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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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3 からっぽやみ魔王 異世界人に囚われる。

 おれとエルフの女は、ダークエルフらしき男に、仲間が待つ馬車のところまで連れていかれた。

 見れば馬車の近くには、赤黒い全身鎧(フルプレート)を着た髭もじゃらの男と、やはり赤黒い軽装鎧を着た顎髭の男が待っている。そのそばには同じような色の衣服を着用した男たちがおり、そして馬車の周りにはエルフと思われる死体があちこちに転がっていた。


 「おお、グレイ。捕まえてきたか?うん?なんだ、そいつは…」

 全身鎧(フルプレート)の髭もじゃ男がおれを指差して尋ねた。

 「どうやらこいつらの仲間のようだ。」

 と、グレイと呼ばれた男が言うと、

 「待ってくれ。おれはこいつとは無関係だ。」

 おれは必死に仲間でないと反論した。

 「じゃあ、何者だっていうんだ?」

 「ただの旅人だ。」

 「旅人?」

 あきらかに三人とも信じていない表情を見せる。


 「本当だ。街に仕事を探しに田舎から出てきたんだ。」

 とにかくこの場を切り抜けようと、おれは必死に弁じた。

 「田舎ってどこだよ?」

 「…えと、ずっと山向こうの名もない村だ…」

 「嘘を吐くにしても、もう少しましな嘘を言えよ。」

 顎髭の男が呆れたような顔をして、おれの言葉を全否定した。

 「嘘じゃあない。」

 「じゃあ、どこの街に行くつもりなんだ?」

 その問いにおれが詰まると、

 「どうした?答えられないのか?」

 顎髭男の顔がにやつく。


 「ボ・ボルマ…ボルマの街だ。」

 おれは咄嗟に、さっき見た地図に載っていた街の名前を口にした。

 「ボルマか…」

 髭もじゃの騎士と顎髭男が顔を見合わせた。

 「ちょうどいい。おれたちもそこへ行くところだ。一緒に行こうぜ。」

 顎髭男ことロザリオが嬉しそうに笑うと、髭もじゃの騎士ことギャルソンが部下と思われる者たちに出立の指図をする。ダークエルフのグレイは、エルフの女とおれを荷馬車に乘るように後ろから杖で突っついた。

 

 結局、捕まったままか。


 おれとエルフの女が荷馬車に乗せられると、ほどなく2台の馬車は走り始めた。


 おれたちは手枷をかけられ、二人の男がおれたちの前でじっと見張っている。

 無言のまま荷台で揺られ続けるその場の空気に、我慢できなくなったおれは、口を開いた。

 「あの、君、なんていう名前なの?」

 と、尋ねたがエルフの女は、口を固く閉ざしたまま喋ろうとしない。

 「おい、黙ってろ。」

 と、かわりに前の男に叱られた。


 「ねえ、ボルマの街まで行くんだろう。どれくらいかかるんだい。」

 今度は前の男に尋ねた。

 「黙ってろっていうのがわからねえのか!」

 と、拳が飛んで来た。

 

 頬がヒリヒリする。 

 腹の立つ奴だ。

 

