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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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10 ローザ、潜入した先で……

 また、時は遡り、そう、ちょうどアリスが勝負を始めた頃、鍛冶工房のある区画へ出かけたローザは、昨日、腕輪を購入した店に赴いていた。

 昨日と同じように金持ちや貴族の婦人たちがショーケースの中を覗きながらショッピングを楽しんでいる。

 そんな光景を見ながら、ローザは昨日の店員を探した。

 

 「おねえさん。」

 昨日対応した女性店員を見つけたローザは、商談をひとつ終わらせたところを見計らって声をかけた。

 その声に振り返った店員は、昨日の少女と気づき、腰をかがめた。

 「いらっしゃいませ。お嬢さん。」

 「おねえさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

 「なあに?」

 「これを作っている工房を教えてくれない?」

 そう言って取り出したのは、昨日購入した腕輪だ。

 店員の顔が少し強張った。

 「どうして?」

 「こんなきれいな腕輪を作る工房にすごく興味があるの?」

 ローザは少女らしい無邪気な笑顔を店員に向け、懇願した。

 「お嬢さんが見ても面白いところじゃあないわよ。」

 「私、鍛冶工房見るのがすごく好きだから平気よ。」

 折れないローザを見て、困った顔をした店員は、「ちょっと、まって」と言い残して奥へ消えた。


 店の奥まったところで、店員は店長と思しき男になにかを相談する。

 ローザのところでは、二人が何を話しているかは聞こえないが、その口元を見て、ローザは二人が何を話しているのか読み取ることができた。

 “工房を教えろと言っているのですが…”

 “なにかを勘づいたんじゃあないだろうな?”

 “子供ですから、単なる好奇心かと思うのですが…”

 “子供が工房を見たがるか?ともかく、用心に越したことはない。”

 “どういたしますか?”

 “やつらにまかせよう。おまえは例の場所に連れていけ”

 “わかりました。”

 以上のような会話が聞こえないように交わされていた。

 「なんか、面白くなってきたわね。」

 ローザの好奇心が急速に膨れ上がる。


 女性店員に連れられ、ローザは店を後にした。

 工房まで案内するとの申し出に、ローザは快く承諾したのだ。

 連れ立った二人は、工房街の狭い路地をあっちに曲がり、こっちに折れ、しばらく歩き続けた。やがて、二人が到着したのは、大きなドアを持つ倉庫のようなところだった。

 「ここがその工房?」

 ローザが疑問に思っていると、店員がドアに付属する小さなドアを叩いた。

 ドアが開き、中から髭もじゃらの男が顔を覗かせた。

 「お客さんを連れてきたわ。」

 髭もじゃの男は、ローザをじろりと見た後、顎で入るように指示すると、ドアの中に消えた。

 「私についてきて。」

 店員が先に入った。ローザがそれに続く。


 中は薄暗く、静まり返っていた。鍛冶の音は少しもしない。

 「本当にここなの?」

 ローザの疑問に誰も答えない。

 いつの間にか店員も姿を消していた。

 「どこにいるの?」

 ローザがあちこちを見渡していた時、背後で動くものがあった。

 黒く長い物がローザの頭上に振り下ろされる。

 しかし、ローザはいち早くそれに気づき、軽く躱した。

 「やっぱりそういうこと。」

 いつのまにか3人の男がローザを取り囲んでいる。

 後方にはあの髭もじゃの男と女性店員がいた。

 「とっととすませろ。」

 髭もじゃの男がそう指示すると、女性店員と連れ立って、奥の部屋に入っていった。


 二人が奥の部屋に入り、椅子に座った途端、争う音がドアの向こうから響き、しばらくして静かになった。

 「終わったようだな。」

 「子供相手にかわいそうじゃない?」

 「歳は関係ない。ここでの仕事は誰であろうと漏らすわけにはいかない。たとえ針の穴と言えども塞がねばならんのだ。さもなくば、われらが()()()()()のだ。」

 髭もじゃの男が冷たく言い放った。それを聞く女店員は薄ら寒さを感じて、身震いした。

 そこへドアをノックする音がした。

 「入って来い。」

 髭もじゃの男の許可にドアが静かに開いた。

 「見つからないように始末して来い。」

 「始末って、どこにするの?」

 聞いたことのない声に髭もじゃの男は驚いて振り返り、聞いたことのある声に驚いた女店員はその声のほうに視線を移した。

 二人の前にいたのは、部下ではなく、ローザの小さな姿だった。


 「おまえは!?」

 髭もじゃの男が立ち上がり、ローザに身体を向けた。

 「ねえ、本当の工房はどこにあるの?」

 「どういうことだ?」

 いまだ、目の前の事実が信じられない男は、開け放たれたドアの向こうを見た。薄暗がりの中に倒れている男たちがいる。

 「ねえ、聞こえてる?本当の工房はどこにあるの?」

 多少苛ついたように聞くローザに、男は腰に差したダガーを抜いて答えた。

 「どんな手を使ったか知らねえが、おれには通用しねえぜ。」

 隙のない構えで男は、ローザににじり寄る。その後方では女店員が、成り行きを見守っていた。


 「しゃっ!」

 鋭い気合とともにダガーの切っ先がローザの腹に迫る。

 ローザはそれを躱そうともせず、ダガーは深々と腹に突き刺さった。

 男の目に残忍な笑いが現れる。しかし、それはすぐに打ち消された。

 「ひどいな。あたしの人形が傷ついたじゃあない。」

 ローザがいつのまにか熊のぬいぐるみになっている。

 男の表情が混乱で一杯になった。

 不意にぬいぐるみの後ろからローザの顔が現れ、それに男は驚く。

 「な、何なんだ!おまえは…」

 「何なんだはないでしょ。こんなかわいい少女をつかまえて。」

 男はダガーを引き抜き、再度攻撃しようとした。

 「こんどはあたしね。」

 ダガーを突き刺そうとしている男に向かって、ぬいぐるみの右拳があがり、そのまま男の顔面にヒットする。男は勢いよく吹き飛び、後ろの壁に激突し、床に落ちて動かなくなった。


