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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード4 聖地繚乱と昏き神
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17 プリムラ、単独で乗り込む……続いて、アウローラも…

 アリスの後を追いかけたプリムラは、アリスが城の中に入っていったことを確認すると、まっすぐ正門に向かった。

 城はエンドシティの北の端に位置し、城自体は街の中にない。

 街と城の間には巨大なクレパスが存在し、その間を巨大な橋がかかっている。

 橋を渡ると、巨大な正門があり、両脇には監視塔が睨みを利かせており、来る者を容易に通そうとしていない。

 エンドシティとは違い、アルカイトスの居城は寒風と降雪に常にさらされており、いたる所につららや雪の吹き溜まりがある。城壁や大門には氷雪が石のようにこびりついていた。

 そんな城の正門の前に降り立ったプリムラは、堂々と正門に近づき、どこかに入り口がないかと探り回った。それを監視塔の上から見ていた門番が、プリムラに向かって、魔道具で声をかけた。

 「おい、おまえ、ここに何の用だ!」

 腹に響く様な大声がプリムラに届く。

 思わず、耳を塞ぐプリムラ。

 「うるさいわね。もう少し静かに話せないの?」

 「こちらの質問にだけ答えろ。貴様、何者で、ここに何しに来た。」

 「私の友達がこの城に入ったから会いに来たのよ。」

 「ともだち?」

 監視塔に詰める二人の獣人は、なんのことだ?という顔をして首を傾げた。

 「ねえ、この門を開けてよ。」

 「うるさい。おまえのような胡散臭い者を通すわけにはいかん。さっさと帰れ。」

 威圧的に叫ぶ門番の獣人に、プリムラは大きくため息を吐いた。

 「また、このパターン。どこも同じね。」

 プリムラは目の前の大門に対し、身構えた。

 「何をする気だ。あの女。」

 二つある監視塔の窓から門番たちが顔を出し、門の前で構えるプリムラを興味深く眺める。

 「ブラックレザーウィング(漆黒の鋭翼)」

 プリムラの背中から出現した黒い翼が、目にも止まらぬ速さで、大門を薙ぎ払う。

 甲高い金属音とともに、大門に四角い筋ができる。

 監視塔の門番たちは、なにが起こったのかと固唾を飲んで見守っていた。

 やがて、四角い筋にそって、大門が向こう側に倒れ、大門に入り口のような穴ができた。プリムラは何事もなかったようにその穴を潜り抜ける。


 門番たちが大門が破られたと気づいたのは、しばらくしてのことだった。

 「侵入者だ!」

 「警備兵を呼べ!」

 監視塔にある鐘が、これでもかと叩かれる。

 その音は、城内を騒然とさせた。

 大門を潜り抜け、城の入口に続く正面広場を歩くプリムラの前に、あらゆるところから警備の兵たちが雲霞のごとく現れた。

 「まあ、よくもこんなに。」

 呆れたような顔のプリムラの周りを、警備兵は幾重にも取り囲んだ。

 その中から隊長らしき背の高いリザードマンが現れた。

 鈍い銀色の兜と胸当てをつけた屈強な亜人だ。

 「おまえが侵入者か?」

 プリムラのあまりに侵入者らしからぬ服装と態度に、警備隊長は戸惑う。

 「侵入者ってのなんかね。私は友達を訪ねてきただけなんだけど。」

 「ともだち?」

 門番とおなじような疑問を口にする警備隊長。その反応にプリムラは少し呆れた顔をする。

 「この城にいるんでしょう。アリスという女性が。」

 「アリス!?」

 その名前に心当たりがあるのか、警備隊長は驚きの顔を見せる。

 「知っているようね。会わせてよ。」

 「そのような者は知らん。それよりこのようなことをして、ただで済むと思っているのか?」

 「そんなありきたりな言葉じゃなくて、アリスの居場所を教えてって言ってるの。」

 「だまれ!」

 警備隊長の持つハルバートがプリムラの首を跳ねようとした。


 しかし、直前でハルバートが止まる。


 プリムラが柄の部分を掴んで受け止めたのだ。

 警備隊長に驚愕と危機感の混じった表情が浮かぶ。

 すぐにハルバートを引こうとするが、動かない。

 「ダークランス(闇の魔槍)」

 警備隊長の足元から漆黒の槍が突き出し、股間から口にかけて突き抜けた。

 一瞬で絶命した警備隊長を見て、取り囲む警備兵たちに恐怖が伝播した。

 口々に訳の分からないことを口走って、襲い掛かる者、逃げ出す者、辺りはパニック状態だ。

