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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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16 アリスはいずこへ…

 【王者の輝き亭】最上階の大爆発は、宿泊客をはじめ、スタッフやその場にいた人々、すべてに驚愕と混乱をもたらした。

 それは中庭でこれから決闘をはじめようとするおれとアイザックにも同様で、

 「なんだ、あれは!」

 と声をあげると、アイザックは建物の最上階を見上げ、その光景に立ち尽くし、そばにいたダントンも呆けたように見上げたまま硬直した。

 冷静なのは、アウローラとプリムラ、そしておれだけだ。

 これを好機とばかり、おれはアウローラに声をかけた。

 「アウローラ!」

 「はい、ご主人様。」

 おれの掛け声とともにアウローラは背中から翼を出し、おれを抱えると同時に上空に飛び上がった。それにプリムラも続く。

 「アウローラ殿!」

 「プリムラ殿!」

 両者は手をこまねいて、三人が飛び去るのを見送った。


 「いやー、いいタイミングで騒動が起こってくれたよ。」

 「私としては、ご主人様が私のために戦ってくれるところを見たかったのですが。」

 アウローラが頬を赤らめながら、おれに囁いてくる。

 「よしてくれ。活劇は苦手なんだ。」

 「旦那様、見てください。最上階がほとんど吹っ飛んでます。」

 プリムラの言葉に、おれとアウローラは上を見上げた。

 確かに、建物の最上階がすっぽりと半分無くなっている。よほどの大爆発だったようだ。

 「アリスやローザが心配だな。」

 「もうすこし上昇します。」

 「たのむ。」

 アウローラは更に速度を上げ、【王者の輝き亭】の最上階を通り過ぎ、その上空に位置するとそこで停止した。

 見ればあるところを堺に、一方はきれいに吹き飛び、もう一方はきれいに残っている。

 「こりゃ、やりすぎじゃあないか?」

 「旦那様、あそこにティアラとローザがいます。」

 プリムラの指差す方向に目を向けると、確かにふたりがこちらに向かって手を振っている。

 おれたちは、その前にゆっくりと降りていった。


 「パパ、いらっしゃい。」

 ローザが相変わらずのニコニコ顔でおれを出迎えた。

 ティアラは黙ったままゆっくりと頭を下げる。

 「なんか大変だったようだな。」

 「もう、いろいろとやばかったんだから。危うく、殺されそうになるし。」

 そう言って、ローザは首筋をおれに見せた。

 牙の後が生々しく残っている。

 「大丈夫なのか?」

 「平気、平気」

 「念のために解毒の魔法はかけておきました。」

 無邪気なローザの横で、ティアラが冷静に報告する。

 「それでアリスはどこにいるんだ?」

 「こっちだよ。」

 おれに聞かれたローザが、先にたって案内する。

 辛うじて残った扉を前にローザがそれを開ける。


 中は真っ暗だ。


 「中央のベットに寝ているはずだけど…」

 ティアラが手の平に光の球体を点した。

 それによって中は明るく照らし出され、ローザの言った通り天蓋付きベットが中央に位置している。

 おれは先だってベットに近づき、中を覗いた。

 「ね、寝てるでしょ。」

 「どこに?」

 おれの返答にローザが怪訝な顔をした。

 「そこに寝てるでしょ。」

 と言って、ローザがそばに駆け寄り、ベットの中を覗き込んだ。


 いるはずのアリスがいない。


 「え、うそっ!?」

 「どういうこと、ローザ?」

 アウローラがローザを睨む。

 「うそじゃないよ。確かにここに寝てたんだから。」

 「ローザの言う通りのようですね。アリスの匂いが残っています。」

 プリムラがベットの匂いを嗅ぐ仕草を見せながら、ローザの言葉を肯定した。

 「ということは、だれかが連れ去ったっていうこと?」

 アウローラとローザが互いの顔を見合った。

 おれは辺りを見廻す。

 「ティアラ、魔量(エネルギー)の残留がないか、探ってくれ。」

 おれにそう言われて、ティアラの目が紅くなった。

 「確かに残留を感じます。どうやら誰か転移魔法(テレポート)を使ったようですね。」

 「そうか。どこへ行ったか、判らないか?」

 「たぶん、この建物内だと思います。時空のゆがみが少ないですから。」

 「よし、手分けしてこの建物を探すんだ。みんな。」

 「「「「はい!」」」」

 おれの命令に皆が元気に返事をして、すぐさま転移していった。


 そのころ、建物内をアリスを抱いて駆ける者がいた。


 リシャールである。


 この少し前、リシャールはたまたま秘密の部屋に来ていた。アリスを今一度見たいという邪な思いからであるが、ちょうどそのとき、ドミナとローザの戦いに出くわし、リシャールは急いで隠れ身魔法(ステルス)を使って、部屋の片隅に隠れた。

