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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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11 ……ついでに俺も拉致されちゃった

 みんながいろいろと面倒事に巻き込まれていることなど露程知らない俺は、城でひとりのんびりしていた。しかし、ひとりでいるというのもなかなか落ち着かない。

 二日目にはみんなのことが気になりだしてくる。

 そう思ってくると、勝手なものでみんなのいる世界に行ってみたくなる。

 そう思うと矢も楯もたまらず、おれは警戒装置(セキュリティ)を呼んだ。


 「おれも出かけてくる。」

 『畏まりました。』

 「イースドアの郊外に転送してくれるか?」

 『了解しました。1分後に転送を開始いたします。』

 無機質な返答がおれの頭に返ってくる。

 やがて、転送準備が整い、転送が始まった。

 「留守番をしっかりな。」

 『いってらっしゃいませ。』

 警戒装置(セキュリティ)に送られ、おれはイースドアの郊外に転送された。


 転送された先は、イースドアの郊外も郊外、森の中だった。

 「郊外って言っても森の中はないだろ。」

 そう愚痴をこぼしながらおれは、現在位置を確かめるため警戒装置(セキュリティ)に地図を送るように頼んだ。

 「いまがここだから、こっちのほうだな。」

 おれは頭の中に浮かぶイースドア周辺の地図で、方向を確かめながら森の中を進んだ。30分も歩いただろうか、ようやく森から出て、街に向かう街道を見つけた。

 ほっとしながら歩いていると、目の前に荷馬車が休んでいる。おれは同乗させてもらおうとその荷馬車に近づいた。


 「この馬車は街までいくのかい?」

 馬車の前に立っている男におれは尋ねた。

 振り返った男は、胡散臭そうにおれを見た後、

 「ああ、そうだが、あんたは?」

 と、ぶっきらぼうに答えた。

 「旅行者なんだが、街まで乗せてってくれないか?お礼はする。」

 その提案に再度おれを胡散臭そうに見た男が、謝礼に釣られたのか、承諾してくれた。

 

 休憩を終えて、馬車は出発する。

 馬車の中身は、食料品と獣の皮のようだ。たぶん、イースドアで売るんだろう。

 その割には護衛が多い気がする。

 そんなことを思いながら、馬車に揺られるうちに、おれは寝息をたてていた。


 「おい、起きろよ。」

 乱暴に起こされたのは、しばらく経ってからだ。

 目をこすりながら起きたおれは、男に促されるまま馬車を降りた。ところが降りた場所は、街どころか古びた屋敷が一軒立っているだけのところだった。

 「ここはイースドアか?」

 「の、西のはずれさ。向こうにイースドアの城壁が見えるだろ。」

 確かに雑木林の向こうに城壁が見える。

 「え、じゃあ、ここは?」

 おれが意味も解らず男に尋ねると、背中になにかを突きつけられた。

 「おい、おとなしくしろ。逆らうとためにならんぞ。」

 脅しをかけるのは、護衛をしていたうちのひとりだ。

 「え?あんたたち商人じゃあないの?」

 「商人さ。別名、盗賊ともいう。」

 「ええ!?」

 

 食料品と思われる荷物は、盗品が詰まっているものだった。商人(=盗賊)に脅されながらおれは、荷物を屋敷の中に運び入れるのを手伝わされた。人使いの荒いやつらで、少しでも休もうとすると、棒で殴られる。

 一通り荷物を運び終わると、おれは剣を突きつけられたまま屋敷の地下に連れていかれた。

 地下には鉄の格子のはまった牢屋があり、そこにおれは押し込められた。

 明かり取りの小窓が上にひとつだけの何もない部屋だ。ベットもトイレもなく、代わりに木箱と毛布、ツボがひとつあるだけだ。そのツボからは悪臭がする。トイレ代わりなんだろう。

