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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード4 聖地繚乱と昏き神
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2 リンデールに行こう

 イースドアからリンデールの王都マナミへ続く道を走る二台の馬車がある。

 先頭を行く二頭立てのかなり立派な馬車の御者台にはサリー王女の従者、クリムとグスタフが乗っており、馬車の中にはサリー王女ともうひとりティアラが同乗している。

 その後を追うように走る馬車は、前の馬車に比べて一段落ちる。

 その御者台に乗るのは、人形のような顔をした御者で、その馬車の中にはプリムラ、ローザ、アウローラそしておれが乗っている。

 「なぜ、ティアラだけあちらの馬車なのですか?」

 アウローラが不満たらたらに口を尖らせた。

 「しかたがないわよ。王女様がティアラを離さないのだから。」

 プリムラが呆れ顔で答える。

 そう、おれたちはいまリンデール王国に向かっている。


 ことは3日前に遡る。


 アリスの居場所を割り出したおれは、すぐさま【金貨を掲げる賢者亭】へと転送した。

 そこで待っていた皆の前で、アリスがリンデール王国の離宮にいることを話したおれは、今後の対策を皆と話し合ったわけだ。

 「すぐにでも乗り込んで、アリスを奪還すべきです。」

 いつもながらアウローラは過激な発言をする。

 「でも、それだと事が大きくなって大騒動にならない?」

 プリムラの冷静な判断には感心する。

 「じゃあ、また忍び込んで奪ってくる?」

 ローザは確実に面白がっているな。

 「サリーに迷惑をかけるのは気が進みません。」

 「ティアラ、ずいぶんとあの王女に肩入れするけど、なんかもらったりしたの?」

 「いえ、そ・そんなことは…」

 アウローラの問いかけに、めずらしくティアラが焦っている。

 「おれとしてはあまり無茶なことはしたくないな。それにアリスがいる離宮がどんなところか情報が全くない。そんなところにいきなり乗り込んだら大騒動だ。へたをすれば国を滅ぼしかねん。」

 おれの心配は決して大げさでも妄想でもない。

 大騒動で済めばいいほうだ。

 彼女らの実力なら国ひとつ滅ぼすことなどたやすい。

 そんなおれの心配に皆が反応し、考え込んだ。


 しばらくして、ティアラが手を挙げた。

 学校じゃあないが、「はい、ティアラ」と指差す。

 「サリーに手助けしてもらったらどうですか?」

 「そりゃ、王女だから国のことはいろいろ知っていると思うが、承諾してくれるのか?」

 おれの心配は当然のことだ。

 「私が頼めば大丈夫だと思います。」

 「自信ありありだけど、余計な面倒事に巻き込まれるんじゃあないのか?」

 「確かにその可能性はありますが、幾分かの代償は仕方がないと思います。」

 「そうね。アリスを助け出すための手助けをしてもらうのに、タダというわけにはいかないでしょ。」

 ティアラの提言にプリムラも同意を示す。

 隣でローザも頷いている。

 アウローラだけは不満げだが、おれも仕方がないと、ティアラの提言に同意する。

 

 そんな訳でティアラがサリー王女と面談し、自分の友人であるアリスが誘拐され、リンデールに連れ去られたこと、それを救いたいのでサリーに助力をお願いしたいことを素直に頼んだ。

 サリーは割とすんなり承諾してくれたが、やはりその代償を求めてきた。

 「ティアラさんに我が国に巣くう害悪を取り除いてもらいたいのです。」

 「前に言っていた王様を篭絡しているという輩のこと?」

 「そうです。その中心にいるのが現王妃のシルヴァーナなのです。」

 「現王妃ということは、あなたの母親ということ?」

 「私の母は私が10才のころ亡くなりました。シルヴァーナは後添いとして父上と結婚した方です。」

 「いわゆる生さぬ仲というやつですね。」

 サリーは黙って頷いた。

 「シルヴァーナは、父王だけでなく、有力な貴族たちも篭絡し、バルトシュタインとの戦を進めようとしているのです。」

 「なぜ、バルトシュタインと戦をしようとしているの?」

 「聖地です。」

 「聖地?」

 サリーは、ティアラへの説明をきちんとしようと、大きく深呼吸をした。


 「もともと、リンデールとバルトシュタイン、そして聖教会は聖地を取り囲んで、共に暮らしていた同じ種族なのです。それが長い年月の離合集散のすえ、リンデールとバルトシュタインという国になり、聖地を信仰の対象として集まった者たちは聖教会を作りました。」

