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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード4 聖地繚乱と昏き神
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27 おれと昏き神の対決……ってほどのことはない

 元レイヒッチだった荒野に、二人の男が対峙している。

 その一方であるアルカイトスは、目の前にいる男の力量を測りかねていた。

 見た目はたしかに普通の人間だ。

 着ているのは、縞のシャツに革のベスト、茶色のチノパンを履いている黒髪のどこにでもいる人間、いやおっさんだ。

 特に筋肉質でもないし、魔量(エネルギー)が溢れ出ているわけでもない。

 なんの脅威も受けない、か弱く見えるおっさんなのだ。


 しかし、そのおっさんが先ほど自分の放った神の矢を、どんな方法を使ったのか知らないが、避けた。いや、通り抜けた……ように見えた。

 その不可解な存在に少し苛立つアルカイトスだが、心の中で無理やり相手の存在を決めつける。

 (所詮は人間だ)と。


 「私を消すと言ったか?人間。」

 「ああ、耳はいいようだな。」

 「言うに事欠いて、神を消すとは。愚かもここに極まりだな。」

 「そうかい。」

 おれはあくまで平常を保つ。その姿がアルカイトスには気に入らない。

 「その前におまえが消えろ。」

 

 アルカイトスの右手が天を指差すと、黒い雲が空を覆い、雲間から稲光が瞬いた。

 「豪雷」

 途端に、雷光が雨のように大地に降り注ぐ。

 連続して地面が弾け飛ぶ。

 それがおれのうえにも当然のように降り注いだ。

 

 雷光でおれの姿が掻き消える。


 弾け飛んだ粉塵で、視界が塞がれた。

 「あっけないな。」

 おれの消滅を確信するアルカイトスは、嘲笑を浮かべながら飛び立とうとしたそのとき。

 

 「どこへいくつもりだ?」


 おれの声が粉塵の奥から届く。

 アルカイトスの目が大きく見開いた。

 「ばかな。豪雷から逃れられるわけがない。」

 粉塵が収まっていく先に、人影が立っている。

 もちろん、それはおれだ。


 「残念だったな。消滅しないで。」

 今度はおれが嘲笑を浮かべる。

 「どうして、無事でいられる。」

 「さあて、どうしてかな。おまえの魔法に威力がないからじゃあないの。」

 「魔法だと?ばかな、これは神の力だ。」

 アルカイトスが不愉快そうな顔をしながら、おれの言葉を否定した。

 「そう思うのは勝手だ。おれの知ったこっちゃない。」

 おれは、ゆっくりとアルカイトスに近づいた。

 「消えろ!」

 アルカイトスが右手を横一文字に振る。

 その指先から光の線が走り、おれを真っ二つにしようとした。

 「時空抜出(カット)

 おれに触れる寸前、光の線の先が消えて無くなり、そのまま通り過ぎていった。

 「なっ!?」

 「どうした?おれを切るんじゃあなかったのか。」

 「くそ!」

 アルカイトスの5本の指から光の帯がスルスルと伸びる。

 それが触手のようにうねりながらおれを捕えようとした。


 「時空定着(ペースト)

 さきほどアルカイトスが出した光の線が、アルカイトスの目の前に現れ、そのまま彼の指を切断した。

 切り離された指は、光の触手とともに光の粒となり、消えていく。

 

 「こんなもの、なんともないわ。」

 アルカイトスの指が元に戻る。

 「さすがの再生能力だな。」

 「のぼせ上がるのもいいかげんにしろ!」

 アルカイトスの咆哮とともに、大地や空中から魔量(エネルギー)が集まり、アルカイトスの身体に吸い取られていった。それにあわせて、アルカイトスの身体が再び大きくなっていく。


 「ほお、でかくなった。」

 おれの目の前で、アルカイトスは10mを超す巨人となった。

 「大地ごと葬ってやる。」

 アルカイトスの身体がゆっくりと浮かびあがったかと思うと、急にスピードを上げて、はるか上空に飛び上がっていった。

 「へえ、ずいぶん高く飛んだな。」

 手をかざしてそれを眺めているおれに、アルカイトスの声が念話として届いた。

 『減らず口もここまでだ。』

 上空のアルカイトスから強力な波動が迸る。

 『超震』

 途端に大地が波打ち、あちこちに亀裂が走った。

 元レイヒッチに大地震が襲い、地面が大きく陥没し、あるいは大きく隆起し、更にその姿を大きく変えた。


 「ふふふ、バカめ。神と対等に渡り合えると思っているのか?」

 「思っているさ。」

 不意の返答に、アルカイトスは驚愕し、その声の主を見つけるべく辺りを見渡した。

 「ここだ。ここだ。」

 頭の上からする声に、アルカイトスは顔を振り上げる。

 自分の少し上に、例の男(おれ)が浮かんでいる。

 「なぜ、そこに?」

 「浮遊の術はおまえだけの専売特許じゃあないぜ。」

 「おのれ!」

 アルカイトスの右手が急激に巨大化する。それが網のように広がり、おれを捕えようとした。

 「空間移動(ムーヴ)

