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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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7 からっぽやみ魔王 竜王殿を目指す

 「テヴェリス、あなたなの?」

 「ああ、大丈夫か?」

 おれから心配の声を聞くと、ローデシャルは肩を落とした。

 「あまり大丈夫じゃあないわ。」

 「ひどい目にでもあったか?」

 「そんなんじゃあないけど…」

 ローデシャルは悔しそうに返事を漏らすと、爪が食い込むほど両手を握りしめた。おれは屋根の上にいて、そんな雰囲気を肌で感じる。


 「おれも明日、おまえたちに同行する。」

 「あなたも同行するの?」

 ローデシャルがハッと顔を上げた。

 「ああ、だから予定通り、やつらを竜王殿まで案内してくれ。」

 「わかっている。でも、よくあいつらの仲間に潜り込めたわね。」

 ローデシャルが素直に疑問をぶつけると、

 「まあ、ちょっと工夫をしてな。」

 と言葉を濁して答えた。

 「工夫?」

 ローデシャルはおれの答えの意味がわからず、首をひねった。

 「いまはゆっくり話はできない。ともかくおれは近くにいるから安心しろ。」

 「安心しろって」

 ローデシャルはおれの物言いに呆れたような顔をした。

 「おれは戻る。あ、あと、おれ顔貌が多少変わっているけど気にするな。」

 「えっ、どういう意味?」

 ローデシャルが急いで尋ねたが、おれからの返事はもうなかった。


 しばらく天井を見つめていたローデシャルは、思い出したように笑みを浮かべる。

 「安心しろって、英雄にでもなったつもり。」

 しかし、その言葉に心が幾分軽くなったローデシャルは、寝台に寝転び、静かに目を閉じた。

 (すべては明日だ。)

 夜は更けていき、先ほどまでの空腹はもう気にならない。


 ローデシャルの馬車から離れたおれは、焚火のところへ戻った。

 「よ、長かったな。」

 一人が相変わらずニヤニヤしながら迎えた。

 「びびって逃げたかと思ったぜ。」

 別のやつがからかう。

 「こんな夜中に逃げ出したって、道に迷って野垂れ死がおちだ。」

 おれが少し憤って答えると、ハゲ頭がまたやってきた。

 「おい、明日は早いんだ。おまえらは見張りはいいから、とっと寝ろ。」

 そう言い捨てていくと、ハゲ頭は別にたむろしている男たちに命令し、見張りに立たせた。


 それを眺めながらおれは支給された毛布にくるまり、地面に横になった。そのとき、隣の男が話しかけてくる。

 「おい、おまえ本当に逃げ出そうと思わなかったのか?」

 「思わねえよ。お宝のチャンスがあるのによ。」

 そう答えると、隣の男は深いため息をついた。

 「おめえのその楽観的なとこがうらやましいぜ。」

 そんな言葉を残して、隣の男も毛布を被って横になった。


 ──キャンプの夜は更けていく。


 固い地面での就寝に苦労しながらようやく眠りついたと思った矢先、おれはだれかの足に蹴飛ばされて目を覚ました。

 「おい、さっさと起きろ。」

 薄目を開けると、ハゲ頭の顔が見える。


 朝から見たくない顔だ。


 そう思いながら起き上がると、隣の男も同様にハゲ頭に蹴られて起こされていた。

 「さっさと出発の準備をしろ。」

 「へいへい」

 気のない返事をしたおれは、のろのろと立ち上がると、毛布を丸めて馬車の中に放り込んだ。

 パン一切れを与えられ、それを齧りながらハゲ頭の指示で、運ぶ荷物をまとめる。

 背負子(しょいこ)にまとめた荷物を括りつけると、相当な重量になる。おれともう一人はそれを苦労して背負い、竜王殿に向かう一団の元へ集まった。

 ゴーリーをはじめとして、ジリオ、鮮血騎士団の四人、そしてローデシャルの総勢9人だ。


 「よし、すぐに出発だ。ブレンディ、キャンプを頼むぞ。」

 ゴーリーがハゲ頭にそう命じると、ハゲ頭は軽く頷いた。


 (このハゲ頭、ブレンディなんて名前なんだ。顔に似合わねえな。)