 「ああ、うるさい!」

 叫びとともに黒い炎が、プリムラの身体から噴き出し、取り囲む警備兵たちに覆いかぶさった。


 一瞬で喧騒は静まり、あとには白い灰だけが残っていた。


 「もう、邪魔しないでよね。」

 プリムラは城の入口へと歩いて行った。


 城から上がった火柱は、街の中にいたローザの目にもはっきり見えた。

 「プリムラ、はじめちゃったな。」

 いま、ローザはエンドシティにいくつかある広場のひとつに身を置いて、アウローラとティアラを待っているのだが、城の方であがった火柱に不安を感じていた。

 いつもなら笑って眺められるのに、今回に限ってなにかいやな予感が楽天家のローザの心にも過っていた。

 「アウローラたち、早く来ないかな?」

 そう思って街の正門のほうへ目を移すと、こちらに向かってくる二つの点を見つけた。

 「あっ、来た来た。」

 二つの点はすぐに人の形となり、アウローラとティアラの姿となり、正門の前に降りてそのまま街の中に入ってきた。

 『ローザ、いま、どこにいるの?』

 「正門からまっすぐ伸びる大通りの先にある広場にいる。」

 『わかった。すぐ行く。』

 簡単に念話(テレフォン)でやりとりを済ませ、待つこと数分。

 アウローラとティアラがその姿を現した。


 「待たせたわね。それで状況は?」

 「さっき、城の方から火の柱があがった。プリムラがやったみたい。」

 「そう、さっきプリムラはアリスを追いかけていったといってたわね。ローザは見たの?」

 「ううん、リシャールとかいうやつに聞いた。」

 「リシャール?」

 アウローラが首を傾げたので、ローザが補足する。

 「ほら、イースドアでアリスを攫ってったやつらのひとり。」

 「ああ、あの優男。」

 アウローラがやっと思い出した。

 「それで、そのリシャールとかいう人はどこにいるのですか?」

 ティアラが落ち着いた表情で尋ねた。

 「あたしの拷問室に閉じ込めているよ。」

 「そうですか。」

 ティアラが考え込み始めた。

 「とりあえず、プリムラに連絡してみましょう。」

 「さっきは通じなかったよ。」

 「興奮して気が付かなかったかもね。私が呼んでみる。」

 そう言ってアウローラがプリムラに向けて念話(テレフォン)をかけた。


 「プリムラ、プリムラ、聞こえる?聞こえたら返事をして。」

 アウローラが何度か呼びかけると、プリムラにやっと通じた。

 『アウローラ?着いたの?』

 「ええ、たったいま。あなた、ひとりで乗り込むなんて、勇み足じゃあない?」

 『ごめんなさい。アリスを見かけて。呼びかけたんだけど返答がないし、なんか様子がおかしくて、心配になっちゃって追いかけたの。』

 「いま、どのへん?」

 『城の入り口の近く。』

 「そこで待っててくれる。私も行くわ。」

 『わかった。待ってるね。』

 そこまで話して念話(テレフォン)を切ると、アウローラはティアラとローザへ顔を向けた。

 「じゃあ、プリムラのところに行くけど、二人はそのリシャールとかいうやつから城の情報を仕入れてくれる?」

 「えっ、いっしょにいっちゃいけないの?」

 「私もプリムラも城の中はなにもわからない。ま、めったことはないと思うけど、アリスの居場所を探すうえでも城の中がわかったほうがいいと思うし。ティアラは外部から城の中味を探ってみて。ローザはリシャールから情報収集。お願いね。」

 「わかった。」

 「わかりました。」

 アウローラが二人に指示すると、背中から翼を出し、城に向かって飛び立った。

 それを見送った二人は、リシャールを軟禁している拷問室へと向かった。


 城の入り口でアウローラを待っているプリムラは、退屈そうな顔をして入り口の階段に座っていた。

 そんなプリムラの鼻腔に興味をそそる香りが届く。

 

 おいしそうな匂い。

 

 プリムラの料理に対する嗅覚は、その香りを一級品の料理の匂いと判断する。

 「なに、この匂い。」

 その匂いに釣られるように、プリムラは立ち上がり、城の中に入っていった。


 廊下を曲がり、匂いを辿って歩き続けていくと、調理場特有の喧騒が耳に届く。

 「ここね。」

 プリムラにとって心地よいその喧騒とおいしそうな匂いに魅かれて、プリムラは目の前のドアを押し開けた。


 目の前に広がるのは、恐ろしく大きな調理場。

 長く並べられたキッチン台。数えきれないほどの食器をしまい込んだ食器棚。食材を保管しているであろう冷蔵庫、オレンジ色の炎が立つ焼き場。そして、野菜や果物を洗う洗い場。

