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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード5 このすばらしき勇者生活に終わりを
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1 からっぽやみ魔王 異世界に転移する

 おれはいま、途方に暮れている。


 思い起こせば数分前。

 おれはいつものように朝を迎え、朝食をとるために部屋を出て、ついでに本を図書館に返すために廊下を歩いていた。

 そうしたら、突然、城が揺れ、そのままブラックアウト。

 視界が開けたと思ったら森に向かって一直線に落下だ。


 密集する森の枝がクッションとなって、なんとか地面に激突する前に枝にぶら下がることに成功したおれだが、それもつかの間、その枝が折れ、尻から地面に落ちた。

 全身が痺れて、そのまま動けなくなった。

 

 どれくらい時間が経ったか、おれは痛むお尻をさすりながら起き上がると、周りを見渡した。

 記憶にない森が広がっている。


 「ここはどこだ?」

 どうやらおれは異世界に飛ばされたらしい。

 しかし、どの世界に飛ばされたかがわからない。


 「まいったな。」

 頭を掻きながらおれは城と連絡をとろうとした。

 「コンシェル、聞こえるか?」

 しかし、返答がない。

 もう一度繰り返すが、やはり同じだ。

 「通信障害か?それとも接続が切れているのか?」

 おれは操作盤(コンソール)を開いてみた。

 

 目の前に半透明の四角い板が出現する。

 「やっぱり、接続が切れている。」

 再起動をかけるが、状況は改善しない。

 「どうやら接続網(ネットワーク)が切られているか、遮断されているようだな。」

 深いため息がでる。

 「どうしたものか。」

 と、最初の途方に暮れた場面にもどるわけだ。


 「ま、こうしていてもしょうがない。この森を出ることを考えるか。」

 そう思った時、つけっぱなしの操作盤(コンソール)に通知の表示が見える。

 「あれ?これ、仲間内だけのクラウド通信じゃあないか。」

 おれはその通知を押して、開いてみる。


 『ごきげんいかが?テヴェ君。』

 その文章ですぐにだれか思いつく。

 「メリーか?」

 『うふふ、わかります?』

 おれの問いに文章で返ってくる。

 音声認識は生きているようだ。

 「おまえか?おれを転移させたのは。」

 『ご名答。大変だったんですよ。テヴェ君の城からこの世界に転移させるの。おかげでかなりのエネルギー使っちゃっいました。』

 以前から知っているが、あいかわらずの性格だ。


 「無茶をするな。時空に亀裂でも入ったらどうするんだ。」

 『大丈夫ですよ。使ってなかったワームホールを利用しましたから。』

 その返答にまたため息が出る。

 「で、なぜ、おれを転移させたんだ。そもそもここはどこだ?」

 『そこは私が作った十七世界。それでね、テヴェ君にたのみがあるんですよ。』


 「いやだ。」

 食い気味で拒否する。


 『そう言うと思って、先に転移させたわけです。』

 「おまえな…」

 そういうやつだ、メリーは。ひとの了解なしに自分で勝手に話を進める。

 『大変なんですから。頼み聞いてください。お願いします。』


 「い・や・だ。さっさとおれを元の城に戻せ。」


 おれはコンソールに向かって拒否の態度を続ける。傍から見たら妙な光景だろう。

 『あら~、リシャルシャのお願いは聞いても、私のお願いは聞いてくれないのですか?』

 「うぐっ」

 (なぜ、知っている)