 「おまえこそ黙ってろ。フリーズ(動作停止)」

 途端に前に座る二人の男の動きが止まった。


 いいきみだ。


 それを見て、隣のエルフの女が訝しがる。

 「なにをした?」

 「なあに、ちょっと黙ってもらっただけさ。それより改めて聞くけど、君の名前は?」

 また、黙り込んだ。


 信用がないな。


 「おれはテヴェリスというんだ。」

 名乗ってもだんまり。

 「なあ、少なくともおれが君に敵対しているとは思わないだろ。」

 おれが諭すように語りかけると、エルフの女はゆっくりと顔をこちらに向けた。

 「…ローデシャル…」


 やっと答えてくれた。


 「そうか、ローデシャルっていうのか。」

 「おまえ、本当に旅人なのか?」

 おれの正体を探るような目で睨みながらローデシャルは、逆に尋ねてきた。

 「本当だよ。けっこう遠いところから来たから、この辺のことはよくわからないんだ。」

 ま、おおむね本当のことだ。

 「そのようだな。あいつらのことを知らないところを見ると。」

 どうやらおれが敵ではないことはわかってもらえたようだ。まだ、警戒はしているけど。


 「あいつらは何者なんだ。」

 「鮮血騎士団(ブラッディナイツ)。」

 「鮮血騎士団(ブラッディナイツ)?」

 「ああ、ゴーリーの奴が雇っている傭兵さ。」

 「そのゴーリーって何者なんだい。」

 その問いに、ローデシャルは目を見開いた。

 「おまえ、本当に何も知らないんだな。」

 「えへへ」

 おれはごまかしの笑いを浮かべて、頭を掻いた。


 「まったくどんなド田舎から来たんだ。ゴーリーは勇者パーティのひとりだった男だ。」

 「勇者パーティ?」

 「まさか、勇者も知らないと言うんじゃあないだろうな。」

 ローデシャルの目が疑いで彩りはじめた。

 「まさか、勇者くらい知っているよ。」

 「だろうな。まあ、勇者が有名すぎて、それ以外は知らないと言うのはわかる話だ。ましてやゴーリーならな。」

 「そのゴーリーもパーティの一員なんだろ。」

 「そうだが、ゴーリーは商人なんだ。」

 「商人?」

 その職業を聞いて、おれは勇者とゴーリーの関係性に違和感を持った。


 「ゴーリーは戦闘こそあまり参加しなかったが、こと商才にかけては天才的でな。勇者パーティの資金面、交渉事、アイテム関連に多大な貢献をしたんだ。特にアイテム取得には奇跡的な力を発揮したな。」

 「アイテム取得?」

 「ああ、あいつといっしょにダンジョンとか探索すると、高い確率で希少アイテムが手に入るんだ。」

 いまいましそうな顔でローデシャルが語るのを聞いて、おれはそのゴーリーに興味を持った。なんかアイテムコレクターとしていろんな物を持ってそうな気がするのだ。


 「おまえ、のんびり構えているが、これからどうなるかわかっているのか?」

 「どうなるって?」

 おれが危機意識ゼロの表情を見せると、ローデシャルはやれやれといった顔で、頭を振った。

 「わたしたちはこれからボルマの街に行く。」

 「ああ、そのようだな。」

 「ボルマにはゴーリー商会の支店があるんだ。」

 「それが?」

 おれは無理解という子供のような顔をすると、ローデシャルはまたやれやれといった顔で、大きくため息をついた。

 「わたしといっしょということは、支店で尋問を受けると言うことだ。」


 「尋問?」


 「という名の拷問だ。」


 「拷問!?」


 おれは息を飲んだ。

 ローデシャルはやっと理解できたかという顔をする。


 「なぜ、おれが拷問に?」

 「私の仲間と思われたからな。ま、不運と思ってあきらめろ。」

 ローデシャルはそれ以上は口を開こうとせず、そのまま目をつぶった。

 おれは、【拷問】という言葉に心が乱れ、落ち着きなく貧乏ゆすりを始める。

 眼の前の男たちにかけたフリーズ(動作停止)を解き、ローデシャルと同様に口を閉じたまま、貧乏ゆすりを続けた。


 「おい、静かにしてろ!」

 前の男がおれの足を蹴って、貧乏ゆすりを止めようとする。

 「どうやら自分の先行きのことが不安になったようだよ。」

 足を蹴った男の隣りに座る男が、意地悪そうな笑いを口元に浮かべながら蹴った男にささやきかける。それを聞いた男も同じような笑いを浮かべた。


 不安しかない道行きが始まったようだ。


 長い時間走り続けた馬車がいきなり止まった。

 俺達を見張っていた男が幌を上げて、外を見る。

 外はすでに夕暮れ時だ。

 

