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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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4 からっぽやみ魔王 商会に連れていかれる

 おれはグレイから隠れるように、もう一度、幌の陰に隠れた。

 「そこを動くなよ。」

 グレイの一言がおれの胸に突き刺さる。


 すでに見つかっていたのか。

 

 おれに言い捨てた後、グレイは森の方へゆっくりと歩いて行った。

 その視線の先には、茂みの中に倒れているローデシャルの姿がある。

 「残念でしたね。」

 ローデシャルのそばに歩み寄ったグレイは、その髪を掴もうとした。

 そこへ下から蹴りが跳ぶ。


 グレイの頭が軽く傾き、その足を躱した。

 「往生際が悪いですね。」

 そう言い放つと、グレイの左手がローデシャルの髪を掴み、そのまま持ち上げる。

 「お仕置きです。」


 いきなり鳩尾に拳が入る。


 飛沫が跳び、グレイのローブにかかる。

 「汚いですね。」

 ローデシャルを投げ捨て、かかった飛沫を軽く拭う。

 その間にローデシャルは、這ったままその場を逃げ出そうとしたが、その背中をグレイの右足が踏みつけた。


 「どこへ行くつもりですか?」

 「くっそ!」

 ローデシャルが首を回し、グレイを睨む。その一連をおれは幌の陰から眺めていた。

 (いいかげんあきらめろよ。)

