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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード4 聖地繚乱と昏き神
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23 昏き神は世界を破壊する

 「仲間を置いて逃げたか。」

 ティアラが逃げた方向を見ながら、アルカイトスはポツンと呟いた。

 「とりあえず、お前たちは私の器となれ。」

 アルカイトスの身体から光の管が伸びると、それぞれの箱につながる。

 「世界を形作る大いなる力よ。我が糧となれ。」

 地面からすさまじい魔量(エネルギー)が噴き出し、それが四つの箱に吸い込まれていく。


 「きゃあぁぁぁぁ!」

 「あああぁぁぁぁ!」

 「うぎゃあぁぁぁ!」

 「…………」


 アリスを除く三人の口から絶叫が迸る。

 のたうちまわり、箱の床に爪を立て、あるいは壁を殴りつける。

 経験したことのない激痛が三人を襲う。それに合わせて、アウローラとプリムラの姿が元に戻った。

 アリスはすでに叫ぶ力さえ残ってない。


 「ご・ご主人様……」


 「だん…な…さま…」


 「パ……パ………」



 「……ぬ……し……さ……ま……」


 それぞれが救いを求める相手の呼び名を呼ぶ。


 「もはや、おまえたちは私の器。無限に供給される魔量(エネルギー)の受け皿。私が神として君臨する贄となれ。」

 光輝くアルカイトスは、近くにあるエンドシティを見やる。

 街では突如現れた異形の巨人に、恐れ慄き、パニックになっていた。

 我先に逃げようと正門へと集中するが、渋滞を起こし、動けない。


 「どけ、どけ!」

 「そこを通してくれ。」

 「金はいくらでもやる。助けてくれ。」

 「この子だけでも馬車に乗せて。」

 「うわぁぁ~ん」


 老若男女、幼子も含めて皆が恐怖で狂気に取付かれていた。

 押し合い、へし合い、踏みつけにし、皆が逃げ惑う。


 それを遠目に見るアルカイトスは、汚いものでも見るように目を細め、エンドシティに向けて手をかざす。

 「神の矢」

 手の平から一本の光輝く矢が、エンドシティに向けて放たれた。

 矢は都市の中心に着弾した刹那、都市全体が光に包まれた。

 建物も人々も一瞬で消え、空気も掻き消えた後に、周りの空気がすさまじい勢いで吹きこむ。それによって残った残骸もすべて周りに吹き飛んでいった。

 エンドシティは、1秒もかからず、平原と化した。


 「事は良し。」

 その惨状を満足気に眺めながらその目を遠くへ向ける。

 「次はリンデールか?」

 そう呟くと、身体から光の粒が溢れ出し、それが頭上に集まると、光の環に変わった。

 すると、アルカイトスの巨体がゆっくりと浮かびあがり、リンデールの方角へ飛び始めた。

 その身体からは4本の帯のようなものが伸び、その先にはアウローラたちを閉じ込めた箱がつながっていた。


 その頃、一人逃げ出したティアラは、さかんにおれに念話(テレフォン)をかけていた。

 『マスター、応答してください。』

 何度も呼び出すが、おれからの返事はない。

 おれはその頃、別な用事で念話(テレフォン)の受信を切っていた。

 「どうして、どうして、出てくださらないのですか?マスター」

 涙目で恨み言を言うティアラは、猛スピードで空を飛び、目的地に向かった。

 目的地。リンデール王国に。


 **************************


 平原となったエンドシティには、動くものは一つもない。

 かろうじて残った建物の残骸などがところどころに散らばっているだけだ。

 瓦礫の中に建物の壁だったものがあり、扉が被害をまぬがれて残っていた。その扉が少しづつ開いていく。

 中から顔を覗かせたのは、ローザの拷問室に取り残されたリシャールだ。

 あれからリシャールは、不貞腐れて真っ暗な拷問室のなかでふて寝をしていた。

 そこへすさまじい衝撃と大音響が襲い、拷問室は荒波の中の小舟のように大きく揺れた。

 リシャールも壁や天井に身体を打ち付け、最後に頭を打って気絶してしまったのだ。


 どれくらい時間が経ったか、リシャールが目覚めると、部屋は暗いまま。

 揺れはなくなっていた。

 リシャールは恐る恐る扉を開いた。


 視界に飛び込んできたのは、平原と化したエンドシティの姿だった。

 「一体、なにが起こったんだ?」

 訳も分からず、上空を見ると、はるか彼方に光る人型が飛んでいくのが見えた。

 むろんリシャールにそれがアルカイトスの姿であることなど、思いもしない。

 いまは、これからどうしたらいいかということだけが、リシャールの課題だった。


 **************************


 上空を飛ぶアルカイトスの視界に海が映る。

 たしか、海のそばには港湾都市があるはず。

 アルカイトスの頭にあることが閃く。

 それは子供がちょっとしたいたずらをしようという程度の思い付きだった。


 「超震」

 