 網が閉じようとする寸前に、その姿勢のまま真横に移動し、アルカイトスの捕縛から逃れる。

 「な、なんだ、その動きは!?」

 おれの物理法則を無視した動きに、アルカイトスは目を見張る。

 「術式解除(デリート)

 おれが指を鳴らすと、追いかけてきたアルカイトスの手が目の前で消えて無くなった。

 「なっ?」

 「どうしたい。神様でもわからないことがあるのかい?」

 「おまえは一体何者だ!?」

 明らかにアルカイトスは、焦りを感じている。


 「おれかい?おれは魔王さ。」

 「魔王?」

 「いや、正確に言うと元魔王だな。」

 「ふざけるな。おまえのような魔王など見たことも聞いたこともない。」

 「そりゃそうだ。おまえが生まれ前にやってたんだからな。」

 おれが肩をすくめるような恰好をしたのが、癇に障ったのか、アルカイトスが左手を差し出し、連続して神の矢を放った。

 「時空抜出(カット)

 おれに向かってきた神の矢が、すべて目の前で消える。

 「返してやるよ。時空定着(ペースト)

 消えた神の矢が、アルカイトスの目の前に突如現れ、避ける間もなく、すべてその身体に被弾した。しかし、そのすべてがアルカイトスの身体の中に吸収されていく。

 「おっ」

 「我にどんな攻撃もきかん。たとえ、それが自分が放った攻撃でもな。」

 「面倒な奴だな。」

 おれは困ったような顔をした。

 「おまえが魔王であろうが、なんであろうが、私はすべてを超越した存在。恐れるものはなにもない。」

 アルカイトスに自信が復活したようだ。


 「神の御業を見よ。」

 アルカイトスの両手から波動が迸る。

 途端におれのまわりに巨大な石壁が出現し、箱のようになって俺を囲み、閉じ込めた。

 「神の踏み足」

 おれを閉じ込めた箱に、強力な重力がかかる。

 石の箱は潰れていきながら地面へと落下していった。

 落下した石の箱は、地面と激突してバラバラに崩壊し、そのうえに更に重力がかかり、地面の中にめり込んでいった。

 「まだまだだ。神の怒りの光を受けて浄化せよ。」

 アルカイトスが両腕を頭上に掲げると、黒雲が素早く流れ去り、太陽が顔を出す。その光がアルカイトスの頭上で屈折し、おれごと地面にめり込んだ瓦礫に焦点を合わせて差し込んだ。

 焦点の当たった地面はあっという間に、超高温となり、瓦礫は真っ赤になって融解し、溶岩のようになる。

 「ふふふ、溶岩の中で燃えて炭となれ。」

 嘲りの目でその現象を見ていたアルカイトスは、ゆっくりと地上に降りてきた。

 「念には念を入れてと言うからな。」

 真っ赤に燃える地面に、息を吹きかけると、途端に地面は黒く固まる。そこへ空中から岩塊を生み出し、その上にいくつも積み重ねた。

 「愚か者には過ぎたる墓標だが、まあ、情けと思えばよろしかろう。」

 積み重なった岩塊を見て、満足そうに独り言を言ったアルカイトスは、今度こそはと、バルトシュタインの首都へ足を向けた。


 「やれやれ、勝手に殺さないでくれるかな。」

 またしても、予期せぬ声にアルカイトスは、目を吊り上げて振り返った。

 見れば、岩塊のうえに潰したはずの例の男(おれ)が何事もないような顔で座っている。

 「おまえは……どうして、生きている!?」

 「まあ、ちょっとした技をつかったんだ。」

 自分の理解を超えるおれという存在に、アルカイトスは焦りと怒りが混じり合い、パニック状態となった。

 

 「消えろぉぉぉ‼」


 アルカイトスの両手から神の矢が連続して放たれる。

 複数の矢は広範囲に広がり、おれの逃げ場は無くなったかに見えた。


 「時間停止(ポーズ)

 

