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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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13 秘密の部屋で作戦会議

 おれとローザは、ミルンに案内されて、彼の隠れ家に赴いた。

 そこは、西区に位置する、いわゆるスラム街と呼ばれる場所だ。

 あばら家と呼ぶにふさわしい家屋が立ち並び、その中には病人、廃人、そして明らかに犯罪者といった輩がひしめいていた。そんな街中をミルンは我が庭のように先へと進み、とある建物の前に辿り着いた。

 「ここだよ。」

 それは屋根や壁があるだけの、およそ人が住むに適したとは言えない建物であった。

 中に入れば、家具とか調度品とかの類のものはひとつもなく、代わりに瓦礫やゴミがあちこちに落ちてる廃屋であった。

 「ここが隠れ家か?」

 おれが尋ねると、ミルンは建物の奥に進み、元部屋と言っていい場所へおれたちを案内した。

 「ちょっと、待ってな。」

 そう言うと、床に敷かれたボロボロの敷物をめくり、その下の床にとりつけてある引手を掴んで、思いっきりに引っ張った。

 隠し扉を開けると、その下に石段があり、ミルンは迷うことなく、その中に降りていった。おれたちもその後に続いて降りていく。


 真っ暗な中、ミルンがなにかを取り出し、やがて、紅い炎が点った。

 蝋燭の灯りによって、自分たちのいる場所がなんとなくわかった。

 石造りの地下室で、テーブル代わりの木箱やいろいろなものを置いてある棚、あとは樽や瓶が置いてあるだけの殺風景な部屋だ。

 「ようこそ、おれの隠れ家へ。好きなところに座りな。」

 見れば、椅子代わりの木箱や樽が置いてある。

 おれはその一つに無造作に座るが、ローザは樽の埃を丹念にハンカチで掃い、そっと座った。

 「なにか出せればいいんだけど、あいにく、水しかねえんだ。」

 ミルンは屈託なくそう告げると、瓶の蓋を開け、柄杓で木の椀に水をくみ、おれたちの前に差し出した。

 「なかなかの隠れ家だな。」

 「地下倉庫が崩れず、残っててね、それを利用しているんだ。」

 ミルンは笑顔をおれとローザに向けてくる。

 「ねえ、パパ、これからどうするの?」

 「そうだな。まずはアリスの居場所を掴まないとな。」

 おれが顎に手を当てて考えていると、ミルンが不思議そうな顔で俺を見つめているのに気付いた。

 「どうした?」

 「そのアリスって、おっさんのこれかい?」

 そう言って、小指をたてる。

 「まあ、そうだな。」

 おれがにやけて笑うと、ミルンがおれの顔をジロジロ見つめる。こんなおっさんを好きになる女がいるのかという疑いの目だ。

 まあ、説明するのも面倒くさいからほっとく。

 

