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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード4 聖地繚乱と昏き神
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28 エピローグ あれからの話…

 城にもどったおれを、アウローラとローザが出迎えた。

 「お帰りなさいませ。ご主人様。」

 「お帰りなさい。パパ。」

 「ああ、ただいま。みんな大変だったな。ご苦労様。」

 おれの労いに、二人は深々と頭を下げた。

 「アリスは医療の間か?」

 「はい、いまティアラが付き添っています。面会しますか?」

 「ああ、すぐに行こう。」

 アウローラの案内で、おれはアリスが治療を受けている部屋に向かった。


 廊下を歩いて渡り、辿り着いたのは白い扉の前。

 その前に立つと、扉は独りでに開いた。

 なかは薄いクリーム色で彩られた清潔感漂う部屋。

 中央に透明な球体が浮かび、薄青い色の液体が満たされている。そのほぼ真ん中にアリスが裸で浮いていた。

 「どうだ?経過のほうは?」

 球体のそばに立つティアラに向かって、おれは尋ねた。

 「順調です。強制的に器にされたことによる内部の破損もほぼ完治しています。一晩、眠れば完全に復活するでしょう。」

 「よかった。復元することなく、修復ですんで。」

 おれは液体の中で安らかに眠るアリスを見て、安堵の息を吐いた。

 

 「それでマスター、アルカイトスなるものは?」

 「ああ、消去した。」

 「消去?」

 ティアラが目をパチクリとさせた。

 「消去とは、殺したのですか?」

 ついてきていたアウローラが、少し驚いた顔で尋ねてきた。

 「殺したのとはちょっと違うが、あの世界から完全にいなくなったのは確かだな。」

 アウローラとティアラは、お互いの顔を見あい、そして、おれの顔を見た。

 「どうした?何かおれの顔についているのか?」

 「いえ、ご主人様がそこまでするとは、思わなくて。」

 「あいつに、負けるとでも思ったか?」

 おれはアウローラの顔を見返しながら、微笑んだ。

 「マスターが相手を……その…、倒すと言うのが、ピンと来なくて。」

 「お優しい性格ですから、そこまでするとは。」

 「そうか。がっかりしたか?しかし、おまえたちをあんなひどい目に会わせた奴だ。どうにもゆるせなくてな。」

 おれは、怒りのポーズを見せていると、その言葉を聞いた二人はいっしょに微笑んだ。

 「いえ、とてもうれしいです。私たちのために怒ってくださって。」

 「愛しい方が私たちのために戦ってくれた、ということがとてもうれしいです。」

 二人が同時におれに抱きついてきた。

 「おいおい、照れるよ。それよりアリスが回復したら快気祝いと祝勝会をしよう。」

 「はい。すでにプリムラが会のための料理を、腕を振るって作ってます。」

 「そうか。」

 おれは球体に浮かぶアリスを、もう一度見上げた。

 「早く良くなれよ。」

 その言葉に応えるように泡がひとつ浮かびあがる。


 **************************


 バルトシュタインの首都ランツから逃げ出したジニーは、アーヤを連れて一路イースドアに向かった。幾日かの行程を経て、イースドアに辿り着いた二人は、かつて交易で繁栄していたイースドアが無残な姿になっているのに、驚きを隠せなかった。