 『リシャルシャが自慢げに話してましたよ。テヴェ君、頼りになるって。』

 「あいつ、余計な事を。」

 『リシャルシャのお願いは聞いて、私のお願いは聞いてくれないなんて、そんな薄情なひとじゃあないわよね。テヴェ君。」


 二の句が継げなかった。

 こいつには勝てない。


 「わかったよ。それで頼みってなんだ?」

 『やった。やっぱりテヴェ君だ。』

 「おべっかはいいから、さっさと言え。」

 『その世界を救ってほしいんです。』

 「救う?おいおい、話が見えないんだが。」

 『その世界に他の世界から転生した者たちがいるんです。』

 「転生?異世界転生は世界の均衡を壊すから禁止ってことで取り決めたよな。まして、転生できないように保護(プロテクト)をかけていたはずだ。」

 『おっしゃるとおり。でも、誰かが穴を見つけて無理やり異世界転生を実行したようなんです。』

 「無理やり?だれだ、そんな無茶をするやつは?」

 『それはいま探しているところだけど、テヴェ君には転生した人たちを元の世界に戻してほしいんです。』

 「いま、たちって言ったよな。一人じゃあないのか?」

 『どうやら三人のようです。』

 「三人?三人もいるのか?」

 『はい。テヴェ君なら大丈夫ですよね。』

 文章だが、甘えた声が聞こえてくるようだ。それに一度引き受けた以上、断るのはおれの沽券に関わる。


 「わかったよ。やればいいんだろ。」

 なかば投槍気味に答えたおれは、そのときハッと気づいた。

 「おい、メリー、元に戻すのはいいけど、ちゃんと戻す手段は考えているんだろうな。」

 『テヴェ君を転移させたワームホールがまだ残っています。それを使えばあるいは。』

 「あるいはって。たよりねえなあ。」

 『そのへんはわたしよりテヴェ君のほうが詳しいでしょ。まんざら、この世界と無関係というわけでもないし。』


 簡単に言ってくれる。


 「おれの愛人(よめさん)たちを呼び寄せることはできないのか?」

 おれは思い出したように尋ねた。

 『わたし、テヴェ君を転移させるのにだいぶエネルギー使ったから、どうでしょう?』

 「おまえの頼みを聞いてやるんだ。おれの頼みを聞いてくれてもいいだろ。」


 しばし沈黙が流れる。


 『いいでしょう。他ならぬテヴェ君の頼みですから。なんとかしましょう。でも、おなじ時系列で呼ぶのは難しいかもですよ。』

 メリーの言葉にどんな方法を使うのか、なんとなく予想がついた。

 「ああ、この接続網(ネットワーク)の切断もその犯人の仕業だろ。だったら、今現在じゃなく、過去に遡って転移すればいいだろう。」

 『それならなんとかなるかも。ただ、どれくらい過去に遡るか、わかりませんよ。』

 「あいつらなら大丈夫だろう。よろしくたのむ。あと、犯人のほうはおまえのほうで対処しろよ。」

 『ええ、そちらはわたしが責任を持って対処します。じゃあ、これで。がんばってね、テヴェ君。』

 そう文章で言い残して、マリーからの通信は切れた。


 おれの口から深いため息が出る。


 「やれやれ。こまったもんだ。」

 おれはゆっくり立ち上がると、近くの木に歩み寄り、それに寄りかかる姿勢で地面に座り込んだ。

 「さて、この世界のことを検索してみるか。」

 おれは、操作盤(コンソール)に自身の個人金庫(プライベートセフティ)をつなげて、その中にある情報に接続した。

 操作盤(コンソール)に次々と情報が映し出される。

 それを十七世界に限定して、検索していくと、この世界における設定が目の前に浮かんできた。

 画面をいくつかに分割して、情報を整理していく。

 「ふむふむ、こんな感じで構築したのか。大きな大陸が三つに、大小いくつかの島か。街はと。けっこうな数あるな。でも、この情報、けっこう前のだから今はどうなっているか。」

 おれは目の前に映し出されたこの世界のデータを頭にいれると、その画面を閉じた。

 と、そのとき操作盤(コンソール)にまた通知の表示があるのに気づいた。


 「なんだ?今度は。」

 それを開けてみると、メリーからの追伸だ。

 『そう言えば忘れてたけど、転生した三人に規格外の能力が備わってるらしいわよ。一応、参考までに。』

 「おいおい、なんだよ。その規格外の能力って?」

 『知らない。』

 と、文章で返ってくる。

 「うそだろ。それでおれになんとかしてくれって。手前勝手もいいかげんにしろ。」

 『なんか言った?』

 「い・いいや、そう、アウローラたちにおれは元気だ。おまえたちの来るのを首を長くして待っている。と伝えてくれ。」

 『わかったわ。じゃあ、頑張ってね。』

 今度は本当に通信が切れた。


 