 「いいかげんあきらめなさい。」

 おれの思っていることが、グレイの口から出る。


 グレイは倒れているローデシャルの首に指二本を当てると、「サイレント・ショック(鎮静の痛撃)」と唱えた。

 するとローデシャルの全身がビクンと跳ね上がり、

 「きゃあああぁぁ‼」

 と、叫び声を上げてそのままぐったりとなった。

 「衝撃系の魔法かな?」

 おれが幌の陰からのっそりと出ると、グレイが鋭い眼差しでこちらを見る。

 「動くなと言ったはずですが?」

 「逆らう気はないよ。おれはただ巻き込まれただけだ。」

 と言うおれの言い訳を、猜疑の目で見たグレイは、顔を背けるとローデシャルの脇腹を軽く蹴った。

 「いつまで寝ているんです。さっさと起きなさい。」

 ちょうどそのとき、グレイの仲間が二人、やってきた。


 「グレイ様、逃亡者は?」

 「このとおりです。連れていきなさい。」

 グレイの命令に二人はローデシャルを両脇から掲げると、キャンプ地へと引きづっていった。

 「あなたもさっさと行きなさい。」

 「わかったよ。」

 おれは素直に頷くと、グレイは逃げた馬を追って、再び風に乗って翔けていった。


 それを見送り、おれは二人の後に続いた。


 キャンプ地に着いたおれとローデシャルは、首枷をつけられ、それを更に鎖で結びつけられた。

 そこへ馬にまたがったグレイがやってきた。

 「グレイ、助かる。」

 「よし、準備が出来次第、出発だ。」

 ギャルソンが号令をかけると、馬車に乗り込み、御者が馬にムチをいれた。それに合わせ、馬に必要な荷物を括り付け、それを引っ張りながら後に続く。


 「おれたちは?」

 おれが近くにいる男に声をかけると、男は怖い目で睨み、

 「おまえたちは歩きだ。くそ、おまえたちのお陰でこっちも歩きだ。」

 文句をいいながら男は、おれたちに繋がれた鎖を手で持ち、馬車のあとに続いいて歩き始めた。

 その鎖に引っ張られるように、おれたちも歩き始める。


 休憩を挟みながらも、おれたちは街道を真っすぐ歩き、夕暮れも近くなった頃、ようやくボルマの街を囲む城壁が見えてきた。

 「ようやく着いたか。」

 馬車の窓から城壁を眺めるロザリオは、ホッと一息ついた。

 「今日の昼には着く予定が、だいぶ遅くなったな。」

 ギャルソンが不満げに言うと、

 「このまま支店に行きますか?」

 グレイがギャルソンに視線を送りながら尋ねた。

 「そうだな。まずは支店に連絡を入れてくれ。」

 ギャルソンが指図すると、グレイが懐から四角い棒状の魔道具を取り出した。

 昨日言っていた遠話器(えんわき)である。

 グレイが遠話器の一部を指で触ると、遠話器に青色の淡い光が灯る。それを確認すると、グレイはその遠話器の先端部分に向かって喋り始めた。

 「こちらグレイだ。聞こえるか?」

 『ええ、よく聞こえますよ。』

 グレイの問いかけに対する返答が、遠話器から女性の声で発せられた。

 「もうすぐ城門に着く。」

 知った声とみえて、グレイの口調が気安い。

 『ずいぶん遅かったのですね。』

 「いろいろトラブルがあってな。報告は明日でもいいか?」

 『ゴーリー様が先程からお待ちです。まっすぐ支店に来ていただけますか?』

 「ゴーリー…様が?」

 相手からの申し出に、グレイをはじめとする三人は眉を曇らせた。

 「わかった。これから向かう。」

 そう答えるとグレイは遠話器を切った。


 「やれやれ。休み無しかよ。」

 ロザリオがさっそく不平を口にした。

 「まさかゴーリーの旦那が来ているとは思わなかったぜ。」

 ギャルソンも頭の後ろに手を組み、困ったような表情を見せた。

 「ゴーリーの旦那、よっぽど急いてるようですね。」

 「そうだな。」

 グレイの言葉にロザリオが同意する。

 「ともかく急ごうぜ。」

 そう言うとギャルソンは、御者に支店に向かうように指示した。


 一団は城門前で簡単な身元確認と報告を終えた後、街の中央通りを真っすぐ進んだ。

 陽も山の向こうに沈み、夕闇が広がる街の中には、街灯が灯りだした。

 昼のようにとはいかないが、足元を照らすには十分の光量だ。

 おれはそんなことを思いながら、馬車のあとに続いて歩いていく。

 「一体どこへいくんだ。」

 「おい、黙って歩け。」

 鎖を引っ張ってる男が、こちらを睨みながら叱責した。

 ムカつく野郎の背中を見ながら歩いていくと、眼の前に中央広場のような場所が見えてきた。その真中には大きな石像が立っている。

 暗くてよくわからないが、王様の像かなにかのようだ。

 その像の脇を通るとき、前にいるローデシャルから歯ぎしりのような音が聞こえてきた。


 その中央広場を抜け、しばらく歩いていくと、正面にひときわ大きい建物が見えてくる。

 入口の真上に大きな看板が掲げてあり、そこには【ゴーリー商会】と書かれてあった。

 一団はその建物の前で止まる。

 馬車からギャルソンを先頭にロザリオ、グレイと続けて降りてきた。

 「よし、そいつらを裏口から地下牢に連れて行け。」

 ギャルソンが命令すると、おれたちの鎖を持った男が、鎖を引っ張り、建物の脇にある細い道に連れて行った。

 脇道には街灯はなく、真っ暗な道がまっすぐ続いている。男は慣れているのかその闇の道を躊躇なく進んだ。


 やがて、ランプの灯りがポツンと見えてくる。

 男はその前で止まると、叩く仕草をした。

 裏口とみえて、そのノックに呼応してドアがきしみ音とともに開く。

 四角く漏れた灯りの中に、強面の男が現れた。

 「例のエルフだ。地下牢に連れて行ってくれ。」

 「わかった。」

 男から鎖の端を受け取った強面男は、その鎖を引っ張り、ローデシャルを中にいれる。ついでにおれも一緒に中に入れられた。

 「なんだ、こいつは?」

 強面男が胡乱な目でおれを見た。

 「おまけだ。いっしょに地下牢に入れておけ。」

 「ふん、さっさとこい。」

 強面男は鎖を強引に引っ張り、おれたちを奥へと連れて行った。


 おれが地下牢に連れて行かれているとき、ギャルソンをはじめとする三人は、支店の奥にある支店長室に通されていた。

 中には大きな机と応接セットがあり、その応接セットには、すでに金髪の女性が足を組んで座っていた。

 赤黒いマントを羽織り、その下には太ももあたりまでスリットが入っている鮮やかな赤のドレス姿の女を見て、ギャルソンは含みのある表情を浮かべると、その向かい側にドカッと座った。