 数日前、イースドアに大津波が襲い、都市の半分を破壊したのだ。

 「なによ、これ?」

 ジニーは自分の思惑が半分以上瓦解したのを悟った。

 アーヤもイースドアの惨劇に心を痛め、それによって生来の慈愛の精神が大きく膨れ上がった。


 アーヤは、瓦礫の散乱する街の中に入っていこうとする。

 「ちょっと、どこへいくのよ。」

 「教会です。私も手助けしないと。」

 「勝手に動かないで。」

 「止めても無駄です。いまこそ、聖女としての責務を果たさないと。」

 アーヤは立ち竦むジニーを置いて、さっさと街の中に進んでいった。

 一人取り残されたジニーは、思い出したように仲間のいる店を探しに動いた。


 倒壊した建物や流れてきた瓦礫、流木などを踏み越えて、ジニーは仲間のいるはずの居酒屋に辿り着いた。しかし、そこに店は影も形もなく、仲間の所在も知れない。

 「どうなっているのよ。みんないなくなっちゃった。」

 気が抜けたジニーは、その場に座り込み、次の行動の思案さえできない状態に陥った。


 **************************


  バルトシュタインでは、サリー王女がバルトシュタイン皇帝カーマインの前で熱弁を奮っていた。

 「皇帝陛下、ぜひともリンデールに支援の手を。お願いいたします。」

 片膝をつき、頭を下げるサリーを見ながらカーマインは、自らの手にある指輪を握りしめる。

 第一皇子たるアイザックの指輪であり、これを持って現れた女性がどういう存在かは、父親たるカーマインにはよく理解できた。

 「しかし、その話、本当のことですかな。」

 バーゼル公爵が傍らで疑問を投げかける。

 その言葉に、皇国の重鎮たちはお互いに顔を見合わせる。

 「アイザック皇子がいっしょでないというのも解せん。」

 別の大臣が同調する。

 「それはさきほども申し上げたではないか?アイザック皇子は、サリー王女をこのバルトシュタインに転送させるために、一人残ったのだと。」

 ローラは大臣を睨みながら抗弁した。

 「なぜ、他国の王女のために自分が残る?ローラ。」

 「それはリンデール王国の今後のため。それがひいてはバルトシュタインのためになると判断したためです。」

 「それはお前の推量だろう。皇子がそう言ったわけではあるまい。」

 「それは…」

 大臣の言葉に、ローラが言い淀んだ。

 「リンデールが聖教会と企み、聖地でわが皇子を襲ったという噂もある。」

 バーゼルが一歩前に進み出て、皆に聞こえるように語る。

 「そのようなことは、断じてない。」

 クリムがバーゼルを睨みながら否定する。

 「だが、その王女が本物のサリー王女かもわからぬではないか?」

 「無礼な!」

 思わずクリムが立ち上がった。

 「控えよ!クリム。」

 サリーが一喝した。

 「私が本物かどうかは、そこに控えるギダンが証明してくれるでしょう。」

 サリーが後ろを見ると、立ち並ぶ重鎮たちの末端にギダンが立っていた。

 「はあ、確かに本物のサリー王女のようです。」

 ギダンは少し焦った様子で答えた。


 「もうよい。わかった。」

 いままで一言も発しなかったカーマインが、はじめて言葉を発した。

 一同がカーマインに視線を移す。

 「サリー王女、貴殿はわたしが責任をもって保護しよう。ゆっくり休むがよい。」

 「ありがとうございます。」

 「支援の件は前向きに検討することにしよう。」

 その言葉にサリーは顔を明るくし、バーゼルをはじめ重鎮たちは驚きの顔をした。

 「陛下、それは…」

 バーゼルが言葉を続けようとした時、カーマインがじろりと睨んだ。

 「今日の謁見はこれまで。一同大儀であった。」

 そう言うと、カーマインは立ち上がり、謁見の間を出ていった。

 サリー王女は立ち上がり、居並ぶ重鎮たちを見渡し、最後にギダンのところで視線を止めた。

 「王女様、貴賓室へご案内いたします。」

 ローラがサリーを案内すべく先頭にたつ。それに追随してサリーも歩き始めた。

 ギダンの前に来たとき、サリーがつぶやく。

 「シルヴァーナは、国を捨てて逃げたわよ。」

 「えっ?」

 サリーは何もなかったように去っていき、ギダンは、サリーの言い残していった言葉に愕然とした。


 **************************


 件のアイザックたちは、リンデールの離宮でシルヴァーナの転送陣を発見し、間一髪、離宮が破壊される前に転送に成功していた。

 転送に間に合わず、爆発に巻き込まれた者も少なからずいたが、それでも多くの者が命拾いしたのは、不幸中の幸いであった。

 ただ、逃げることを優先したため、転送先を知らずに転送したアイザックたちは、自分たちのいる場所がわからず困り果てていた。

 「ここはどこだ?」

 皆が皆、地下室と思える石造りの部屋を見廻し、同様の不安を口にする。

 「殿下、私が偵察してまいります。」

 マルクが偵察を買って出たので、アイザックも素直に彼にまかせるべく首肯した。

 マルクは、地下室にある唯一の扉を開け、辺りを探りながら部屋から出ていった。


 しばらくしてマルクが帰ってくる。

 「辺りに人影はありません。」

 「よし、注意しながら出よう。」

 マルクを先頭に、石造りの部屋から皆が出ると、縦に伸びる廊下をマルクのあとに続く。

 「どうやら倉庫の中のようです。この先に上にあがる階段があります。」

 マルクが説明しながらしばらく歩くと、上に通じる階段に出会う。一旦立ち止まり、後ろにいるアイザックに指示を請うと、アイザックが再び首肯した。マルクは注意深くその階段を登ると、突き当りに扉があり、その鉄製の扉に耳を当てた。

