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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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2 からっぽやみ魔王 異世界人に遭遇する

 メリーとのやり取りを終えたあと、とりあえずおれは、この森から出ることにした。

 ともかくこのままここにいても、何もわからないし、何も変わらないし、ましてや食料の確保も難しいだろう。


 おれにサバイバルは無理だ。


 おれは立ち上がると、再び操作盤(コンソール)を立ち上げ、自分の周囲の地図を表示させた。

 森しか見えない。

 範囲を広げると、やっと街道らしきものが見えてくる。

 ここから西に5キロほどか。

 「歩くしか手がないな。」


 そうして歩くこと1時間ほど。

 道らしい道もなく、ともかく茂みを掻き分け、掻き分け、前に進んだ末、ようやく街道らしき道に出会う。凶暴な獣や虫に出会わなかったのは、ラッキーだったかもしれない。


 「さて、どっちにいけば街だ?」

 おれは再び操作盤(コンソール)を立ち上げ、街を探した。

 「まいったな。近くにないぞ。」

 周囲10キロ圏内には街らしき表示がない。

 街道は南北に伸びている。

 「さて、どちらに行ったものか?」

 左右に伸びる街道を見ながらおれは思案した。

 「しかたがない。高いところに登って見極めるか。」


 おれは道の脇に乱立する森の木を見上げ、そこそこ高い木を見つけると、そのそばに歩み寄った。

 「カット(時空抜出)」

 おれの周りの空間が一瞬で固まる。

 「ペースト(時空定着)」

 おれの身体が一瞬で消え、次の瞬間には木の天辺に出現した。


 そのまま木の先端に捕まり、落ちないように身体を支えると、手をかざして、遠方を眺めた。

 「やっぱり街の影も形も見えないな。うん?」

 そのとき、おれの目に街道をゆっくりと走る馬車の姿が映った。

 「いいタイミングで馬車か。なんかの小説のようだな。」

 おれは再度、カット(時空抜出)とペースト(時空定着)を唱え、地面に戻った。


 おれの見た馬車は、街道を北から南に向かい、ゆっくりと移動している。

 頑健そうな馬車で、扉にはどこかの紋章がデカデカと描かれている。その後ろからは、幌を被せただけの粗末な荷馬車がついて来る。

 二台はのんびりと街道を進んでいた。


 おれは、その馬車を追いかけるため、スライド(摩擦軽減)を使って滑るように地面を駆けた。


 おれが追いかける馬車は、両脇を森に囲まれた区域に差し掛かっていた。

 街道は整備されているが、森の方は鬱蒼として薄暗く、少し中に入るだけで、木々に阻まれ、視界が通らない。

 危険性が高い区域にみえる。

 その中を馬車は、警戒心もなく、相変わらずゆっくりと進んでいく。

 

