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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード4 聖地繚乱と昏き神
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22 アルカイトス、昏き神となる 

 アポロジィ・キューブ(絶界の箱)に閉じ込められたアリスは、なんとか箱から抜け出そうと、叩いたり、蹴ったりしたがびくともしない。

 フレイム・ジョベリンを数発撃つが、効果はなかった。

 「アリス、離れていて。」

 叫びとともにアウローラが、別空間の箱(サブスペースボックス)から取り出した竜王の牙で、箱に斬りかかった。

 箱の側面に竜王の牙がめり込むが、切り口ひとつ、かすり傷ひとつもつかない。

 何度切っても、箱は切れず、手ごたえさえもなかった。

 「なに、この箱?」

 「お前たちごときでは、この箱は破ることはできない。」

 アルカイトスが自信ありげにアウローラの前に立ちはだかると、アリスが入った箱を別に出現させた光の腕で頭の上に掲げた。

 「アリスを返せ!」

 アウローラが竜王の牙でアルカイトスに斬りかかった。

 それをさらに別の光の腕が受け止める。

 受け止めるだけでなく、刀身を握ると竜王の牙ごとアウローラを振り回し、投げ捨てた。


 投げられたアウローラは、空中で一回転すると、見事に地面に着地し、怒りの目をアルカイトスに向けた。それは他の三人も同様であった。


 「みんな、本気出すよ。」

 アウローラの言葉に三人が頷く。


 「ふふふ、なにをするか知らんが、もはや遅い。」

 アルカイトスが呪文を唱えると、アリスの閉じ込められた箱とアルカイトスが光の腕を介して、一体となり、すさまじい魔量(エネルギー)が地面から吹きあがると、アポロジィ・キューブに取り込まれていった。