 辺り一帯の時間が止まる。

 固まったように止まっている神の矢の間を潜り抜け、おれはアルカイトスの前に飛んでいった。


 「停止解除(キャンセル)


 途端に時間が動き出し、放たれた神の矢がなにもない空間を取り過ぎて、後方で大爆発を起こす。おれはと言えば、いきなりアルカイトスの目の前に現れ、アルカイトスを驚愕させていた。

 「瞬間移動(テレポート)か?」

 「残念。ちょっと違うんだな。おれはプリムラみたく瞬間移動(テレポート)は使えないんだ。」

 「じゃあ、どうやって?」

 「ちょっと時間を止めて、移動しただけだ。」

 「時間を止める。そんな私でもできないことを」

 「それができるんだな。さっきもそれを使って石の箱から抜け出したんだ。」

 「そんなバカな。」

 アルカイトスの心が恐怖でひきつる。

 「そんなことはどうでもいい。今度はおれからおまえを処置させてもらうぜ。」

 「処置だと?」

 おれの言うことが、アルカイトスには理解できない。

 「まずはお前の力の源を断つ。」

 「させるか!」

 アルカイトスは目の前に浮かぶおれをいきなり掴んだ。

 

 「ぐふふ、油断したか?このまま芥子粒以下まで圧し潰してやる。」

 おれの身体に超高圧力がかかる。


 「ぐおぉぉ!潰れる!」

 おれの悲鳴にアルカイトスはやっと安心したのか、残忍な笑顔を見せる。

 

 「なんて、言うと思ったか?」

 おれの平気な顔に、アルカイトスは再び驚愕する。


 「コンシェル、終了したか?」

 「はい、テヴェリス様」


 おれの独り言にアルカイトスは怪訝な顔をするが、そんなことはお構いなく再度、手に力を込める。

 「潰れろ!」 

 「むだだ。おまえの力の源は断った。」

 「なに!?」

 「この世界から漏れ出すカオスを糧にここまで成長したのだろうが、その漏洩をさっきコンシェルが塞いだ。」

 「なんだと?」

 アルカイトスは、もう一度魔量(エネルギー)を吸い上げようとしたが、自分が欲している魔量(エネルギー)が少しも吸収されない。

 「ついでにおまえが構築したカオスを自分の魔量(エネルギー)に変換するプログラムも停止させてもらう。」

 「でたらめをいうな。」

 「術式停止(インヴァルド)

 アルカイトスの中でなにかが消えた。同時にアルカイトスの身体の輝きが薄れていく。

 「こ、これは…、どういうことだ?力が、力が抜けていく。」

 「ともかく、これをはずすぜ。」

 おれを握るアルカイトスの手を無理やり外すと、おれは地面に降り立った。


 そのそばで、アルカイトスの巨大な姿が徐々に萎んで小さくなっていく。

 やがて、アルカイトスはおれと同じくらいの背格好になり、ただの裸体の男になった。

 「どうだい、元にもどった感想は?」

 「元にもどった?」

 いまだ信じられない顔つきのアルカイトスは、呆けた様子で自分の手を見つめていた。

 「実感がないか?じゃあ、味合わせてやるよ。」

 そう言って、いきなりおれはアルカイトスの横っ面を殴った。

 突然の打撃に、アルカイトスは防御もできず、無様に地面に倒れた。

 「なにをする!神たる私を殴るとは。」

 「もう神様じゃあないってことが、実感できたか。あと、おれの妻たちへの仕打ちに対する怒りも含まれているけどね。」

 無様に倒れ、殴られた頬を撫でるアルカイトスは、自分が普通の存在になったことにいまだ実感できてないようだ。

 「もう一発いっとく?」

 おれが再度殴りかかろうとしたとき、怒りに燃えた目のアルカイトスが、いきなり立ち上がると、おれの腕を払い除け、逆に殴り返してきた。

 「うわっ」

 それを辛うじて躱したおれが見たのは、怒りを通り越し、狂気に彩られたアルカイトスだ。

 「おまえなんぞ、おれの魔王としての力だけで十分だ。」

 アルカイトスの身体から急に冷気が迸はじめた。

 「リースレス・ロック(無情なる氷獄)」

 詠唱とともに荒れ地全体が凍りつく。

 