 『ご主人様、アウローラです。』

 唐突に念話(テレフォン)がおれの頭に入った。

 「アウローラか。どこにいる?」

 『ティアラにご主人様を探してもらい、近くまで来ております。」

 そう言って、アウローラの視覚に映る風景がおれの脳裏に届く。

 「目の前の建物の地下室にいる。遠慮せず入って来い。」

 おれにそう言われたが、アウローラが逡巡していることがなんとなくわかる。

 「どうした?早く入って来い。」

 おれが促すと、念話(テレフォン)が不意に切れた。


 しばし待っていると、地下室にアウローラ、プリムラ、それにティアラも姿を現した。

 みな一様に不愉快な顔をしている。

 特にプリムラは、この部屋の雑然さや不潔感に我慢がならないといった態度を見せている。

 「みんな、よく来たな。まあ、適当に座ってくれ。」

 「どこに座るのですか?」

 プリムラが嫌な顔をして聞いてきたので、「そのへんの木箱とかに」と言うとあからさまな不快感を見せた。

 「こんな汚いところでは話もできません。」

 「汚くて悪かったな。無理に居てくれなくてもいいんだぜ。」

 プリムラの言動にミルンが怒ったようにそっぽを向いた。

 「ローザ、もうちょっと体裁のいい部屋を作ってくれない?」

 「いいよ。」

 「ちょっとまてよ。勝手なことをするなよ。」

 プリムラとローザのやり取りに、ミルンはそれを阻止しようとした。

 「ローザ、構わないからさっさとやって。」

 プリムラはミルンの言葉を無視して、ローザに指示を出す。

 ローザがポシェットから四角い、小さな箱を取り出すと、それを壁に向かって投げつけた。

 箱が壁にぶつかると同時に、小さく閃光を放って消える。そのあとには木製のりっぱな扉ができていた。

 「できあがり。」

 ローザが自慢げに言うと、ミルンは不思議そうな顔をして、その扉を見つめた。

 そんなミルンを横目に、プリムラはその扉に手をかけ、手前に引いた。

 扉からは暖かな光が漏れ、その奥に豪華な部屋が見える。

 「一体、どういうことだい!?」

 驚くミルンを置いて、おれたちは次々と部屋の中に入っていった。

 みんなが入った後もミルンだけがその場に立ち尽くしている。

 「入らないの?」

 ローザが笑顔で誘うと、ミルンは我に帰り、恐る恐る扉の奥に入っていった。


 扉の奥にあったのは、夢のような豪華な部屋であった。

 アイボリーの壁に、天井からは魔法の灯り(マジックトーチ)で輝くシャンデリア。

 見るからに高価な絵や彫刻、高級とわかる家具や調度品、中央のテーブルには真っ白なテーブルクロスに金色の燭台が立っている。

 椅子も豪勢な作りだ。

 まさしく貴族の屋敷か王様の宮殿にあるような部屋であった。


 「ど・どういう…ことだ?」

 ミルンは呆けたように口を開け、室内を見渡す。

 「どういうことって、あたしが作った部屋だよ。気に入らない?」

 ローザが責めるようにミルンを見た。

 「いや、気に入るとかいらないとかじゃあなくてさ、おれの隠れ家のとなりが、なぜ、こんな豪華な部屋なんだ?」

 「そんなことより腹がへったな。プリムラ、なんか作ってくれないか?」

 ミルンの混乱を他所に、おれは食事にしようと提案した。

 それに答えて、プリムラが奥に引っ込み、十分後にワゴンを押して現れた。

 「材料がないからたいしたものはできないけど、食べて。アウローラ、お茶いれてくれる?」

 「了解。」

 アウローラが片側の棚からポットとカップ、ソーサーを出し、サイドテーブルに並べていった。

 ポットを持ってプリムラが入っていった部屋に入り、やはり十分後に湯気のたつポットを持って現れた。

 サイドテーブルに並ぶカップに、そのポットでお茶を注いでいく。

 中央のテーブルには、プリムラお手製のサンドイッチが並んでいった。

 おれはさっそく椅子に座り、サンドイッチを手にする。ローザもそれに続き、サンドイッチをひとつ取り上げた。

 アウローラがテーブルの上にお茶の入ったカップを並べていく。

 ティアラ、プリムラ、アウローラ、最後にミルンが席についた。


 みなが思い思いにサンドイッチを口に運び、お茶を飲む。

 ミルンもつられて、サンドイッチを取り上げると、恐る恐る口に運んだ。

 途端にミルンの顔が驚きと幸福感の入り混じった、なんといえない顔になった。

 「うめえ!」

 一度美味を味わったミルンは、次々とサンドイッチを口に運び、お茶を啜った。

 