 物音もなく、人の気配もない。

 マルクは扉の取っ手に手をかけ、扉を開けようとするが、何かに引っ掛かってるようでなかなか開かない。

 「よし、手伝おう。」

 アイザックが手助けを申し出、二人で扉を力いっぱい押す。やがて、扉は少しづつ開き、人ひとりが通れるくらいの隙間ができた。

 マルクがその隙間から外へ出る。

 アイザックは皆にその場で待機するように言うと、マルクに続いて外に出た。


 外は、瓦礫の山であった。

 潮の匂い交じりの悪臭が立ち込め、床は泥だらけ。

 「なんだ、これは?」

 瓦礫を掻き分けながら建物の外に出ると、そこは更に破壊の限りをつくされた廃墟の街であった。

 目の前にかろうじて立っている建物がある。

 「見たことのある建物だな。」

 アイザックは、自分の記憶をたどる。

 「王者の輝き亭?すると、ここはイースドアか?」

 アイザックの知るイースドアとはあきらかに違った様子に、アイザックはしばしその場に立ち尽くした。


 **************************


 「だから、なんでまたおれがやらなきゃいけないんだよ。」

 「おまえが一番向いているんだよ。」

 「そうそう、うまいこと調整して、いい方向に成長させるの、あんたが一番なんだ。」

 「このあいだ、こいつがやったら力任せにやったから、危うく全種族絶滅になりそうだったんだから。」

 「ほんと。あれは焦ったね。」

 「少しは反省しろ。」

 「他のやつがやると、危なっかしいのよ。だからさあ、お願い。」

 「たのむ。」

 「でも、このあいだやったばかりだよ。いいかげん、いやになるよ。」

 「これが最後。だから、たのむ。」

 「ねえ、お・ね・が・い」

 「…………」

 「「「「「「たのむ!」」」」」」

 「これが最後だからな。これが終わったらおれの好き勝手にやるぞ。」

 「いいよ。設定したNP使っていくらでも遊んでいいからさ。」

 「城も用意する。」

 「「「「「「おねがいします」」」」」」

 「はあ~」

 おれはいやいやながら頷いた。




 そこでおれは目が覚めた。


 辺りは薄明るい。


 ベッドのうえに上半身だけ起き上がると、まだ、頭がクラクラする。

 サイドテーブルの上にある水差しに手を伸ばし、グラスに水を注いで一気に飲み干す。

 

 うまい。


 昨日はみんなでドンチャン騒ぎしたからな。

 プリムラの腕によりをかけた料理を腹いっぱい食べ、あらゆる世界の酒をたらふく飲んだ。

 だから、あんな変な夢を見たんだな。

 グラスを戻して、隣を見る。

 アリスが気持ちよさそうに寝ている。

 昨日は目一杯、甘えさせたからな。


 おれはベッドから立ち上がり、窓のそばに歩み寄って、カーテンを少しめくってみた。

 外は日の出間近の蒼色の時。

 気候魔法が定時に朝をもたらそうとしている。

 (本当に変な夢を見たよな。魔王を押し付けられた夢なんて。)

 

 (魔王……?)

 

 (何か忘れている気がする。)


 (魔王…魔王…魔王…、なんだっけ?)


 (確か十三世界で、魔王を倒したよな。あれ?あの世界、ほかに魔王いたっけ。)

 そう思った時、おれの中で大事なことを思い出す。


 「あ‼」

 

 思わず大声がでる。

 その声にアリスが目を覚まし、眼をこすりながらおれを見上げた。

 「どうしました?主様」

 「いや、なんでもない。すまないな、大声を出して。さあ、ゆっくり眠りなさい。」

 アリスはおれの言葉に従うかわりに、魅惑的な微笑みを見せて、両腕を広げた。

 「主様、抱いて……」

 「しょうがないな。」

 アリスの魅力に負けて、おれはもう一度ベッドにもどる。しかし、先ほど思い出したことは、頭から離れることはなかった。


 **************************


 元魔王バキュラの居城。

 