 だれかが馬車に近づき、そいつとしばらく話したあと、こちらを向く。

 「今日はここで野宿だ。」

 見張りの男はそう告げると、荷馬車を降り、おれたちに荷馬車から降りるように指示する。

 それに従って素直に荷馬車を降りると、外ではすでに野宿のための準備が始まっていた。


 おれたちは降りるとすぐに足を馬車と鎖で繋がれ、馬車の足元に座らされ、すぐそばに男がひとり見張りに立った。

 その向こうでは、テントが立てられ、その中央で火が起こされ、食事の準備が進められている。

 「食事ぐらいでるのかな?」

 おれが見張りに尋ねると、見張りはジロッと睨むだけで答えなかった。


 ローデシャルは相変わらず無言だ。


 そんなローデシャルから目を離して、テントの方を見ると、例のダークエルフの男がテントに入るところだった。


 テントに入ったグレイは、狭い中で簡易な椅子に座っているギャルソンとロザリオに目を向けた。ギャルソンは相変わらずの全身鎧(フルプレート)姿だ。

 「おお、グレイ、どうだった?」

 「いやだめですね。ここではまだ遠いようです。」

 グレイがロザリオの問いに、手に持った長方形の箱を見せながら答えた。

 「そうか。遠話器は便利なんだが通話距離が短いのが難点だな。」

 「今後のことは街に着いて、ゴーリーの旦那に、直接聞くしかねえか。」

 「めんどうくせえな。」

 ロザリオが、頭の後ろに両手を持っていきながら、小さな背もたれに背中を預けた。

 

 三人の間にしばしの沈黙が流れる。


 「罠をかけてまであいつらを捕まえたのには、なんか訳があるのか?」

 ギャルソンが誰に向かってでもなく、尋ねる。

 「どうやら、どこかの場所を探しているとか。」

 「その場所をあいつらが知っているということか?」

 「そういうことらしいです。」

 グレイがギャルソンの疑問に確信あり気に答える。


 「その場所って、お宝でもあるのか?」

 「そうかもですね。ゴーリーの旦那は希少アイテム探しの天才ですから。」

 グレイの推論にロザリオの目がきらりと光る。

 「あいつらに聞いてみるか?」

 「聞いてみるって?」

 「ちょっと痛い目に合わせれば、簡単に口を割るだろう。」

 ロザリオが舌なめずりをするのを見て、ギャルソンはあきれたような顔をする。


 「やめといたほうがいいですよ。ゴーリーの旦那、尋問が好きですから、それを他人に取られたら怒り心頭で、金を払わないなんて言い出しかねませんよ。」

 「そいつはこまるな。」

 グレイの注意にロザリオは舌を出した。ギャルソンは無言のまま。

 そこへ部下のひとりが外から声をかけた。


 「ギャルソン様、ロザリオ様、グレイ様、お食事の用意ができました。」


 「まずは腹ごしらえだ。」

 そう言ってギャルソンがまず立ち上がる。

 「やれやれ、まずい非常食の晩餐か。」

 「ロザリオさんは、贅沢だから。」

 いやいや立ち上がるロザリオのあとに、グレイが続いた。


 食事が始まり、例の騎士団連中は焚き火を囲んで黙々と食べている。

 食事を終えたと思われる一人が、おれたちに近づき、見張りに立っていた男と交代した。そのさい、おれたちにパンのようなものを放り投げる。

 

 「食事だ。」

 カチカチの石のようなパンだ。

 「なんだい、これは?」

 おれが不満げに言うと、手にした槍がおれの腹に入った。

 

 「ぐふっ」

 

 衝撃で手にしたパンが転がり落ちる。


 「黙って食え。」

 痛みに腹を抑えている頭の上から命じられる。それを横目にローデシャルは黙ってパンに噛り付いた。

 おれは落ちたパンを拾い上げ、同じように噛り付いた。


 (プリムラの夕食が恋しい)