 「じゃあ、皆、兄弟姉妹みたいなものじゃあない。」

 「そうです。それで、いままでうまくいっていました。」

 サリーがキッと唇を噛んだ。

 「そこにシルヴァーナが入ってきた。」

 「ええ、父王の後妻に納まったシルヴァーナは、聖地をリンデールだけのものにしたいと父王や有力貴族たちに働きかけているのです。」

 「それを知ったバルトシュタインとの間が険悪になった。」

 「そういうことです。」

 サリーの説明にティアラは考え込んだ。

 「聖教会は仲裁に入らないの?」

 「聖教会はこの諍いから距離を置いています。」

 サリーの口元に言い知れぬ悔しさが浮かんでくる。それを見てティアラはサリーの苦境を察した。

 たぶん、サリーの周りには味方となるものがほとんどいないのだろう。聖教会もあてにならない。それなら自らが動いて、この難局を乗り越えねばならないと必死の思いで、アイザック皇子との会談を画策したのだろう。しかし、その計画も頓挫した…。


 頓挫した…?


 ティアラの中でふとした思い付きが浮かんだ。

 それがティアラの口元に笑みを浮かばせる。


 「サリー、まずはリンデールに行きましょう。私の友人も同行してもよろしいですか?」

 「では、私の願いを聞いてくださるのですか?」

 サリーの顔に明るい光が差した。

 「どこまでお助けできるかわかりませんが、サリーの条件を飲みましょう。」

 「ありがとうございます。ご友人の件は最大限配慮いたします。」

 「ありがとう。」


 こうして、いまティアラたち一行は、リンデールに向かっているわけだ。


 イースドアからリンデールまでの3日の行程を経て、一行は王国の入り口、ハクセンの関所に辿り着いた。

 国外から来た者は、ここで審査を受け、入国税を払ってはじめてリンデールに入国できる。ただ、審査には時間がかかるうえ、審査を待つ者も多数いるためここで宿泊しなければならず、そのため関所前には宿場町が発展している。

 サリー王女の一行もここで当然審査を受けるが、王家の者であることで審査は非常に簡単に済んだ。ついでにおれたち一行もサリー王女の計らいですんなり関所を通れた。

 サリー王女さまさまだ。


 ハクセンから王都マナミまでの道のりも何の問題もなく進めた。

 あまりにスムーズなため、却って怖いくらいだ。

 

 サリー王女の馬車とおれたちの馬車はやがて王都マナミの外郭に到着した。

 ここでも王家の意向は発揮され、すんなりと王都内に入ることができた。

 馬車を王都内でも有数の宿屋につけたおれたちは、すぐにチェックインをし、旅装を解いた。

 サリー王女はこのまま王宮へと向かうべく、ここで別れることになる。

 「では、ここでいったんお別れです。」

 王女が寂しそうな顔でティアラを見つめる。

 「マスター、わたしはこのままサリーについていきたいと思うのですが。」

 突然のティアラの申し出に、おれは驚きの顔をし、サリーは喜色で全面を染めた。

 「え、ティアラは私たちとこないの?」

 「はい。サリーに便宜を図ってもらう代償に、彼女の手助けをしてあげたいと思いますので。」

 「そういうことか。しかたないな。」

 サリーとの同行は、代償付きであることは初めからわかっていた。ここから先はティアラの好きにさせてもよかろう。

 「サリー王女、ティアラをよろしく頼みます。」

 おれが頭を下げると、サリーは恐縮そうな顔をし、同じように頭を下げた。

 「とんでもない。無理を聞いていただいて感謝しております。必ず、ティアラ様は無事にお戻ししますので。」

 サリーが決意の目をおれに向けて来るが、ティアラなら滅多なこともないと信じている。かえって、こちらが恐縮してしまう。

 「では、行ってまいります。」

 「行っといで。」

 「土産話、期待しているよ。」

 「やりすぎないようにね。」

 「アリスのことはまかせて。」

 3人は思い思いの言葉をティアラにかけると、ティアラも微笑みで返して、そのままサリーの馬車に乗り込んだ。

 

