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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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8 パーティは終わり、別の面倒事が……

 アウローラとアルギュウスの戦いが終わり、緊張感が解けたおかげで、会場にいた来客たちも恐る恐る出入り口から顔を覗かせ始めた。

 アウローラが自らの剣を別空間の箱(サブスペースボックス)に納めると、その足で倒れているクリムの元に歩み寄った。


 肩口を切られたクリムは、身体強化の腕輪のおかげで傷は浅いが、出血がひどく、このまま放置すれば死に至ることは明らかだった。

 「ポーションは持っているか?」

 アウローラの問いにクリムは首を横に振った。

 その答えに軽くため息をついたアウローラは、別空間の箱(サブスペースボックス)に手を入れ、一本の瓶を取り出した。

 それをクリムにむりやり飲ませ、残った液体を傷口に振りかけた。

 たちまち、傷口が塞がり、クリムの顔色も良くなっていく。


 「こ、これは…」

 「友達(アリス)にもらったポーションを使った。これで傷は治る。」

 「ありがとうございます。」

 クリムは立ち上がって礼をしようとしたが、身体に力が入らない。アウローラはクリムが起き上がるのを抑えて、ニコリと笑顔を送る。

 「傷が治ったとはいえ、出血した血まで回復したわけではない。しばらくは休んでおれ。」

 そう言って立ち上がると、アウローラは辺りを見廻した。

 衛兵、襲撃者を含め、息をしていない者がほとんだ。助かった者も重傷者ばかりである。

 「ティアラがいればなんとかなったものを。」

 その名前にクリムは、すぐに反応した。


 「ティアラ殿をご存じか?」

 「ええ、私の友達だけど。」

 「それで一緒にいた王女様は?」

 サリーのことを思い出したクリムは、もう一度立ち上がろうとしたが、アウローラがそれを抑えつけた。

 「一緒にいたご婦人ならティアラが連れて、逃げていった。たぶん、無事だろう。」

 その言葉を聞いて、クリムは安心したように再び床に横たわった。


 「アウローラ殿。」

 後ろから呼びかけられ振り向くと、そこにはアイザックが立っていた。

 「アイザック殿。ご無事だったか?」

 アイザックの無事な姿を見て、安堵の顔を見せるアウローラの手をアイザックはいきなり握った。

 「見ていました。すごい!すばらしい‼あの不敗の英雄を倒したのですから。」

 興奮するアイザックを苦笑いしながら見ているアウローラは、アイザックの称賛を一旦制止させた。

 「アイザック殿、ともかく、けが人たちに急いで治療を。」

 「おお、そうですね。」

 それに気が付いたアイザックは、後ろに控えるローラに医者の手配を命じた。


 命じられたローラは、エミリアの元へ飛んでいった。

 エミリアは御付の者たちとなにかを話し合っていた。

 「エミリア様、刺客どもはおおかた片付いたようです。すぐに医者の手配を。それから衛兵も。」

 ローラに気が付いたエミリアは、ローラの進言を受けて、すぐに片側にいた執事に医者の手配と衛兵の出動を命じた。

 命令を受けて会場を出ていった執事を見送り、エミリアは改めてローラに視線を戻した。

 「伯爵のおかげで襲撃者を撃退できました。ぜひ、礼を言いたい。伯爵はどちらですか?」

 「会場の外におられます。呼んでまいりましょう。」

 「いえ、私が参りましょう。」

 呼びに向かおうとするローラを引き留め、エミリアは自らアイザックの元へ歩いて行った。


 そのころ、廊下ではアイザックがアウローラに向かって美辞麗句を並べ立て、自らの感動を伝えようとしていた。それを黙って聞いているアウローラは、いささかうんざり顔をしている。

