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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード4 聖地繚乱と昏き神
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24 昏き神アルカイトス、やりたい放題

 ティアラの目が驚愕で大きく見開かれる。

 「もう再生したの?早すぎる。」

 「よくもやってくれたな。おかげで魔量(エネルギー)の多くを失った。」

 アルカイトスの5本の指から光の帯が伸びる。

 それが4個の箱につながった。

 

 それぞれの魔量(エネルギー)が帯を通じてアルカイトスに供給される。それに合わせて、アルカイトスの身体が光り輝き始めた。

 「次はお前だ。」

 ゆっくりと近づくアルカイトス。

 「ティアラ!」

 アウローラが叫びながら箱の壁を叩く。しかし、その声はティアラに届かない。

 「我が贄になれ!」

 再びアルカイトスの5本の指から光の帯が伸びた。

 それが触手となってティアラを掴まえようとする。

 「むざむざと」

 その触手を躱しながらティアラの手から光の槍が放たれる。しかし、アルカイトスに当たる直前、光の槍は光の粒となってアルカイトスに吸収されていった。

 「無駄だと言ったろ。おとなしく我が糧となれ。」

 もう一方の手からも5本の光の帯が伸び、ティアラを捕えようとする。


 「ご主人様さえいてくれたら。」

 『アウローラ、旦那様と連絡がとれないの?』

 プリムラから念話(テレフォン)が入る。

 『どうやらご主人様と繋がらないようなの。もしかしたら念話(テレフォン)を切っているのかも』

 『じゃあ、緊急信号を発信したら?』

 『緊急信号!そうよ。その手があった。』

 プリムラの提案にアウローラはすぐに緊急信号を発しようとした。

 「なにをしようとしているか知らんが、おとなしくしておれ。」

 アウローラの行動に気づいたアルカイトスは、魔量(エネルギー)の供給量を上げた。

 「うわあぁぁぁ!」

 アウローラに激痛が走る。

 「お前たちもだ。」

 プリムラやローザにも同様の激痛が走る。

 『ティアラ、ご主人様に緊急信号を……』

 苦しい息の下、アウローラがティアラに念話(テレフォン)で指示を出す。

 それを聞いたティアラは、八つの羽根を大きく広げた。


 「スーパーノヴァエクスプローション(超新星爆発)」


 八つの羽根それぞれから光の塊が放出され、それがティアラの前で重なると、アルカイトスに向かってその一つとなった光の塊を押し出した。

 「むっ」

 向かってくる光の塊に気づいたアルカイトスは、それを両手で受け止める。

 

 途端に、辺り全体が光で包まれ、マナミを巻き込んで大爆発を起こした。


 その爆発に乗じてティアラは上空に逃げ、その途上で緊急信号を発する。

 「マスター、この信号を受け取ってください。」

 上空高く高く、上昇するティアラの足に何かが絡まった。


 下を見ると、光の帯が伸びており、その元にアルカイトスの姿があった。

 「くそ!」

 「ははは、最後の攻撃も無駄だったな。」

 光の帯が光の粒となってティアラを包むと、やがて光の粒は箱となってティアラを閉じ込めた。

 「くそ!くそ!」

 日頃、口にしない言葉を発しながらティアラは、箱の壁を叩き続けた。

 「これで5人とも私の贄となった。もはや私を犯す者はいない。」



  その光と音は離宮にいるサリー、アイザックにも届いた。

 「なんだ、あの光と音は?」

 「ティアラ様の向かった方向。ティアラ様になにか?」

 そのとき、ローラが駆け寄ってきた。

 「殿下、緊急転送陣の構築が済みました。しかし、もともと緊急用ですので、転送する人員が限られておりますし、一回限りの使い捨てです。」

 「つまり、一回使ったらあとはないということか?」

 「はい、おっしゃる通りです。」

 「で、何人転送できる。」

 「ぎりぎりで3人かと。」

 ローラが苦し気に返答する。

 「よし、サリー王女とクリム殿、そしてローラ、お前が付き添え。」

 「殿下はどうなさるのですか?」

 ローラが驚いたように聞き返す。

 「私はここに残って皆の避難の指揮をとる。」

 「そんな。なら私も残ります。」

 ローラは頑なな表情でアイザックの指示を拒否する。

 「だめだ。サリー王女を父上に紹介するため、この状況を詳しく報告するためにも、お前が一緒にいくほうがいい。」

 「そのような。アイザック皇子が転送陣をお使いください。私がここに残ります。」

 サリーが横から割って入った。

 「サリー王女、あなたはこれからのリンデールに必要な方だ。リンデール復興の旗印として、生きていかなくてはならない。これは逃げるのではない。再出発のための一歩なのだ。」

