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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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9 からっぽやみ魔王 竜王殿で一騒動にあう

 ゴーリーが竜王と呼んだ黒い竜に、皆が目を見開いた。

 おれ以外は。


 (なんだあれは?ただの黒竜じゃあねえか。)

 おれの期待は見事に裏切られた。


 しかし、他の者は違う。

 目の前で寝ている黒竜を完全に竜王と思っている。


 確かにそう思っても仕方がない。

 10mは越そうかという巨体。全身を覆う漆黒の鱗。どんなものでも切り裂けるのではと思える鋭い爪。なにものも薙ぎ払えると容易に予想できる尻尾。

 

 「竜王だ。まさしく竜王だ。」

 ゴーリーが歓喜に震えている。

 「こいつが竜王か?でけえな。」

 ロザリオが驚きの顔を見せている。隣のギャルソンも同じだ。

 グレイにしろ、シャーリーにしろ、表情の差はあるが驚いているのは確かだ。

 ローデシャルに至っては、跪き、両手を合わせて祈りを捧げている始末だ。


 「よし、ここからが大事だ。」

 ゴーリーは眠っている黒竜に忍び足でゆっくりと近づいていく。


 なにをするつもりだろう?


 「グレイ、そのエルフを連れて来い。」

 ゴーリーが黒竜を見つめながらグレイに指示する。

 指示を受けたグレイは、跪いているローデシャルを立ち上がらせ、ゴーリーのそばへ連れていった。

 「エルフのお嬢さん、これは間違いなく竜王だな。」

 ゴーリーがローデシャルに確認すると、ローデシャルはゆっくりと頷く。

 「よし、こいつを起こせるか?」

 「まさか。そんなことをすればここにいる皆が死ぬことになるぞ。」

 ローデシャルはゴーリーの提案を恐怖の目で返答した。

 「そんなことにはならんよ。」

 軽く否定すると、ゴーリーは黒竜に更に近づいた。


 「おい、ゴーリーの旦那。竜王を起こしちまったらどうするんだ?」

 ロザリオが本当に心配そうな顔で引き留めようとした。

 「大丈夫だ。しかし、念の為にシャーリー、私に身体強化(リインフォース)を付与してくれ。」

 「焼け石に水だと思うけど、ご要望なら。」

 シャーリーはゴーリーの要望を聞き、身体強化(リインフォース)をゴーリーに付与した。

 「何をする気か知らんが、いつでも逃げられるようにはしといたほうがいいな。」

 ギャルソンが真面目な顔で言うと、ロザリオが即座に頷いた。

 シャーリーは呑気な顔で成り行きを見守り、グレイはなぜかゴーリーの後ろにピッタリとついている。


 ゴーリーが黒竜の間近に歩み寄ると、ポケットから腕輪のようなものを取り出し、それを寝ている黒竜の爪に装着した。

 当然、黒竜の爪のほうが大きいので、腕輪は爪の先に収まるだけなのだが、それでもゴーリーは満足そうな顔をし、ローデシャルのいるところへ戻ってきた。

 「さあ、エルフ。竜王を起こすのだ。」

 「そんなことはできん。」

 「できなければ仲間が死ぬだけだぞ。」

 ゴーリーは残忍な目つきでローデシャルの目を睨み、首に装着されたチョーカーの鈴をつまんだ。

 「くっ」

 唇を噛みしめるローデシャルは、苦渋の決断を迫られる。

 

 「ゴーリーの旦那。竜王を起こしておれたちに危害が加わるなら、おれも引き留めるぜ。」

 「なにか算段があるなら話してくれないと、おれもロザリオと同様、見過ごしにはできん。」

 ロザリオとギャルソンが厳しい顔つきで身構えた。


 確かに、なにか黒竜を黙らせる手段でもなければ、こいつらにとっては死活問題だからな。

 おれは逃げられる自信はあるけど。


 「仕方がない。教えてやる。いま竜王の爪に嵌めたのは【隷属の魔冠】という魔道具だ。こいつを嵌められた生き物はこの指輪を嵌めた人間と隷属関係になる。」

 と言いながらゴーリーは左手の中指に嵌めてある指輪を見せた。

 「こいつの効力は絶対で、竜王と言えども例外ではない。」

 自信満々に語るゴーリーに、皆が感心したような顔をした。

 

