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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード4 聖地繚乱と昏き神
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15 さて、おれたちはどうなったかというと……

 王宮地下での大爆発。

 その瞬間、おれは時間停止(ポーズ)を唱えた。

 

 俺以外の時間が凍りついたように止まる。

 「ふう、間に合ったか。」

 一息ついたあと、周りを見ると、アウローラやティアラはもちろん、この王宮にいるすべてが固まっている。

 「さて、これからどうしたものか。」

 おれは、床に胡坐をかいて、しばし思案にふける。

 「やっぱり、転移するしかないな。しかし、どこか適当なところはあるかな。」

 もう一度考える。

 「コンシェル。」

 『はい、テヴェリス様。』

 呼び出しと同時に、おれの頭の中に返事が返る。

 「悪いが、この近辺の地図を送ってくれ。」

 『畏まりました。』

 その返答とともに、おれの脳裏にこの王宮を中心にリンデールの地形が映し出される。

 「王都はあちこち爆発騒ぎで無理があるな。そうなると……、ああ、あそこがいいな。広いし、多少の大きいものを移しても大丈夫だろう。」

 その場で立ち上がったおれは、転移する範囲を考えた。

 「あの失礼皇子はどうするか?このまま、死なすのも後味悪いしな。助けるか。」

 そう決めると、王宮の大部分に空間閉鎖(セレクション)をかける。

 「時空抜出(カット)時間停止(ポーズ)解除、目標、リンデール離宮、時空定着(ペースト)

 

 爆発騒ぎで右往左往している民衆の目の前で、王宮が大爆発を起こし、爆炎と黒煙が高く舞い上がったあと、その周りに粉塵と瓦礫が雨のように降り注いだ。

 一瞬で、王宮は跡形もなく無くなってしまった。


 離宮では、遠く王宮の方角から黒い煙が立ち上るのを、衛兵たちが心配そうに見ていた。

 そのとき、すさまじい地響きとともに離宮前の庭園に巨大な建物が出現した。

 その場にいた衛兵や離宮にいた使用人全員が、その出来事に驚愕し、腰を抜かす者、神に祈る者、失神する者も出た。

 

 「うむ、なんとかうまく着地できたみたいだな。」

 「ご主人様、ここはどこですか?」

 「マスター、わたしたちは爆発に巻き込まれたのでは?」

 転移と同時に時間が動き出し、アウローラやティアラは自分たちが何ともないことに面食らい、目の前にいるおれに説明を求めた。

 今だ、この場の状況がまだつかめていないようだ。

 「爆発寸前に離宮に転移した。大丈夫だよ。」

 「え?離宮に転移したのですか?でも、まだ王宮の中のようですが…?」

 ティアラが周りを見渡す。

 たしかに自分たちのいる場所は、あの時いた眺望の間だ。

 「王宮の一部ごと転移した。」

 おれはなんでもないように説明すると、二人の目が大きく見開いた。

 「王宮ごとですか?」

 「そうだ。なんか問題でもあるか?」

 「いえ、問題はないですが……」

 アウローラは信じられないという顔でおれを見つめる。

 「そういえば、サリーは?」

 ティアラがサリーのことを思い出し、周りを見廻す。

 