 突然、何か大きな物音が街道の中に響いた。


 何事かと、馬車の御者が辺りを見廻す。

 いきなり、後ろの荷馬車の目の前に、大木が数本、倒れてきた。

 荷馬車の御者は急いで手綱を引き、馬を止めようとする。

 馬の嘶きとともに、荷馬車は辛うじて倒木の前で止まった。


 前の馬車もその異変に気づき停止する。


 「なんだ!?」

 荷馬車の御者が目の前の状況を把握しようとした時、どこからともなく矢が飛来し、御者の胸を刺し貫いた。


 「ぐっ」

 短い悲鳴とともに御者はその場に突っ伏す。


 「襲撃か!?」

 前の馬車の御者が腰の剣に手をかけたとき、別の矢がその御者に向かって飛んで来た。


 「くそっ!」

 なんとかそれを剣で弾き返す間に、両脇の森から五人の人間が現れた。

 全員が灰色のフードを被っている。


 前の馬車に向かって駆ける五人のフードの者が、抜剣した。

 二人ほどが御者台に上がろうと、ステップに足をかける。

 そうはさせじと、御者が剣を振るった。


 その場で剣戟が始まる。


 その間に別の襲撃者が、馬車の扉に手をかけ、それを乱暴に開ける。

 しかし、その襲撃者はそれ以上馬車の中に入ろうとはせず、その場に立ち尽くした。


 同じ頃、後ろの荷馬車にも四人の同じ格好の者が駆け寄っていた。

 一人が倒れている御者を引き摺り下ろすと、手綱を取り、別の者は幌をめくり、中に潜り込んだ。

 他の二人は外で待機する。

 荷台には四人の、ボロ布を頭から被った者たちが座っていた。

 「助けにきたぞ。」

 荷台に上がった者がフードを外すと、その下からは耳が特徴的にとがっている(エルフ)の顔が現れた。

 「いまはずしてやる。」

 エルフの男は目の前に座っている者の手枷を外そうと、それに手をかけた。すると、手枷が独りでに外れ、助けに来たエルフに向かって隠し持っていたナイフを突き立てた。

 不意を突かれたエルフの男は、躱すこともできず、胸に深々とナイフを突き刺され、絶命した。


 その間に別の者が手枷を外し、手綱を握っていた者を後ろから羽交い絞めにする。

 「何をする!」

 手綱を握っていた者のフードの下からも、同じエルフ族の男の顔が現れた。

 驚くエルフの男の喉がすばやく切り裂かれる。

 「外にいるやつを排除しろ。ただし、一人は生かして捕えろ。」

 最初にエルフの男を刺し殺した男が、他の三人に命じる。

 その言葉に三人が頷くと、すばやく外へ飛び出した。


 前の馬車では、扉を乱暴に開けた襲撃者が、扉の前で立ち尽くしたままでいる。その後ろにいた仲間は、その様子に戸惑い、お互いの顔を見合っている。


 やがて、扉の前の男が仰向けに倒れた。


 「やれやれ、エルフはドアをあける作法も知らないようだな。」

 野太い声とともに現れたのは、赤黒い全身鎧(フルプレート)を着込んだ赤髪の男だった。

 「お・おまえは…?」

 「鮮血騎士団(ブラッディナイツ)!」

 「おお、知っているのか?」

 全身鎧(フルプレート)の騎士は、半分を髭で覆われた顔に喜色を浮かべて、馬車から降りてきた。

 右手に握られたロングソードからは鮮血が滴り落ちている。

 「さて、無礼な襲撃者にはお仕置きをしないとな。」

 鮮血騎士と呼ばれた男が一歩前に進むと、襲撃者たちは恐怖に駆られ、後退りする。


 「矢だ!矢を射かけろ!」

 一人が叫ぶと、後方にいた弓兵が短弓を引き絞り、矢を射かけようとした。

 そのとき、馬車の中から一筋の閃光がほとばしり、それが弓兵を貫いた。

 驚きの表情を残して、弓兵は仰向けに倒れる。

 「ふっ、余計な事を」

 髭の騎士が鼻で笑うと、馬車の中から別の男が降りてきた。

 「援護したのに、その言い草はないでしょうに。」

 騎士と同じ赤黒い色のローブを羽織ったその男は、杖を片手に髭の騎士の後ろに立った。


 フードのせいで顔は良く見えない。


 「後ろの二人は任せるぞ。」

 「はいはい」

 そう言い残して、髭の騎士は前で固まっている襲撃者たちに向かって駆け出した。


 全身鎧(フルプレート)にしては、駆ける速度(あし)が速い。

 あっという間に、襲撃者の真ん中に割り込む。

 同時にロングソードが走った。


 一人が胴から真っ二つになる。

 返す刀で、後ろにいる襲撃者の頭が真ん中から真っ二つにされた。


 すさまじい切れ味のロングソードだ。


 残った一人が恐怖で立ちすくむ。

 その目に残忍な笑みを浮かべる髭の騎士が映った思った瞬間、その目に映る光景が青空に変わった。

 

 首を跳ね飛ばされた襲撃者は、首が地面に落ちると同時にその身体も地面に倒れた。

 その様子を当たり前のように見定めた髭の騎士は、馬車の方に目を移す。

 見れば御者を襲っていた襲撃者は、ローブの男が放ったエア・ソー(風刃)によって切り刻まれており、残りの襲撃者は御者によって、その胸を剣で貫かれていた。

 