 (この世は例外だらけだぞ。)

 おれは呆れ顔をしながら心の中で呟いた。


 「さあ、エルフよ。竜王を目覚めさせろ。」

 ゴーリーはローデシャルのチョーカーを引っ張りながら、命令する。

 事ここにいたり、諦めたのか、ローデシャルは黒竜に近づくと、自分の爪で指先を切り、血を石畳に垂らすと、口の中で祈りの言葉を呟いた。

 「我、古より竜王に仕えし下僕なり。この身、我が血にて証となれば、我が言葉に答え給え。我が願いを叶え給え。いま安らかなる眠りより目覚め、我が祈り聞き給え。」

 眠っている黒竜の下にある石畳が淡く光り、巨大な魔法陣が浮かびあがる。その魔法陣から白い光が垂直に放射され、黒竜全体を包み込んだ。


 (目覚ましの魔法ッてか?)

 おれが呑気にそんなことを思っていると、黒竜の瞼が徐々に上がっていく。

 そして、大きく目が見開かれると、黒竜は重たそうに身体をゆっくり持ち上げた。


 起き上がるとその巨大さが更に実感される。


 全員がその巨体に見入っているとき、黒竜が大きく口を開け、すさまじい咆哮をあげた。


 その咆哮の勢いに、その場にいる全員が全身を震えさせ、筋肉が萎縮する。

 周りにある神殿が音を立てて振動する。

 天井からは小石も降り注いできた。


 「おれの竜王だ。おれだけの竜王だ!さあ、おれの命令を聞け!」

 ゴーリーが歓喜のあまり口を半開きにし、少し涎を垂らしながら黒竜に向かって左手を差し出す。

 いままさに【隷属の魔冠】を発動しようとしたとき、それは起きた。


 ゴーリーの5本の指が、血飛沫を上げて宙に舞った。


 だれもが、ゴーリー自身さえも眼の前の出来事が信じられないという顔つきになる。ただ一人、グレイを除いて。

 

 グレイが宙に舞った指の内、一本を掴んだ。

 「ぎゃあ〜!」

 遅れてゴーリーの悲鳴が上がる。


 「グレイ、なんのつもりだ。」

 ギャルソンが反射的に問い質す。

 グレイが、ゴーリーの後ろからエア・ソー(風刃)を使って、ゴーリーの指を切断するのをしっかり見ていたからだ。

 ギャルソンの一喝を無視し、グレイは掴んだ指から指輪を外し、それを自分の中指に嵌めた。

 「なんのつもり?おれはこのチャンスを待っていたんだ。」

 グレイが嘲笑気味に答える。

 すまし顔のグレイしか知らないおれは、背筋に悪寒を走らせた。

 逆に怒りを爆発させているのは、ゴーリーだ。


 「きさま、裏切るつもりか!?」

 「裏切る?おれは最初からおまえのために働いているつもりはないよ。」

 グレイはゴーリーにバカにしたような口調で答えた。

 「おのれ〜、こいつを切れ!切ってしまえ!報酬は弾むぞ。」

 ゴーリーの命令に他の鮮血騎士団は剣に手をかける。


 「切れるか?おれを。」


 グレイが左手中指に嵌めた指輪を皆に見せる。

 その行動にギャルソンたちは、剣を抜くのを躊躇した。

 それを見透かしたグレイは、大声で叫ぶ。


 「竜王よ。我と隷属の盟約を結べ。我が命に従え。」


 グレイの詠唱とともに指輪が光を放つ。

 すると黒竜の爪に嵌められた腕輪が、ゴムのように伸び、黒竜の太い指にピッタリと嵌った。同時にその腕輪から光の筋がアミダのように伸び、指から腕、そして肩から頭へと絡まるように伸び、その黒い鱗の中に消えていった。


