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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
47/97

17 幕間そして次へ…

 アウローラの追跡から難を逃れたリリアナとリシャールは、イースドア西区のスラム街に身を潜めていた。

 「どうやらあきらめたようだな。」

 廃墟ともいえる建物の窓から上空を伺っていたリリアナは、ポツリと呟いた。

 「生きた心地がしませんでした。あいつら何者でしょう?」

 リシャールが傍らで身震いしながら尋ねた。

 「わからん。ただ、すさまじい力を持った者としか言えんな。」

 「リリアナ様でもご存じありませんか?」

 それには苦笑で答えるしかないリリアナだ。

 

 「さて、これからどうしたものか?」

 「アルカイトス様に頼られますか?」

 「ふむ」

 リシャールの提案にリリアナは思案に入った。

 

 しばしのときが流れる。


 「モル、いるか?」

 リリアナの呼びかけに答えるように、暗がりがたまる部屋の片隅から人影が現れた。

 「ここに。」

 モルと呼ばれた女魔人がリリアナの前に進み出て、片膝をついた。

 「先ほどは助かった。」

 「痛み入ります。」

 「モル、アルカイトスに繋ぎをつけてくれるか?」

 「アルカイトス様に?」

 モルの顔が上がる。

 「このイースドアにいるらしい。リシャール、確かロバートとかいう輩だったな。」

 「はい」

 「そいつを探して、アルカイトスに渡りをつけろ。」

 「伝言の内容は?」

 「共闘の申し出だ。」

 「共闘?」

 その言葉にモルとリシャールは驚愕の表情を見せた。

 「そうだ。強者の女が現れたといえば喰いつくだろう。」

 そう言って、リリアナは傍らで眠るアリスをチラッと見た。


 「それでどこで会見を?」

 「リンデール王国の離宮がよかろう。」

 「イースドアを離れるのですか?」

 リシャールが驚きの顔で尋ねた。

 「配下の者を多く倒され、本拠地もあの有様だ。ここは一旦、イースドアを離れた方がよかろう。リンデールなら格好の場所だ。」

 リリアナの答えに二人は納得したように頷いた。

 「モル、頼むぞ。」

 「承知しました。」

 そう言い残してモルの姿が掻き消えた。


 それを見届けて、リリアナは建物の外へ向かう。

 「リリアナ様、どうやってリンデールまで行かれますか?陸路や空路は見つかる恐れがありますが。」

 「こういう時のために転送陣がある。ハーヴェイの店にいくぞ。」

 「畏まりました。」

 リシャールはアリスを抱き上げると、リリアナの後を追った。


 ***************************************************

 

 引き上げてきたアウローラとプリムラを加え、おれたち5人は【王者の輝き亭】からミルンのいる隠れ家にもどった。

 ミルンはどこかへ出かけたのか不在だ。

 そんなことは気にすることもなく、おれたちはローザの作った部屋に入り、一息入れた。

 プリムラがお茶とお菓子を出す。

 そういえばもうお昼になるのか。

 そんなことを思いながらおれはお茶を啜った。


 「それでこれからどうなさいます。ご主人様。」

 出されたお茶に口をつけることもなく、アウローラは真っ先に聞いてきた。

 戻って来いとは言ったが、いい善後策が浮かんだわけではない。

 ただ、手詰まり感があったから仕切り直そうと思った、それだけだ。

 

 「まずは、アリスの居所よね。」

 プリムラが自分で入れたお茶を啜りながら答えた。

 「でもさ、その居場所がわからないんでしょ。」

 ローザがクッキーをつまみながら答える。

 「ティアラ、アリスの居場所は本当につかめないの?」

 「すみません。相手は検知疎外の魔法にたけたもののようで、よほど細密に探索しないといけないようです。」

 「ということは…?」

 「時間がかかるということです。」

 ティアラは、申し訳なさそうに返事をした。

 「時間をかけると遠くに逃げられる可能性があるわよね。」

 一同が静まり返った。

 「仕方がない。一度城に戻るか。」

 空になったカップを置いて、おれは独り言のように呟いた。

 「城に。では、私たちも?」

 「いや、アウローラたちはここに残って、おれからの連絡を待ってくれ。」

 「連絡を?」

 他の4人がおれの顔を見つめた。

 「なにか手立てがあるのですか?」

 「手立てってほどのものじゃあないが、なんとかアリスを探し出してみよう。」

 おれは、自信ありげに立ち上がると、警戒装置(セキュリティ)を呼んだ。

 『御用でしょうか?』

 「城まで転送をたのむ。」

 『承知しました。転送システム作動。転送まであと30秒です。』

 「【金貨を掲げる賢者亭】でお茶でもしながら待っててくれ。」

 そう言い残して、おれは城へ転送した。


 ***************************************************

 

