 「すまん。悪気はないんだ。」

 平謝りに謝るギャルソンを見て、なんとなく哀れに思えてくる。


 「それよりこれからどうなさいますか?竜王様。」

 ローデシャルが話題を変えて、アウローラに尋ねてきた。

 「どういたしましょう。ご主人様。」

 「そうだな。」

 おれがしばし考え込む姿を見て、ギャルソンとロザリオは不思議な気持ちになる。


 「なあ、こいつ、本当に何者なんだ?」

 「おれが知るか?ともかく、あまり怒らせない方がいいというのは感覚的にわかる。」

 そんなひそひそ話をしているとき、おれがアウローラに尋ねた。

 「そういえばプリムラたちとは連絡はつかないのか?」

 「はい、遠方にいるのか、通信障害があるのか、ともかく連絡はとれません。それに……」

 「それに?」

 アウローラが恥ずかしそうにもじもじしている。

 「()()()しているうちに連絡するのも面倒になりまして。」

 「お昼寝ね…」

 おれがため息をついていると、横からローデシャルがおずおずと入ってきた。

 「お話し中、申し訳ありませんが、とりあえず、ボルマの街にいきませんか?」

 「ボルマか…」

 「商会に捕らわれている仲間を助けたいのです。」

 ローデシャルの懇願する顔にほだされたおれは、その懇願を聞き入れた。


 「アウローラ、まずはボルマの街へ連れて行ってくれるか?」

 「畏まりました。ご主人様。」

 秘書らしいお辞儀をすると、アウローラの背中から竜特有の翼が出現する。

 「さあ、お掴まりください。ご主人様。おんな、お前も特別に掴まるがいい。」

 そう促されて、おれがアウローラのそばに寄ると、ロザリオが突然叫んだ。

 「おれたちも連れてってくれないか?」

 「なぜ、おまえたちも連れていかなければならない。」

 ロザリオの必死の懇願に対して、アウローラの対応は素っ気ない。

 「こんなところに置いて行かれたら野垂れ死にしてしまう。」

 確かにこの空間から出る扉は瓦礫に埋まり、運よく出られたとしても洞窟は迷路だ。案内なしに出るのは難しいだろう。まして、案内役(ローデシャル)はいまおれと一緒にここを出ようとしている。


 こいつらが必死になるのもわかるが。


 男二人と肌を突き合わせて飛んでいくのは、なんとなくいやだ。


 おれはアウローラに近づくと耳打ちをする。

 その様子を固唾を飲んで見ている二人の前に、アウローラが進み出た。


 「出られればいいんだな。」

 「連れて行ってくれるのか?」


 二人の目が期待に満ちる。 

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