 『きゃああぁぁぁ‼』


 突如、アリスの絶叫が響く。

 四人の頭がハンマーで殴られたような衝撃が走る。

 アリスからの苦痛の念話が前触れもなく、四人に届いたのだ。


 「「「「アリス!」」」」


 四人の目の前で、アリスが悶絶している。

 キューブの壁をひっかき、頭を掻きむしり、立ってられず、キューブの底に倒れ、そのままのたうち回る。

 地面から絶え間なく噴き出る魔量(エネルギー)が、キューブの中のアリスに吸収され、それが光の腕を通して、アルカイトスに注がれる。

 アルカイトスは法悦な表情でそれを受け入れ、高まる魔力で全身が光り輝き始め、着ていた衣服もその威力に細かい粒となって散開していった。


 「ふふふ、ははははは、これだ。この力だ。神の力だ。とうとう私は手に入れたぞ。」

 歓喜に緩む顔を見せながら、裸体となったアルカイトスは、自分を睨んでいる四人に目を向けた。

 「おまえたちもわが一部となるがいい。」

 「冗談でしょ。そんな変態野郎の虜なんてまっぴらごめんよ。」

 「同感」

 「きもい!」

 「破廉恥極まりない。」

 四人が四人ともアルカイトスに嫌悪の言葉を吐く。しかし、アルカイトスは意に介さない。

 「神に逆らうことはできない。」

 「神殺し。いい二つ名ね。」

 そう言い放ったアウローラが、背中から羽根を出し、全身に力を込める。


 「ドラゴン・サイ(竜の吐息)」

 高圧縮の空気の塊がアウローラの口から放たれる。

 弾丸のように飛ぶ塊をアルカイトスは避けるでもなく、真正面から受け止めた。

 すさまじい爆裂音と爆風が辺りを薙ぎ払い、崩れかけた建物はすべて崩壊した。

 しかし、アルカイトスは傷ひとつつくこともなく、普通に立っている。

 「どうした。それが本気か?」

 「そんなわけないでしょ。」

 アウローラの体中から魔量(エネルギー)が噴き出し、魔力が上昇する。それとともにアウローラの目がドラゴンの目に変わり、爪が鋭く伸び、首筋に鱗が生じる。

 「変化(へんげ)か?」

 「ひさびさに竜化したわね。」

 「いくら変化しようと私には通用せんぞ。」

 「そうお!」

 アウローラが風になってアルカイトスに迫る。


 アウローラの爪がアルカイトスの顔を引き裂こうとしたが、それを腕で掃うと、反対の手がアウローラの顔を掴み、そのまま振り回して投げ飛ばした。

 なんとか身体を回転させ、受け身を取ったアウローラは、それでもかなり遠くまで投げ飛ばされた。


 それを追いかけようとするアルカイトスの前に、今度はプリムラが立ち塞がった。

 「女の子の顔を掴んで投げるなんて、なんてことするのよ。」

 怒りで目が紅くなったプリムラは、両手からブラックフレアを放った。

 黒い炎の塊がアルカイトスの胸にぶつかるが、少しの傷もつかない。

 「そんなもの火傷も負わんわ。」

 右手を高々と上げると、その手に金色に輝く巨大なハンマーが出現した。


 「神の槌」

 「ディシィースト・シールド(亡者の盾)」


 二つの武具が真正面から激突した。

 と同時に、恐ろしいほどの悲鳴が辺りに轟く。

 「ぐぬっ」

 アルカイトスの全身に疼痛が走る。

 「どう?亡者の苦痛の味は?」

 「ぐぬ!」

 ほくそ笑むプリムラに向かって、アルカイトスが地面を踏みつける。途端にプリムラの周りに土の柱がそそり立ち、雪崩のように崩れ落ちてきた。

 「瞬間移動(テレポート)

 圧し潰される前にプリムラが移動する。

 背中から黒い翼を出して、空中に浮かびあがったプリムラは、その美しい姿から禍々しい姿へと変化していった。

 ヤギのような角が生え、猫のような瞳に、黒々とした羽毛。

 「私も魔人化はひさしぶり。」

 「似合っているよ。プリムラ」

 アウローラがからかうように隣に並んだ。

 対角線上には、ティアラとローザが浮かび、アルカイトスを囲む形になっている。


 「みんな、ちょっと下がって。」

 アウローラの言葉に従い、三人が離れ始める。

 それを怪訝な顔で見上げるアルカイトスに、アウローラが睨み付ける。

 「覚悟しなよ。アルカイトス。」

 アウローラは四肢と翼を大きく伸ばし、体中の魔量(エネルギー)を身体の中心に集中させ始めた。

 すると、アウローラの身体がほのかに光り始め、まわりの空間が少しづつ歪みだした。

 中心に集まった魔量(エネルギー)が徐々に胸から首、そして口元へと上がっていく。

 「ドラゴン・デスブロー(死の竜撃)!」

 詠唱とともにアウローラの口から超高出力の魔量(エネルギー)が一条の光線となって、アルカイトスに向かって放たれた。

 

 光線は一瞬の間にアルカイトスの胸に、寸分の狂い無く着弾し、急激に膨張した。


 声も上げることもなく、発光する光の塊の中にアルカイトスは消え、なおも膨張する光の塊はやがて、膨大な爆発力となって城全体を押し包んだ。

 巨大なキノコ雲が上空高く立ち上り、爆風が破壊的な威力で周りに吹き荒れ、隣接するエンドシティを襲った。


 「派手だね。」

 アウローラの隣に今度はプリムラが寄り添った。

 隣接のエンドシティは、その外壁が爆風で破壊されたが、街全体が破壊されることはなかった。どうやら魔法壁が効いていたようだ。

 「ローザとティアラは巻き込まれてないわよね。」

 アウローラが心配そうに辺りを見廻す。

 「大丈夫でしょ。」

 気楽に言うプリムラにアウローラも笑みで返す。

 「それもそうね。」

 『それもそうねじゃあないよ。』

 と、いきなりローザから念話(テレフォン)が入る。

 『アウローラ、私たちを殺す気?』

 「だから、離れてっていったじゃない。」

 『デスブローを使うなんて言わなかったじゃない。』

 「そうだっけ?」

 アウローラのとぼけぶりに、ローザはヒステリックに叫ぶ。

 『アウローラ‼』

 「ちょっと静かに」

 プリムラが二人を制した。

 「どうしたの?プリムラ。」

 「動いている。」

 プリムラの視線の先を辿ると、ドラゴン・デスブローの爆心地で光の粒が集まり出していた。

 

 瓦礫と粉塵が雨のように降り注ぎ、爆煙が幾重にもかさなっている中心に光が集まり、形を成そうとしている。それは徐々に以前に見た姿になっていく。


 「アルカイトス…」

 「しぶといね。」

 アウローラとプリムラは並んだ形で、アルカイトスの復活を見守っていた。

 「よし、今度こそ。」

 アウローラが腕まくりのマネをしたとき、プリムラがその行動を制止した。

 「どうやら、みんなでやらないといけないみたいよ。」

 プリムラの懸念通り、アルカイトスの姿が徐々に大きくなっていき、やがて宙に浮かぶ四人の目の前の高さまで巨大化した。

 その右手にはアポロジィ・キューブが乗っており、その中に捕らわれたアリスが、うつ伏せに倒れている。

 「なかなかの攻撃だったが、しょせん魔王クラスだな。」

 アルカイトスの声が直接頭に響いてくる。

 「そう。だったらもっとすごいのを出してあげるわ。」

 「覚悟しなよ。」

 「私も堕天使化しないといけないようですね。」

 「あたしは特別かわらないよ。」

 ティアラの背中から白い羽根が八枚出現し、全身を光の粒が漂い始める。ローザはポシェットから四色の玉を取り出し、それを宙に放り投げた。玉は落ちることなく、ローザの周りを廻り始める。