 「で、私に用件とはなんだ?」

 カウンター席に座ったままアルカイトスは目の前に座るモルに問いかけた。

 「リリアナ様が会談をご希望なさっています。」

 「ほお、会談か…」

 アルカイトスの目がモルの真意を探るように細くなった。

 その目に見つめられ、さしものモルも身の内が竦む思いをする。


 リリアナに命じられて【王者の輝き亭】に戻ったモルは、建物で起こった惨事にスタッフが混乱しているのを尻目に、建物内部を探った。

 リシャールに接触してきたというロバートを探すためだが、それは案外、簡単に見つかった。

 とある客室で何者かに縛り上げられ、なんとか解こうと四苦八苦していたからだ。

 モルはその布を切ると、さっそくアルカイトスへの仲介を依頼した。

 助けられた恩義のうえ、こちらから持ち掛けた話のため、ロバートは二つ返事で承諾した。

 

 そして、いまアルカイトスの拠点たる居酒屋で面談となったわけだ。


 モルからの提案にアルカイトスは目を閉じ、しばし潜考する。

 その沈黙はモルを始め、その場にいた人間に静かな威圧感を与えた。


 やがて、アルカイトスの目が静かに開く。

 「よかろう。その提案を受けよう。」

 「アルカイトス様、よろしいのですか?なにか良からぬ企てがあるやもしれませぬぞ。」

 カウンター内に立つ店主が、あからさまな疑いの目でモルを見ながら、アルカイトスに忠告した。

 「そんな企てなぞない。」

 モルは店主を睨みながら否定する。

 「バシュト、よせ。」

 アルカイトスの一言にバシュトは沈黙した。

 「それで、会談の場は?」

 「リンデール王国の離宮。」

 「なに!?」

 バシュトの顔に驚きと怒りの混合した色は浮かぶ。

 「リンデールはリリアナが篭絡した国王が支配する国。事実上、リリアナの領域ではないか。そこへアルカイトス様に出向けというのか?」

 バシュトの目が血走った。

 自分への殺気にモルも臨戦態勢をとる。

 「落ち着け、バシュト。」

 冷たく制するアルカイトスに、バシュトは納得いかない顔つきになる。

 「しかし、アルカイトス様。」

 「かまわん。リリアナの支配地に黙って入った私だ。どんな苦情が来ても仕方がないところ、それを見逃し、会談まで持ち掛けてきたんだ。先方の誠意に答えるのが筋だろう。」

 およそ魔王らしからぬ発言に、モルは逆に不気味さを感じた。

 「では、会談は了解と判断してもよろしいですね。」

 「ああ、日時が決まったらこのバシュトに連絡してくれ。」

 そう言うとアルカイトスは口を閉ざし、これ以上の会話には応じない態度を見せた。それを見て、モルも黙って立ち上がり、一礼すると店を出ていった。


 モルが立ち去り、バシュトと二人になったアルカイトスは、目の前にあるフルーツジュースに口をつけた。そのとき、人の気配を感じるが、警戒はしない。

 店の奥からカウンター内に現れた人影。それはミルンの姿であった。

 「なかなかおもしろい申し入れですね。アルカイトス様。」

 ミルンはいたずら小僧のような笑みを口元に浮かべて、アルカイトスのそばへ歩み寄った。

 「なにかわかったか?ミルン。」

 「強者の女と接触できましたよ。」

 「ほお、よくできたな。」

 「まあ、運がよかったというところですね。」

 「それでどんなやつだった。」

 「おんなが4人。ひとりは恐ろしく強い。あと、闇魔法使いもいるし、天使みたいな女もいます。」

 「いろいろだな。うん?あと一人は。」

 「ガキです。なんか不思議な感じの女の子ですよ。」

 「ふむ、多彩過ぎて訳がわからんな。」

 アルカイトスはミルンの話に考え込んだ。

 「そういえば、妙なおっさんがいっしょにいたな。」

 「おっさん?」

 「その女たちの主人とか言ってたけど、どう考えても不釣り合いなんだよね。奴隷とか下僕ならわかるけど。」

 「おっさん、おっさんか…」

 「そのおっさんも強いのか?」

 バシュトがミルンに問いかけた。それに対してミルンは首を横に振る。

 「ぜんぜん。魔力も俺と比べてもまだ低いし、そこらのチンピラより弱そうだ。」

 ミルンは記憶にある印象を話した後、バシュトにミルクを頼んだ。その横でアルカイトスがまたも潜考していた。


 ***************************************************


 リンデール王国。

 国土の40%が森林と河川で占められ、その豊富な水源と肥沃な大地に恵まれた豊かで美しい国。

 その北西部に王族専用の離宮がある。

 その離宮に付随する広大な庭園。

 四季折々の花が咲き乱れるその場所の中央部に、簡素ながら優美な四阿(あずまや)がある。

 そこに一人の美しい女性が座っていた。

 純白のドレスに身を包み、首にかける真珠のネックスレスも純白。真っ赤なルビーのイアリングが、その中にあってひときわ際立っている。

 その女性は静かながら威厳を保って、庭を眺めていた。

 そこへメイドらしき女性が静かにやってくる。

 「シルヴァーナ様、お客様がお見えです。」

 「そう、意外と早いわね。」

 メイドに手を取られてゆっくり立ち上がったシルヴァーナは、離宮に向かって歩き始めた。


 メイドに案内されて、何十もある応接間のひとつに入ると、そこにはライトブルーの貴族服をまとった紳士がひとり待っていた。

 「久しいな。リリアナ。いや、ここではシルヴァーナ殿下と呼んだ方がよいかな。」

 振り向きながら薄い笑みを浮かべるアルカイトスが、冗談とも本気ともいいかねる言葉を発しながらシルヴァーナに歩み寄った。

 「リリアナでいいわ。」

 「本物は王宮か?」

 「あっちが替え玉よ。本物はわたし。」

 シルヴァーナことリリアナが、妖しい笑みを浮かべてアルカイトスに歩み寄った。


 「よく来たわね。座って。」

 名のある職人が作ったと思えるソファを指し示したリリアナに、アルカイトスは無言で応じた。その向かい側にリリアナが座ると、待機していたメイドがお茶と菓子を運んできた。