 アルカイトスの身体から一種の波動が海に向かって放たれた。

 その波動を受けた海面が大きくへこむ。

 そのへこみの周辺は巨大な水の壁となって周りに伝播していく。

 伝播していく水の壁は、徐々に大きくなり、見たこともないような津波となって、すさまじい速度で駆けていった。


 **************************


 リンデンブロックの街角。

 どこにでもある居酒屋にキャンベルとルミュエールが酒を酌み交わしていた。

 「アルカイトス様のところにいかなくていいの?」

 「俺の仕事は終わった。しばらくは自由にさせてもらうさ。」

 「ふふ、死ぬような目にあったんだからそれくらいは許してくれるわね。」

 ルミュエールのあまり上品と言えない笑いを横目に、キャンベルはグラスを開けた。

 「おい、もう一杯」

 ウェートレスに注文すると、ルミュエールは呆れたような顔をした。

 「まだ、飲むつもり?」

 「こんなのは食前酒みたいなものさ。これからが本番だ。」

 「食事もしてないのに?」

 ルミュエールが皮肉を言うと、

 「下手に食い物を喰うと、酒の味がこわれる。」

 と言い返す。

 そこへウェートレスがグラスを持ってきて、テーブルに置いた。

 そのグラスが微かに震える。

 「うん?酔ったかな。」

 「いいえ、違う。」

 ルミェールが真剣な顔になったとき、外から叫び声が聞こえた。

 「津波だ‼」

 居酒屋にいた全員が、その声の方に振り向く。


 リンデンブロックに向かって迫ってくる津波を最初に見つけたのは、停泊中の船で見張りをしていた船員だ。

 「船長に知らせろ。津波だ!」

 下にいる船員が船長室に走った。


 次に気づいたのは埠頭で釣りをしていた漁師だ。

 「なんだ、ありゃ」

 目の前に信じられないような高さの波が迫ってくる。

 あまりの高さに却って現実じゃあないとさえ思えた。

 しかし、それが間違いであることに気付いた時には、男の死は決していた。


 津波はその容赦のない破壊力で、リンデンブロックを蹂躙していった。

 建物という建物は押し流され、すさまじいスピードで迫る波頭は、逃げる間さえ与えなかった。人々は次々と波間に消え、あるいは建物とともに流され、街はあっという間に海原と化した。


 その中でルミュエールは咄嗟に風船を膨らませ、上空へ逃げた。その足にキャンベルが縋りつく。

 「あんた、放しなさいよ。」

 「金輪際離すか!」

 「これは一人乗りなのよ。」

 「一人も二人も同じだろう。ともかく離さねえぞ。」

 それを聞いてルミュエールはため息をついた。

 「しょうがないわね。ほら、あんたの分。」

 そう言って、ルミュエールはもう一つ風船を取り出し、それを膨らませた。

 「あるならさっさと出せ。」

 文句を言いながらキャンベルはもう一つの風船に掴まる。

 

 「一体、これはどういうことなの?」

 風船の上に座り直したルミュエールは、下に広がるリンデンブロックの惨状に蒼白した。

 「おれも訳が分からん。」

 「ねえ、あの女どもの仕業ってことはないわよね。」

 「わからん」

 キャンベルは目の前の惨事に戸惑い、なにも考えられない。

 二人で不安を胸に空中を漂い続ける。


 **************************


 自分の力の発動に満足したアルカイトスは、先を急ぐ。

 残った女、ティアラとか言ったあの女を器にするために。

 「あれを虜にすれば、おれは神として完璧になる。」

 神となった自分を想像して、アルカイトスの心は浮き立つ。

 「リンデールの次は聖教会か。」

 次の犠牲者がアルカイトスの中で決まった。

 飛ぶ速度が速まる。


 一足先にリンデールに着いたティアラは、急いでサリーのいる離宮に向かった。

 首都のマナミは転送攻撃で都市の半分が壊滅し、火災もあちらこちらで発生。もはや、都市機能はマヒ状態であった。

 離宮に入ったサリーは、住民の避難と避難場所の確保。食料の提供と目がまわるような忙しさである。幸い、 バルトシュタインのアイザック皇子が協力を申し出て、それに追随するように、生き残った大臣、貴族も協力して国難に対処しようとしている。