 「アウローラ殿、ぜひ、この指輪を受け取ってもらいたい。」

 そう言って、アイザックは自分の右手中指にはまっている指輪を外し、アウローラに差し出した。

 その行為にアウローラは首を傾げる。

 「そして、ぜひ、わが妻になってくださらんか?」

 「ええ‼」


 「殿下!なにをおっしゃっているんですか?」

 アイザックの発言に真っ先に反応したのは、アウローラではなく、戻ってきたローラだった。

 その後ろからついてきたエミリアも、アイザックの突然の求婚に、呆けたように口を開いた。

 「私は本気だ。ローラ。」

 「皇太子としての立場をお考え下さい。」

 「だからこそだ。この勇気、立ち居振る舞い、動じない胆力。すべてにおいて、皇太子妃としてふさわしい。」

 アイザックはローラに向かって熱弁を振るう。

 もはや、自分が()()()であるということを隠そうともしない。

 それに対して、ローラも負けじと翻意させようと弁じた。

 当のアウローラは完全に蚊帳の外である。


 「モテモテじゃあない。アウローラ。」

 唐突にからかうような言葉が、アウローラの後ろからかけられた。

 振り向けば、そこにいたのはプリムラの豊満(ぽっちゃり)姿だ。

 「プリムラ、冗談はやめて。」

 「でも、悪い気はしないでしょ。」

 意地悪な目つきで見るプリムラに、アウローラは顔を赤くして反論した。

 「私はご主人様一筋よ。けっして、浮気はしないわ。」

 「だったら、そう言ったら。」

 プリムラがアウローラの後ろにいるアイザックに向かって顎で指し示した。

 言われてアウローラは改めてアイザックに向き直る。


 「アイザック殿。申し出、うれしい限りですが、私はすでに決まったお方がおります。」

 そう言って、アウローラは左手薬指にはまっている指輪を見せた。

 それを見て、アイザックは驚き、ローラは安堵の息を吐いた。

 「殿下、アウローラ殿にはすでに決まったお方がおられる様子。ここは潔くお引きください。」

 アイザックはアウローラの顔を見つめながら、しばし沈黙していたが、思い直したように口を開いた。

 「ならば、そのアウローラ殿の決まったお方に会わせてください。」

 その申し出の意味がアウローラとローラには理解しかねた。しかし、続く言葉は理解の斜め上をいった。

 「その方にお願いして、アウローラ殿を譲っていただく。」

 その場にいた人たち全員が同じような呆けた顔になった。


 「なにを言っているのですか?殿下!」

 「譲っていただくって、どういう意味ですか?」

 ローラとアウローラが同時に反論した。

 それを聞いているプリムラはやれやれといった顔をしたとき、後方からプリムラを呼ぶ声がした。

 「プリムラ殿──!」

 その声を聞いて、途端にプリムラは嫌な顔をした。

 見れば、調理室のある方から身体をゆすって走ってくるカイザー髭の男、ダントンが息をフーフー言いながらプリムラの元にやってきた。

 「プリムラ殿、ここにおりましたか。」

 「ダントン、しつこいわね。」

 プリムラはあからさまな嫌悪感を見せ、ダントンを睨みつけた。

 「私はあきらめませんぞ。ぜひ、わが妻になってください。そして、いっしょにこの【王者の輝き亭】で調理場を切り盛りしてください。」

 その求婚の言葉にアウローラが反応した。

 「プリムラ、あなた、求婚されてたの?」

 「違うわよ。いっしょに料理をしてくれとたのまれただけよ。」

 「でも、わが妻にって聞こえたけど。」

 「冗談よ。こいつからかっているのよ。」

 プリムラは顔を真っ赤にして否定しようとした。

 「冗談ではありませんぞ。このダントン、勇気を振り絞り、一世一代のプロポーズをしております。」

 そう言って、ダントンは片膝をつき、真剣の目で右手を差し出した。

 それを見て、アイザックも片膝をつき、右手を差し出した。

 

 「「結婚してください!」」

 見事な斉唱である。

 

 「珍しい光景ですね。」

 そこに新たな闖入者が現れた。

 ティアラだ。

 

 だが、少し様子がおかしい。

 見れば、ティアラの片側に寄り添っている婦人がいるのだ。

 「ティアラ、そのひと、だれ?」

 アウローラとプリムラが同時に指差すと、ティアラは困ったような顔をした。

 「リンデール王国のサリー王女です。」

 その言葉にクリムがいち早く反応した。

 「王女様」

 クリムは動かぬ身体をなんとか動かし、サリーの前に跪いた。

 「ご無事で何よりです。」

 クリムが感激の涙を流すの見て、サリーも安堵の様子を見せた。

 「クリム、お前も無事で何よりです。ところでグスタフは?」

 「向こうで横になっております。かなりの重傷で。」


 その言葉にアウローラがティアラにそっと囁いた。

 「ティアラ、ここにいるけが人たちを少し助けてくれる?」

 「いいのですか?面倒な事になると思いますよ。」

 「ほっとくわけにもいかないでしょ。」

 「アウローラは優しいですね。」

 「単なる成り行きよ。」

 ティアラが微笑むと、その身体が淡く輝きだした。

 

 「ミューズ・ウォーム(女神のぬくもり)」


 淡い光が靄となって周りに広がる。

 それに触れた重傷者は次々と傷が癒えていった。


 「こ・これは…」

 サリーはグスタフをはじめとする重傷者が回復していくを目の当たりして、驚愕と敬愛の目をティアラに向けた。

 「やはり、あなたは天使、しかも上位に位置する天使ですね。」

 サリーは跪き、祈りの姿勢をとった。

 「ですから、それは誤解です。」

 「いえ、私は確信しました。ティアラ様、ぜひ、わが王国においでください。そして、わが王国に蔓延る邪悪な空気を打ち祓ってください。」

 その態度は敬虔な信者の姿だった。

 