 当のサリーは通話用の魔道具を握ったまま、床に倒れていた。

 「サリー、大丈夫ですか?」

 そばに駆け寄ると、ティアラはサリーの手を取り、胸にもう片方の手を当てた。

 しばらくそのまま体勢でいたティアラは、やがて安堵したような表情になる。

 「気絶しているだけのようです。」

 「転移した時、頭でも打ったかな?」

 おれが心配そうにのぞき込むと、ティアラは笑顔を向けた。

 「特に心配するような傷や打撲はないようです。体内も見てみましたが、骨折や脳障害もないようです。」

 「そうか、よかった。」

 ティアラの言葉に、おれはホッと息をついた。

 「ご主人様、アイザックたちはどうしたのですか?まさか、あの爆発に巻き込まれて……」

 アウローラが不安な顔つきになる。

 アイザックが気になるとは、意外だな。

 「アイザックたちは無事だよ。謁見の間も含めて王宮を転移したからな。」

 「そうですか。」

 アウローラもホッと息をつく。それを見て、おれが口角をあげると、

 「なにかおかしいことを言いましたか?」

 と、アウローラが首を傾げる。

 「アイザック皇子のことが気になるようだな。」

 いじわるな言い回しに、アウローラが顔を赤くした。

 「ご主人様、私はただ、心配になっただけで、それ以上のことはなにも…」

 「わかってる。わかってる。」

 アウローラが必死に言い訳する姿をかわいく思いながら、おれはアウローラを落ち着くように諭した。


 「さて、これからどうしたものか?」

 「とりあえず、サリーとアイザック王子たちを離宮に運び入れないといけませんね。」

 そうティアラが提案したとき、サリーが気が付いた。

 「う~ん…」

 「サリー、気が付きましたか?」

 「あっ、ティアラさん。」

 サリーはティアラの姿を見ると、喜びのあまり起き上がろうとした。

 「サリー、無理をしてはいけません。」

 「ここはどこですか?」

 「眺望の間です。ただし、場所は別なところですけどね。」

 「別な場所?」

 ティアラの言っている意味がわからず、サリーは壊れた窓から外を眺めた。そこには見慣れた王都の景観ではなく、離宮の静かな佇まいが見えていた。

 「あれは、離宮?」

 「そう、爆発を回避するためにここへ転移しました。」

 「転移って…」

 さっきまで王宮で爆発騒ぎに右往左往していたのに、気が付けば離宮の敷地にいる。しかも王宮ごとだ。混乱しない方がおかしい。

 「ともかく、離宮に移って休んでください。」

 ティアラがサリーを抱きかかえると、壊れた窓から外へ飛び出した。当然、羽根を出し、離宮へと飛んでいく。

 おれもアウローラに連れられて離宮へと移動した。


 サリーの指示で、王宮に残っていたアイザック皇子やローラ、リンデールの貴族たちなどが離宮へと移された。

 アイザック皇子はさしたるケガもなく、すぐに意識を回復した。

 当然、アウローラ殿はと、大騒ぎしたが、ローラがなだめすかして客間で落ち着いている。

 連中のことはサリー王女に任せ、おれたちは今後のことを話し合った。


 「あの攻撃をどう思う。ティアラ。」

 「完全にリンデールを壊滅するためになされた攻撃だと思います。」

 「だろうな。なんか昏い思念を感じる。」

 おれが腕組みをして考えていると、アウローラが横から話しかけてきた。

 「あのシルヴァーナを追い駆けなくていいんですか?」

 「もちろん、追いかけるさ。あいつはアリスを攫った奴だからな。」

 「でも、どこに逃げたのでしょう。」

 「当然、アルなんちゃらのところだろう。」

 「と、いうことはバースエンドですか?」

 「そうだな。ん?」

 「どうされました?ご主人様。」

 「コンシェルから連絡だ。」

 そう言って、おれはコンシェルからの連絡を受けた。


 アウローラとティアラは、コンシェルと話すをおれを黙って見守っている。

 一通り話し終えたおれは、二人の方へ身体を向けると、

 「ちょっと城に帰る用事ができた。おれは一旦戻る。」

 「では、私たちも。」

 アウローラとティアラは同行しようとしたが、おれはそれを留める。

 「いや、アウローラとティアラはこのままバースエンドに向かってくれ。プリムラとローザが何か掴んでいるかもしれない。連絡を取って、おれにも報告してくれ。」

 「わかりました。」

 アウローラとティアラは、素直に頷くと、そのまま飛び上がり、北の方へ飛んでいった。


 一人残ったおれは、コンシェルにまた連絡する。

 「コンシェル、城まで転送を頼む。」

 『承知しました。テヴェリス様。』

 途端におれの周りが光に包まれる。

 『転送を開始します。』

 そう聞こえると、おれの身体は離宮から消えて無くなった。


 城に転送してきたおれは、さっそくスタッフルームに入った。

 「コンシェル、報告とはなんだ。」

 「テヴェリス様に依頼された漏洩個所とその干渉している者が特定されました。」

 「聞こう。」

 「漏洩個所は十三世界の座標、N64°10′、W61°45′、地下30mの地点から漏洩が確認できました。原因は無理な地形形成からくるゆがみと思われます。」

 「製作するとき、すこし急ぎすぎたかな。」

 「漏洩からくるカオス量は微々たるものですが、十三世界に存在する個体種にとっては大きな魔量(エネルギー)となります。」

 「だろうな。それで十三世界における地形名はなんだ?」

 「十三世界における地形名はバースエンド、その中心部、エンドシティという名称で呼ばれるところです。」

 「バースエンド…」

 おれの中でいやな予感が広がる。

 「それで、干渉している個体種の名称は?」

 「干渉している個体種の名称は、アルカイトス。魔王職を附帯する者です。」

 「アルカイトス?」

 プリムラやローザが探しているやつの名前は、アルなんちゃら。アルカイトスか?