 皿の上のサンドイッチをほとんど平らげたミルンは、満足感と満腹感に満たされた幸せの息を吐き、椅子の背もたれに身を預けた。

 そんなミルンをほっておいて、おれと娘たちはアリスの奪還について話し始めた。

 「まずはアリスの居場所だな。」

 「ティアラの探索魔法(サーチマジック)に引っかからないなんてありうるの?」

 「高度な結界をかけた場所ならあるいは?」

 ティアラがローザの疑問に答える。

 「そんな結界を張れる人なんているの?」

 「いるんじゃない。現にアリスの居所が掴めないんだから。」

 アウローラがお手上げのジェスチャーをすると、ティアラはすまなそうな顔をして俯いた。

 「探せないなら聞いたらどう?」

 プリムラが何か方法があるような顔つきをして、二人を順に見回した。

 「なんか方法を思いついたの?」

 「さっきから私たちの後をつけているやつがいるのよ。そいつに聞いたらわかるんじゃない。」

 そう言って、プリムラが上を見上げた。

 「私たちの後を…」

 アウローラが反芻して同じように見上げた。それにつられてティアラ、そしておれと上を見上げた。

 ミルンだけが訳がわからないといった顔をして、おれたちの顔を順に見ている。


 「プリムラ、つけているやつを捕まえられるか?」

 「わけないわ。」

 そう言って立ち上がると、不意にプリムラの姿が消えた。

 それを見てミルンは驚いた。

 「き、消えた!?」

 「そう驚くな。たいしたことじゃあない。」

 おれがそう言うと、ミルンが抗議の目を向けた。

 「驚くなって、普通、驚くだろう。あんた、なにものだい!?」

 「おっさんだ。」

 その一言にミルンが納得する訳もない。

 「おっさんって…。ただのおっさんがこんなに美女を率いる訳ないだろう。」

 「もてるおっさんなんだ。」

 からかうようなおれの返答に、ミルンの疑惑はますます重なり、その目に不信の色が浮かんだ。

 「ミルン、変なことは考えるなよ。」

 機先を制されたようで、ミルンが焦ったような顔になり、目が泳ぐ。

 「おれたちのことやこれから起こることを、黙って見ていれば、この部屋も中の物もおまえにやるよ。」

 「え、ほんとかい?」

 ミルンの顔が喜色に彩られた。

 「おれはうそはつかん。」

 「じゃあ、おれは何も聞いてない、何も見てない。」

 ミルンは目を瞑り、耳を塞いだ。

 その様子におれをはじめ、娘たちも苦笑した。

 そんなときにプリムラが戻ってきた。


 「捕まえて来ました。」

 そう言うと、プリムラは自分の影に手を突っ込み、中からなにかを引っ張り出した。

 真っ黒な異形の者。かろうじて手足があり、目と思われる白い部分が顔についていることで、悪魔の一種であることが推察できる。

 「シャドウ?」

 ローザが物珍しそうにのぞき込む。

 ミルンも薄目を開けて、プリムラに引っ張り出された人型の姿を確認した。

 「そう、暗闇に潜み、ひとの後をつけるのが得意な小悪魔よ。」

 プリムラが嘲るように説明すると、全員が納得したように頷いた。

 「おい、おまえ。アリスの居場所を知っているか?」

 おれが尋ねてみるが、返答はしない。

 「旦那様が尋ねているのよ。答えなさい。」

 プリムラがシャドウを目の高さまで持ち上げる。その瞳に睨まれ、シャドウの身体が震えだした。

 「ワカッタ、ナンデモ答エル。」

 「案外素直ね。」

 「言うこと聞くように躾けたからね。」

  アウローラが感心したように言うと、プリムラが得意そうな顔で鼻を鳴らした。


 「もう一度聞く。アリスの居所を知っているか?」

 「ありすトカイウヤツハ、りりあな様ノ寝所ニイル。」

 「リリアナ?」

 初めて聞く名前だ。

 「そいつの寝所って、どこにあるの?」

 今度はアウローラが聞く。

 「王者ノ輝キ亭」

 シャドウの答えに3人が顔を見合わせた。

 「王者の輝き亭って?」

 おれが3人に聞くと、気まずそうに口ごもる。すると横からローザが口を出した。

 「確か、今日の晩餐会の会場だよね。」

 「晩餐会?」

 おれが首を傾げると、ティアラが代表して答えた。

 「いろいろと事情があって、私たち3人は晩餐会に招待されたのです。」

 ティアラの目が珍しく泳いでいる。

 「いろいろな事情って?」

 おれが突っ込むと、3人は押し黙ってしまった。これは何かあるなと思いながら、おれはあえてそこは深く突っ込まない。

 「ともかく、その【王者の輝き亭】にアリスが捕らわれているということだな。」

 「ソウイウコトダ。」

 シャドウの素直な返答に、確信を持ったおれだが、どうやってアリスを奪還するかが次の問題になった。


 「正面から乗り込んだら。」とアウローラ。