 二人の戦闘が廊下に移ったのを幸いに、リシャールはアリスをベットから抱き上げ、転移したのである。

 「あの戦いに巻き込まれずに済んで助かったぜ。」

 リシャールの腕の中でアリスはまだ眠り続けている。

 その顔を見て、リシャールが駆けるのを止め、最寄りの客室に入っていった。


 アリスを部屋のベットに横たえたとき、上の方で大爆発の音が響いてきた。

 シャンデリアが揺れ、ガラスが振動して亀裂が走る。

 「ドミナのやつ、ブラック・ノヴァでも使ったか。」

 リシャールが苦笑した後、寝ているアリスを再度眺めた。

 相変わらずの美しさだ。

 「さて、このままリリアナのところに連れていくか?それともアルカイトスへの手土産にするか?」

 「そりゃ、アルカイトス様への手土産だろう。」

 思いがけない声にリシャールは驚き、反射的に周りを見渡した。すると、いつの間にかソファに男が悠然と座っている。

 アルカイトスの部下でロバートと呼ばれていた男だ。


 「だれだ、おまえは?」

 リシャールの問いにロバートはゆっくり立ち上がった。

 「ロバートと呼んでくれ。」

 「なぜ、ここにいる?」

 「おまえさんがここに入るのを偶然見かけてね。忍び込んだ。」

 ニヤリと笑うロバートに、警戒心を持ったリシャールは、懐に手を入れた。

 「待ってくれ。おれはおまえさんと争うつもりはない。」

 「どういうことだ?」

 「おれは、晩餐会で暴れた女どもを探っていた。そうしたらここでのこの騒ぎだ。どうやらその女がらみの騒動だと思うが、まちがっちゃいないだろ。」

 「……」

 リシャールはロバートを黙って見つめる。

 沈黙は肯定の証と判断したロバートは、ニヤリと笑った。

 「もしよかったらアルカイトス様との仲介をしてやろうか?」

 唐突の申し出にリシャールの目が細くなる。

 「おまえにそんなことができるのか?」

 「できるさ。おれにここに忍び込めと命じたのは、アルカイトス様だ。そして、アルカイトス様はこのイースドアに来ている。」

 「アルカイトスがここに来ているだと!?」

 ロバートのその言葉はリシャールを十分驚愕させた。

 「そうさ。どうする?このままおれを殺してリリアナのところへ行くか?それともおれの話に乗るか?グズグズしているとあの女どもが来るぜ。」

 リシャールの思考が高速で回転する。

 (あの女どもの力はすさまじいと感じる。たぶん、ドミナもやられたろう。ベルトークもアルギュウスもやられたと聞く。リリアナ様でも手に負えるかどうか?そうとなったら、この女を攫ったおれは無事ではすまない。なら、この女を手土産にアルカイトスのところへ逃げるのも手か。)