 おれは部屋の中を見渡した後、格子を触り、揺らしてみた。かなり頑丈だ。

 牢屋の外を見ると、同じような牢屋がいくつかある。中には人もいるようだ。

 どうやら人さらいか奴隷売買もやっているようだ。

 「ということは、おれも奴隷として売られるのか?」

 そんなことを思いながらおれは、木箱に腰を下ろした。


 「さて、これからどうしたものか?」

 のんびりと考えているうちに、しばしの時間が過ぎ、また例の男が牢屋の前にやってきた。

 牢屋の鍵を開けると、「でろ」とぶっきらぼうに命令し、おれはその命令に従って牢屋を出た。

 男はおれの後ろにまわり、目隠しをすると、荒縄で両手を後ろ手に縛った。

 他の牢屋の鍵を開ける音も聞こえ、他の人間も連れ出されるようだ。

 「どこへ連れていくんだ?」

 「黙って歩け。」

 有無を言わせぬ態度に、嫌な予感を持ったおれは、逃げ出す算段を考えた。

 方法はいくらでもあるのだが、おれの後ろにいる男に少し痛い目を合わせたいと考えたおれは、一つの方法を選んだ。


 「ポーズ(時空停止)」

 そう唱えると、途端にその場のすべてが停止した。そうして、後ろを振り向くと別の言葉を唱えた。

 「チェンジング(表体交換)」

 すると、おれと男を光の靄が包み、やがて男がおれの姿になり、おれが男の姿になった。当然、目隠しも拘束もそのまま移り替わっている。

 そうして、おれは男の後ろに回り、また言葉を唱えた。

 「ポーズキャンセル(停止解除)」

 言葉とともに再びすべてが動き始めた。ただ違っていたのは、おれと男の姿が入れ替わっている、ということだ。

 「あれ?急に暗くなったぞ。」

 男が急な変化に戸惑っている。おれはそんな男の背中を押し、地下から地上への階段を上がらせた。


 地上では仲間の男たちが待ち受けており、他の人間を次々と外へ連れ出していた。

 「おい、待ってくれ。おれは違うんだ。おれだ。おれだよ!」

 おれの姿になった男が喚き始める。それを聞きとがめた別の男が、いきなり棒でそいつを殴りつけた。

 男は失神し、床に丸太のように倒れた。

 「おい、そいつを馬車へ運べ。」

 おれともうひとりの仲間が両足と頭を持って、外へそいつを連れ出した。


 外にはさっきの荷馬車が待っており、すでに数人の男女が乗っていた。子供もいる。

 その荷台に失神している男を乗せると、続いて一緒に運んで来た男、そしておれと馬車に乗り込んだ。

 「全員乗ったか?」

 「へい」

 みんなの返事を聞いて、鞭の音とともに馬車が動き出した。


 馬車に揺られること数十分。馬車が急に止まった。

 外を覗き見ると、イースドアの城壁の前で止まっている。城門があり、そこで御者が門番と何か話している。そのとき、御者が門番に何かを渡した。

 それをきっかけに門番は馬車を通し、無事、城門を抜けた。

 「わいろか…」

 「なんか言ったか?」

 同乗しているもう一人の男が怪訝そうな顔で尋ねてきた。

 「いや、なんでもない。」

 「くっちゃべってないで、降りる準備をしろ。もうすぐ、着くぞ。」

 御者の男が後ろを振り返って、叱りつけてきた。

 それから間もなく、馬車は唐突に止まった。

 おれともう一人の男は、馬車から降りると、乗っていた男女を順番に降ろしていく。皆、諦めと不安、恐怖を混ぜ合わせたような表情をしながら黙って降りてくる。

 

 馬車が着いたところは、何の装飾もない工房のような大きな建物である。そのドアを御者の男が叩くと、中から禿げ頭の男が出てきた。

 「着いたか?で、何人だ?」

 「7人だ。男が3人、女が4人。そのうち子供(ガキ)が3人だ。」

 「よし、中に入れ。」

 そう言うと、ドアが大きく開いた。御者が中に入るように促すと、男女はおとなしくドアに入っていった。ひとりだけ喚いているのがいたが、うるさいので猿ぐつわを噛ませて、静かにさせている。

 言わずと知れたおれと入れ替わった男だ。


 おれも皆の後に続いてドアから中に入ると、そこはやはり工房のようで、様々な工具や道具、炉や金てこなどが無造作に置いてあった。

 「おい、そいつらを部屋に連れていけ。」

 禿げ頭がおれともう一人の男に指図し、それを受けておれたちは、並んで立っている男女を奥にある扉の前に連れていった。もうひとりがその扉を開けると、中は石造りの薄暗い部屋だ。