 「だめです。建物がアリスともども破壊されてしまいます。」とティアラ。

 「それくらいでアリス死なないでしょう。」と恐ろしいことを言うアウローラ。

 「私もティアラの意見に賛成。関係ない人もまきこまれる。」とプリムラが同調すると、アウローラが不満そうな顔をした。

 「ま、おれもティアラの意見に賛成だな。ここは別な方法を考えよう。アウローラ。」

 おれがやさしく宥めると、途端に甘えた顔になる。

 「ご主人様の仰せのままに。」

 その従順ぶりにミルンが感心した顔をする。それを横目にローザがシャドウに顔を近づけた。

 「ねえ、そのリリアナって何者なの?」

 シャドウが返答に逡巡する。

 「さっさと答えなさい。」

 プリムラの催促にシャドウはびくつき、とつとつとしゃべりだした。

 「りりあな様ハ魔王ニシテ、コノいーすどあノ支配者。【王者の輝き亭】ノおーなーデアラレル。」

 「ちょっと待って。【王者の輝き亭】のオーナーって、エミリアという女性じゃあないの?」

 ティアラが疑問を挟んだ。

 「おーなートシテハえみりあヲ名乗ッテイル。」

 「ふうん、そうなんだ。」

 アウローラが晩餐会で会ったエミリアの姿を思い浮かべる。

 「魔王か。」

 面倒なことになりそうな予感がする。


 「ねえ、忍び込むっていうのはどうなの?」

 思い悩んでいるところにローザが唐突に提案してきた。

 「忍び込むか……」

 「でも、そこ、()()()()とかいう魔王の本拠地なんでしょ。警戒が厳重で忍び込んでもすぐにばれるんじゃあない?」

 プリムラがネガティブな意見をいう。

 「別のところで騒ぎを起こしたら…」

 ローザが何気なく言った言葉にアウローラ、プリムラ、ティアラが鋭く反応した。

 「騒ぎを起こすって…、どうするんだ?」

 おれの問いにローザが考え込むと、ティアラが代わりに提案をしてきた。

 

 「アウローラに皇太子と会ってもらったらいかがでしょう。」 

 「え、なにそれ?」

 おれの素直な疑問に、アウローラが真っ赤な顔をして反論してきた。

 「ちょっと、ティアラ、変なことを言わないでよ。」

 「そうか、アウローラはその皇太子から求婚されてたのよね。」

 プリムラが突然の爆弾発言を発した。

 「え?求婚?」

 おれは目を丸くしてアウローラを見つめた。

 「プリムラ、余計なことは言わないで。」

 「アウローラ、その皇太子に求婚されたのか?」

 「ちゃんと断りました。ご主人様。」

 食い気味に弁明するアウローラをプリムラは意地悪そうな笑顔で眺め、ローザは興味津々の顔つきでおれとアウローラを見守っていた。ティアラは相変わらずの無表情だ。

 「アウローラ、本当なのか?」

 おれが再度追及すると、アウローラは小さくなって頷いた。

 「む~」とおれが表情を硬くしていると、

 「プリムラもダンカンだかダイソンだかいうやつに求婚されてました!」

 と逆襲の爆弾発言が飛び出した。

 「プリムラもか!?」

 おれはプリムラの方を向く。

 あわてたプリムラは、

 「私もダントンにはきちんと断りました!」

 と、弁明。

 「ダントンというのか、その相手は?」

 おれの追及にプリムラもその豊満な身体を小さく縮めて、頷いた。


 「なに、やっているんだ。おまえたちは。」

 おれはふたりに怒った顔を見せると、二人とも泣きそうな顔をする。

 「ああ、泣かせちゃった。」

 ローザがおれに向かって非難の言葉を浴びせる。その言葉に胸をつかれたおれは、あたふたとした。

 「いや、言い過ぎた。ごめん、ごめん、二人とも泣かないでくれ。」

 急いで取り繕うとすると、二人の顔に怪しい笑みが浮かぶ。

 「じゃあ、私たちといっしょに行ってくれますか?」

 「えっ?」

 「ご主人様が一緒に行って、相手に『おれの女に手を出すな』と言ってください。」

 「私もです。旦那様。」

 思わぬ形で反撃が入った。

 「それはいいですね。そうすれば騒ぎが起きて、リリアナの目がそちらに集中する。」

 「その間に忍び込んでアリスを助けるって算段だね。」

 ティアラとローザが作戦を案出する。

 「えっ、そういうことなの。」


 4人はすぐさま作戦を練り、おれは蚊帳の外に置かれた。

 作戦が決まり、おれの承諾なしにおれはアウローラとプリムラに求婚したやつと対決しなければならなくなった。

 「ちょっとまてよ。」

 と反論を試みたが、時すでに遅く、4人の娘の目が圧となって、おれに注がれる。

 もう頷くしかなかった。


 そばでミルンがにやにやしている。

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