 「ティアラ、これ、どういうこと?」

 「この方が勘違いしているんです。」

 ティアラは、必死にアウローラに説明しようとした。それを横で見るプリムラは、自分たちを取り囲む状況にほとほと困り果てた態度を取った。

 「とりあえず、ここから逃げ出さない?」

 「「賛成」」

 意見の一致を見た三人は、目で合図を取り合い、小さく数を数える。

 「3・2・1」

 途端にティアラが強烈な光りを放った。

 その光に周りにいたアイザック、ダントン、サリー、エミリアは目が眩み、怯んだ。

 光が止み、眩んだ目が元に戻ると、四人の目の前からアウローラ、プリムラ、ティアラが消えていた。


 三人を探して、あちこちで捜索が始まった頃、当の三人は中庭の一番高い木の上にいた。

 「やれやれ、まったく面倒なことになったわね。」

 「でも、アウローラ、相手は皇太子よ。玉の輿じゃない。」

 プリムラがからかうように笑う。

 「ふざけないで。相手が国王だってごめんだわ。私にはご主人様という身も心もささげた方がいるんだから。」

 「それは同意ですね。」

 ティアラが軽く頷くと、プリムラも首肯した。

 「確かに旦那様以外の殿方なんて想像もできないわね。」

 「で、どうする?これから。」

 「引き上げようか?」

 「そうね。買うものは買ったし。」

 「私も当初の目的は達成されました。」

 アウローラの意見に二人は同意を示した。

 「じゃあ、アリスにも伝えましょう。」

 そう言うとアウローラは念話(テレフォン)をかけた。

 「アリスは勝ったのかしら?」

 「ま、彼女ならそこいらのギャンブラーでは相手になりませんでしょう。」

 プリムラとティアラが他愛のないおしゃべりしているとき、念話(テレフォン)をかけていたアウローラの表情が険しくなった。それに気が付いたプリムラが話しかける。

 「どうしたの?アウローラ。」

 「アリスにつながらない。」

 「え?」


 アウローラが必死になって念話(テレフォン)をかけているようだが、その表情はだんだんと焦りが見えてくる。

 「私がかけてみる。」

 プリムラがかわりに念話(テレフォン)をかけて見た。しかし、結果は同じであった。

 「どういうこと?」

 「ティアラ、アリスを探せる。」

 「たしか北区の繁華街でしたね。」

 ティアラの目が紅くなった。


 しばらくの間、二人はティアラを注目する。

 やがて、ティアラの目が碧くなるとその結果を固唾を飲んで待った。

 「見つかりません。」

 「え?」

 「アリスの姿がどこにも見えないのです。」

 「どこにもって…?」

 不安が三人の間に広がった。

 「北区だけでなく、イースドア全体を見ましたが、アリスの存在が確認できないのです。」

 「行方不明?」

 「連れ去られた?」

 アウローラとプリムラは、自分の想像を口に出しながらお互いを見つめ合った。

 「念話(テレフォン)がつながらないだけでなく、ティアラの探索魔法(サーチ)にも引っ掛からないというのは、由々しき問題ね。」

 アウローラが難しい顔で考え込み始めた。

 二人も思い当たることを考える。


 「ともかく、ご主人様に連絡しましょう。」

 そう言うとアウローラは、主人(おれ)念話(テレフォン)をかけた。

 しばらくすると、アウローラの顔が更に険しくなった。

 「ご主人様もでない。」

 アウローラの顔が今にも泣きだしそうになった。

 「アウローラ、落ち着いて。」

 プリムラがアウローラを宥める。

 「マスターともつながらないなんて。」

 

 「そうだ、ローザは?ローザは大丈夫なの?」

 プリムラが沈む二人を目の前に、突然叫んだ。

 「ローザ…?」

 しばし、三人がお互いの顔を見つめ合う。

 「ともかく、ローザに連絡を取ってみよう。」

 さっそく、プリムラがローザに念話(テレフォン)をかけた。


 しばらくすると、プリムラの頭にローザからの返事が返ってきた。

 「はいは~い」

 「ローザ、ローザなの?」

 「どうしたの?プリムラ。なんか慌ててる。」

 ローザにつながったことで三人は安堵の息を吐いた。

 「ローザ、無事だったのね。」

 「え?どういうこと?」

 ローザはプリムラの心配そうな言い草にピンと来ていない。

 「アリスが行方不明なのよ。しかも、旦那様とも念話(テレフォン)がつながらない。」

 「ええ?…アリスが行方不明なんだって…」

 ローザがだれかと話しているのを聞いて、プリムラは不審に思った。

 「ローザ、そこにだれかいるの?」

 「うん、パパがいるよ。」

 「え、旦那様が!?」

 ローザの返答は三人に衝撃を与えた。

 

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