 黒竜の目の光が変わる。


 咆哮が止み、自らの頭を垂れる。

 「おれを乗せろ。竜王。」

 そう命じたグレイに向けて、黒竜が腕をそっと伸ばし、手のひらを上に向けた。

 グレイはその手の平に無警戒で乗り、それを確認した黒竜はグレイを落とさないようにゆっくりと手を持ち上げた。

 その一連の行動に、黒竜がグレイの従順な奴隷となったことを皆が悟った。


 (まずいな。これは。)

 嫌な予感が当たった。当たってほしくなかったけど。


 「やつを殺せ!」

 ゴーリーはこの状況でも相変わらず、同じことを叫んでいる。

 しかし、だれもその命令を聞く者はいない。

 「ここから逃げろ。」

 ギャルソンが他の者に向かって叫ぶと、ロザリオは扉に向かって、脱兎のごとく駆け出し、そのあとにギャルソンが続く。

 シャーリーは浮遊魔法(フロート)を唱え、神殿の上に飛び上がっていった。


 「おまえたち、逃げるな!」

 鮮血騎士を引き留めようとしたゴーリーの上に、黒竜の影が覆った。

 「ゴーリーの旦那。いままでありがとう。そしてさようなら。」

 黒竜の手に乘ったグレイが、残忍な笑みを浮かべながらゴーリーに向けて別れを告げた。


 次の瞬間、黒竜の巨大な足がゴーリーを一瞬で圧し潰す。

 身体強化もへったくれもない。


 ゴーリーの最後を見届けたグレイは、次の命を黒竜に告げる。

 「さあ、ここから出るぞ。竜王。」

 グレイがそう言うと黒竜は、大きな翼を広げた。

 ひと羽ばたきすると、すさまじい風圧が地下空間内を吹き抜け、地下神殿を粉砕していく。

 そのまま黒竜の巨体が浮かびあがると、天井に向かって飛んでいった。

 

 黒竜の頭が天井に激突する。

 天井が粉々に砕け、そのまま地下から地上へ飛び出す。

 

 砕けた天井の瓦礫が土砂降りのように降り注ぐ。

 たちまち地下神殿を押し潰し、逃げるギャルソンやロザリオの上にも巨岩が降り注ぎ、二人はそこからなんとか逃れようと駆けまわる。

 おれやローデシャルの頭上にも、もちろん巨岩が落ちてくる。


 あっという間に地下空間は巨大な瓦礫で埋まってしまった。


 地下空間から抜け出した黒竜とグレイは、空中でホバリングをしながら崩れた地下空間を冷たい目で見下ろしていた。そこへシャーリーが浮遊魔法(フロート)を使って寄ってくる。