 なんか特大の面倒事に巻き込まれたような予感がする。

 急いでバースエンドに行かないと。


 おれがバースエンドへの転送を依頼しようとした時、スタッフルームにホットラインが入る。

 「なんだ?ホットラインなんて。何百年いや何千年ぶりだぞ。」

 おれは、宛名を確認する。

 「あいつか~」

 その名前を見て、おもわずため息が出る。

 無視しようとした時、甲高い、覚えのある声が響く。

 「ヤッホー、テべ君元気!」

 「なんだ、おれはいそがしいんだぞ。」

 「あ、そんなこというんだ。久しぶりだっていうのに。」

 「おまえのほうから音信不通になったんだろう。」

 「えへへ、そんなことはどうでもいいからさ、助けてよ。」

 「助ける?どうして、おれがおまえを助けなきゃいけないんだ。」

 「あ、そんなこと言うんだ。リータン泣いちゃう。」

 「勝手に泣いてろ。ともかく、おれは忙しんだ。」

 「ねえ、ほんとにこまってるんだからさ、助けてよ。」

 こいつの強引さは、いつのもことだが、今回はちょっと必死だな。

 「いったいどうしたんだ?」

 「それがさ、一世界でビックバンが起きそうになってんのよ。」

 「ビックバン?一世界で。あそこは最初に構築に失敗して放棄したところだろう。なんで、ビックバンが起こるんだよ。」

 「それがさ、ちょっとしくじって…えへっ」

 話を聞いてみると、別の世界をいじって遊んでいる途中、過剰エネルギーが発生し、それを放棄した一世界に捨てたらしい。

 「おい、ゴミ箱じゃあないんだぞ。それでそのエネルギーが不安定な一世界に影響して、ビックバンを起こしそうになったってわけか。」

 「そのとおり。このままだと、あたしのところに被害が出ちゃうの。お願い、助けて。」

 「他のやつは?」

 「あいつら、冷たいんだから。全員無視。テべ君が最後の頼みの綱。おねが~い。」

 甘ったるい声で懇願するこいつのことは、ほっとこうと思ったが、この状況では他の世界に連鎖反応を起こしかねない。下手をすると、この城にも影響があるかも。

 「わかったよ。おれから他のやつにも頼むから、待ってろ。」

 「ありがとう!感謝する。」

 そう言って、ホットラインは切れた。

 おれはため息をつきながら、念話(テレフォン)でプリムラを呼んだ。


 「プリムラか。いまどこにいる?」

 『旦那様ですか。いま、エンドシティに向かっているところです。』

 「そうか。いま、そちらにアウローラとティアラも向かっている。アリスを攫ったシルヴァーナとかいうやつがそっちに逃げたらしい。」

 『シルヴァーナ?だれですか。それ。』

 「ああ、そうか。プリムラは知らないんだな。リンデールの王妃だが、正体はイースドアのなんとかという女だ。」

 おれもたいがい、人の名前を覚えるのが苦手らしい。

 『エミリーとかいうやつでしたっけ。そいつがこっちに逃げているんですね。』

 「そういうことだ。アウローラたちと連絡をとってアリスを取り返してくれ。おれは、ちょっと用事ができてすぐにはいけそうにない。」

 『用事?用事とは。』

 「野暮用だ。ともかく、そっちはおまえたちにまかせるから。たのむぞ。こっちの用事が済み次第、急いでそっちにいくから。」

 『わかりました。』

 プリムラとの念話(テレフォン)を終了すると、ホットライン起動をコンシェルに命令する。

 「どちらにお繋ぎいたしますか?」

 「とりあえず、あいつだな。」

 そう言っただけで、コンシェルはおれの意図を組み、ホットラインを目的の者に繋いでくれた。



 おれからの念話(テレフォン)を受けたプリムラの目の前には、エンドシティが見えていた。

 「あそこがエンドシティのようだね。」

 「そうね。一種の城塞ね。」

 目の前に見える都市は、巨大な外壁に周りを取り囲まれ、その頭上にドーム状の魔法壁が屋根のように乗っかっている特異な形の都市であった。

 その都市から北の端のほうに目立つ城が見える。

 あれがアルカイトスの居城のようだ。

 「街の中に城があるわけじゃあないんだね。」

 ローザがめずらしそうに眺める。