 しばしの沈黙が流れる。


 やがて、意を決したのか、リシャールが顔を上げて口を開こうとした時、

 「見つけた。」

 突然の声にリシャールとロバーツが一斉に部屋の中を見廻した。


 「「‼」」


 二人同時に驚愕した視線の先に、窓ガラスの前に浮かぶローザの姿があった。

 「アウローラ、プリムラ、アリス見つけた。」

 ローザがどこかに念話(テレフォン)をかけたのを見て、リシャールがベットに向かい、アリスを抱えると同時に、転移する。

 「まて!」

 ローザが窓ガラスを破って飛び込んだが、間に合わない。

 唇を噛んで、地団駄を踏むローザを尻目に、ロバートが部屋から抜け出そうとする。しかし、ローザはそれを見逃さない。

 「ダンス・オブ・セブンズベール(七色のベールの踊り)」

 いつの間にか右手に握られた踊り子の人形から七色の布が数枚伸びた。

 それがロバートの身体に次々と絡まり、その動きを止めた。

 「なんだこりゃ?」

 ぐるぐる巻きにされたロバートは、そのまま丸太のように床に倒れた。

 その身体をローザの足が抑える。

 「あいつがどこへいったか知らない?」

 「た、多分、リリアナのところだ。」

 「リリアナ?」

 「やつの親分さ。ここのオーナーでもある。」

 「そのリリアナってどこにいるの?」

 「そこまでは知らん。多分、一階じゃあねえか?なんか決闘さわぎがあったようだから。」

 ロバートの素直な答えになにか思い至ったのか、ローザは念話(テレフォン)をかけ始めた。


 「アウローラ、プリムラ、ティアラ、アリスはリリアナとかいうやつのところへ連れていかれた。多分、一階だと思う。」

 「わかった。」

 「OK」

 「了解しました。」

 三人からの返信に頷いたローザは、ロバートから足を外すと、ちらっとロバートを見た。

 「おじさん、ありがとうね。」

 軽く投げキッスをすると、ローザも転移した。

 「おい、これ、解いてくれよ。」

 ロバートだけ拘束されたまま部屋に取り残された。


 リシャールが一階の中庭に転移すると、その場にいたアイザックは驚き、リシャールに対して誰何した。

 「何者だ!」

 女性を抱いて、いきなり現れたのだ。十分怪しい。

 アイザックが腰のレイピアを抜いた。

 「邪魔だ!」

 リシャールが懐から取り出したカードを投げる。

 それは弾丸ように飛び、アイザックの右肩を切り裂いた。

 「うっ」

 右肩を抑えて片膝をつくアイザック。

 そばでダントンが震えあがる。

 リシャールが2枚目を投げようとした時だった。


 「まて!」

 空から降ってきた人物がアイザックとリシャールの間に降り立った。


 アウローラである。


 「アウローラ殿!」

 アイザックが安堵の目を向ける。

 しかし、アウローラはそれを無視し、リシャールににじり寄る。

 「アリスをどこへ連れていくつもりだ。」

 「アリスを置いて、さっさと消えな。」

 別の声がリシャールの後ろから聞こえた。

 いつのまにかプリムラが後ろに立っている。


 「プリムラ殿」

 ダントンが思わずプリムラに駆け寄り、後ろに隠れた。

 「くっ」

 リシャールが仕方なさそうにアリスを地面に降ろす。


 そのとき、

 「リシャール、伏せろ!」

 声とともに高魔量(エネルギー)が降り注いだ。


 咄嗟にアウローラが腕を交差させる。

 高魔量(エネルギー)が腕に弾かれ、四散し、中庭を抉り、大音響とともに建物に大穴を開けた。

 瓦礫と粉塵が舞い、一瞬、視界を遮る。


 しばらくして、粉塵が治まり、視界が開けた時、アイザックは自分の前で盾代わりに立つアウローラを発見した。

 「アウローラ殿!」

 思わず声をかけるアイザックに、アウローラは振り向きもせず、仁王立ちのまま辺りを見廻している。

 目の前にいるはずのアリスとリシャールがいないのだ。

 「どこへいった?」

 「上よ!」

 プリムラの声にアウローラが顔を上げた。


 中空高く飛ぶ、リシャールともう一人の人物。

 リリアナがリシャールを連れて高速で飛んでいく。

 「逃がすか!」

 アウローラは背中から翼を出すと、アイザックの心配顔を無視して、いきなり飛び上がった。その羽ばたきにアイザックは吹き飛ばされ、その場に転がる。


 黒い布のようなものを被ってダントンをかばっていたプリムラは、それを脱ぐと、ダントンに顔を向けて、声をかけた。

 「ダントン、ケガはない?」

 ダントンは恐怖のあまり声を失ったのか、ただ、頷くだけだ。

 「あなたも大丈夫?」

 今度はアイザックに声をかける。

 「私は大丈夫だ。」

 アイザックは地面に座りながら答えた。

 「そう、それはよかった。」

 そう言って、プリムラは背中から黒い翼を出した。

 「アウローラ殿はどこへいったんだ?」

 「私たちの友達が攫われたのよ。私も今から追うわ。」

 そう答えて、プリムラはあっという間に飛び上がった。

 残された二人は、それをただ、黙って眺めるだけだ。


 その頃、アリスを連れて逃げていくリシャールとリリアナを追って、アウローラは空を駆けていた。雲を抜け、上空高く飛び上がったアウローラは、その鋭い視力で雲の下を探し回る。

