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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人たち  作者: 甲陽晟
エピソード1 おいしいプリンと魔王討伐
5/77

4 卵をもらいにいくところは、魔王バニラ?のところ…

 プリムラとティアラが焼け跡のそばで立ち尽くしているところへ、村人が三々五々と集まってきた。中には先ほどの村長もいる。

 村人たちは目の前の状況にあっけにとられ、同じように立ち尽くした。

 「これはあんたたちがやったのか?」

 村長が呆然とした表情で尋ねた。

 「そうですね。」

 ティエラが冷静に答えた。

 「魔王の配下を倒したというのか?」

 若者が驚いたような顔をして、プリムラとティエラを交互に見る。

 「ついでに金龍鶏もね。」

 ティエラが皮肉っぽくしゃべりながら、プリムラを見る。

 「ねえ、金龍鶏の卵は全然ないの?」

 プリムラが村長に尋ねると、村長は呆然とした表情から落胆の表情に変えて、首を振った。

 「すべて、魔王バキュラに持っていかれました。」

 「その魔王が金龍鶏を持っているの?」

 「ええ、すべての卵と大半の鶏はすでに持っていかれ、あいつらはわずかに残った鶏を持っていこうとしていたところなんです。」

 「あいつら?」

 「六魔将のザイラスというやつさ。」

 若者がそう説明すると、プリムラは落ち込んだようにうなだれた。

 「そうなの。一個もないの…」

 

 「あ~あ、こんなことだろうと思ったわ。」

 聞き覚えのある声に、その場の全員がその声の方に顔を向けた。その方向に肩と胸の谷間を露わにした、深紅のボディコンを着たアリスが立っている。

 「アリス⁉」

 プリムラとティエラが同時に叫ぶと、アリスは口元に笑みを浮かべながらモンローウォークばりに腰を振って、村人の間を通り抜けた。そのさい、男たちの全員が、口元をだらしなく開け、魅せられたようにアリスを見送っていく。

 「アリス、フェロモンが漏れてますよ。」

 近づくアリスに、ティエラが注意した。

 それに対し、アリスは舌を出すと、指を鳴らした。

 その途端、男たちが目を覚ましたようにハッとし、なにが起こったんだというような顔をして、お互いを見合った。


 「なんでアリスがここにいるの?」

 「アウローラに言われて来たんだけど、案の定ね。」

 プリムラの問いに、アリスは同情するような顔つきをする。それを見て、プリムラの顔がまた、青ざめた。

 「旦那様が見てたの?」

 「あれだけ派手にやれば、主様ぬしさまでなくてもわかるわよ。」

 「しょうがなかったのよ。あいつら生意気にも卵を分けてくれなくて。」

 「違うでしょ。おおかた、気にするようなこと言われて、キレたんでしょ。」

 アリスがプリムラの姿を眺めながら、いじわるな笑いを見せた。

 「マスターは怒ってらっしゃるのですか?」

 「怒ってはないけど…。ともかく様子を見て来いって。ま、見たまま報告するけど。」

 アリスの身体が宙に浮かんだ。

 「待って、私も行くわ。」

 プリムラがそう言うと、背中から黒い霧状のものが出現し、すぐにそれは翼に変化した。ティエラも背中から白く美しい羽根を出現させ、三人は宙高く飛び上がっていった。

 それを村人たちは唖然とした顔つきで見送る。


 馬車の前で待っていたおれの元に、プリムラ、アリス、ティエラの三人が到着した。

 プリムラがすぐに前に出て、おれの前で片膝をつく。

 「ただいま戻りました。」

 「で、卵は手に入ったのか?」

 「申し訳ございません。卵は手に入りませんでした。」

 やっぱりという気持ちを胸の内にしまって、おれは穏やかに尋ねた。

 「売ってくれなかったのか?」

 「いえ、魔王…バカラ?…の手の者が、金龍鶏も卵もすべて持ち去っておりまして。」

 「魔王バカラ?」

 聞いたことのない名前だ。最近、デビューした魔王か?

 「それで腹いせにブラックフレア(漆黒の獄炎)を使ったの?」

 「それは…」

 アウローラのいじわるな質問に、プリムラは反論しようと顔を上げた。


 「デブと言われて、キレたんです。」

 横からティアラが報告風に口に出した。


 「デブ?」

 おれとアウローラはその言葉を聞いて、額とこめかみをそれぞれピクつかせた。

 「プリムラ、デブと言われたのか?」

 「…はい…」

 おれの問いに、プリムラは恥ずかしそうに俯いて答える。それを見て、おれはそっとプリムラの頭に手を置いた。

 プリムラはびっくりして、顔を上げる。

 「それでは仕方がないな。プリムラがやらなければアウローラにやらせていた。」

 後ろでアウローラが大きく頷く。

 「しかし、卵を手に入れられず、旦那様に合わせる顔がありません。」

 また、俯く。

 「気にするな。過ぎたことは仕方がない。それより、どうするかな?」

 おれは、顎の下に手を当てて、考え込んだ。


 このまま城に帰るか?

 プリンのことはあきらめるか?

 と、思うそばからプリムラ特製のプリンの味が思い出される。

 思わずよだれが垂れる。


 それを見て、ローザが笑った。

 「パパ、よだれ。」

 「あ、失礼。」

 そう言って、おれはハンカチを取り出すと、口元を拭った。

 「ご主人様、このままお帰りになりますか?」

 「でも、旦那様にプリンをお出しできないのは、悔しいです。」

 プリムラが、かわいいえくぼを見せながら、唇を噛んだ。

 「確かにな。」


 「その魔王なんたらというところに行って、卵をもらってくればいいんじゃあないの?」

 ローザが無邪気な顔をして、提案した。

 「そうね。金龍鶏も卵もそこにあるんだから、そこに行って分けてもらえばいいのか?」と、アリス。

 「でも、その魔王なんちゃらの居場所ってどこなの?」

 アウローラの素朴な疑問に一同が考え込んだ。

 おれは考えるふりをしている。

 そのとき、プリムラが何かを閃いた顔をした。

 「そうだ。たしか、ザーサイとかいうやつの命令で、動いているって、言ってたわね。」

 「ザーサイ?」

 アウローラが首を傾げた。

 「そいつに聞けば、魔王バ…、バニラ?…とかいうやつの居場所がわかるかも。」

 「でもさ、そのザーサイとかいうやつはどこにいるの?」

 アリスのもっともな質問に、一同が黙り込んだ。そのとき、ティエラが無表情の顔で口を開いた。

 「村人に聞いてみればよろしいのでは?」

 ティエラの助け舟にプリムラはうれしそうな顔をした。

 「よし、今度はアリスが行ってくれ。そのザーサイとかいうやつに魔王バニラ?とかいうやつの居場所を聞くんだ。ティエラも一緒に行ってくれるか?」

 「かしこまりました。」

 「りょうかい。」

 二人はお辞儀をすると、すぐに飛んでいった。

 「おれたちは、この近くに別荘でも建てて待っているか。」

 「承知しました。」

 アウローラが頭を下げた後、馬車の扉を開けると、おれがまず乗り込み、続いてプリムラ、ローザ。そして最後にアウローラが乗り込み、御者に、

 「この先の森の中に進めて」

 と、命令した。

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