 そう言うとアイザックは、自分の中指から指輪を外した。

 アウローラに差し出そうとして受け取ってもらえなかった指輪だ。

 「これを持っていき、父上にお見せしてください。きっと力になってくれます。」

 「父上というと皇帝陛下ですか?」

 「ローラ、おまえからも父上によくよく説明してくれ。さっ、時間はない。すぐに出発するのだ。」

 アイザックの説諭にサリーもローラも反論はできず、拒否もできず、渋々その意に従うことにした。

 「アイザック殿下、決して命を粗末にするようなことなきように。必ず再会することをお約束ください。」

 「わかりました。我が名にかけてお約束しましょう。」

 最後に笑顔を見せたアイザックを残し、三人は建物の中に入っていった。


 そこへマルクが近寄ってくる。

 「あ~あ、カッコつけちゃって。いいのかい、あんな約束して。」

 軽口を叩くマルクに、アイザックは笑顔のまま振り返った。

 「半分は嘘だが、半分は本当だ。」

 「どういうことだい?」

 「ひとつの賭けなんだがな。マルク、この建物を徹底的に探索しろ。たぶん、シルヴァーナの転送陣があるはずだ。」

 アイザックの笑顔が真顔に変わる。それにつられてマルクも真顔になった。

 「わかりました。殿下。」

 マルクは急いで建物の中に入っていった。

 「当たってくれ。」

 心の中でアイザックは神に祈った。


 **************************


 バルトシュタインの王宮にほど近い場所にある来賓館。

 その一角の部屋にジニーとギダンがいた。

 「ジニー、聖女をこのままにしていいのか?」

 「いいのよ。あの娘はいざこざの種にするんだから、ここにいた方がいいのよ。」

 「いざこざの種?」

 ギダンはジニーの言葉に想いを巡らす。


 ジニーと聖女がこの来賓館に来たのは、つい先だってのこと。

 エレアナメルを脱出し、そのままここに来たのだ。


 「しかし、他の者に気づかれないか?」

 ギダンが心配そうに隣の部屋を見る。

 「大丈夫よ。ここには結界を張ってあるんでしょ。誰彼なしに入ってこれないわ。」

 「ま、それはそうだが。」

 ギダンの心配がうつったのか、ジニーも隣の部屋に視線を移す。

 