 殴ったぬいぐるみの後ろから現れたローザは、震えながらその場を逃げ出そうとしている女店員を見つけ、その前に立ちはだかった。

 「まだ、工房に案内してもらってないよ。」

 「へっ…?」

 女店員は力なくその場にへたり込んだ。

 「さっさと立って、案内してよ。」

 ぬいぐるみがへたり込んだ女店員を立ち上がらせ、前に押し出した。


 表に出た女店員は黙って歩き始め、それに続くローザはぬいぐるみを小さく折りたたんでポシェットに入れ、女店員の後を追った。

 30分ほど歩き、工房ブロックのはずれに来たとき、女店員が唐突に立ち止まった。

 「あそこよ。」

 女店員が指し示す指先に、ひときわ大きい建物があった。

 何の装飾もない見るからに工房というその建物には、人の気配が感じられなかった。

 「ひっそりしてるけど、本当にここ?」

 ローザが女店員を突っつくと、途端に怯え顔になった。

 「本当よ。品物を収めるのに大半の人が出払っているのよ。」

 「ふうん…、じゃあ、ちょっと手を出して。」

 「え?」

 女店員は訝しがりながら右手を出した。ローザはその手を取ると、ポケットから例の腕輪を出し、女店員の右手首に装着した。

 「なにするの?」

 驚いた女店員は、その腕輪を取ろうとした。

 「取らないの。」

 ローザの命令に女店員が素直に反応した。

 魔力を使って腕輪の術式を発動させたのだ。

 「私を捕まえたことにして、この中に入りなさい。」

 そう命令され、女店員は頷くと、ローザに差し出された紐を取り、ローザの両手を縛り、自分のスカーフで目隠しをした。

 そうした後、女店員は工房のドアをノックする。


 「だれだ?」

 中から男の声が帰ってくる。

 「私よ。アンジェラ。」

 その返答にドアが少し開いた。

 「おまえか?何の用だ。」

 「怪しい女を捕まえてきた。」

 「怪しい女?」

 ドアの陰から禿げ頭の男が顔を覗かせ、アンジェラの後ろにいるローザに目を止めた。

 「この女か?まだ、ガキじゃあねえか。」

 「店長が、子供でも捕まえておけって言ったのよ。どうするか、判断がつかなかったから連れてきたわ。」

 禿げ頭の男はアンジェラをじろりと一睨みすると、入るように顎で合図した。

 アンジェラとローザは並んで中に入っていった。


 中はかなり広く、工房としての道具や設備、炉などが並んでおり、その中を少ない人数が動いていた。工房特有のにおいが辺りに充満しており、熱気もあり、あまり居心地のいい場所とはいえない。

 「こっちだ。」

 禿げ頭男に案内され、アンジェラとローザは工房の中を横切り、とある部屋の前に立った。

 「この中に入れておけ。」

 鍵を開け、ドアを開けるとそこは物置のようであった。

 言われるままアンジェラは、ローザを部屋の中へ押し込め、男がドアを閉めて、鍵をかける。

 明かりのない暗い部屋に一人取り残されたローザは、縛ってあった紐を簡単に解き、目隠しを外した。そして、ポシェットから一本のローソクを取り出すと、それに魔力を注ぎ、灯りを灯した。

 中はまさしく物置で、椅子や机、工房の道具などが雑然と置いてあり、鍵のかかったドア以外、窓ひとつもない。床は石材が敷き詰められており、穴を掘って逃げるなど思いもよらない。

 「さて、これからどうするか?…様子見といきましょう。」

 ローザは暢気に床に座り、ポシェットから熊のぬいぐるみを出すと、それで遊び始めた。


 外では禿げ頭の男とアンジェラが話していた。

 「どうするの?」

 「もうすぐ、商品が到着する。そいつといっしょに売りさばく。」

 「始末しないの?」

 「けっこうな上玉だ。高く売れる。」

 「じゃあ、奴隷として。」

 アンジェラの脳裏に奴隷となる人間の行く末が思い浮かぶ。あまりいい想像ではない。

 「おまえは店に戻ってろ。」

 「わかったわ。」

 禿げ頭の男に別れを告げたアンジェラは、そのまま工房から出ていった。

 それを見送った禿げ頭は、近くにいる部下に命令する。

 「もうすぐ商品(どれい)が到着する。焼き印の用意をしておけ。あと、今日の出荷分の準備は大丈夫だろうな。」

 「へい、準備は万全です。親方。」

 「よしよし」

 禿げ頭は扉の向こうを見透かすように見た後、いやらしい笑いを浮かべながら工房の奥へと歩いて行った。


今年度最後の投稿になります。年明けの投稿は1月9日の予定です。

楽しみにしていてください。

みなさん、よいお年を。

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