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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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10 からっぽやみ魔王 真の竜王とご対面する

 「ローデシャル、ローデシャル」

 おれは気絶しているローデシャルを起こそうと、頬を軽く叩き、身体を揺さぶっていた。

 

 あのとき、巨大な瓦礫が降り注ぎ、おれとローデシャルは哀れその下敷きとなるところだった。

 そうならなかったのは、おれが咄嗟に「ポーズ(時空停止)」を唱えたからだ。

 

 降り注ぐ瓦礫は、凍ったように固まる。


 おれはその中を急いで駆けると、頭を抱えて蹲るローデシャルを抱きかかえ、逃げ場を探した。

 そのおれの目に留まったのが、黒竜がいた場所から更に奥にある岩の壁に作られた扉。

 ローデシャルを抱えたままその扉に向かって駆ける。


 その扉を開け、中に飛び込むと「ポーズ(時空停止)」を解除する。

 途端に大音響と大震動が轟き、あっという間に入ってきた入り口が瓦礫に埋まった。

 

 そうして命拾いしたおれたちは、最初の場面に戻るわけだ。


 何度かの呼びかけにローデシャルは、やっと目を覚ましたようだ。とはいえ、周りは真っ暗でローデシャルの顔は見えない。

 「気がついたか?ローデシャル。」

 「テヴェリス?」

 おれの声に反応して、ローデシャルが起き上がる。

 「ここは?」

 灯りがないため状況がつかめていない。

 「偶然、扉を見つけてその中に飛び込んだ。」

 「扉?………そうだ、竜王様は?」

 「どっかへ飛んでいったよ。」

 おれの答えに、ようやく先ほどの出来事を思い出したのか、ローデシャルは身震いした。


 「ともかく、こう暗くちゃどうしようもないな。なにか灯りは持ってないか?」

 「確か魔光石があったはず。」

 ローデシャルはポケット探り、魔光石を取り出した。そして、それに魔量(エネルギー)を注ぐと、魔光石は青白い光を放ち始めた。

 

 周りが明るくなり、おれの顔を見た途端、ローデシャルが身をすくめた。 

 「あなた、だれ!?」

 そのときなって初めて、おれが強面男のままだったことに気付いた。

 「ああ、悪い悪い。変装を解くのを忘れていた。」

 そう言って、おれはチェンジング(表体変換)を解いた。

 本来のおれに戻ったのを見て、はじめ驚いていたローデシャルは、おれだということがわかると安心したのか、ホッと息を吐き、身体から力を抜いた。


 ようやく落ち着いたローデシャルは、魔光石をかざし、あらためて今いる場所の様子を探った。

 人為的に岩肌をくり抜き、石垣で補強した通路のように見える。

 所々に明かりを点す穴が穿ってあり、その中には魔光石が埋め込まれていた。

 ただ、長年使われていないせいか、ほこりがびっしりとこびりついている。


 「ここはなんの通路なんでしょう?」

 ローデシャルが魔光石を壁際までかざし、その壁を調べたが、なんの手掛かりもない。

 「この魔光石、点くのかな?」

 おれが壁に埋められている魔光石に触ったが、なんの変化も見られない。

 「下手に触らないように。なんの仕掛けがあるかわかりませんから。」

 ローデシャルの注意におれは慌てて手を引っ込めた。


 「ともかく、ここから出る算段をしないといけないな。」

 「入り口は完全に埋まっているようですね。」

 入ってきた扉は、瓦礫に潰されたうえ、巨岩で入り口は完全に埋まっている。おれたちの力では動かすのは無理そうだ。

 「先に進んでみるか?」

 おれの提案に頷いたローデシャルは、魔光石をかざして先に進み始めた。


 通路は人が並んで歩けるくらい広く、屈まずに済むくらい天井に高さがある。

 ただ、経年劣化から石垣が崩れているところもあり、万が一を考えて、慎重に進んでいった。

 しばらくして、つきあたりに当たり、そこに何かの金属でできた扉があった。

 「なんの扉でしょう?」

 「お宝でもあるのかな?」

 おれが軽口を叩くと、ローデシャルは非難めいた目でおれを見る。

 それから扉を丹念に調べ始めた。


 「これはエルフがよく使うレリーフですね。」

 「おまえさんの先祖が作ったものってわけか?」

 「たぶん。でも、竜王殿の奥にこんな扉があるなんて知りませんでした。」

 不思議そうに扉を撫でるローデシャルは、扉にある取っ手に手をかけてみた。

 すると、扉がすんなりと動く。

 「鍵はかかってない。」

 ローデシャルは更に扉を押し開いた。


 きしむ音とともに大きく開いた扉の先は、やはり暗闇が広がっている。

 しかし、閉鎖された空間特有の空気の淀みは無い。

 どこかに外気と繋がっているところがあるのか?