 「ひどいことするわね。グレイ。」

 真意が見えない笑みを向けるシャーリーに、グレイは警戒心を持つ。

 「潰されずに逃げたか?シャーリー。」

 「危ないところだったわよ。」

 シャーリーはローブに着いた土ぼこりを掃いながら怒ったような顔をする。

 「他のやつは?」

 「さあ、うまく逃げられたか、瓦礫の下敷きか?まっ、私には関係ないことよ。」

 その口調はどこまでも冷めている。

 「仲間だろ。」

 「あなたがそれを言う?」

 皮肉っぽく語りかけるシャーリーに、グレイは苦笑を浮かべた。

 「確かにそうだな。」

 グレイの脳裏に浮かぶのは、自分を受け入れてくれたギャルソンの屈託のない笑顔。しかし、いまとなっては、その恩もグレイの気持ちになんの影響も及ぼさない。

 過去の思い出として心の片隅に仕舞い込むのみだ。


 そんなとき、シャーリーが唐突に語りかけてきた。

 「ねえ、私と手を組まない?」

 「手を組む?」

 「そう、私、とっても役に立つと思うんだけど。」

 シャーリーが人懐っこい笑みを見せてくると、グレイは鼻で笑う。

 「望みは?」

 「そうねえ。」

 シャーリーがしばらく考えたあと、口にしたのは、

 「面白いものを見せてくれること。」

 「なんだ、それは?」

 呆れ顔をしたグレイにシャーリーが続ける。


 「あなた、この竜王を使ってなにをするつもり?ただ見せびらかすだけじゃあないでしょ。」

 「そうだな。この竜王の力を存分に使うつもりだ。」

 「ほら、面白そうな事じゃあない。」

 シャーリーが嬉しそうな笑みを見せる。

 「そうか?」

 グレイはシャーリーの意図が図れていない。


 「で、どこへ行くの?」

 シャーリーの屈託のない問いに、グレイの顔が厳しいものになる。

 「王都さ。」

 「勇者のところ?」

 「まあな。」

 そう答えると、グレイの目ははるか彼方を見据える。

 「やっぱりあなとと私、心の底にあるものはいっしょね。」

 「心の底にあるもの?」

 シャーリーの言葉に、グレイは思わずシャーリーの顔を見つめる。その顔は、本当に楽しそうな笑顔を見せている。


 「乗せて。」

 そう懇願しながらシャーリーは、グレイの承諾を受ける前に黒竜の手に下りる。

 「相変わらずですね。」

 呆れ顔を見せながらグレイは黒竜に王都を目指すように命令する。


 その命を受けて、黒竜は翼を大きく羽ばたく。

 方角を王都に向けて。



 黒竜によって瓦礫に埋もれた地下空間は、動くものはひとつとしてない。

 地下神殿も巨岩によって粉砕されていた。

 黒竜が去り、地下空間に静寂が蘇った頃、瓦礫の一部が動き出した。

 丁度、潰れた神殿の一番端っこの瓦礫だ。


 それが徐々に持ち上がり、その下から土ぼこりまみれのギャルソンの姿が現れた。

 ギャルソンは持ち上げた巨大な岩を放り投げ、服についた土ぼこりを掃いながら周りを見渡した。

 荘厳だった神殿は、いまは影も形もない。

 ただの瓦礫の山だ。

 「ひでえありさまだな。」

 「ふう、死ぬかと思ったぜ。」

 ギャルソンの足元から顔を出したのは、ロザリオだ。

 同じように土ぼこりまみれの顔だ。


 「運よく埋葬所に逃げ込めて助かったぜ。」

 ロザリオが助かった状況を回想する。


 瓦礫の落下を逃れて、地下神殿に逃げ込んだ二人だったが、すぐさま地下神殿も崩壊し始め、二人は万事休すの思いをした。

 そのとき、ギャルソンが神殿の両脇にある部屋のようなものを見つける。

 二人はその一方に急いで駆けこんだ。

 そこはこの地を護ってきたエルフの埋葬所のようであり、壁に穿った複数の横穴に白骨体が一体づつ横たわっていた。二人はそれを引き出し、その横穴に身を隠した。

 巨岩が降り注ぎ、大音響とともに神殿が崩れる。

 土ぼこりが埋葬所の中に吹き込み、一時、呼吸するのも苦しくなった。

 

 しばらく続いた衝撃と大音響が止み、土ぼこりが治まったところで二人は横穴からのそりと這い出した。

 埋葬所はよほど頑丈にできているらしく、なんとか潰れるのを免れたようだ。

 ギャルソンは、入り口をふさいでいる巨岩を、持ち前の怪力で押し上げ、外へと抜け出した。そして、現在の状況に至る。


 「さて、これからどうしたものか?」

 周りはすべて瓦礫の山。洞窟の入り口である大扉も瓦礫で半分埋まっている。

 周りを見渡す限り、絶望的な状況しか見えない。

 巨岩の上に座り込み、二人は途方に暮れた。


 そして、おれだ。

 あの巨大な瓦礫の下敷きになって圧し潰されたとしたら、物語はここで終わってしまう。

 しかし、そんなことはない。


 おれはちゃんと生きていて、真っ暗なところでローデシャルの名を盛んに読んでいるところだ。

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