 「でも、もうそろそろ起こしてもいいわね。」

 そう言って、ジニーは隣の部屋に入っていく。

 その部屋には連れてきた聖女アーヤが、ベッドのうえで眠っていた。


 アーヤは連れてきた時のまま、白いローブに身を包んでいる。

 「聖女様、起きてください。」

 ジニーは聖女アーヤにかけた睡眠魔法(スリープ)を解いた。

 すると、アーヤの目が少しづつ開いていく。

 初めて見る部屋の様子に、アーヤは訳が分からず、一瞬戸惑った。しかし、すぐに自分が拉致されたことを思い出し、急いで身を起こした。

 「ここはどこですか?」

 その第一声にジニーは苦笑した。

 「エレアナメルから遠く離れた所ですよ。」

 ジニーは曖昧な返答する。


 「聖女様、危害をくわえようと思いません。しばらく、ここでお休みください。お腹はすいておりませんか?」

 いつの間にか入ってきていたギダンが、優しく語りかけるが、アーヤはキッと睨むだけで返答しない。

 「とりあえずお茶と軽く口に入るものを持ってきてくれる?」 

 「承知した。」

 そう言い残してギダンは、部屋から出ていった。



 「私をどうするつもりですか?」

 「別に捕って食おうとは思わないわよ。ただ、ちょっと協力してもらいたいだけ。」

 ジニーはベッドの端に腰かけ、優し気な笑みを向ける。

 「協力?」

 アーヤはジニーの言っている意味が理解できない。ただ、なにかに利用されようとしていることだけは、言っている雰囲気でわかる。

 焦りと不安がアーヤを虜にする。


 なんとかここから逃げ出さないと。


 そんな思惑を見透かすように、ジニーはおもしろそうにアーヤを見つめていた。

 そのとき、ギダンが部屋に戻ってきた。

 手にはトレイに乗せたティーカップと簡単な軽食を盛った皿が乗っている。

 「さあ、聖女様、召し上がってください。」

 ギダンはベッドの横にあるサイドテーブルの上に、トレイごと乗せた。

 アーヤはそれを見た後、そっぽを向く。

 「聖女様、先は長いんです。いまのうち食べておいた方がいいですよ。身体が持ちません。」

 ジニーの言葉に呼応するようにアーヤのお腹が鳴った。

 恥ずかしそうに顔を赤めたアーヤは、テーブルのうえのお茶に視線を移し、カップを手に取った。

 お茶を飲むアーヤを見て、ジニーは優しい目つきになる。


 そのあと、アーヤも腹をくくったのか、落ち着いた様子で来賓館での生活を過ごし始めたある日。

 ジニーとアーヤがくつろいでいるところへ、ギダンが息せき切って入ってきた。

 「どうしたの?そんなにあわてて。」

 「サリー王女が来た。」

 「え?」

 唐突な話にジニーの理解力は追いつかない。アーヤに至っては、それ以前の問題で言葉が頭に入ってこない。

 「どういうこと?なぜ、サリー王女がここに来るの?」

 「おれにもわからん。なにか緊急事態が起きて、皇帝陛下に謁見を求めている。」

 「緊急事態?いったい緊急事態って。」

 「ともかく、ここに聖女といるのは、まずいんじゃあないか?」

 「そうね。なんかやばいことが起きているような予感がする。」

 「どうする?」

 ギダンに問われ、ジニーは黙考する。


 「とりあえず、身を隠した方がいいわね。」

 「身を隠す?おまえとおれがか?」

 「何言っているの。私と聖女様よ。」

 「おれは?」

 「あんたはリンデールの大使でしょう。ここを勝手に離れたら却って疑われるじゃない。」

 ジニーはギダンを睨みつけた。

 「そうだな。で、どこに身を隠す?」

 「イースドアね。」

 「イースドアか。あてはあるのか?」

 「一応はね。すぐに出立の準備をするわ。」

 そう言ってジニーは立ち上がると、隣の部屋に行く。その間、完全に置いてけぼりのアーヤはポカンとしたままソファに座っていた。


 そのあと、アーヤとの間ですったもんだがあったが、二人はなんとかイースドアへ向かった。

 