 「とりあえず、街に入りましょう。アウローラたちとも合流しないといけないから。」

 ふたりは城壁に設けられている正門に向かった。


 正門の前に降り立ったふたりは、それが大きく開いていることに少なからず驚愕した。しかも、門番らしい人間が見当たらない。ただ、受付所に人がいるだけだ。

 ふたりはお互いに顔を見合わせた後、ゆっくり正門に向かった。

 彼女らのほかにも荷馬車や冒険者らしきグループなど受付所で検閲を受けている。

 ふたりも受付所の前に立つと、係官が出身や来訪目的などいくつかの質問をしたあと、すんなり通してくれた。

 「ずいぶんとあっさり通したわね。」

 「警戒しないのかな?」

 「まあ、とりあえず宿屋を探しましょう。」

 ふたりは宿屋を探すべく、街の中へと消えていった。

 それを見送る四つの目。

 受付所にいた係官のひとりが奥へと消える。かわって、ひとりのブロンド髪の青年が顔を現す。

 リリアナの処から逃げてきたリシャールだ。

 「やっぱり、現れやがったか。」

 「アルカイトス様に報告します。」

 係官が腰から通話用の魔道具を取り出す。そして、いま、正門を通っていった二人の女性のことを話すと、向こうから何かの指示が聞こえてくる。

 通話を終え、魔道具をしまった係官は、リシャールに顔を向ける。

 「なんて言ってきた?」

 「しばらく泳がせろと。ただ、所在だけは掴んでおけとのことです。」

 「ま、そうだろうな。」

 リシャールは二人の消えた方向に足を向けた。


 ここは、アルカイトスの城内にある応接間。

 リシャールの報告を受けて、アルカイトスは傍らに座るアリスに視線を向けた。

 「いよいよ、君の出番かな。」

 「主様のおおせのままに。」

 アリスが静かに返事をしたとき、扉が乱暴に開かれた。

 その後ろに立っていたのは、リリアナ。

 「リリアナ様、どうか、落ち着いてください。」

 その後ろで執事がリリアナを宥めようとしていた。

 「うるさい!わたしはアルカイトスに話があるのよ!」

 「アルフレッド、よい。ワインでも持ってきてくれ。」

 「畏まりました。」

 執事のアルフレッドはうやうやしく頭を下げ、部屋の扉を静かに閉めた。

 

 部屋にはアルカイトスとリリアナ、そしてアリスが残る。

 「私は外しましょうか?」

 「いや、よい。ここにいてくれ。」

 リリアナは、アルカイトスの隣で佇んでいるアリスの姿を見て、驚き、目を見張った。

 「あなた、目覚めたの?」

 「ええ、おかげさまで。」

 アリスはその魅惑的な笑顔をリリアナに向けた。思わず、見とれるリリアナ。

 「で、リリアナ。何の用だ。」

 アルカイトスの問いに我に帰ったリリアナは、また、怒りの表情を見せる。

 「あなた、なぜ、リンデールを攻撃したのよ。」

 「おや、ルミュエールに聞かなかったか?」

 「聞いたわよ。例の強者が現れて、私を逃がすために攻撃したって言うんでしょ。」

 「わかっているじゃあないか?」

 アルカイトスは、生徒が正しい答えを導きだしたときに見せるような微笑みを、リリアナに向けた。

 「私を逃がすだけであれほどの攻撃がいるの?」

 「君を逃がすだけなら…、いらないな。」

 すまし顔でサラッと言い放つアルカイトスに、リリアナは驚愕した。

 「いらないのに、あんな攻撃をしたってわけ?」

 「いや、必要だからやった。」

 アルカイトスの顔から表情が消える。氷のような無表情がリリアナを不安にさせる。

 「ど、どんな必要があるというのよ。」

 「聖地のまわりの余計なものを取り払うためだよ。」

 「余計なもの?」

 「そう、リンデールだけではない。バルトシュタインも聖教会領もあわせて、この世から消し去る。いや、この世界を作り直すと言った方が正確かな。」

 「世界を作り直す?」

 リリアナは、大真面目に語るアルカイトスを奇異な目で見つめた。

 「どういうこと?」

 「私が神となり、私の理想とする世界を作るということだよ。」

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