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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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8 からっぽやみ魔王 竜王殿で竜王?に出会う

 ゴーリーは、ローデシャルが指差した扉に向かって駆け寄った。

 扉は、高さが5mほどあり、全体が花崗岩で作られていて、かなりの重量感がある。その表面にはなにかの紋様が彫ってあり、年代的にもかなり経過しているのが伺えた。

 その紋様をさすりながらゴーリーは扉を丹念に調べ始めた。

 ジリオもその横に立ち、ゴーリーの手伝いをはじめる。


 ギャルソンをはじめとした騎士団はその場に佇み、黙ってその様子を眺め、おれたちは背負っていた背負子を下ろし、地面に座り込んでいた。

 ローデシャルは少し離れたところに移動し、辺りを注意深く観察している。


 「おい、おまえたち。この扉を押してみろ。」

 ジリオがおれたちの方に顔を向け、指図した。

 おれたちはノロノロと立ち上がり、扉の前に移動する。

 

 扉の前に立ったおれたちは、言われた通り扉を押したが、びくともしない。

 「なんともならんぞ。」

 おれが根を上げると、ギャルソンが扉の前に立った。

 「おれがやろう。」

 そう言って、扉をおもいっきり押す。が、結果は同じ。

 その後、何人か加えて試みたがやはり同じで、びくともしない。


 「どうやら封印がなされているようです。」

 ジリオが紋様を改めて眺め、そう推測する。

 「封印か…」

 「おい、エルフ。この扉の封印を解く方法は知らんのか?」

 ジリオがローデシャルを恫喝交じりに問い質す。

 「私は知らん。私が生まれてからこの扉が開いたことはない。」

 きっぱりと否定するその態度に、ジリオの顔が怒りで歪んだ。

 「きさま!うそを言うな!」

 「信じる信じないはそちらの勝手。私は正直に言っているだけだ。」

 ローデシャルは強気に答える。


 その態度に業を煮やしたジリオが、ローデシャルに掴みかかろうとするのをギャルソンが止めた。

 「きさま、なぜ、止める?」

 「無駄なことはするな。ここで揉めても解決にはならん。」

 「ギャルソンの言うとおりだぜ。」

 ロザリオがギャルソンの言葉を擁護する。

 「ジリオ、落ち着け。そいつは嘘はつけんし、ついてもいないだろう。」

 ゴーリーがその場を収めると、改めて扉の紋様を眺めた。


 「シャーリー」

 ゴーリーの呼びかけに、いままで傍らで座ったまま成り行きを眺めていたシャーリーが、立ち上がった。

 「やっと、私の出番ってわけ?」

 シャーリーが扉に近づき、ゴーリーの隣に立った。

 「わかるか?」

 一言尋ねると、シャーリーはいままでにない真面目な顔つきで紋様をじっと見上げた。

 

 「ただの封印じゃあないわね。」

 「と、いうと?」

 「下手に封印を解こうとすると、罠が発動する。」

 「罠?」

 「この扉と同等の質量がのしかかるとか。」

 事も無げに言うシャーリーに、他のメンバーは色を無くした。

 「扉の前にいた者は潰されるという訳か?」

 ゴーリーが答えると、シャーリーが苦笑した。

 「いいえ、ここにいる全員よ。」

 その言葉は、改めて全員に恐怖をもたらした。


 「で、その封印は解けるのか?」

 ゴーリーのその問いかけに、シャーリーは口角を上げた。

 「私を誰だと思っているの。」

 「大丈夫なのか?一緒にペシャンコなんてゴメンだぜ。」

 ロザリオが心配そうに問いかけると、

 「じゃあ、その口を暫くの間、閉じてて。」

 そう言い放つと、シャーリーは扉に両手をついた。


 そのまま何かの呪文を呟く。

 すると両手から光が迸り、それが円形の魔法陣を形作った。

 (ほう、解析をしているのか。)

 おれは感心をしながらシャーリーの行動を黙って見ていた。

 光輝く魔法陣がゆっくりと回転すると、扉の下から明らかに別物と思える魔法陣が出現した。

 「解析魔法(ラーニング)