 やがて、視線の先に高速で飛ぶ、二つの影を捉えた。

 「あれね。」

 口元に笑みを浮かべて、アウローラは急降下する。


 アリスを抱えたリシャールとともに飛ぶリリアナは、行先を決めかねていた。

 「うまく逃げたものの、さて、どこへ行くか?」

 「リリアナ様、イースドアにアルカイトス様が来ているという情報があります。」

 「アルカイトスが…?」

 リシャールの唐突な報告に、一時戸惑うリリアナだが、思い直し、思案し始めた。

 「どうされます?」

 「リシャール、その情報、どこで仕入れた?」

 リリアナは疑惑の目を向けて、リシャールに尋ねる。

 「ロバートと名乗るアルカイトスの部下が接触してきました。」

 都合の悪いところは省いて報告すると、また、リリアナは思案を始める。

 (アルカイトスのところに逃げ込むのも悪くないか?)

 そう思い、リシャールに返答しようとしたとき、鋭い殺気が二人を貫いた。

 急いで振り返った二人の目に、高速で近づく飛行体が映る。


 「逃がすか!」

 アウローラの咆哮とともに、銀の光が二人の間に滑り込み、二人は間一髪でそれを躱して左右に分かれた。

 その行く手に、アウローラが仁王立ちする。

 「アリスを置いていきな。」

 刃渡り2mの長刀を構えるアウローラが、殺気をはらんだ目で二人を睨む。

 リリアナもリシャールも一瞬、背筋に冷たいものを感じた。

 「よほど大事な女と見えるわね。」

 リリアナが強気で対応しながら、リシャールに目配せする。

 リシャールがそれに呼応して、ゆっくりとその場を離れようとする。

 「動くな!」

 アウローラの一喝がリシャールの身体を硬直させた。


 「死にたくなかったら言われたとおりにしな。」

 アウローラの乱暴な命令に、リシャールは本能的に従おうとする。

 それを見て、リリアナが舌打ちする。

 そのとき、高温のファイアブレッド(火炎弾)がアウローラに向けて飛んで来た。


 アウローラの長刀がそれを弾く。

 「いまだ!」

 リリアナとリシャールがその場から逃げ出す。

 「まて!」

 後を追おうとするアウローラに、再びファイアブレッド(火炎弾)が飛んでくる。


 再び長刀でそれを弾き返しながら、飛んで来た方向に視線を飛ばす。

 遠く、雲の裏に羊のような角を生やした(モル)が浮かんでいる。

 その右手には複数の炎の弾が浮かんでいた。

 それをお手玉のように空中で回しながら、次々と炎の弾をアウローラの元へ投げる。

 アウローラが長刀で迎え撃とうとしたとき、炎の弾は目の前で爆ぜ、閃光と破裂音を轟かせ、辺りの景色を一時的に消し去った。


 「くっ」

 一瞬、アウローラの視界がホワイトアウトする。


 閃光と破裂音が治まったときには、リリアナもリシャールも、そしてあの(モル)さえも姿を消していた。

 「逃げられたか…?」

 思わず、アウローラは唇を噛む。


 そこへプリムラが追いついてきた。

 「アウローラ、やつらは?」

 「逃げられた。」

 悔しさで歯軋りするアウローラを見ながら、プリムラはティアラに念話(テレフォン)をかけた。

 「ティアラ、いまどこにいる?」

 『【王者の輝き亭】の一階にいます。』

 「アリスを攫ったやつらに逃げられた。あなたのほうで探れない?」

 『しばらくお待ちください。』

 そう返事をしてティアラの念話(テレフォン)が切れた。

 しばしの間、アウローラはイライラしながら、プリムラは難しい顔をして待っていると、ティアラから念話(テレフォン)が入ってきた。

 「ティアラ、わかった。」

 『申し訳ありません。掴めませんでした。』

 「え?どうして。」

 アウローラが突っ込むと、

 『隠れ身の魔法(ステルス)か結界を張っているらしく、探索できませんでした。』

 「そう、ありがとう。」

 プリムラが残念そうな顔をして念話(テレフォン)を切ろうとしたとき、別の声が割り込んだ。

 『プリムラ、アウローラ、一旦戻って来い。』

 「ご主人様」

 「旦那様」

 『一度、仕切り直そう。』

 「わかりました。」

 念話(テレフォン)を切ると、アウローラとプリムラは仕方がないという顔つきで、みんなが待つ【王者の輝き亭】へと引き返した。


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