 「片付いたな。」

 髭の騎士が馬車に歩み寄りながらロングソードを鞘に収める。

 「後ろの連中はうまくやったかな?」

 「確か後ろにいるのはロザリオだったな。」

 「ああ、そうですよ。」

 そこへ荷馬車に乗っていた男がやってきた。

 ボロ布を外したその顔は、顎髭をはやした頬のこけた顔の男であった。


 「ギャルソン、そっちは片付いたのか?」

 「ああ、ロザリオ。」

 「ロザリオさん、一人はちゃんと生かして捕らえたんでしょうね。」

 「大丈夫だ。ほら」

 肩越しに親指を刺した先には、後ろ手に縛られた襲撃者(エルフ)が別な男に引き立てられて歩いてくるところだった。

 引き立てられてきたエルフを見て、二人は満足そうな顔をした。

 「よし馬車に乗せろ。街まで連れて行く。」

 「貴族様の馬車に乗せてやる。ありがたく思え。」


 ロザリオが捕らえたエルフを馬車に乗せようとしたとき、その背に矢がいきなり突き立った。

 「うぐっ」

 「まだ、仲間がいたか?」

 「グレイ」

 ギャルソンが呼んだときには、片側にいたローブの男は消えていた。

 「仲間を殺すとは…」

 倒れているエルフを見下ろしながらギャルソンがボソッと呟くと、

 「連れて行かれれば死ぬよりつらい拷問が待っているんだ。この場で殺すのは情というものだろうよ。」

 ロザリオが嘲笑混じりに呟いた。


 深い森の中を駆けるエルフの女がいた。

 先ほど仲間のエルフを自分の矢で射殺(いころ)したエルフだ。

 「すまん、エンミオット。」

 心の中でエルフ ローデシャルは詫びた。

 捕えられた者の行く末がどんなものか、ローデシャルは嫌っというほど知っていた。

 いままで、幾人のエルフの仲間が恐ろしい拷問の末、命を散らしていったか。

 それゆえに捕まった仲間がどんな目に合うか、わかり過ぎるほどわかるローデシャルが取れる手段は、あれしかなかった。


 自分の力では助け出せない。


 己の無力さと仲間への情けとの狭間で、ローデシャルは悔恨と慚愧に心が引きちぎれそうになっていた。

 そんな気持ちを押し殺して、ローデシャルは生きて仲間の元へ帰ることだけを考える。


 森の中を足が取られることなく、ローデシャルは駆け続けた。

 エルフであるローデシャルに森は自分の庭も同然である。その自分を追いかけられる者などいないと思っていた。

 しかし、ローデシャルの五感に触れるものがある。


 (だれかが追ってくる。)

 ローデシャルは近くの木に飛び乗り、息を殺して辺りを伺った。

 

 森は静寂に包まれている。

 鳥の声も虫の鳴き声もしない。


 だからおかしい。


 (なにかがいる。)

 と、思ったとき、予想外の方向から何かが飛んできた。

 咄嗟に木を飛び降り、それを躱す。

 そして、着地と同時に茂みの中に隠れる。


 乗っていた木は、切断され、大きな音を立てて倒れた。


 そのあとに静寂が訪れる。

 

 沈黙が続く中、いきなりエア・ソー(風刃)が飛んでくる。

 思わず茂みから飛び出し、別の木に飛び移ろうとする。

 そこにもエア・ソー(風刃)が飛んできた。


 ローデシャルの腕をエア・ソー(風刃)が掠める。

 服が破れ、その下から血が飛び散った。

 激痛にバランスを崩し、地面に落ちる。

 「まずい」

 急いで立ち上がると、その場から逃れようと駆けた。


 しかし、駆けた先が運悪く街道だった。

 

 「うごくな!」

 森の中から制止の声が届く。


 その声と殺気に街道に出たローデシャルは、思わず短剣を抜き、自分の喉を刺そうとした。

 「エア・レストレイト(風の束縛)」

 途端にローデシャルの身体が固まり、動けなくなる。

 「死んでもらっては困りますからね。」

 声とともに森の中から赤黒いローブの男が現れた。


 「くそ!殺せ!」

 「そういう訳にはいかないのです。あなたには【竜王殿】の場所を教えてもらわなければなりませんから。」

 そう言ってフードを取ったその顔は、特徴的な尖った耳と浅黒い肌の翠の目を持つ(ダークエルフ)であった。


 「おまえは!?」

 と、そこへ土煙を上げながら駆けてくる物体があった。


 もちろん、おれだ。


 おれの目の前に、道路上に立っている二人の人物がいる。 

 「まずい!解除!」

 途端に摩擦力が両足に蘇り、急ブレーキをかけるが、”車は急に止まれない“の標語どおり、摩擦係数を失くし、地面を猛スピードで滑って駆けてきたおれの動きはすぐには止まらず、片方の(グレイ)に向かって突進し、激突してしまった。


 いきなり現れた男が猛スピードで迫ってきたため、理解が及ばず、グレイは回避行動が一歩遅れ、激突のうえ遠くへ跳ね飛ばされた。おかげで、おれのほうは無事停止することができた。


 一瞬の沈黙のあと、おれは倒れているグレイに声をかける。

 「あの、大丈夫ですか?」

 倒れていたグレイはゆっくりと起き上がり、何が起こったのか理解できない風の顔つきでおれを見ている。

 隣にいたローデシャルも呆然としていたが、いまの出来事で自分の束縛が解けていることに気づき、その場から逃げ出した。


 「えっ?なに」

 おれもつられて、その場から逃げ出そうとした。

 「逃がすか!」

 グレイの右手が伸びる。

 「エア・レストレイト(風の束縛)」

 グレイの右手から風が吹き出し、おれと逃げようとしたローデシャルの身体に絡みついた。

 途端に身体の自由が効かなくなり、ローデシャルとおれは無様に地面に倒れた。


 「他にも仲間がいたとは気づかなかった。」

 グレイがおれの前に立ちはだかる。

 「怒っている?」

 上目遣いで見ながら、おれはまずい状況にあることを直感した。

 「ごめん。まさか道の真ん中に人がいるなんて思わなかったから。」

 おれは素直に謝った。

 「ふっ、このおれが不意をつかれるとはな。」

 自嘲気味に頭を振るグレイは、倒された拍子に転がった杖を拾い上げ、おれたちのそばへ歩み寄った。


 「エルフ以外の仲間もいたとは。ゴーリー様も嫌われたものだ。」

 「おまえもエルフだろう。なぜ、ゴーリーの片棒を担ぐ。」

 ローデシャルが非難の目を向ける。

 「おれを同族と思うのか?この肌の色を見て。」

 グレイが蔑むような目でローデシャルの顔を睨むと、その言葉にローデシャルの口が閉ざされる。

 二人を見比べ、おれはなにかあるなと思いながら、この状況に頭を悩ませた。


 (なんでいきなり、こうなるの?)

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