 扉の下から現れた魔法陣が同じようにゆっくりと回転し、そこに書かれた文字や意匠のようなものが次々と消えていく。

 

 「解呪(ディスペル)

 シャーリーの一言で、魔法陣そのものが雲散霧消した。


 「おお、封印が解けたか。」

 「まだよ。」

 ゴーリーの喜びの声に被せるように、シャーリーが否定する。

 「封印は、あと四つあるわ。」

 その返答にゴーリーは息を飲んだ。


 シャーリーは「解析魔法(ラーニング)」を続けると、新たな魔法陣が扉から出現した。

 さっきとは違う文字や意匠が連なっている。

 最初と同じように魔法陣の中身が回転しながら消えていき、「解呪(ディスペル)」によって魔法陣は雲散霧消していった。


 それが三回続いた。


 「封印は解けたわ。」

 シャーリーのその言葉に、ゴーリーがホッとしたような顔をする。

 他のメンバーも同じような安堵感に包まれた。


 「おい、扉を開けろ。」

 ジリオの命令でおれともうひとりが、扉を思いっきり押した。

 重いが、今度は扉が動く。


 花崗岩の扉が少しづつ押し開かれていく。

 同時に光が差し込んできた。

 

 二人が並んで入れるだけの隙間が開くと、ゴーリーがおれたちに先んじて扉の向こうに入っていった。


 「おお」

 ゴーリーが立ち止まり、感嘆の声を上げる。

 その後に続いたジリオ、ギャルソン、ロザリオも同様の声を上げた。


 おれも目の前の光景に驚きを隠せない。

 横に立ったローデシャルも同じようだ。


 先程の広場を遥かに凌駕する地下空間が広がり、その天井は登ることを拒否するほど高く、天井の頂点からは柔らかな光が全体に注いでいる。

 驚くべき広さの地下空間の中に、巨大な神殿がそびえ建っているのだ。


 「竜王殿だ。」


 ゴーリーが、歓喜のあまり、酔ったような目になる。

 「ここにお宝があるのか?」

 ロザリオも、飢えた人間が食べ物を前にしたような目つきで、神殿を眺め回した。

 他の人間も大なり小なり、似たような反応をしている。

 おれも含めて。


 「さっそく行こうぜ。」

 ロザリオが辛抱たまらず、神殿に向かって駆け出そうとする。

 「まて」

 それをゴーリーが制止する。

 「どうした?ゴーリーの旦那」

 制止されるその声に、多少苛立った顔をして、ロザリオが振り向く。

 「こういうのは、最後の最後で罠が仕掛けられていることが多い。」

 先程のまでの酔ったような目は、もはやゴーリーからは見られない。逆になにかに警戒しているような厳しい目つきに変わっている。

 「何言っているんだい。こんなに静かじゃあねえか?」

 ロザリオが周りを見渡しながらおどけるように両手を上げた。

 「私の経験から言うと、こういうときに限って碌でも無いことが起きる。」

 そんな不吉なことを口にするゴーリーの警戒心は、一同に少なからず伝播したようだ。皆が、厳しい顔つきに変わる。


 そして、その予感が当たった。


 突然、神殿から凍えるような風が吹き付けてくる。


 それに反応して、鮮血騎士団が身構えた。


 すると、いままで閉まっていた神殿の扉が突然、音を立てて開く。

 と、同時に薄灰色の影が猛スピードで飛び出してきた。

 それに反応して、ロザリオが剣を抜こうとしたそのとき、


 銀の光が走った。


 剣を抜いた態勢のまま、ロザリオの上半身が真っ二つになる。


 鮮血が辺りに飛び散り、ゴーリーやジリオの顔にかかった。

 

 「ふせろ!」

 ギャルソンの叫びに反射的にゴーリーが伏せたが、ジリオは恐怖から身体が竦み、行動が一歩遅れた。

 そこへ銀の光が走り、ジリオの首が吹っ飛ぶ。


 地面を転がるジリオの首を無視し、おれは上を見た。

 中空に予想したやつが浮かんでいる。


 灰色のボロ雑巾のようなローブに巨大な鎌、そしてフードの奥から下を睨む青白い双眸。

 まちがいない。


 「悪霊(レイス)だ!」


 おれより先にグレイが叫んだ。

 「神殿の用心棒ってわけか。」

 ギャルソンが悔しそうにつぶやく。


 「扉のところまで逃げろ!」

 ロングソードを正眼に構えた姿勢で、ギャルソンが叫ぶ。

 それに反応して、ゴーリー、ローデシャル、そしておれともうひとりが扉の方へ駆けた。当然、荷物なんて放り投げる。

 