 「特上のお茶を用意したわ。召し上がれ。」

 勧められるままアルカイトスは、ティーカップに口をつける。

 「ふむ、確かに上等なお茶だ。」

 そう褒めながらもう一口飲む。

 「さっそくだけど、本題に入っていいかしら。」

 それに対して、アルカイトスはちらっとメイドを見る。

 アルカイトスのそのそぶりに、リリアナがメイドに下がるように指先で指示すると、メイドはゆっくりと部屋から出ていった。

 「これでいいでしょ。ちなみにこの部屋には結界がかけられているから、話が外に漏れる心配はないわ。」

 「念のいったことだな。で、話とは?」

 「例の強者が私の前に現れた。」

 「のようだな。」

 アルカイトスは興味なさそうに答える。

 「どうやらご存じのようね。」

 「大しては知らん。で、私と共闘したいということだったな。」

 「おっしゃる通り。」

 「しかし、なぜ、私がお前と共闘せねばならない。」

 「あら、理由が必要?」

 「相手の狙いはおまえだろう。私とは無関係だ。」

 「それが通用する相手かしら。それに私の元にいる魔女。強者たちの仲間のようだけど、それが手に入るとしたら。」

 「どういう意味だ。」

 アルカイトスの目が細くなる。

 「なにを企んでいるか知らないけど、巨大な魔力を欲しているんでしょ。その証拠にこの黒結晶を集めている。」

 リリアナが胸の間からバキュラの城から持ち帰った黒結晶を取り出す。

 「私が集めているとなぜ知っている?」

 「ふふふ、なぜでしょう。」

 リリアナが意味深の笑みを浮かべて、黒結晶を元に戻す。


 その姿に軽く頬杖をついて眺めるアルカイトスの表情に動揺は見られない。なにもかも想定内といった風情だ。

 「まあ、いいだろう。お前の提案を受けてもいい。」

 「そう、よかった。」

 「ただし、条件がある。」

 リリアナが合意の握手をしようと右手を差し出したタイミングで、アルカイトスが制するように口を開いた。

 「なにかしら?」

 疑惑と警戒がリリアナの心中を駆け巡る。

 「おまえの持っている黒結晶をおれに預けろ。」

 「これを…?」

 もう一度、胸から黒結晶を取り出す。

 「それを預けてくれれば、おまえとの共闘を受けよう。」

 リリアナは黒結晶とアルカイトスの顔を見比べる。やがて、意を決したのか、黒結晶をアルカイトスに差し出す。

 それを受け取ったアルカイトスは、黙ったままそれを胸ポケットにしまった。

 「これで共闘成立ね。乾杯したいところだけど、酒は好まなかったわね。」

 「不調法ですまんな。」

 「ま、いいわ。これからよろしく。」

 そう言って、あらためて右手を差し出すリリアナを見て、アルカイトスは小さく笑うと、その右手を軽く握った。


 アルカイトスが部屋を辞しようとしたとき、

 「そう言えば、お前が言う魔女とやら、一度お目にかかってみたいな。」

 唐突に申し出た。

 「興味があるんだ。」

 嘲笑を含んだ表情を見せて、リリアナはアルカイトスについてくるように促す。

 長い廊下を二人っきりで歩いて行くと、リリアナはとある部屋の前で止まった。

 「どうぞ。」

 そう言ってドアを開ける。

 促されるままアルカイトスが入ると、そこは天蓋付きベットを中心とした豪華な部屋。

 南向きの窓にはレースのカーテンが引かれ、部屋全体は薄日が充満し、室温はほどよい温かさで保たれている。

 複雑な模様の絨毯を踏みしめ、リリアナがベットに近づき、その後にアルカイトスが続く。

 ベットの前で立ち止まると、リリアナがもったいつけたように天蓋から降りるレースをめくった。

 そこには世にも美しい姫が眠っている。

 「ほお」

 思わず感嘆の声を上げるアルカイトスに、リリアナは含み笑いを浮かべる。