 バキュラが滅し、城にいた魔人たちも大半が倒され、残った者も散り散りとなった。

 いまや、廃墟と化した城。


 その誰もいないはずの城に、なにかが動き回っている。


 ()()は城の調理室だったところに入り込み、テーブルのうえにちょこんと乗ると、懐から取り出した乾燥芋を齧りはじめる。

 元の色がなんだったのか、わからないほどに汚れた服を着た者 ゴブリンは、バキュラが倒され、残った仲間たちも城を去ったが、行くところもなく、独り立ちできる力もなく、城に残された保存食を細々と食い繋ぎながら、先々の見通しも立たないまま生きていた。

 乾燥芋を喰い終わり、ゴブリンはため息を吐く。

 

 保存食も残り少ない。

 先の希望もない。

 このまま餓死するしかないのかという絶望的なため息なのだ。


 「おい」

 ゴブリンを呼ぶ声がするが、ゴブリンは気が付かない。

 

 「おい」

 再度、声がするが、ゴブリンは空耳と思う。


 「おいって呼んでるだろ。」

 はじめてゴブリンは誰かから呼ばれていることに気が付いた。

 ゴブリンは辺りを見回すが、だれもいない。


 「だ、だれだ?」と尋ねると、

 「そうだな………、うん、神様だ。」と答えが返る。

 「カミサマ?」

 「神様がわからんか。創造主ならどうだ?」

 「ソウゾウシュ?」

 「ええい、ともかく力の持ったえらい人だ。」

 「そのえらい人がおれに何の用だ?」

 「おまえ、このままだと、死んでしまうぞ。」

 「そんなことわかっている。でも、どうしようもない。」

 ゴブリンは肩を落とす。


 「死にたいのか?」

 「死にたいわけない。でも、おれ、力ない。生きていく方法しらない。」

 「そうか。それはこまったな。」

 声が同情的になる。


 「えらい人、助けてくれないか?」

 「助けてやらんでもないな。」

 「えっ、ほんとか?助けてくれるなら、おれ、なんでもやる。」

 ゴブリンが縋るような声で、えらい人に懇願する。

 

 「そうか、じゃあ、おまえ、魔王になれ。」

 「まおう?」

 「この城にいたバキュラのようになれと言っているんだ。」

 「バキュラ様のように。そんなの無理。」

 「なんでもやると言ったろ。あれはうそか?」

 「それはほんとだけど、おれ、バキュラ様のようになれるのか?」

 ゴブリンは疑い深そうな目つきをする。

 「なれるさ。えらい人は力があるから。」

 「ほんとか?」

 ゴブリンの疑いはまだ消えない。よほど、だまされたのか、不信感が強い。

 「疑うならいいよ。別の奴、さがすから。」

 声はあっさりとゴブリンを見限ろうとする。

 「待ってくれ。野垂れ死にいや。魔王でもなんでもやる。」

 「そうか。よし、約束だぞ。魔王になってこの世界で君臨するんだ。」

 「わかった。約束する。」

 ゴブリンは真剣なまなざしで約束する。


 「よし、じゃあ、目をつぶれ。」

 言われるままゴブリンは目を瞑る。

 すると、ゴブリンの全身に温かいものが湧き上がり、それはすぐに消えた。

 「もう目を開けてもいいか?」

 「ああ、いいぞ。」

 ゴブリンは目を開けると、自身の身体を触ってみた。特になんの変化もない。

 「強くなった気しない。」

 「だいじょうぶだ。ちゃんと力を与え、魔王になった。」

 声は自信満々に言い放つ。

 ゴブリンは半ば首を傾げつつ、声の言うことを信じようとする。

 「おれ、これからどうしたらいい?」

 「おまえの思うとおりにすればいい。おのずと道は開かれる。」

 そう言い残して、声は消えていく。

 ゴブリンはしばらくその場に佇んでいたが、思い切って調理室を出て、城の最上階に向かった。


 階段を幾段も昇り、やがて大きな扉の前に立つ。

 その扉を押し開けると、目の前にかつての魔王バキュラの王座の間が広がっていた。

 ゴブリンは、王座の間の真正面に備えられている玉座に目を向け、一目散にその玉座に向かった駆けていった。

 魔王バキュラが座り、威厳と恐怖を持って魔人たちを見下ろしていた玉座。

 いまはその座は開いている。

 ゴブリンはその玉座に躊躇なく座った。


 全身になにやら力がみなぎってくる。

 魔王としての自覚が湧いてくる。


 「そうだ。おれは魔王なんだ。」


 ゴブリンはそのときから魔王ゴーグを名乗る。

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