 そんな繁忙のなか、ティアラがやってきた。


 「サリー、サリーはおりますか?」

 「これはティアラ殿。いかがなさいました。」

 王女の従者のクリムがティアラを見つけて、声をかけてきた。

 「クリム殿。サリー王女はどちらに。」

 「ティアラ様!」

 離宮から丁度でてきたサリーが、ティアラの元に駆け寄ってきた。

 すぐに手を握り、潤んだ目でティアラを見つめる。

 「サリー、多くは言いません。すぐにここから避難してください。」

 「避難?避難とはどうしたのですか?ティアラ様。」

 「おそろしい魔神がここに来ます。」

 「魔神?」

 「ティアラ殿!?」

 今度はアイザック皇子がこちらを見つけ、駆け寄ってきた。

 「アイザック皇子も良いところに。すぐにサリー王女を連れて、バルトシュタインに避難してください。」

 「どうしたのですか?」

 「説明している暇はありません。魔神がリンデールを破壊しにくるのです。」

 「破壊!?」

 サリーはティアラの言葉に息を飲んだ。

 同様にアイザックも目を見開く。

 にわかに信じられない言葉だが、言っている相手がティアラだ。嘘や冗談でないことは、いままでの係わりで十分わかる。

 

 「ティアラ殿、アウローラ殿はどうなされたのですか?」

 アイザックはティアラがアウローラと一緒でないことに、疑問を抱いた。

 「アウローラは、魔神に捕らわれました。」

 悔しそうな顔で語るティアラの言葉に、アイザックを驚きを隠せない。

 「アウローラ殿が捕らわれの身?」

 あの強さを見ていたアイザックには、俄かに信じられないことだった。

 「それだけ魔神が強いということです。」

 苦し気に言うティアラの肩に、サリーはそっと手を置いた。

 「夫のテヴェリス殿はどうなさったのですか?いっしょに捕らわれたのですか?」

 「いえ、マスターは……」

 ティアラが口ごもる。

 「逃げたのですか?」

 「そんなことはありません。マスターは別の用事でその場におりませんでした。」

 「別の用事?自分の妻が危険な目に会っているのに、別の用事ですか?」

 アイザックは吐き捨てるように、非難する。


 ティアラは反論ができない。

 実際、おれは現場におらず、みすみす四人をアルカイトスの虜にしてしまった。

 心の底では信頼しているティアラだが、現実はアイザックが言った通りだ。

 そのとき、ティアラの感覚に触れるものがあった。

 検索魔法(サーチ)を発動する。


 ティアラの脳裏に、光る巨人がこちらに向かって飛んでくるのが見える。

 「魔神がこちらに向かっています。サリー、アイザック皇子といっしょにバルトシュタインに逃げてください。」

 「バルトシュタインへ?国民を見捨てて逃げろというのですか?ティアラ様。」

 「人の力が及ぶ相手ではありません。逃げてください。アイザック皇子、サリーをお願いします。」

 そう言って、ティアラは再び翼を広げた。

 「あなたはどこに行くのですか?」

 「魔神の元へ。時間稼ぎをします。」

 「ティアラ様!」

 「サリー、さようなら。アイザック皇子、後は頼みます。」

 真剣な眼差しで二人を交互に見たティアラは、そう言い残すと、勢いよく飛び上がった。

 「さあ、行きましょう。サリー王女。」

 「アイザック皇子。国を見捨てるなど。」

 「あなたがいなくなれば誰がリンデールを立て直すのですか?ティアラ殿があそこまで言うのです。よほどの事でしょう。決心してください。」

 アイザックはサリーの腕を取ると、無理やり離宮へと引っ張っていった。

 