 「やっぱり男ね。」

 リリアナの小声はアルカイトスには聞こえていない。


 ***************************************************


 城に転移したおれは、すぐに()()()()()を呼ぶ。

 『お呼びでしょうか?テヴェリス様。』

 「スタッフルームを開けてくれるか?」

 『畏まりました。』

 間を置かず、目の前に植物のレリーフが施された2mほどの扉が出現する。おれは迷わず、それを押し開いた。


 中はなにもない空間が広がっている。

 家具もテーブルも、椅子さえもない。

 ただの半球体の形をした殺風景な部屋だ。そして、半球体の内側すべてから暖色の光が放たれている。

 そんな部屋の中央におれは位置した。


 何もない空間に手をかざす。


 すると、目の前の壁に四角いモニターが現れる。

 『パスワードをどうぞ。』

 コンシェルの声が響く。


 「われら二十一の世界を興せし七賢者に栄誉と安息を約せよ。」

 『パスワードを確認しました。続いて生体認証を行います。』

 その声とともにおれの身体に四方から光が当たる。

 ものの数秒で光が消え、再びコンシェルの声が響く。

 『認証終了。現在、待機中です。』


 「コンシェル、検索を頼む。」

 『了解。対象を指定ください。』

 「NPコード:alice03300skb」

 『対象確認。検索範囲を指定ください。』

 「十三世界、大陸ユーモレイア全域」

 『範囲確認。検索を開始します。』


 コンシェルの声が途絶えると同時に、何も映ってなかったモニターに大陸と思しき形が浮かびあがる。そのうえに光点が順番に点滅し、それがしばらく繰り返される。

 それもものの数秒で消え、大陸の画像が急速に拡大し、とある場所に建つ宮殿を映し出した。

 宮殿がある程度の大きさに映し出され、その中のある一点に光が点滅する。

 『検索完了。NPコード:alice03300skbが特定されました。』

 「場所は?」

 『十三世界、大陸ユーモレイアに存するリンデール王国北西部、ポイントN0183W721に位置する建物内です。』

 「リンデール王国か…。なんか厄介事の予感しかしないな。しかし、アリスをこのままにはできないしな。コンシェル、ご苦労。」

 『テヴェリス様、ひとつご報告があります。』

 「うん、なんだ?」

 『カオスより十三世界にエネルギーが微量ながら漏れています。」

 「カオスから?」

 『なんらかのアクシデントにより漏洩したと思われます。』

 「アクシデントか。やっつけ仕事だったか?」

 『ただし、その後十三世界よりこの漏洩に干渉が観測されました。』

 「干渉が…?」

 『どうされますか?』

 「とりあえず、観測を続けてくれ。それから場所と干渉しているものの特定もたのむ。」

 『畏まりました。』

 「おれはこのまま戻る。後をたのむぞ。」

 『行ってらっしゃいませ。』

 コンシェルに送り出され、おれはアウローラたちがいる【金貨を掲げる賢者亭】へと転移した。



 この世界でなにかが起ころうとしている。


 

ひとまずエピソード3は終了です。

思ったより長くなりました。

読んでくださった方、評価をくださった方、ありがとうございます。

しばらく休んだ後、続きを書くつもりです。


攫われたアリスはどうなるのか?リリアナはどう出るか?そして、アルカイトスの思惑とは?

そして、主人公は活躍するのでしょうか?


いまだ、まとまっていませんが、がんばって書きますので、応援よろしくお願いします。

たくさんの応援とPVがあるとがんばれます。

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