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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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9 アリス、勝負の先に……

 晩餐会での大騒動より時は遡り。


 アリスは約束の場所に向かって、馬車に揺られていた。

 久しぶりに燃えるような勝負の予感に、心が浮き立つのを抑えることができない。

 「こんな気持ち、久しぶり。」

 独り言をつぶやきながら窓の外を眺めていると、目的のカジノに到着した。

 ドアボーイがすぐに馬車のドアを開ける。中から下りてくるアリスは、薄紫のパーティドレスで、右肩のところに大きな花の装飾が施されている。

 その美しさに若いドアボーイは一時見とれてしまい、その幼さにアリスは軽く微笑みかけた。

 途端にドアボーイは顔を真っ赤にして目を伏せた。


 アリスは、約束の場所【カジノシティ ハイラル】の回転ドアをくぐり、カウンターに向かった。

 「アリス様でいらっしゃいますね。」

 カウンターに立つ壮年の支配人が、恭しく頭を下げた。

 「スレイマン様がお待ちです。ご案内いたします。どうぞ。」

 いつの間にかボーイが横に立ち、アリスをエスコートした。

 「ありがとう。これ、チップに換えて持ってきて。」

 そう言って、カウンターにパンパンの革袋を置く。それを涼しい顔で受け取った支配人は、片側にいる部下に何かを指示して下がらせた。

 アリスは、ボーイの案内で奥へと歩いて行く。


 大きなカジノ会場の横にある廊下を奥へと進み、ボーイは突き当りのドアの前に立って、ノックした。

 ドアの向こうから「どうぞ」の声がする。

 静かにドアを開けると、意外と広い部屋に昨日会ったブロンドの美青年、リシャールが立っていた。

 「やあ、お待ちしてましたよ。」

 極上の笑顔をアリスに向け、部屋の中央にある八角形のテーブルにアリスをエスコートする。

 椅子を引き、アリスを座らせると、リシャールは真向かいに座った。

 傍らには白髪に白髭のディーラーと思しき初老の男が立っている。

 部屋を見渡すと、縦の対面の壁にはそれぞれどこかの風景画が飾られ、横の対面には大きな花瓶に花が、反対側には裸婦像が立っていた。

 探るように辺りを見廻したあと、アリスは正面に座るリシャールに笑顔を送る。

 ウェイターが両者の横にチップを重ねた。

 「では、はじめましょうか?」

 「ええ」

 二人の受け答えを聞いて、初老のディーラーが二人の真横に座った。


 「それでは、これより始めます。ゲストはアリス様、スレイマン様おふたりです。ルールはセブン・スタッド。それでよろしいですね?」

 ディーラーが二人を交互に見ると、ふたりはほぼ同じく頷いた。

 「レートは、100,200,400です。よろしいですか?」

 同じように頷くのを確認したディーラーは、テーブルの下からカードの入った箱を取り出し、封を切った。

 「では、アンティ(参加料)を置いてください。」

 二人は自分の前にチップを置く。

 それを確認して、ディーラーが二人の前にカードを3枚、2枚は裏向きに、1枚は表向きに置いた。

 「スレイマン様が先になります。」

 二人は裏向きのカードを覗くように見る。

 ひりつくような勝負が始まった。


 「アリス様の勝ちです。」

 ディーラーの言葉とともに、中央に置いてあったチップがすべてアリスの前に移動した。

 こうしたチップの往復が何度あっただろう。

 時間を忘れるほど、白熱した勝負がこの部屋で繰り広げられていた。

 「少し休憩しない?」

 「いいですね。何か飲みますか?」

 「水でいいわ。」

 「じゃあ、彼女にはミネラルウォーターを。私にはスピリッツをくれ。」

 リシャールの注文に部屋のディーラーが扉のところへ歩み、外で待っているウェイターに注文を伝えた。

 ほどなく、ウェイターが入ってきて、アリスの前にミネラルウォーター入りのグラスを、リシャールの前には琥珀色の液体の入ったグラスが置かれた。

 それで喉を潤したアリスを見て、リシャールが口を開いた。