 王宮に向かう馬車を見送ったおれたちは、今後の作戦をたてるため、宿泊する部屋にあがる。


 「さて、これからどうするかだな。」

 「もちろん、離宮とやらに乗り込んでアリスを救い出すんですよ。」

 アウローラはあいかわらず過激だ。

 「ちょっとまってよ。アウローラ。やみくもに乗り込んでもうまくいくはずないじゃない。どこに捕らわれているかわからないわけだし。」

 「そうだな。プリムラのいうとおりだ。まずは情報収集が先だな。」 

 「じゃあ、またわたしが忍び込む?」

 ローザがかわいく手をあげる。

 「ローザが行かなくてもいいわ。代わりがいる。」

 「代わり?」

 ローザがきょとんとした顔でプリムラを見上げた。

 「シャドウに探らせるわ。」

 「シャドウ?」

 「ちょっと待ってよ。プリムラ。シャドウって確か()()()()とかいうやつの手下じゃあなかったっけ?」

 「そうよ。潜入と探索にもってこいの小悪魔だわ。」

 「大丈夫なの?裏切ったりしないの?」

 「大丈夫。しっかり躾ておいたから。」

 プリムラが大きな胸を張った。

 「プリムラを信用しようじゃないか。」

 「ありがとうございます。旦那様。さあ、出てらっしゃい。」

 プリムラが自分の足元に声をかけると、足元から滲み出るように人型の影が現れた。

 「みなさんにご挨拶して。」

 プリムラの命令にシャドウは素直に頭と呼べる部分を下げた。

 「ミナサン、ヨロシクオ願イシマス。」

 「ちゃんとやれるの?」

 アウローラが鋭い目つきでシャドウを睨む。その目力にシャドウは縮み上がった。

 「大丈夫よね。」

 プリムラが優し気にシャドウの頭を撫でる。

 「ハイ、プリムラ様」

 目らしき白い部分がかわいく垂れさがる。

 「ちゃんとやらなかったらわかっているわよね。」

 「!!!」

 プリムラの笑顔の中の威圧感にシャドウはかかない冷や汗をかく。これでシャドウは死ぬ気で任務をはたすだろう。

 「よし、明日にでも離宮に向かって出発しよう。」

 「「「はい」」」


 おれたちと別れたサリー王女一行は、正門を抜けて王宮へと向かっていた。

 王宮の入り口で馬車を降りると、クリムとグスタフを先頭にサリー王女とティアラは王宮内に続く長い階段を登っていった。

 王宮内に入ると、サリー王女専用の部屋に通され、そこで謁見のためのドレスに着替える。

 「すみません。ティアラさんはここでお待ちいただけますか?」

 「かまいません。」

 ティアラは窓辺に椅子を置いて、そこに座ってサリーを見送った。


 ティアラと別れたサリーは、クリムとグスタフを伴い、謁見の間に向かった。

 長い廊下をそこそこの時間をかけて歩いて行くと、やがて荘厳な扉が見えてくる。

 両側に衛兵が立ち、サリーたちがその前で止まると、

 「サリー王女のお越しです。」

 衛兵の一人が大声で叫び、扉を押し開けた。


 扉の向こうには小劇場並みの空間が広がっており、緋色の絨毯がまっすぐ玉座に向かって伸びていた。

 玉座の両脇には、大臣や有力貴族が立ち並び、皆の視線がサリーに集中している。

 一段高いところに二つの玉座が設置されており、その左側の席にはリンデール王国の王妃、シルヴァーナが美しさと威厳を醸しだして座っており、その右側の席は、本来ならリンデール王国の王が座っているはずだが、いまは空席になっている。