 天井から下がっているランプだけが光源で、あとは片側に大きな釜があり、そのなかに石炭がごうごうと燃えていた。

 7人をその部屋にいれると、片側に集めて座らせた。

 これからなにが起こるのか知っているようで、皆が震えている。

 「おい、もう一人の(ガキ)も連れて来い。」

 後ろから禿げ頭が、おれに命令してきた。

 「もう一人の(ガキ)?」

 「物置に閉じ込めている。さっさと連れて来い。」

 おれは言われるまま部屋を出、工房にいた男に物置を聞いて、その扉を開いた。


 なかにぬいぐるみを抱いて寝ている女の子がいた。

 「ローザ?」

 おれが思わず口に出すと、ローザは薄っすら目を開け、おれの方を見た。

 「あんた、だれ?」

 「おれだよ。」

 そう言って、後ろ手に扉を閉めると、おれはローザに歩み寄った。

 ローザは警戒して後ろに下がるが、おれが変装を解くと、その姿に目を見張った。

 「パパ!?」

 「しっ、声が大きい。」

 おれの指摘にローザは口をつぐむと、おれは片膝をついてローザに視線を合わせた。

 「こんなところでなにをしている?」

 「へへ、ちょっとした冒険。パパこそなんでここにいるの?」

 「ま、おれも冒険かな。」

 おれが照れ隠しに薄笑いを浮かべると、ローザはいじわるそうな微笑みを浮かべた。

 「それで、私に何の用?」

 「そうだ。おまえを連れて来いと言われたんだ。ローザ、身代わりは作れるか?」 

 「身代わり?」

 「ああ、やばいことをやりそうな気配なんでね。」

 おれがドアの向こうに視線を送ると、ローザは何かを察したのか、ぬいぐるみを掲げ、呪文を唱えた。

 「クローニング・マリオ(人形複写)」

 ぬいぐるみが粘土のように柔らかくなったかと思うと、変化を始め、やがてローザと寸分違わない姿に変身した。

 「よし、連れていくから、ローザは姿を消しておけ。」

 おれの指示にローザは頷くと、「隠れ身魔法(ステルス)」を使って姿を消した。


 おれは変装を元に戻し、ローザの身代わり人形を連れて物置を出ると、禿げ頭が待っている部屋に戻った。

 中では待ちかねた様子の禿げ頭が、連れてきた身代わり人形をひったくるように中に連れ込むと、片隅に集まって座っている連中の横に座らせた。その中では恐怖で泣き出す者がおり、相変わらず、喚き散らしている者もいる。

 おれの身代わりが必死に訴えているが、猿ぐつわのせいで言葉にならない。よほどのことがこれから起こると推察できる。

 おれの目は釜の中で燃える石炭と鉄の棒を見据えていた。

 「焼き印か?」

 おれが哀れみの目をしている先で、喚いていたおれの身代わりが引き出された。

 「うるさいこいつからだ。」

 禿げ頭が釜の中の鉄の棒を取り上げた。その先には真っ赤に焼けた刻印がついている。

 仲間たちが身代わり男の服を脱がせ、壁に取り付けてある鎖に両手をつないだ。その拍子に猿ぐつわがはずれる。

 「待ってくれ!違うんだ。おれだよ。ガゼルだよ。信じてくれよ。」

 半べそをかいて訴えるが、だれも聞く耳を持たない。

 禿げ頭が焼き印をガゼルの左肩あたりに押し付けた。

 「うぎゃあぁぁぁ~‼」

 悲鳴が部屋中に響き、肉の焼ける匂いが充満する。片隅にいた者たちが震えあがる。

 激痛に耐えかねて気絶したのか、ガゼルはぐったりとしていた。

 鎖が外され、ガゼルは荷物のように部屋の外へ運び出された。


 「次は嬢ちゃんだ。」

 禿げ頭の視線がローザに移った。

 二人の男がローザを抱え、禿げ頭の前に連れてくる。

 「ずいぶんおとなしいな。諦めたかい。」

 禿げ頭が嫌らしい笑いを浮かべながら、二人の男にローザを壁の鎖につなぐよう指図する。

 おれは扉の前に移動し、いつでも逃げられる体勢をとった。

 ローザの服が脱がされ、その白い肌に焼き印が押される。

 その途端、ローザが焼き印を押された部分から燃えだし、白い煙が勢いよく上がると、部屋中に充満した。

 「ゲホゲホ、なんだこりゃ?」

 禿げ頭も二人の男も煙にまかれ、むせて息もできず、その場に蹲った。

 「逃げろ!」

 そう叫ぶと同時に、おれは扉を開け放ち、外へ飛び出した。

 震えていた6人の男女も、チャンスとばかり後に続いて部屋から逃げ出した。

 