 「なにをしようが、神たる私に通用はしない。」

 「やってみなきゃわからないでしょ。」

 プリムラが詠唱をはじめた。

 「地獄に捕らわれし、四体の魔神よ。その怨念の声を彼の者に聞かせよ。」

  突如として、アルカイトスの周りに地響きが轟き、地割れが起きたと思うと、その中から四体の異形の魔神が出現した。

 すべてが剣や槍、杭や鎹、釘などで石柱に打ちつけられ、苦悶の表情を見せている。

 「レザントメント・シアター(怨嗟の劇場)」

 四体が同時に聞いたことのないような悲痛な声で高らかに歌い始めた。


 歌とともに呪縛と疼痛、そして瘴気がアルカイトスの全身を捉える。


 アルカイトスの身体が徐々に崩れ始める。


 「こんなもんじゃないよ。」

 ローザの周りを廻っていた四色の玉がローザを離れ、アルカイトスの周りを囲む。

 「エレメンタルライバリィ(元素無消)」

 赤、青、黄、緑の四色の光がそれぞれの玉から迸る。

 そのままアルカイトスに突っ込む。

 四色の光が融合し、白色に輝きを放つと、すさまじい破壊エネルギーが起こる。

 それはアルカイトスの光る身体を爆散させた。


 しかし、まだアルカイトスの存在が消えていない。

 光がまた集合を始めた。


 「スーパーノヴァ・エクスプローション(超新星爆発)」

 ティアラの八つの羽根から八つの光の塊が放たれ、それが再生しようとしているアルカイトスの元へ向かい、目の前で一つとなって大爆発を起こす。


 超魔量(エネルギー)がアルカイトスを融解させる。


 「ファイナルブラックホール(終なる深潭(ついなるしんたん))」

 プリムラの詠唱とともにアルカイトスの頭上に巨大な黒い球体が出現する。

 その中に融解していたアルカイトスが、城の瓦礫とともに吸い込まれていった。


 「アリス!」

 アウローラが一緒に吸い込まれそうになるキューブを掴み、猛スピードで上空へ避難した。


 四人の目の前で黒い球体は徐々に小さくなり、やがて消えて無くなった。


 「終わったな。」

 ポツンというアウローラの目の前で、ティアラがバランスを崩し、落ちそうになるのをローザが受け止めた。

 「ティアラ、大丈夫?」

 「ええ、少し休めば大丈夫よ。」

 「アウローラ、アリスの方は?」

 「かなりやばそう。」

 アウローラは箱の中でピクリとも動かないアリスを見て、心配顔をする。

 そのとき、プリムラが叫んだ。


 「なにかが出て来る!」


 そういう間もなく、なにもない空間に亀裂が走り、そのなかからすさまじい魔量(エネルギー)が噴き出した。その魔量(エネルギー)が形を整え始め、やがてアルカイトスの巨大な姿に変化した。

 

 「うそでしょ!?」

 「どこまでしぶといの?」

 「やってられない。」

 「………」

 

 「アリスは返してもらうぞ。」

 アルカイトスの言葉とともに、箱から光の帯が走り、それがアルカイトスの手につながると、箱はアリスともども、アウローラの手からはぎとられ、アルカイトスの手に納まった。