 一流レストランでもここまでの設備は揃ってないだろうというくらいの設備が、広い部屋いっぱいに置かれていた。そして、その間を忙しく動き回る調理人たち。

 みな、白衣を纏い、白いキャップを被り、口元にはマスクをしている。

 それが一人の男の指示で、見事に連携を取って動いているのだ。

 「すごい。」

 さしものプリムラも感嘆の言葉を吐く。


 入り口で立ち尽くすプリムラを、傍らで盛り付けをしていた男が気づく。

 「おい、そこに立ってられると邪魔なんだが。」

 横柄な言い草でプリムラのそばに歩み寄る男に、プリムラは好奇心の目を向けた。

 「ねえ、いま、何を作っているの?」

 「なにって、城主様が食するディナーを作っているところだが。」

 なにを言っているんだという目で、男はプリムラをジロジロと眺めた。そこへよく通る声で叱責が飛ぶ。

 「おい、なにを遊んでいるんだ。盛り付けが止まっているぞ。」

 例の指示を与えていた男だ。

 その男の叱責に首をすくめた男は、そそくさと元の位置に戻った。

 指示を与えていた男は、プリムラの存在に気づき、ゆっくりとそばに寄る。

 「あなたは、どなたですかな?」

 「私、プリムラと言います。一応、料理人をしておりますが、料理の匂いに誘われてここまできました。」

 プリムラは、子供のようなキラキラした目で調理場を眺め、作られる料理を見つめている。

 そんな彼女の姿に、男は料理人としての共感を覚える。

 「プリムラさんとおっしゃったかな。見るのはかまわんが、邪魔だけはしないでくれ。」

 男は優しい口調で諭す。

 「はい、あの、あなたは料理長ですか?」

 「ああ、この城の料理長で、クーパーという。」

 そう名乗って、クーパーはまた、元いた位置に戻っていった。

 

 そのころ、アウローラがやっと城の正面広場に到着した。

 連絡によれば、城の入り口でプリムラが待っているはずだが、その姿が見えない。

 「まったくもう。待っててっていったのに。」

 むかっ腹で頬を膨らませながら、アウローラは城の中に入っていった。


 さすがに城内は広い。

 右も左もわからないアウローラは、あっという間に迷ってしまった。

 聞こうにも、なぜか城内に人の姿が見えず、アウローラは途方に暮れてしまう。

 「ローザかティアラに聞いてみるか?」

 そう思ってアウローラは、ローザに念話(テレフォン)をかけた。

 『はいは~い。』

 ローザの元気のいい声が頭に響く。

 「ローザ、城内が広すぎて、アリスの居所がわからない。なんか情報はない?」

 『いま、聞いてみる。』


 拷問室に場所を移したローザは、目の前で床に座るリシャールに、アリスのいそうな場所を聞いた。

 「前にもいったろ。北の離れだって。」

 「北の離れって言ったって、どう行けばいいかわからないでしょ。」

 「今いる場所もわからないのに、説明のしようもないだろ。」

 お互いに言い合っているそばで、ティアラがアウローラと念話(テレフォン)を交わしている。

 「お話し中すみませんが、アウローラは城の入り口付近にいるようです。」

 そして、詳しい場所をリシャールに伝えると、リシャールも的確に北の離れの行き方を教え、それをそのままアウローラに伝える。

 「ただ、いま、いるかどうか、わからねえぞ。」

 「なによ。いいわけ?」

 ローザがまた噛みついた。

 「アリスも目覚めて、自由に城の中を行き来してるんだ。その部屋に閉じこもっているわけじゃないよ。」

 リシャールの正論に、ローザは反論ができない。

 言い争いが落ちついたところで、アルカイトスの所在をティアラは聞いた。

 

 「アルカイトス様は普段は地下の書斎にいらっしゃる。ただ、おれたちは、おいそれとは近づけないがな。入れるのは執事のアルフレッドかアリスくらいだ。」

 「アリスはよほどアルカイトスに気に入られているのね。」

 「ま、アルカイトス様も男だからな。アリスの魅力には勝てないってことか?」

 「なに、知ったような。」

 ローザが横で皮肉る。それを聞いてリシャールが睨む。

 また、一触即発の状態だ。


 『なんか、雑音がはいるんだけど、大丈夫。』

 アウローラから心配そうな念話(テレフォン)がティアラに入る。

 「単なるじゃれあいです。こちらは大丈夫ですからさきほど教えたとおりに北の離れに行ってみてください。私もじきにそちらに行きます。」

 『わかった。プリムラが先に城に入っちゃって行方知れずだけど、ま、大丈夫でしょう。』

 楽天的に連絡してアウローラは念話(テレフォン)を切った。

 