 煙は外にも流れ出し、建物の中に広がり始めていた。

 「なんだ、この煙は!?」

 「奴隷が逃げたぞ!」

 建物の中はパニック状態になった。

 そんなとき、おれの前にローザが姿を現した。

 「パパ、こっちよ。」

 ローザの声に導かれて、おれは建物の出口へと向かった。

 「まて、この野郎。」

 後ろから禿げ頭の怒号が聞こえる。しかし、そんな声に応じるつもりもなく、おれとローザは建物の外へ飛び出した。


 外に出たおれの視線の先に馬車が見える。

 「あれを奪うぞ。」

 馬車に向かっておれとローザは駆けた。

 当然、捕まっていた6人の男女も続く。

 「そいつらを捕まえろ!」

 禿げ頭の命令で手下が逃げる男女を捕まえていく。

 それに構わず、おれとローザが馬車を目指すと、その前に男が一人立ちはだかった。

 「とまれ!」

 言葉と同時に短剣を抜く。

 その行動にローザが反応し、その身を躍らせた。

 駆けるように宙を飛ぶローザの右足が、男の顔面にヒットする。

 男は無様に引っくり返り、そのまま気絶した。

 「パパ、早く。」

 ローザがすばやく馬車に乗り込む。おれも御者台に上がると、手綱を握った。

 手綱を振るうと、馬車は走り出し、スピードをどんどん上げていく。

 追手はそのスピードに追い付けず、やがて追いかけるのをあきらめた。


 しばらく馬車を走らせたおれは、追手がないことを確かめ、馬車を停めた。

 「どうやら、まいたようだな。」

 ホッとしたとき、ローザが素っ頓狂な声を上げた。

 「あんた、だれよ。」

 驚いて振り返ったおれの目に、ローザ以外のもう一人の人間を見止めた。

 「おまえ、捕まってた人間のひとりか?」

 「いつのまに馬車に乗ったの?」

 「へへへ、助かったぜ。」

 悪びれることなく、厚かましい態度をとっている人物は、よくよく見ればまだ子供だ。

 「あんた、どっかで見たわね。」

 「ああ、昨日会ったよな。」

 「あのときの盗人。」

 ローザが驚きと不快感を示して、その子供を睨むが、相手はどこ吹く風の様子だ。

 「乗ったものはしょうがない。」

 おれは、諦めた様子を見せて、馬車を動かした。


 はじめ、おれはローザたちが泊っている宿屋に向かったが、胡散臭いおれや浮浪児を入れてくれるわけもなく、まさしく門前払いを喰らった。

 その態度に憤慨したローザは、宿屋を燃やしてやると息巻いていたが、それをなんとか宥め、おれたちはとりあえず、飯屋に入った。

 「さて、これからどうしたものか?」

 おれがため息がてら呟くと、ローザとミルンと名乗った子供は、食事に夢中でおれの心配はどこ吹く風だ。

 「アウローラやプリムラはいまどこにいるんだ?」

 「アウローラ、プリムラ、ティアラはなんかのパーティに出かけた。アリスはカジノ。」

 とのローザの返答に、しばらくは4人とも帰ってこないな、と思うと深いため息が出る。

 「パパ、心配したって始まらないよ。ま、なるようになるよ。」

 「そうそう、気軽にいこうぜ。」

 ミルンが調子よく言うのを、「おまえがいうな。」という目で睨む。しかし、そんなおれの睨みもミルンには通用せず、また肉をパクつく。

 そんなとき、ローザに念話(テレフォン)が入った。


 「はいは~い」

 ローザが話し始めると、唐突におれに視線を送る。

 「ええ?…アリスが行方不明なんだって…」

 「アリスが行方不明?」

 その言葉におれは思わず身を乗り出した。

 「うん、パパがいるよ。」

 話している相手は、プリムラかアウローラだろう。

 「ローザ、おれに繋いでくれ。」

 ローザがおれの手を握る。すると、おれの頭の中にプリムラの声が響いてきた。

 「旦那様!どうしてそこに!?」

 しかも、結構な音量だ。

 「プリムラ、声がでかい。」

 「すみません。でも、どうして?」

 「ちょっと冒険しに。」

 苦しい言い訳に、プリムラが苦虫を噛み潰したような顔をしているのが思い浮かぶ。しかし、そんなことよりアリスのことだ。

 「アリスが行方不明ってどういうことだ?」

 「ずっと、連絡が取れないんです。ティアラに探してもらっても見つからないというし。」

 プリムラがいまにも泣き出しそうになっている。

 「ご主人様、どういたしますか?」

 アウローラが割り込んできた。

 「ともかく、みんな集まってくれ。場所は…」

 「おれの隠れ家はどうだい?」

 ミルンが提案してきた。

 さっきの連中のこともあるし、このさい、ミルンの提案にのるか。

 「よし、ミルン、お前の隠れ家に案内してくれ。」

 「よっしゃ。ついてきな。」

 「ご主人様、だれと話しているんですか?」

 アウローラが当然の疑問を投げかけてきた。

 「後で話す。とりあえず、おれのいる場所にきてくれ。」

 そういうと、念話(テレフォン)を切り、おれとローザはミルンの案内で、その隠れ家に行くことにした。


みなさん、あけましておめでとうございます。

年明けもがんばって投稿しますので、応援をよろしくお願いします。

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