 「なんだ、ここは?」

 「なんか部屋のような感じがするのですが。」

 ローデシャルが一歩踏み込み、魔光石をかざすと、確かに部屋のようだ。光がほんの一部分しか照らしていないため全体像はつかめないが、なんか書斎のような気がする。

 おれも壁伝いに中に踏み込むと、おれの右手が何かに触れた。


 「カチッ」という音ともに、急に部屋の中が明るくなった。


 驚いたおれたちは、明るくなった部屋を思わず見廻す。


 部屋は整然としていて、本棚や机、椅子、それからソファとある。

 床にはペルシャ風の絨毯が敷き詰められており、掃除が行き届いているのか、意外ときれいだ。

 そして、奥には扉があり、更に部屋があるようだ。

 「なんだろう。ここは?」

 「だれか住んでいるのかしら?」

 おれたちは物珍しそうに部屋を歩き回っていた時、「きゃ」という悲鳴をローデシャルがあげた。


 「どうした?」

 「スライムが…」

 「スライム?」

 ローデシャルのそばに駆け寄ると、確かに足元にスライムの薄青い身体が蠢いていた。

 「なんだ、こいつ?」

 おれがスライムを叩き潰そうとすると、ローデシャルが止めた。

 「大丈夫。これは人畜無害の魔物よ。」

 「人畜無害?」

 「ええ、逆にゴミとか食べてくれる便利な生き物。」

 「そうか、この部屋がきれいなのは、こいつが掃除していたからだな。」

 おれは感心したように、スライムを指で軽く押した。

 プルプルと揺れて、触り心地はいい。


 「この奥にはなにがあるのかしら?」

 ローデシャルが奥に通じる扉に手をかける。

 もう警戒心より好奇心のほうが勝っているようだ。

 扉は鍵がかかっておらず、これもすんなりと開く。

 

 だれか住んでるにしては、ずいぶん不用心だな。

 それとも無人なのか?


 そんなことを思いながら奥の部屋に入ると、なかも真っ暗で扉から差し込む明かりで、なんとなく寝室であることがわかった。

 やはりペルシャ風の柄の違うじゅうたんが敷かれており、部屋の半分を占めるようなキングサイズの天蓋付きベッドが目の前にある。

 「寝室ね。」

 「だれか寝ているのかな?」

 おれは遠慮なく寝室の中に入ると、ベッドのそばに近寄った。

 「あまり近寄らない方がいいわよ。」

 おれに注意するが、ローデシャルも好奇心に勝てないのか、ベッドのそばに近寄っている。

 天蓋から垂れるレースの隙間から中を覗くと、だれかが寝ている。


 その寝姿、黒髪の具合を見て、おれのなかでピンとくるものがあった。


 「きれいな女性(ひと)

 同じように覗き込んだローデシャルは、ベッドに寝ている寝姿を見て、思わずため息をつく。

 そんなローデシャルを見ながら、おれは手を伸ばし、寝ている女性を布団の上から揺らした。


 「おい、起きろ。」


 おれの突然の行動に驚いたローデシャルは、その行いを止めようとした。

 「やめなさい。テヴェリス。」

 おれの手を払い除けようとしたとき、布団の中で動きがあった。


 「う~ん」

 女性が目を覚ましたのだ。


 寝返りをうって、おれの方に顔を向けると、うっすらと目を開ける。

 そして、おれの顔を見るなり、両腕を広げる。

 

 「ご主人様、おはようのキッス。」


 アウローラは、ネグリジェ姿でおれに朝の口づけを求めてきた。


 「アウローラ、人が見ている。」

 おれは気まずそうにローデシャルを見る。

 ローデシャルは、目を覚ましていきなりおれの首に両腕を回し、口づけを求めるその状況に面食らい、どうしていいかわからないような顔をして、立ち尽くしていた。

 そんな状態のローデシャルに気づいたアウローラは、鋭い目つきで彼女を睨んだ。


 「あなた、だれ?」

 明らかに威嚇と殺意の籠った声だ。


 「落ち着け。アウローラ。彼女は無関係だ。」

 「無関係?この女が?」

 おれから手を離したアウローラは、ベッドから降りると、おれの横に立ち、ローデシャルを頭から足へと品定めする。

 「ま、ご主人様がこんな女となにかあるとは思えませんわね。」

 見下した発言をするアウローラと、その横でホッと安堵するおれを見て、ローデシャルがおずおずと尋ねてきた。


 「あの、あなたはどなたなんですか?」

 もっともな疑問だ。

 

 「えっと、紹介しよう。彼女はアウローラ。おれの……なんというか……妻だ。」

 「えっ?」

 ローデシャルが驚きで口を開ける。


 「いやですわ。ご主人様。そんなにはっきりと」

 恥ずかしそうに両頬を染めるアウローラを無視して、おれは今度はローデシャルを紹介する。

 「彼女はローデシャル。竜王殿を護るエルフの一族だ。」

 「竜王殿?」

 アウローラが首を傾げる。

 「アウローラ、おまえ、ここに転移したきたとき、ここにいた竜たちを片付けた覚えはないか?」

 それを聞いて、アウローラは記憶を手繰る。

 「ああ、そういえば、やんちゃな(チンピラ)が絡んできたんで、かわいがってやった覚えはありますね。」

 「そうだろうな。ローデシャルの話を聞いて、そうじゃないかと思っていたんだ。」

 「ちょっと待って。なんの話をしているの?」

 ローデシャルが訳がわからないという目でおれたちを見る。

 「ローデシャル、彼女がお前たちの言う竜王だ。」

 