 泣けてくるような気持ちを胸に、カチカチのパンを歯で砕いて、なんとか飲み込む。

 

 味も素っ気もない夕食を無事に終え、見張りを除いて、皆が眠りにつく。

 おれも堅い地面に身を縮めながら、なんとか寝ようとするが、身体が痛くて眠れそうにない。


 (ああ、柔らかいベットが恋しい)


 1日しか経ってないのに、もうホームシックだ。

 隣では、ローデシャルが慣れているのか、ぐっすりと眠っているようだ。


 (うらやましい)


 そう思いながら寝返りをうつ。


 ようやくウトウトしかけたところに、突然、怒鳴り声と蹴りが、耳と背中に入った。

 「さっさと起きろ!出立するぞ。」

 寝ぼけまなこで周りを見ると、テントがしまわれ、皆が出立の準備で大わらわの真っ最中だ。

 「ほら、荷馬車に乘るんだ。」

 見張りがおれたちの足の鎖を外し、槍で突っつきながら荷馬車に押し込もうとする。


 (突っつかなくても乗るよ。)

 

 ムカつきながら荷馬車に上がると、すでにローデシャルは乗り込んでいた。

 おれが乗り込み、座った後で、例の見張りの男も乗り込んできた。


 おれの腹を槍で打ったやつだ。


 意地悪心が頭をもたげる。


 「スライド(摩擦軽減)」


 おれが呟くと、乗り込んできた男の足が突然滑った。

 身体のバランスを崩し、後ろに倒れ込み、そのまま荷馬車から落ちていった。

 「どうした?」

 御者台に座る男が、後ろを振り向く。

 そのとき、ローデシャルが何かを吹いた。


 それが高速で男の目に当たる。


 「つっ!」

 男が目を抑えた瞬間、ローデシャルが飛びかかり、手枷の鎖で男の首を絞めた。

 「ぐえ!」

 あっという間に男が動かなくなると、ローデシャルは手綱を掴み、馬に鞭を入れた。

 

 荷馬車が急発進する。


 突然、荷馬車が走り出し、騎士たちは慌てた。

 「追え!逃がすな!」

 ギャルソンが叫ぶと、グレイが風属性の魔法を使い、身体を風に乗せて翔けると、その後を追った。


 おれは突然の出来事に戸惑い、慌てた。

 「おい、どうするつもりだ?」

 「このまま逃げる!」

 「逃げ切れるのか?」

 「わからん!おまえも覚悟を決めろ!」

 ローデシャルはヒステリックに叫ぶ。

 その勢いに気圧され、黙り込むが、内心何の関係もないおれが、なぜ逃げなきゃならないんだという思いがある。

 

 馬車は街道を猛スピードで疾走する。


 道が悪いから所々でバウンドし、おれの身体は上下に跳ねる。

 「もそっと丁寧に走れんのか!?」

 「うるさい。喋ると舌を噛むぞ。」

 そう言い返され、おれは再び口をつぐんだ。

 そのとき、風の音ともに何かが跳んでくるのが見えた。

 「鳥か?」

 そう思った瞬間、馬車の前方が弾けた。


 土ぼこりと砂利が馬車に当たる。

 馬が嘶き、前足を上げ、馬車に制動がかかる。


 そこへ黒い影(グレイ)が幌の上に乘り、その手からエア・ソー(風刃)を放った。

 エア・ソー(風刃)は馬車の手綱と(ながえ)を切り、馬は馬車から離れ、その拍子に馬車がバランスを崩して横倒しになる。

 おれは荷台の中でピンボールのようにあちこちにぶつかり、ローデシャルは御者台から放り出され、地面に全身を打ちつけ、転がっていった。

 

 「おお、いてて」

 全身に痺れと痛みを感じながら、おれは荷台からなんとか這い出した。

 その目の先にはグレイの碧の目が光っていた。

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