 「ローラ!緊急転送陣を構築しろ。」

 「殿下、いかがなさったのですか?」

 「よくわからんが、災厄が近づいているらしい。」

 「え?」

 「クリム、ローラ殿を手伝って。皆も避難の準備をしてください。余計なものは捨て置きなさい。」

 「王女様、一体なにが起こるのですか?」

 当然の疑問をクリムは発する。その場にいるすべてのものが同じ考えだ。

 「わかりません。しかし、アイザック皇子が言ったように災厄が近づいているようです。」

 その目を有無を言わせぬ迫力があった。ローラやクリムはその迫力に押され、逃げる準備をする。

 サリーはティアラが飛んでいった方向を見やり、心の中で祈った。

 「無事に戻ってきてください。」



 アルカイトスはリンデール首都マナミの上空に辿り着いた。

 下を見れば、自分がとった転送攻撃で都市の方々が破壊され、火災を起こしている。

 「足らんな。」

 下の様子を見て不満を感じたアルカイトスは、更なる破壊のための行動をとった。

 「豪雷」

 呟く様な詠唱のあと、マナミの全域を黒雲が覆い、雲間から稲光が輝く。

 次の瞬間、大音響とともに稲妻が都市全体へ同時に落ちた。

 落ちた所は爆発を起こし、すぐに火災が発生した。


 それが10分ほど続く。


 都市全体が赤い炎で覆われ、その間を人が逃げ惑い、そして焼け死んでいった。


 マナミ全体が焼死した。


 「ふふふ、これで良し。次は聖教会領か。………ん?」

 アルカイトスがほくそ笑んでいると、彼方から近づく者がいることを感じた。

 「ほほぉ~、向こうから来たか?」

 それがティアラであることに、すぐに気づいた。

 天使のような姿のティアラの姿はすぐに大きくなる。

 「我が贄になりに来たか?」

 「これ以上は貴方の好きにさせない。」

 ティアラの悲痛な決心が顔に出ている。

 「ふ、無駄な事を。」

 「ホーリージョベリン(聖光の投槍)」

 光る槍が複数、アルカイトスに向かって放たれた。それをアルカイトスは掌で受け止める。

 「クリーンオブサンライト(浄化の陽光)」

 ティアラの身体が太陽のように光り輝く。

 アルカイトスも思わず、手をかざした。


 その隙に後ろに回り込んだティアラの右手に銀の槍が握られている。

 アルカイトスの後頭部を狙ってその槍を投げた。

 

 槍は見事、アルカイトスの後頭部に命中する。

 しかし、槍は光の粒となり、アルカイトスに吸収されてしまった。


 「くそ!」

 「無駄だ。お前の攻撃なぞ針を刺したほどにも感じん。」

 アルカイトスの首だけが後ろを向く。

 「気味が悪いこと。」

 一言残してティアラが上昇する。

 「逃がさん。雷光の鞭」

 アルカイトスの右手から雷光が放出されると、その光の帯がティアラに向かって伸びた。

 「ケンファッション・レイン(懺悔の涙雨)」

 ティアラの身体が発光したかと思うと、それが無数の光の粒となり、雨のようにアルカイトスに向かって落ちていった。

 「防御魔法(シールド)

 ティアラの前に魔法の盾が出現すると、雷光の鞭を跳ね返した。


 アルカイトスの目の前では無数の光の雨が降り注ぐ。

 その一つがアルカイトスの肩に当たる。

 途端に発光、大きく爆ぜる。


 光の粒は次々とアルカイトスに当たり、その都度、大きく爆ぜていき、それは大きな爆発となってアルカイトスの全身を覆い隠した。


 大音響が轟き、アルカイトスの身体が四散する。


 「よし、皆は?」

 四つの箱はアルカイトスから解き放たれ、地面に落ちていた。

 ティアラはすぐにアウローラの閉じ込められた箱に取りすがり、念話(テレフォン)で呼びかけた。

 

 「アウローラ、聞こえますか?」

 その声にアウローラが薄目を開ける。

 『ティアラ、あいつは……?』

 「とりあえず、やっつけました。」

 『とりあえず?』

 怪訝な表情がアウローラの苦悶の中に浮かぶ。

 「それよりこの箱をなんとかしないと。」

 ティアラはいまだ解けないアポロジィ・キューブを撫でまわし、解除の方法が探った。

 『ご主人様には連絡が取れたの?』

 「それがとれないんです。」

 『とれない?どうして……』

 「それがわからないのです。」

 『ティアラ、うしろ!』

 その声に後ろを振り向いた時、ティアラの襟首が掴まれ、大きく振り回されると、後方に投げ飛ばされた。

 土ぼこりを上げて地面を転がった後、なんとか態勢を立て直したティアラの目に、元の大きさに戻ったアルカイトスの姿があった。


 

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