 一瞬、間があく。


 そして、「えええぇぇ‼」と叫び声をあげる。


 それはまあ、驚くよな。


 伝説の竜王がアウローラのような女性だっていうんだから。

 おれは、話を聞いてなんとなくそうじゃないかと、推測していたが。


 「ご主人様、何の話ですか?」

 「おまえさんが、竜を片っ端から()()()()()()せいで、竜王として崇められたって話さ。」

 それを聞いて、アウローラはまた記憶を手繰った。

 「そういえば、なんかいろんな人たちに感謝されたような覚えがありますね。そのあと、たくさんの食べ物とか、住み家とか下さって、意味がわからなかったけど、まあ、くれるもんならいただいちゃおと、ほっておいたんですが。」

 「おまえらしいよ。」

 おれは、アウローラの言葉に納得の笑みを浮かべて、彼女の頭に手を置いた。

 それを前にして、ローデシャルの口が呆けたように半開きになる


 「そういえば、扉の前に黒竜が寝ていたが、あれはなんだ?」

 「黒竜?……ああ、あれは番犬代わりです。」

 「番犬……?」

 その答えにローデシャルの思考は停止してしまった。

 「その番犬、なんか変な奴が連れていったぞ。」

 「そうですか?あれはあまり頭のいい番犬ではなかったので、しょうがないですね。」

 さしてがっかりした様子もなく、アウローラは淡々と返事をする。

 二人の会話についていけないローデシャルは、置き人形のようになっていた。


 「さて、アウローラ。ここから出る方法ってあるか?」

 「え?入ってきた入り口は?」

 「瓦礫で埋まってしまった。」

 おれは、簡単に経緯を話すと、アウローラは少し考えた後、おれのほうに顔を向けた。

 「まあ、大丈夫でしょう。」

 「大丈夫って。」

 「なんとかなりますよ。ご主人様」

 なんか、不安だな。


 「ちょっと着替えて来ますね。隣で待っていてください。」

 「ああ」

 アウローラに言われて、おれは寝室を出ようとしたが、ローデシャルがついてこないのに気付いた。

 「ローデシャル、隣に行くぞ。」

 声をかけるが、ローデシャルの反応がない。

 しかたがないので、手を引いて隣の部屋へ連れていく。


 隣の部屋に連れてきたが、相変わらず心ここにあらずと言った様子で、なんか口の中でぶつぶつ呟いている。

 「おーい、聞こえているか?」

 顔の前で手を振ると、やっと自分を取り戻した。

 「ええ!竜王様?番犬?奥さん?」

 完全にパニクってる。

 「ローデシャル!」

 顔の前で柏手を打つと、目の前のおれにやっと気づいた。

 「あ、テヴェリス」

 「大丈夫か?深呼吸しよう。」

 おれに言われて、ローデシャルが深呼吸をする。

 それでようやく落ち着いたか、目に光が戻ってくる。


 「あの方が竜王様だなんて。」

 ローデシャルは頬に両手を当てて、カタカタと震えている。

 「まあ、アウローラが竜王なんて信じられないよな。」

 「それもそうだけど、テヴェリス、あなたは一体何者なの!?」

 ローデシャルが疑惑の目でおれに詰め寄る。

 「何者って言われても。おれはただのおっさんだし。」

 「ただのおっさんが竜王様を呼び捨てにする?」


 たしかにそうだ。


 「まあ、そんな些細なことは、このさい置いといて。ここから出ることを考えよ。」

 おれがなんとかごまかそうとしているとき、

 「お待たせしました。」

 と言って、アウローラが入ってきた。

 いつものネイビーブルーのジャケットとタイトなミニスカート。髪をアップにして、化粧もしてきたのか、唇が深紅に輝いている。眼鏡はしていない。

 「竜王様、先程は失礼しました。」

 ローデシャルがアウローラの前で跪く。

 彼女の中でアウローラを竜王として無理やり認識したのだろう。

 アウローラは面食らっているが。


 「ご主人様、この人、どうしたんですか?」

 「気にしなくていいよ。それよりここから出る方法だけど。」

 「これ、竜王様の前でなんという口の利き方だ。」

 ローデシャルがおれを叱りつける。さっきとはえらい変わりようだ。

 ま、それは無視して。

 「とりあえず、入り口に行ってみましょう。」

 アウローラがそう言うと、おれたちは扉から通路に出た。


 あいかわらず、通路に明かりは無く、薄暗い。

 「竜王様、すぐに灯りを。」

 ローデシャルが魔光石を出そうとするのをアウローラが抑え、通路に向かって手をかざした。

 すると、通路にある魔光石が次々灯り、通路が明るくなった。

 「これは…」

 「だいぶ年月が経ってたけど、大丈夫のようね。」

 「さすがアウローラだな。」

 気安く呼ぶおれに対し、ローデシャルがじろりと睨んだ。

 「さっ、行きましょう。」

 「この部屋はいいのかい?」

 「どうせ、もう戻りませんから。」

 アウローラは平気な顔をして、通路を入口へと進んだ。

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