 「さて、私も行きますか?」

 ティアラは身なりを整えて、拷問室を出ようとした。それを見て、ローザが追いかける。

 「置いてかないでよ。ティアラ。」

 「リシャールはいいの?」

 「聞きたいことはだいだい聞いたから、もういいよ。」

 ふたりは揃って拷問室を出ようとする。その後ろでリシャールが怒鳴る。

 「おい、おれはどうなるんだよ。」

 「好きなようにしたら。ここにいるもいいし、外へ出るもいいし。」

 「ほったらかしかよ。」

 「いろいろありがとうね。じゃあ、バイバイ。」

 ローザは笑顔で手を振ると、ティアラとともに拷問室を出た。

 「ここでも用済みかよ。」

 不貞腐れたようにつぶやいたリシャールは、石造りの床に寝転がった。


 北の離れの場所を教えてもらったアウローラは、教えられた通りに城の中を進んでいった。

 相変わらず、城内は人の気配がない。

 「だれもいないっていうのも不気味ね。」

 そう言いながら先へ先へと進むアウローラは、教えられた北の離れに辿り着いた。

 なかなか洒落た離れは、城とは別棟になっており、屋根付きの廊下で結ばれている。その廊下を進むアウローラは、離れの入り口の前にだれかいるのに気付いた。


 「やっと人に出会った。」

 入り口に立つのはメイドである。

 メイドはアウローラを真っすぐ見つめた後、ゆっくりと頭を下げた。

 「いらっしゃいませ。」

 「ああ……」

 なんか勝手が違うと思うアウローラは、戸惑いの表情を見せる。

 「それで、こちらにどんな御用でしょうか?」

 「あの、アリスを探しに来たんだけど、ここにいるの?」

 「アリス様ですか?あいにく、こちらにはいらっしゃいません。」

 「どこにいるか、わからない?」

 アウローラは遠慮なく、メイドに尋ねていく。

 「アリス様は、地下のアルカイトス様の書斎にいらっしゃると思います。」

 「そ、ありがとう。」

 アウローラは踵を返し、元来た廊下を戻ろうとした。それを見て、メイドが呼び止める。

 「あの、どちらにいらっしゃるのですか?」

 「え、書斎とかいうところにいくんだよ。アリスがいるんでしょ。」

 「それはこまります。書斎にはアルカイトス様以外、通せないことになっております。」

 「そんなこと知らないわ。私はアリスに会いたいの。」

 アウローラは、メイドを無視して先へ進もうとした。

 「しかたありません。強制的に阻止させていただきます。」

 メイドがスカートの下からスティレットを抜くと、目にも止まらぬ速さでアウローラの背後から心臓を狙った。


 しかし、それ察知しているアウローラは、寸前で身を翻し、スティレットを持つメイドの手を叩く。

 

 スティレットは、簡単に床に落ちた。

 

 「やるっていうの?」

 アウローラはこの展開を楽しんでいる。

 「はい、アルカイトス様の邪魔をする方は、すべて排除させていただきます。」

 「あんた、名前は?」

 「メアリと申します。」

 アウローラの問いに素直に答えるメアリの表情は、最初に会った時から笑顔だ。いまもその笑顔を崩さない。

 

 崩さず、二本目のスティレットを抜き、アウローラに襲い掛かる。

 アウローラの右手が別空間の箱(サブスペースボックス)に伸びる。


 メアリのスティレットが、今度はアウローラの右目を狙う。

 

 下からアウローラが抜いた朝霧丸が、高速で振り上がる。

 メアリのスティレットがその腕ごと弾きあがる。


 床にスティレットが落ちて、突き刺さった時には、メアリは血飛沫を上げて倒れていた。


 「あっけないわね。」

 期待外れに少しがっかりしたアウローラは、朝霧丸を別空間の箱(サブスペースボックス)にしまうとその場を立ち去ろうとした。

 

 「お待ちください。」

 

 背後から、さっきまで聞いていた、メアリの声が聞こえてくる。

 思わず振り返るアウローラの目に、さっきと同じ笑顔で立つメアリが映った。

  

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