 「うっ」

 おれの足もいつのまにか凍り付いていた。


 「おれを侮った報いだ。」

 氷結がおれの足から下半身、上半身へと上がって来る。

 やがておれは氷の彫像と化した。

 「死ね!」

 アルカイトスの拳が、氷の彫像と化したおれを撃つ。途端に、氷の彫像は粉々に砕け散った。


 粉々になった氷の破片を見て、アルカイトスはようやく安堵したのか、凍った地面に座り込んだ。

 「ふふふ、最後に勝つのはおれだ。」

 座ったまま、しばし呆然としていたアルカイトスの目に、妙なものが映った。

 粉々になった破片から陽炎のようなものが立ち上り、それがひとところに集まると、やがて人の形を成し、そのまま(おれ)の姿に変化した。

 「なんだと!?」

 驚愕のあまり、呆けたように口を開けているアルカイトスを尻目に、おれは自分自身の身体を確かめるように触っていった。

 「うん、なんとか前と同じだな。」

 「再生能力まであるのか?」

 「うん?ああ、これか。そうだな、復元(リペア)というやつだな。」

 「おまえは、おまえは一体何者だ!?」

 「だから、言ったろ。元魔王だって。」

 「同じ魔王でも、おまえはどこか違う。」

 アルカイトスの顔が蒼くなる。

 「まぁ、おまえや他の魔王とは確かにちがうな。なんせ、おれは頼まれて魔王をやってたからな。」

 「たのまれて?」

 また、訳の分からないことを言うこの男を、アルカイトスはいま真に恐れている。

 「この世界を作った時、すべての種族のバランスと安定成長を図るために、恐怖と対決の対象が必要で、それをおれがやっていたんだ。」

 「なにを言っている?」

 「わからなくていいよ。説明するのも面倒だから。」

 おれは面倒くさそうに手を振った。

 「なんだ、おまえは。なんだぁ、おまえわぁ!なんなんだぁぁ‼おまえわあぁぁぁ‼‼」

 アルカイトスが恐怖のあまり、切れた。

 彼の周りに氷塊が出現すると、それが割れて槍状になり、おれに向かって続けざまに放った。

 それは狙うとか、当てるとかではなく、めったやたりに氷の槍を放ち、物量でおれを潰そうとしている。

 「普段落ち着いているやつほど、切れると怖いな。セキュリティ。」

 その呼び出しに応えるように、おれのまえで氷の槍が透明な壁に当たって砕けていった。

 「おのれ、防御魔法(シールド)ごと潰してやる!」

 その言葉通り、氷の槍は巨大な氷塊に移り変わり、おれを圧し潰そうと飛来し来る。

 

 「やれやれ」


 おれはため息を吐くと、時間停止(ポーズ)をかけた。

 一帯の時間が止まる。

 おれはゆっくりとアルカイトスに歩み寄ると、彫像のように固まって立っている彼に触れ、その構築状態を探った。

 数十分そうしていただろうか、おれの中で結論が出ると、停止解除(キャンセル)を行った。


 時間が動き出し、すぐ目の前に現れたように見えたおれに、アルカイトスは大いに驚愕した。

 「また、時間を操ったのか?」

 それには答えず、

 「一通り、あんたを検索(サーチ)させてもらった。」

 と、告げた。

 「検索(サーチ)だと?」

 聞き返すアルカイトスを無視し、おれは一言詠唱を発した。


 「存在消去(エリース)


 途端にアルカイトスの足先、指先が崩れるように消えていく。

 「なんだ、これは!?」

 なんとかこの現象を食い止めようとするが、自身が消えていく現象は止まらない。

 「この世界から消えてもらう。」

 「消えるだと?」

 「ああ、完全な消去だから復活もできないぞ。」

 「そんな、バカな!」

 アルカイトスが再生を試みるが、消えていく状況はかわらない。

 そもそも魔法自体が使えなくなっていた。

 「再生できない。魔法も使えない。」

 悲鳴にも似た叫びをあげながら、アルカイトスは無駄とも思える抵抗を何度も試みた。それを眺めて、おれはポツンとつぶやく。

 「さんざん、好き勝手やったんだ。もう十分だろう。」

 「ふざけるな!これからなんだ。これから神としてこの世界を作り直していくんだ。おれの世界として。」

 叫ぶアルカイトスの下半身はすでに消えて無くなっており、いまは胸から頭の部分だけを残して、宙に浮いている。

 アルカイトスの目は慈悲を乞うような悲しげなものに変わり、じっとおれを見つめながらなにかを口走った。

 それも聞こえぬまま、最後に頭も消えて無くなった。


 「さて、終わったな。コンシェル、転送してくれ。」

 「了解しました。」

 おれはアルカイトスの存在していた場所に目を向け、ポツンと呟いた。

 「さよなら、アルカイトス。」

 その言葉を残して、おれの身体はこの世界から消えた。

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