 そんなことを思いながら、おれは竜王殿に向かう一団のあとについて歩き出した。


 すぐさま、鬱蒼とした森に入り、けもの道と呼ぶにふさわしい細い道をローデシャルを先頭にずんずんと進んでいく。

 腰まである茂みを掻き分け、突如、襲ってくる黒狼を一刀のもとに叩き伏せて、一団は前へと進む。

 森にすむ凶暴な獣も鮮血騎士団の敵ではなく、その圧倒的な強さに獣たちも大人しくなり、一団は順調に森を進むことができた。


 やがて、木々がまばらになり、森が途切れた。


 目の前に草原が広がり、その先には草花もまばらな岩山が続いている。


 「あの先に竜王殿に続く洞窟がある。」

 ローデシャルが指差す。

 「ふむ、間違いないようだな。」

 ゴーリーが地図と見比べて確認する。

 「ゴーリー様、洞窟に着く前に日が暮れてしまいます。どこかで休息をとられては?」

 ジリオがゴーリーのそばに寄り、具申する。


 休憩は大賛成だ。

 ここまでくるだけで、もうヘトヘトだ。


 ゴーリーもジリオの具申に賛成なのか、地図を見て休める場所を検討している。

 「この先に岩に囲まれた平地がある。そこで休息し、洞窟へは明日の朝、臨もう。」

 ゴーリーの指示に全員が肯首し、その場所に向かって歩き出した。


 草原が途切れるあたりに、大きな岩に囲まれたちょっとした広場のような平地があった。

 おれたちはその平地に腰を落ち着けると、キャンプの準備をはじめる。

 平地の中央に燃料を積み重ね、火をつける。

 もうひとりが荷物から干し肉やパン、チーズを取り出し、それを串で刺して、火の前に刺して並べる。


 火にあぶられた肉の焦げる匂いとチーズの溶ける匂いが漂ってくる。


 「お、いい匂いだな。」

 ギャルソンがさっそくやってくる。

 目の前にドカっと座ると、焼ける肉をじっと見つめる。


 「ギャルソン、ゴーリー様が先だろう。」

 後ろでジリオが怒ったような目で睨む。

 「よい、こいつらに礼儀を求めるのは無駄だ。」

 苦笑しながらゴーリーがギャルソンの隣に座る。

 ジリオは軽くため息をつきながらその隣に座る。


 そのあと、ロザリオ、グレイと座るが、シャーリーは屋根のように突き出た岩の下に座り、こちらに混ざろうとしない。

 「おい、シャーリー、こっちに来たらどうなんだ?」

 「そんなむさ苦しい男たちの中で、食事なんてできないわ。」

 ロザリオの誘いに笑みを浮かべながらそう答えるシャーリー。

 「けっ、お高く留まりやがって。」

 「いつものことだ。気にするな。」

 不満げなロザリオにギャルソンがなだめる。


 仲がいいわけではないのだな。


 ゴーリーたちが座ることで、おれたちは必然的に焚き火から弾き出され、やはり岩の下で硬いパンを齧りながらさしてうまくもないスープを啜ることになる。

 ローデシャルは焚き火からもシャーリーからも離れたところで一人黙々と食事をとっていた。


 日も沈み、食事も終わり、焚き火の周りの5人は明日に備えて綿密な打ち合わせをしている。シャーリーはと見ると、地面に何かを書きながら呟くように唄を歌っていた。

 なんの唄なのかおれにはわからんが、乙女チックなことだと思っていると、ジリオがやってきた。

 「おまえたち、交代で見張りをしろ。」

 有無を言わせぬ威圧感でおれたちに命じると、焚き火の方に戻っていった。


 疲れているのに、人使いの荒いやつだぜと心に思いながら、おれは隣の男と目を合わせる。隣の男も不満顔をしながらも仕方がないという諦めのため息を吐いて、近くに生えている雑草を二本むしり取った。

 そして、それをおれの鼻先に突き出す。

 「短いほうが先だ。」

 そう言うと、どちらかを取るように促す。

 おれは何も考えず、一本を取ると、男は残った草をおれのと比べた。


 おれのほうが長い。


 「けっ、ついてないぜ。」

 「ご愁傷さま。」

 おれはニヤついた顔を見せて、持っていた毛布を身体に被せた。

 「3時間後に交代だぞ。」

 「わかった。」

 男は面倒くさそうにしながら、持ってきた槍を片手に岩の上に登っていった。

 それを見送ったおれは、毛布にくるまり、横になる。


 焚き火の方では、ジリオが火を絶やさぬようにと、燃料を少しづつくべていた。

 

 寝ずの番をするのかな。


 ローデシャルのほうに目を向けると、もうすでに毛布にくるまり、横になっていた。他の四人も話し合いが終わったのか、各々、横になったり、岩にもたれたりしている。

 ゴーリーも地面に直に横になっている。勇者パーティーと旅に出ていたというのは本当のことのようだな。


 夜も更け、焚き火が弾ける音以外は、ときおり、草原をわたる風の音しかしない。

 天空は満点の星空だ。


 皆が眠りに沈んでいる。


 幾ばくかの時間が立った頃、おれの頭を小突くやつがいた。

 おれは薄っすらと目を開けると、眼の前に見張りをしていた男が立っていた。

 「時間だ。」

 そうぶっきらぼうに言い放つと、持っていた槍をおれに投げて寄越した。

 おれは軽く伸びをした後、槍を持って立ち上がると、入れ替わるように男が、毛布にくるまり横になった。


 「やれやれ、やるか。」

 

 おれはダラダラとした足取りで、岩の上に這い上がると、周りを見回した。

 闇に沈んでいるが、全く見えないということはない。

 満点の星空があたりにわずかばかりの明かりを落としている。


 おれは槍にもたれるように立ったまま、見張りを始めた。

 おれの目の下には、各々が各々の思いを抱いて眠っている姿が見える。

 そこから遠くに目を移すと、闇に沈むアルルネ山脈の稜線が望めた。


 明日はあそこにある竜王殿を目指す。


 はたしてなにが待っているのか?