 悪霊(レイス)が巨大な鎌をギャルソンに向かって振るう。

 それをロングソードで受ける。

 すさまじい力がギャルソンにのしかかってくる。


 「身体強化(リインフォース)

 シャーリーの手が淡く光り、ギャルソンの身体に身体強化の付与を与える。

 その隣でグレイが杖を構える。


 「エア・ソー(風刃)」

 

 杖の周りに風が巻き起こり、それが悪霊(レイス)に向かって猛スピードで飛んだ。

 それに気づいた悪霊(レイス)は、大鎌でエア・ソー(風刃)を弾き、一旦、上空に逃れる。


 「ファイアスピア(火の槍)」

 シャーリーの両掌に魔法陣が出現し、そこから火でできた槍が発射された。

 発射されたファイアスピア(火の槍)が悪霊(レイス)に着弾しようとしたとき、悪霊(レイス)が大鎌を振るう。

 巻き起こる風がファイアスピア(火の槍)を掻き消した。


 「くそ」

 悔しがるシャーリーとグレイの元に悪霊(レイス)が大鎌を振り上げて迫った。

 「防御魔法(シールド)

 グレイとシャーリーの前に魔法の壁ができる。

 悪霊(レイス)の大鎌がそれに阻まれ、弾かれる。

 そこへギャルソンのロングソードが猛スピードで胴を薙ぐ。

 しかし、悪霊(レイス)はそれを柳に風とばかりに躱し、上空へ逃れると、今度は扉の前に避難していたおれたちに向かってきた。

 「ひゃあぁぁ〜」

 もう一人の荷物持ちが恐怖のあまり、扉から外へ逃げ出そうとした。


 そのとき、悪霊(レイス)の右手がなにかを閉める仕草をする。

 同時に扉が音を立てて閉まった。


 「なに!」

 ゴーリーの驚きの声と何かが押しつぶされるいやな音が重なった。

 

 音の後に皆が見たもの。


 扉に足が生えている。


 やがて、足は血糊を扉に残して地面に落ちた。


 荷物運びが扉に挟まれ、轢断したのだ。

 それを見たローデシャルの顔が真っ青になり、小さな悲鳴を上げる。

 ゴーリーも目を背けていた。

 おれは宙に浮かぶ悪霊(レイス)の顔を睨みつける。

 あいかわらずの無表情だ。


 「うおおお!」

 そこへ背後からギャルソンが悪霊(レイス)に斬りかかった。しかし、悪霊(レイス)は後ろに目でもあるのか、それを事も無げに躱してみせた。

 「くそ!」

 悔しがるギャルソンに向かって、身を翻した悪霊(レイス)の大鎌が数本に増える。

 「なんだ!?」

 ギャルソンをはじめとして皆の顔に冷や汗が出る。


 その数本の大鎌が一斉にギャルソンやグレイ、シャーリーへと向かって飛んでくる。


 「防御魔法(シールド)