 続いてロザリオがギャルソンの隣に座り、グレイは二人の後ろに立つ。

 「グレイ、こちらに座ったらどうだ?」

 「いえ、ここでけっこうです。」

 グレイが即座に答えると、女は薄笑いを浮かべた。

 「取って喰いやしないわよ。」

 「いえ、シャーリーさんは喰いそうです。」

 その真顔な答えにロザリオが噴き出した。

 それを見て、シャーリーと呼ばれた女の唇が怪しく歪む。

 「ロザリオ、何がおかしいのかしら。」

 「いや、別におかしかねえよ。」

 そっぽを向くロザリオと睨むシャーリー。変な空気が流れた。

 「それくらいにしておけ。ゴーリーの旦那が来たぞ。」

 ギャルソンの言葉と同時に支店長室の扉が開いた。


 現れたのは金髪で眉なし、きらびやかな衣服を着た中年の男だ。見るからに成金趣味の商人といった感じだが、その目からは歴戦の戦士のような鋭さが伺える。その後ろには秘書と思える女性が立っていた。

 その男 ゴーリーは、挨拶もなく部屋を横切ると、一番奥にある大きな革製の椅子にドカッと座り、すべての指に指輪をはめた両手を前にある机の上に置く。当然、女秘書も後に続き、その後ろに立った。