 その頃、城ではアウローラをはじめ五人が右往左往していた。

 「アウローラ、パパどこにもいない。」

 「こっちも探したけど見当たらない。」

 ローザとアリスがいつもと違う心配顔でアウローラの元に駆け寄ってくる。

 「城の内部のどこにもマスターはおりません。」

 そこへティアラがやってきた。

 「どこにもいないということは…」

 アウローラが考え込んだ。

 「アウローラ、確か、さっき城が揺れたわよね。」

 プリムラが心配顔でやってくる。

 「そう、不自然な振動があった。まさか…」


 「「強制転移」」


 プリムラとアウローラが静かに、しかし、確信的に告げる。その言葉に他の三人が色をなくした。

 「そんなことが…」

 アリスが否定しようとしたが、言葉が続かない。

 「ねえ、ティアラ。外の世界を検索(サーチ)できないの?」

 「すべての世界を検索(サーチ)するのは、時間がかかりすぎて現実的ではありません。」

 ティアラの返答にローザは肩を落とした。


 五人の間に無力感が漂う。


 そのとき、


 『がっかりすることないよ。』


 聞き覚えのない声が五人の耳に届いた。


 「だれ!?」

 アウローラが身構えると、他の四人も同様の態度を取った。

 『心配しないで。テヴェ君の友達だから。』

「「「「「テヴェくん?」」」」」

 その馴れ馴れしい言葉遣いに五人の警戒心は一層高まる。

 「あなたが御主人様を強制転移させたのですか?」 

 『そ、わたしのお願いを聞いてもらったの。』

 「どこへ転移させたのですか?」

 プリムラが見えない相手に問い質した。


 『十七世界。』

 「十七世界?」

 「どこなの、そこ?」

 「すぐにパパを返して!」

 アウローラ、アリス、ローザと矢継ぎ早に言葉をぶつける。


 『ちょっと待って。そう次々と言わないで。』

 「ええっと、友達さん?」

 『フェーメリヤと呼んで。』

 「じゃあ、フェーメリヤさん。あなたが私達に声をかけた理由はなんですか?」

 ティアラが冷静に問いかける。

 『頼まれたの。テヴェ君に。』

 「頼まれた?」

 プリムラが訝しげな目をする。

 『そ、テヴェ君がね、一人じゃあ大変だからってあなた達を十七世界に呼んでほしいって頼まれたのよ。』

 「御主人様が…」

 アウローラの目が熱く潤う。

 『だからあなたたちをこれから十七世界に転移させようと思うの。』

 「できるの?」

 プリムラは懐疑的だ。

 「できるならすぐにやって!」

 アウローラは乗り気だ。

 「アウローラ、信じて大丈夫?」

 「そうよ。いきなり現れて、しかも姿も見せない。」

 『あ、それは悪かったわね。いま、姿を現すわ。』


 そう行った途端、五人の眼の前に光が集まりだし、それが人の形となった。やがて、眼の前に長身で黒髪の長髪、そして紅色の牡丹をあしらった着物姿の美女が現れた。


 「こんなもんかな。はじめまして、みなさん。」

 着物姿のフェーメリヤは五人に微笑みかけた。

 「あなたがフェーメリヤさん?」

 アウローラをはじめ、五人全員が目をパチクリさせる。

 そんな疑問を無視して、フェーメリヤは話を続ける。


 「さあて、さっきの続きだけど、これからあなたたちを十七世界に転移させてあげるわ。」

 「大丈夫なの?」

 プリムラが疑わしそうな目つきで尋ねた。

 「まかせて。ただし、ちょっと問題があるの。」

 「問題?」

 「ほら、やっぱり大丈夫じゃあない。」

 プリムラを先頭にアリス、ローザと疑わしい目つきの者が増えた。

 「なんですか?その問題とは。」

 ティアラはあくまで冷静だ。

 「いま、十七世界は通信網(ネットワーク)が遮断されていて、このままじゃあ転移させられないの。」

 「でも、マスターは転移できましたよね。」

 「あれは、古いワームホールを使ったんだけど、二度三度は使えないわ。まして、五人いっぺんには無理。」

 「じゃあ、どうするの?」

 アウローラが苛立ち始めた。


 「過去に遡って転移させる。」

 「過去に遡って?」

 「そ、今現在は無理だけど過去なら通信網(ネットワーク)は遮断されてないから転移は難しくない。」

 フェーメリヤはドヤ顔で説明した。

 「じゃあ、すぐにやってよ。」

 「ただし、ここに問題がある。」

 「またあ」

 ローザが嫌な顔をする。


 「過去に遡るんだけど、それが結構な時間遡らないといけないのよ。」

 フェーメリヤが上目遣いで皆を見る。

 「どれくらい?」

 「およそ500年」

 「「500年!」」

 アリスとローザが同時に叫んだ。

 「いいわ、それでやって。」

 アウローラが即座に承諾する。

 「え、アウローラいいの。500年だよ。」

 「500年が1000年でも御主人様のいらっしゃるところにいけるならかまわない。」


 「私もアウローラに賛成。」

 プリムラがすぐに同意する。


 「私もその提案に乗ります。」

 ティアラも同意した。


 「どうする?アリス」

 「もう、いいわ。やって!」

 「しかたないな。わたしもそれでいい。」


 五人全員が同意した。それを聞いてフェーメリヤはニッコリと微笑む。

 「みんなテヴェ君のことが好きなのね。うらやましいわ。」

 そう言いながらフェーメリヤは両手を五人の前にかざした。

 「じゃあ、はじめます。テヴェ君が向こうでみんなが来るのを待っているって言付かってるわ。」

 五人の顔に笑顔が浮かぶ。

 フェーメリヤの両手が大きく光り輝き出した。その光は五人全員を包み込む。


 転移が始まろうしているそのとき、


 「あ、あともうひとつ問題が。」

 「「「「「え!?」」」」」

 「多少の障害から転移先がバラバラになるかも。」

 「「「「「それ、もっと前に言って」」」」」

 その言葉を残して五人は消えた。


 一人残ったフェーメリヤは舌を出しながら

 「ま、あの()たちならなんとかするでしょう。」

 と誰もいなくなった城の廊下に佇み、独り言を呟いたあと、

 「コンシェル スタッフルームを開けて。」

 と中空に向かって命じた。

 「フェーメリヤ様、いらっしゃいませ。」

 挨拶とともに眼の前に扉が出現した。 

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