 「今度は私の番だな。」

 そう言うと、アルカイトスは人差し指を天に向けた。

 薄曇りの空が、さらに雲を厚くし、全体に薄闇が生じる。

 「豪雷」

 そう発すると同時に、空から幾筋ものの稲妻が走り、それが城ばかりでなく、エンドシティにも雨のように落ちた。

 四人はおのおの魔法壁(シールド)を張り、稲妻を防いだが、エンドシティは魔法壁が破られ、五月雨のように降り注ぐ稲妻に、街は破壊され、火災を起こし、大惨事となった。

 人々は逃げ惑い、安全なところへと走るが、その安全と思われるところにも雷が落ち、人々を焼き殺していった。

 「ひどい…」

 ローザが蒼ざめた顔でポツンと呟き、アウローラがキッとアルカイトスを睨んだ。

 「あんたの国の人間じゃあないの?それをああも無残に殺すなんて。」

 「この世界を作り変えるのだ。古きものはすべて破壊する。」

 「それが神様のやること?」

 「神だからこそやれるのだ。」

 アルカイトスが狂気をはらませて高笑いをあげた。

 その笑いを聞いて、アウローラの目が吊り上がる。


 「その神とやらの力を見せてみな!」

 別空間の箱(サブスペースボックス)から朝霧丸を抜くと、八双に構えたままアルカイトスに向かって突進した。

 「絶技、【一文字】!」

 アウローラの腕が朝霧丸とともに一瞬消える。

 「神の剣」

 アルカイトスの左手に光り輝く剣が出現した。


 細い光の線がアルカイトスの真上から縦一文字に走る。


 それにむかってアルカイトスの剣が跳ね上がる。


 すさまじい衝撃音とともに日の光より強い閃光が迸る。


 金属質の折れる音とともに、宙を朝霧丸の刀身が舞う。

 折れた朝霧丸をにぎったままアウローラが地上へ落下する。


 「アウローラ!」

 プリムラの叫びと同時に、ティアラが落ちたアウローラの元に飛ぶ。

 地上に激突し、何回か転がったあとやっと止まったアウローラの右肩に、大きな切り傷があり、ひどい出血をしている。

 アウローラの元に飛んで来たティアラが、すぐさまミューズ・ウォーム(女神のぬくもり)をかけると、たちまち傷は塞がり、アウローラの息が正常のものになる。

 「だいじょうぶ?アウローラ」

 「大丈夫……」

 と答えるが、手元にある折れた朝霧丸を見て、アウローラの目が曇る。

 

 「よくもやってくれたわね。」

 プリムラが怒りの形相を見せる。

 「次はおまえか?そのまえにあの二人を処理するか。」

 アルカイトスが地上にいるアウローラとティアラに向かって手の平を向ける。

 「アポロジィ・キューブ(絶界の箱)」

 「あぶない!」

 アウローラが咄嗟にティアラを突き飛ばす。そのあと、アウローラが光の粒に囲まれたと思うと、アリスと同様の箱に閉じ込められた。


 「アウローラ!」

 ティアラが箱に閉じ込められたアウローラに向かって叫びながらそれに取りすがった。


 「アウローラを出しなさい!」

 プリムラが血走った目で詠唱を唱える。

 「バーニング・プロミネンス(燼滅の黒炎(じんめつのこくえん))」

 アルカイトスの足元に地割れが起き、そこから墨のような黒い炎がすさまじい勢いで立ち上る。それも一本だけでなく、10本ほどの火柱が立ち上った。

 それがアルカイトスを縛り上げるようにねじれ、やがて一本の巨大な黒炎となった。

 プリムラだけでなく、ローザもティアラもそれを固唾を飲んで見守る。


 アルカイトスは黒炎の中で燃え尽きるかと思われた。しかし、それは予想に反する結果となって、三人の目の前に繰り広げられた。

 黒炎の中から巨大な腕が二本、突き出したかと思うと、その腕が黒炎の柱を二つに引き裂いた。そのままその火柱を握り、振り上げ、プリムラに向かって投げつける。

 寸前で躱したプリムラに、今度は光の腕が襲い掛かる。

 「つかまるか!」

 プリムラの腕から黒い翼が飛び出し、光の腕を両断するが、腕はすぐに元通りになり、翼ごとプリムラを掴まえた。

 「プリムラ!」

 ローザが飛んでくる。

 「こないで、ローザ!」

 「はなせ!このやろう!」

 ローザのジャイアントフィスト(巨人の拳)が光の腕を殴りつける。しかし、腕は一旦は光の粒になって拡散するが、すぐに元通りになる。

 「にげて、ローザ!」

 プリムラの必死の言葉に逡巡するローザ。そこへ別の光の腕がローザを掴まえた。

 「アポロジィ・キューブ(絶界の箱)」

 二つの腕は光の粒となり、すぐに箱となってふたりを虜にした。


 それを見上げるティアラは、為す術を知らず、絶望的な気持ちになる。

 『ティアラ、早く逃げて、ご主人様を呼んで。』

 『ティアラ、私たちのことはほっといて。すぐに逃げなさい。』

 アウローラとプリムラからの念話(テレフォン)で我に帰ったティアラは、後ろ髪を引かれる思いで、その場から逃げ出した。

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