 **************************


 首都マナミを壊滅させたアルカイトスは、そのまま聖教会領へと方向を変えた。

 すでに日は西に沈み、暗闇が静かに広がっている。

 大地に灯りはなく、アルカイトスが放つ光が、大地を薄明るく照らしていく。

 アルカイトスは、まるで暇をつぶすように、あるいはきまぐれに大地に雷を落とし、地面を揺らし、火を放った。

 そのたびに下にある街や村が滅していく。


 人々にとっては災厄が飛んでくるのだ。


 アルカイトスの視線の端に覚えのある建物が映る。

 リリアナが住んでいた離宮だ。

 「ふ、目障りだな。」

 そう呟くと、左手から光の矢を放つ。

 それが離宮のある個所に落ちると、その一帯が巨大な火球に包まれ、大爆発を起こし、巨大なクレーターと化した。

 「さて、先を急ぐか。」

 アルカイトスは、聖教会領へと急いだ。



 聖教会領の聖都テルメア。

 その中央に位置する大聖堂。

 その中では、聖教会の重鎮たちが混乱を起こしていた。

 その原因は、もちろん聖女の誘拐である。

 エレアナメルの悟りの塔から拉致された聖女の行方は、いまだに判明していない。

 どうやら北東方面に逃げたようだが、それから先が杳としてつかめないのだ。


 「聖女様の行方はまだつかめぬのか?」

 第1枢機卿のシェリモが皺の寄った頬を震わせて、騎士団長を怒鳴っていた。

 「はっ、八方手をつくしておりますが、いまだ……」

 騎士団長が冷や汗をかきながら、苦しい言い訳をする。

 「そんなあやふやな返事を何度するつもりだ。」

 シャリモの語気が強まる。

 それに対して騎士団長は沈黙で答える。


 このようなやりとりが昨日から続いている。


 「シェリモ、あまりバルトロメ(騎士団長)を責めるな。彼とて精一杯やっているのだ。」

 横から助け舟を出したのは、第4枢機卿のマータスだ。

 かれは山羊のような白い髭を片手で撫でながら、シェリモに落ち着くように諭す。

 「しかし、マータス。聖女様が誘拐されてどれほどの時間が経っていると思う。それでも行方すらつかめぬとは、由々しき問題だぞ。」

 シェリモの頬が更に震える。

 「ま、確かにな。しかし、われわれがいくら騒いだところで、聖女様が見つかるわけでもあるまい。」

 マータスの落ち着いた返事に、シェリモがいらつく。

 「シェリモ、マータスの言うとおりだ。この件でだれよりも憂いているのは、教皇様だということを忘れるな。」

 シェリモの対面に座る第3枢機卿のフィリップが、円卓テーブルの一番上座に座る、どの枢機卿よりもあきらかに格上の法衣を着ている男を見やった。

 

 「第1枢機卿の心配は痛いほどわかる。しかし、ここは騎士団長に任せたのだ。もうしばらく任せようではないか?」

 その上座の男、教皇ロラーヌがおもむろに口を開いた。

 「猊下がそう申されるなら、私は何も申しませんが。」

 シェリモが口を閉ざした。

 それを見て、騎士団長がホッと息を吐く。


 そのとき、扉がいきなり開かれた。

 「なんだ!無礼な。会議中ぞ。」

 シェリモがさらに頬を揺らして叱りつけた。

 扉の前にいるのは教会騎士団の副団長。それが尋常ではない顔色で立っている。

 「た、大変です!」

 「何事だ!」

 バルトロメも騎士団長の立場で、副団長へ叱責交じりに問いただした。

 「異形の怪物がこちらに向かっているとの報告が。」

 「異形の怪物?」

 その場にいる一同が同様の顔つきになる。

 「なにを言っておるのだ。」

 

 そう、頭から信じていない顔つきだ。


 「おぬしは、その怪物を見たのか?」

 バルトロメが更に質す。 

 「いえ、国境を警備する部隊からの伝令です。」

 副団長はこまったような顔で団長の顔を見る。

 「事実関係を調べてみます。中座することをおゆるしを。」

 バルトロメが頭を下げると、ロラーヌが了解したように頷いた。

 それを見て、バルトロメは副団長を引き連れ、会議室を出ていった。

 「きっと、夢か幻でもみたのでしょう。」

 シェリモが馬鹿にしたような顔つきで、教皇に語りかけた。

 「だとよいが。」

 ロラーヌの呟きには不安が滲んでいた。


 その不安は悲しいほど的中した。

 国境を警備していた教会騎士団は、空を飛んでくるアルカイトスの姿を見て、驚愕し、恐怖して、攻撃をかけようとしたが、その一の矢が放たれる前に、アルカイトスの放つ神の矢で一瞬にして全滅した。

 国境警備隊の全滅は、すぐさま近隣の街に伝わり、住民はパニック状態になった。

 パニック状態のまま街は、アルカイトスの放つ炎に焼かれ、壊滅した。


 幸か不幸か、生き残った騎士が馬を駆り、聖都へ報告というより命からがら逃げてきた。

 バルトロメは、状況把握のために一個大隊を現地に向かわせた。

 同時に教皇及び天使長に報告に向かった。


 会議は中断し、すぐさま緊急事態に対処するために騎士団及び天使兵団の招集がかけられた。

 「いささか、おおごとと思えるが。」

 シェリモはこの期に及んで楽観視している。

 第2枢機卿のアンドレは、それを苦々しく見る。

 教皇ロラーヌが心配そうな顔をしているところへ、天使長3人が現れる。

 「異形の怪物が現れたそうだな。」

 「これは天使長がた。わざわざお出でになるまでもございませんのに。」

 シェリモがいち早く天使長の元へ駆け寄った。

 アンドレはそれを見て、

 (太鼓持ちが。)

 と、心の中で悪態をつく。

 「騎士団長は?」

 「今状況確認のため、本部へ赴いております。」

 マータスがすぐさま答えた。

 「まだ、状況はなにもわからないということか?」

 天の天使長サラファンが問うと、

 「御心配には及びません。国境警備隊もおりますから。」

 と、シェリモが楽観的な発言をする。

 それを見て、アンドレはため息をつく。


 そのとき、バルトロメが会議室に入ってきた。

 「大変です。国境警備隊が全滅したそうです。」

 その言は、会議室にいた全員に驚きを与えた。


 聖教会領に滅亡の危機が訪れた瞬間だった。


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