 「ディーラー、現在のチップの数は?」

 「アリス様が少し上回っておられるようです。」

 その報告にリシャールが少し渋い顔をした。

 「はじめましょうか?」

 アリスの言葉にリシャールは椅子に座り直した。

 「アンティ(参加料)を置いてください。」

 ディーラーの言葉でそれぞれがアンティ(参加料)を自分の前に置く。

 それを見て、ディーラーが二人の前にカードを3枚置く。

 二人がほぼ同時に伏せた2枚のカードを見る。


 「オールイン」

 リシャールが持っているチップをすべて中央に置いた。それを見て、アリスとディーラーが軽く目を見張る。

 「ここらで決着といきませんか?アリスさん。」

 涼やかだが、挑戦的な笑みがリシャールの顔に浮かぶ。

 それを見て、アリスも口の端を釣り上げる。

 「いいわ。受けましょう。」

 そう言うと、アリスも手持ちのチップをすべて中央に置いた。

 「かしこまりました。これをラストとします。」

 二人の意思を確認したディーラーは、続けざまにカードを配っていく。

 

 緊迫の時間が過ぎていく。

 1枚、1枚置いていくカードの音が部屋中に響くようだ。

 最後の1枚が伏せられて両者の前に置かれる。


 リシャールのオープンカードにはクラブとハートのキング、あとはスペードの8とダイヤの5だ。そして、アリスのオープンカードはハートとスペードのクイーン、あとはハートの10とスペードの3である。

 

 もはや、後戻りはできない。

 全部か無(オールオアナッシング)である。


 しばらくの間、見つめ合っている二人を見て、ディーラーはフォールド(棄権)はないと確信した。

 「スレイマン様からオープンしてください。」

 ディーラーに言われ、リシャールが伏せた札を開いていく。

 1枚目、スペードのキング、2枚目、クラブの5だ。【フルハウス】は決定している。

 3枚目をゆっくり開く。

 アリスの目に映ったのは、ダイアのキング。

 「キングのフォーカードでございます。」

 ディーラーの告知に、リシャールの口元に勝利を確信した笑みが浮かぶ。

 

 アリスが勝つには【エースのフォーカード】以上が必要だ。

 しかし、エースは一枚も出ていない。


 「では、アリス様、オープンしてください。」

 アリスは言われて、1枚目を開く。

 ハートの8だ。

 2枚目を開く。ハートの9だ。


 リシャールの顔から勝利の確信が消えていく。

 (まさか…)

 アリスが3枚目に指をかける。

 もったいつけることもなく、カードが開く。

 

 そこにあったのは、ハートのジャック。


 「アリス様、ストレートフラッシュです。」

 

 リシャールの顔から表情が抜ける。


 「アリス様の勝ちでございます。」

 ディーラーの勝利宣言にアリスは一息ついた。

 それだけ競った勝負だったということだ。

 アリスの中に高揚感がじわじわと湧き上がる。

 それは一瞬の隙を生んだ。


 突如、アリスに目眩が生じる。

 (えっ?)

 リシャールの後ろにある風景画が歪んで見える。

 「まさか…?」

 「どうなさいました?アリス殿。」

 リシャールが心配そうな顔をする。

 危険を察知したアリスは、この場を離れなければという思いで、席を立とうとする。しかし、足がふらついて、体のバランスがとれない。

 目の前の絵が徐々に形を変え、絵の中から別の表情が現れる。

 それは二つの目となって、アリスを捕らえた。


 「あの、絵か…?」

 そう思った時には遅かった。


 その目に魅了され、アリスの意識が遠退いていく。

 (勝負は隠れ蓑…、目的は……?)

 アリスはそのまま床に倒れた。


 ディーラーが倒れたアリスの傍らにかがみこみ、状態を確かめる。

 「完全に意識を失っております。スレイマン様。」

 リシャールは、ブロンドの髪をかき上げ、ほくそ笑んだ。

 「よい、獲物が獲れた。すぐにリリアナ様のところへ運べ。」

 その言葉は、アリスには聞こえない。


ギャンブルの緊張感が少しでも伝わりましたでしょうか?

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