 シャーリーの詠唱とともに魔法の障壁が大鎌を弾き返す。

 「ウォルウィンド・レザー(鋭刃の旋風)」

 グレイの杖からつむじ風が吹き出し、それが残った大鎌を吹き飛ばすと同時に悪霊(レイス)に襲い掛かり、それが鋭利な刃となって悪霊(レイス)を切り刻んだ。


 ボロ雑巾のようなローブが更にボロボロとなり、悪霊(レイス)は地上へと落下していった。

 だれしも倒したと思った矢先、悪霊(レイス)は地上に激突する寸前で身を翻し、持っていた大鎌で地面をこすりながらギャルソンへ向かって翔けた。


 その鎌を受けようとギャルソンが剣を構えたとき、

 「ブラッディ・ウェップ(汚れし血の鞭)」

 赤黒い鞭が悪霊(レイス)の鎌に絡みつき、その動きを止めた。


 「ロザリオ、よくやった。」

 シャーリーが叫ぶと同時に、その足元の影が急速に伸びる。

 そのまま悪霊(レイス)の下まで伸びると、そこから黒い触手が多数伸び始めた。

 「ダークバインド(闇の搦め手)」

 その黒い触手が悪霊(レイス)に絡みついていく。

 悪霊(レイス)も触手を外そうと藻掻くが、黒い触手は次から次へと悪霊(レイス)に絡み、最後には黒い大きな糸巻きのようになった。


 「手こずらせてくれたわね。用心棒さん。」

 シャーリーが黒い糸巻きの前まで歩み寄ると、軽く指を無らした。

 「ブラックフレア(漆黒の獄炎)」

 途端に糸巻きは黒い炎に包まれ、ガラスをひっかくような悲鳴とともに上空に立ち上り、黒い粒となって飛散した。


 「助かったぜ。シャーリー」

 ギャルソンが安堵したような顔をして、シャーリーに礼を言う。

 「さすがですね。シャーリーさん。」

 グレイもシャーリーの魔法を手放しで賞賛する。

 シャーリーの魔法もすごいのだが、おれが注目しているのは、身体を真っ二つにされたはずのロザリオだ。いま、ロザリオは上半身だけで起き上がり、その右手に赤黒いロープを収めているところだ。

 

 「なんだ、あいつ?」

 驚きはまだ続く。


 ロザリオは近くで倒れているジリオの身体から流れ出る血液を吸い寄せると、それを接着剤にするように上半身と下半身を接合させ始めたのだ。

 それを見ていたシャーリーが呆れ顔をする。

 「相変わらずしぶといわね。ロザリオ。」

 「そう言うな。そのおかげで助かったんだろ。」

 ロザリオは軽口を叩きながら下半身を接合し終え、なんともなかったように立ち上がった。


 「吸血鬼(ヴァンパイア)か?」

 おれの呟きが聞こえたのか、ロザリオが鼻で笑う。

 「その末端だがな。」

 自嘲気味に言うその言葉が、この男の性格を表している。


 「ともかく、危機は去ったようだな。さあ、神殿に入るぞ。」

 ゴーリーが普段の態度を取り戻し、皆に号令して神殿に向かい始めた。

 ギャルソンをはじめとする鮮血騎士たち、そしておれとその後に続く。

 ふと、ローデシャルがいないことに気付き、後ろを振り返る。見れば、扉の近くで座ったまま震えているローデシャルがいる。

 「どうした?エルフの嬢ちゃん。」

 おれが手を差し伸べると、それを見て我に帰ったのか、ローデシャルはおれの手を払い、何事もなかったように立ち上がった。

 「触らないでくれる。」

 すげない言葉を残して、皆の後に続くローデシャルの背中を見て、おれは“しょうがない”と言う鼻息を吐く。

 

 一団は、開いた神殿の扉を抜け、中に踏み込んだ。

 神殿の中は薄暗く、石造りの支柱と床、そして壁以外何もない空間だ。

 「殺風景なところだな。」

 「ロザリオさんお目当ての宝物は無さそうですね。」

 ロザリオの軽口にグレイが皮肉っぽく返す。

 「警戒を怠るな。まだ、さっきの奴みたいのが出るかもしれん。」

 ギャルソンが注意すると、ゴーリーが歩いた先で扉を見つけた。


 ひじょうに立派なドアだが、大きさは一般サイズ。竜とエルフと思われる人間のレリーフが刻まれている洒落たドアだ。

 しかも、取っ手がついている。

 ゴーリーはシャーリーを手招きし、そのドアを調べさせた。

 「特に封印とか罠とかはないわね。」

 シャーリーの調査結果を聞いたゴーリーは、慎重に取っ手に手をかけ、ドアを押した。


 すんなり開いたドアの先には、コンサートホール並みの大きさの広場があり、全面石畳が敷かれ、アーケード状の通路が円形に伸び、その中央に目指すものがあった。


 恐ろしく大きな黒い竜が寝ている。


 「竜王だ。」

 ゴーリーが歓喜に叫ぶ。 

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