 それを見て、サリーの目に疑心と不審が過る。しかしすぐに、それを押し隠すように笑みを見せ、玉座に歩み寄っていった。


 玉座の前に立ち止まると、淑女としての礼をシルヴァーナに向けて行う。シルヴァーナが優し気な微笑みを見せ、涼やかな声でサリーを労った。

 「長旅、お疲れ様です。」

 「痛み入ります。」

 「イースドアへの訪問、いろいろご苦労もありましたでしょう。無事帰還できてうれしい限りです。」

 歯の浮くような労いに、サリーも作ったような笑顔で答えた。

 「イースドアでは評議会議長であられるエミリア様に、過分なおもてなしを受けました。機会があればその返礼をいたしたいと思います。」

 皮肉たっぷりにシルヴァーナに向かって言い放つサリーに、シルヴァーナは素知らぬ顔で頷く。

 「そうですね。その件は外務大臣に申し付けておきましょう。」

 そう言ってシルヴァーナの視線が居並ぶ大臣のひとりに留まった。

 その視線を受けてその大臣が一歩前に出る。

 「その件はわたくしが責任をもって対処いたします。」

 「お願いします。」

 サリーも視線を外務大臣に移し、軽く頭を下げた。

 「さて、帰国早々で申し訳ないが、サリー王女には陛下の名代として聖地巡礼に赴いてもらいたい。」

 唐突に王妃から王女への懇願が飛び出した。

 その申し出に、虚をつかれ、サリーは一瞬言葉を失った。

 「王妃様、それはどういうことですか?」

 「おや、聞こえなかったか?そなたに聖地巡礼に行ってもらいたいと申したのじゃ。」

 「聖地巡礼は例年、ちち…、いえ、国王陛下が赴く習わしでは。」

 「その予定だったのじゃがな。陛下の体調がすぐれぬのでな、代わりに行ってほしいのじゃ。」

 目を細めて自分を見るシルヴァーナに、サリーはなにかの思惑を感じた。

 「王女様がおっしゃる通り、聖地巡礼は国の代表となる者が赴く決まり。例年、陛下が訪問されておりましたが、陛下の現在の体調では、聖地への訪問による身体への負担が大きく、より体調を悪化させる恐れがあると侍医もおっしゃっておりまして。それであれば、王位継承権第一位であられるサリー王女に国の代表として赴いていただこうとなった訳です。」

 王妃の言葉を引き取るように、外務大臣が長々と理由を聞かせる。

 それを聞いたサリーは冷めた笑みを浮かべた。

 「なるほど、そういう訳でしたか。なれば、陛下の代理を務めることにやぶさかではありません。」

 「そうか、行ってくれるか。当日は聖教会の代表はもちろん、バルトシュタインの代表もお出でになる。くれぐれも失礼のないようにな。」

 シルヴァーナの自分に向ける笑みが、怪しく見えるのは偏見だけではないだろうと思うサリーだった。

 「では、私は失礼して自分の屋敷に戻ります。のちほど、陛下の見舞い方々、ご挨拶にまいります。」

 「それは、陛下も喜ばれよう。」

 見下ろすシルヴァーナに対し、退場の礼を取ったサリーは、わき目も振らず、謁見の間を退出した。


 ティアラの待つ部屋に戻ったサリーは、疲れた表情を見せながら落ちるようにソファに座った。

 「お疲れのようですね。」

 ティアラが無表情のまま労わりの言葉をかける。

 「ありがとうございます。ほんとにどこよりもあの場が一番疲れるわ。」

 愚痴るように話すサリーの肩にティアラの手が置かれる。すると、淡い光がティアラの手から溢れ出し、サリーの身体にしみいるように消えていく。

 「ああ、疲れが消えていく。」

 サリーに安らいだ表情が浮かぶと、それを見たティアラが微笑みを見せた。

 「どうですか?」

 「ありがとうございます。ティアラさんは本当に天使のような方ですね。」

 「そんなことより王妃から難題を出されたようですね。」

 ティアラの推察の的確さに驚くとともに、サリーは聖地巡礼の件を話した。

 「王様の名代ですか。しかし、それだけではないのでしょうね。」

 「たぶん、何かの企みがあると思います。」

 「確か、バルトシュタインと聖教会の代表がいらっしゃるとか?」

 「ええ、例年バルトシュタインからは皇帝が、聖教会からは天使長がいらっしゃいます。」

 「そこでなにかあれば、たちまち戦でしょうね。」

 ティアラの不穏な発言に、サリーは言葉を失い、反論ができない。

 シルヴァーナならやりかねないからだ。

 「しかし、チャンスでもある。」

 「チャンス?」

 「ええ、ともかく、いつまでもここにいるのもなんです。ゆっくりできるところへ移動しましょう。」

 「はい、私の屋敷にいらっしゃってください。」

 これから何が起きるか不安なサリーであるが、ティアラという頼もしい味方がいることが今のサリーには心強かった。

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