 おれの思い通りならラッキーなのだがな。


 そんな思いを抱きながら、おれは見張りを続けた。


 時が過ぎ、東の空に朝日が昇り始めた頃、ジリオが皆を起こしに回った。

 夜明け前に見張りを交代し、横になっていたおれもジリオに叩き起こされ、眠そうな目をこすりながら立ち上がった。

 見張りをしていた男もやってきて、二人して荷物をまとめ始める。


 「よし、すぐに出発だ。」

 ゴーリーが号令をかける。

 昨日と同様にローデシャルを先頭に9人が一団となって竜王殿があるという洞窟を目指す。


 先に進むごとに辺りは岩と砂利ばかりの光景に変わっていく。

 背の低い植物が岩の隙間に生えているくらいだ。

 「なかなかの風景だな。」

 ロザリオがおどけたように感想を述べる。

 「こんなところだと獣も住まないだろうな。」

 ギャルソンも辺りを見廻しながらボソッと呟いた。

 そのとき、ローデシャルが突然立ち止まった。


 「あれだ。」

 ローデシャルの指差すところに、岩肌にぽっかりと開いた大きな穴が見える。

 「そのようだな。」

 ゴーリーが地図を見て確認する。

 「いよいよ竜王殿ですか?」

 「グレイ、ビビってんじゃあないの?」

 シャーリーが後ろでからかうように言うと、グレイが後ろを振り向き、苦笑する。

 「ええ、私は暗いところは苦手なんですよ。」

 グレイはシャーリーのからかいに、あえて反論しない。

 「じゃあ、お姉さんが手を握っててあげようか?」

 「そうしていただけるとうれしいです。」

 「二人ともいい加減にしなさい。もっと緊張感を持ってください。」

 ジリオが二人の方を振り向き、高飛車に注意する。それを聞いて、二人は肩をすくめた。

 

 ローデシャルが渡された松明に火をつけると、洞窟の中へ慎重に入っていく。

 その後にギャルソンとロザリオが同じように松明を掲げて続き、ゴーリーとジリオは魔石で光るカンテラを持ち、その灯りを頼りに4人が続く。

 おれともう一人は、最後尾を一本の松明を頼りに恐々と洞窟に入った。


 皆が皆、緊張しているのが解る。


 緊張していないのは、おれだけだ。


 一団は松明とカンテラの灯りをかざしながら前へと進む。

 人の手が入っていない洞窟は、その幅が広がったり狭まったりし、屈まなければ通れない場所もあった。そのうえ、ところどころで道が分かれる。


 まさしく天然の迷路だ。


 ローデシャルは岩肌を触り、目で確かめながら一団を引き連れ、前に進む。

 ときどき、休憩を入れ、水や携行食を口に入れながら進むが、一向に竜王殿に着く様子がない。

 時間も相当、過ぎているはずだ。

 しかし、前に見えるのは、奥深い闇だけだ。


 「おい、本当に竜王殿に着くんだろうな。」

 しびれを切らしたのか、ジリオが苛ついたように尋ねる。

 それに対してローデシャルはなにも答えない。

 ただ、松明をかざして前に進むだけだ。


 「迷ったんじゃあないだろうな。」

 「ジリオ、少し黙っておれ。」

 ジリオの小言にゴーリーがたしなめる。

 しかし、ジリオが文句を言うのもわかる。なにせ、竜王殿のりの字もみえないのだから。

 

 おれも多少、苛ついていた時、ローデシャルが急に立ち止まった。


 「どうした?」

 ゴーリーが問う。

 

 「静かにしろ。」

 ローデシャルの言葉に皆が口を閉ざす。


 なにもない洞窟の中で、松明の燃える音だけが響く。

 しかし、ローデシャルはなにかを聞き取ろうと、目をつぶり、耳をそばたてた。


 いきなり、ローデシャルが目を開ける。

 「こっちだ。」

 そう言って、ローデシャルの足が前に進む。

 あわてて、他の8人もその後に続く。


 しばらく歩くと、いきなり目の前が開けた。


 長い年月が作り上げた巨大空間。

 松明の灯りもカンテラの灯りもすべてを照らし出せないほど大きい。

 鍾乳石の柱があちこちに立っており、雫が音を立てて滴り落ち、池を作っている。天井からは数え切れないほどの鍾乳石のつららが連なっており、まさしく大自然のパノラマが広がっていた。


 「ほお、すごいな。」

 ギャルソンが感嘆の声をあげる。

 他の皆も呆気にとられたような表情をしている。


 「あそこだ。」

 ローデシャルがある一点を指差す。


 そこへ目を向けると、あきらかに人工的に作られた思われる大きな扉があった。


 「竜王殿の入り口だ。」

 ローデシャルが淡々と説明する。

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