 「ご苦労でしたね。」

 挨拶しながらゴーリーは四人を眺め廻す。

 「到着が予定より遅れてすまない。」

 ギャルソンが謝罪の言葉を発する。

 「なにかトラブルでもありましたか?」

 「捕まえたエルフが逃げ出してな。」

 ギャルソンの返答にゴーリーの目が光った。

 「殺したのですか?」

 「まさか。旦那の依頼は生け捕りだ。ちゃんと生かして捕まえたさ。」

 ギャルソンが口角を上げながら答えると、ゴーリーは安心したような顔をした。

 「あなたたちは生かすより殺す方が得意ですから、気が気でなかったですよ。」

 皮肉な笑みをゴーリーが浮かべると、ギャルソンとロザリオが同時に苦笑を浮かべた。

 その会話の間、女秘書は終始無表情、無言で立っている。


 「で、そのエルフはいまは?」

 「地下牢に連れて行った。」

 「そうですか?あとで会いに行きましょう。」

 言葉の後で口角を上げたゴーリーを見て、ギャルソンは、これから先に待っているエルフの運命に同情を感じた。

 「で、報酬の方はいつもらえるんだ?」

 ロザリオが不躾に尋ねた。

 「もちろん払いますよ。仕事が終わったら。」

 「仕事は終わっただろう。」

 ロザリオが怪訝そうに言い返すと、女秘書が初めて口を開いた。

 「あなた方には、まだ護衛の仕事が残っています。」

 冷たい言い方に、ロザリオが思わす引いた。

 「護衛?」

 代わりにギャルソンが尋ねた。

 「そうです。護衛です。ゴーリー様の竜王殿探索のね。」

 「竜王殿探索?」

 ギャルソンとロザリオが顔を合わせ、グレイとシャーリーはすました顔をしている。

 「そんな契約した覚えはないぞ。」

 「私がしておいたわ。」

 シャーリーが横から口を出した。

 「おい、シャーリー、勝手なマネをするな。」

 「あら、報酬が上がるのよ。喜ばれると思ったんだけど。」

 シャーリーが少し煽るような笑顔を見せると、それを見て、二人ははっきりと不快感を見せた。

 グレイだけは、相変わらずの無表情だ。


 「君たちも今回の仕事だけの報酬では満足しないだろう。この護衛の仕事をこなせば3倍の報酬を渡すことを約束します。それに宝物を見つければ取り放題だ。」

 「特別ボーナスってわけよ。」

 シャーリーの欲望に満ちた笑顔はあいかわらずの不愉快だったが、3倍の報酬と宝物取り放題は魅力ある提案だった。

 「わかった。護衛を引き受けよう。」

 「ありがとう。」

 ギャルソンの承諾に、ゴーリーは軽く頭を下げた。

 「で、いつ出立するんだ?」

 「3日後だ。」

 「それは急だな。場所とか案内とか大丈夫なのか?」

 ギャルソンが疑問を呈すると、ゴーリーは女秘書に顎で指図する。

 「場所はすでに把握してあります。案内役は捕えたエルフを利用します。」

 「大人しく案内するかね。」

 ロザリオが疑い深く質すと、女秘書が薄く笑った。

 「それは大丈夫です。手はありますので。」

 最後の言葉には悪意がたっぷり含まれていた。

 「今日はゆっくり休んでくれ。準備はこちらでしておく。」

 「わかった。じゃあ、おれたちは宿屋に戻る。」

 そう言って、ギャルソンが立ち上がると、その後にロザリオ、グレイと続いた。シャーリーはまだソファに座ったままだ。


 三人が出ていき、部屋はシャーリーとゴーリーそして女秘書の三人だけとなった。その中ではじめに口を開いたのはシャーリーだ。

 「大丈夫かしら?ゴーリーの旦那。」

 「すでに場所は把握している。あとは捕らえたエルフを使って案内させるだけだ。」

 「それはいいとしても、彼らには内緒なんでしょ。バレたら怖いわよ。」

 「そのためにおまえも呼んだんだ。おまえの得意な魔法がな。」

 ゴーリーは自慢げな顔で椅子にふんぞり返った。

 「特別報酬は忘れないでよ。」

 「無論だ。」

 そう言って、ゴーリーは立ち上がる。

 「どこへ行くの?」

 「地下牢さ。挨拶がてら案内を承諾させないとな。」

 口端を釣り上げると、ゴーリーは女秘書を従えて、部屋から出ていった。シャーリーも含み笑いを称えたまま立ち上がり、そのあとに続いて部屋を出た。


 おれたちは、薄暗い地下牢に放り込まれ、しばらくの時が流れた。

 灯りは廊下にあるランプだけ。

 天井も壁も、床さえも石造りで、明り取りの窓さえない。

 ベッドはなく、悪臭のする毛布が2枚あるだけだ。

 想像はしていたが、劣悪な環境だ。


 「おい、大丈夫か?」

 おれは床に倒れたままのローデシャルのそばへにじり寄り、声をかけると、軽いうめき声のあと、ローデシャルは上半身を起こした。

 「大丈夫だ。いまのところはな。」

 「ひでえところに放り込みやがったな。」

 おれは牢の中をぐるりと見回し、愚痴をこぼすと、ローデシャルの口からため息が漏れた。

 「おまえ、呑気なことを言っているが、これからどうなるかわかっているのか?」

 「さあ」

 「さあって。おまえが私と無関係だと知れたらすぐに殺されるんだぞ。」

 「まさか?無関係の者を殺す道理がないだろ。」

 「道理じゃない。面倒だから消されるんだ。」

 「うそ!?」

 おれが驚いたような声を上げると、牢の外から濁声が飛んできた。

 「うるせえ!静かにしろ!」

 その怒声に口を閉じると、おれは自分の不運を嘆いた。


 (やれやれ、ここに来て早々、面倒な事に巻き込まれるとは。)

 ローデシャルはおれを放っておいて、なにやら独り言を言い始め、おれはおれでここから脱出する手段を考えた。

 

 そこへ足跡が響いてくる。

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