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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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7-2 血と狂乱のパーティに娘たちは乱痴気騒ぎ その二 ティアラ、逃げる

 同じ頃。

 晩餐会会場はパニック状態であった。

 会場に乱入してきた一団。

 皆が同じ鳥を模したような仮面をかぶり、羽根つき帽子にフリルのついた夜会服を着た者たちだ。

 それが脇目も振らず、エミリアとサリーのいる場所へ駆けていく。


 その姿を見て、サリーは息を飲んだ。

 エミリアの周りにいるエスコートの男たちは防衛体制を敷く。

 ティアラがサリーの前に立ち、仮面の一団から彼女を守る構えをみせる。


 刺客たちがレイピアを抜く。

 ティアラがそれに対して素手で対峙した。

 仮面の刺客は、無言のままティアラを排除しようと、レイピアを突き出す。

 それは寸分たがわず、ティアラの心臓を狙った。

 しかし、その切っ先がティアラに届く前に、ティアラは回転し、レイピアを受け流しながら手刀で刺客の後頭部を打った。

 刺客は一撃で気絶し、床に俯せで倒れた。

 その拍子に手から離れたレイピアを、ティアラは急いで拾い上げる。

 驚きの声が仮面から漏れる。それも一瞬の間。刺客は続けざまにレイピアを繰り出す。

 その悉くをティアラの握ったレイピアが受け流した。

 サリーの前で仁王立ちのティアラに、刺客の一団は怯んだ。


 「サリーには指一本触れさせません。」


 ティアラの頼もしい言葉に、サリーは胸が高鳴るのを覚えた。

 「ずいぶん、頼もしいことを言うじゃない。」

 サリーの後ろでアウローラが野次馬丸出しで見ていた。

 「アウローラ、いいのですか?あなたのパートナーにも刺客が迫っているようですよ。」

 ティアラに言われて、アウローラは後ろを振り返った。

 見れば、いつのまにか別の仮面の一団がアイザックたちを取り囲んでいる。

 「いっけない!」

 アウローラはすぐにアイザックの元へ駆けていった。


 アウローラがティアラを置いてアイザックを助けに行った後、ティアラの目の前には刺客が5人、後ろにはサリーが一人。あとは、少し離れた所にエミリアと御付の者がいるだけだ。会場にいるほかの客たちは恐怖で固まって震えているか、逃げ出そうと右往左往しているか、気絶しているか、死んでいるかの四様しかない。

 刺客5人は他の者に目もくれず、ティアラの後ろにいるサリーを攫おうと動いている。

 しかし、ティアラがそれを許そうとしない。

 結果、刺客はティアラと戦うことになる。


 こもった気合とともに、刺客の一人のレイピアがティアラを突き刺そうと伸びた。

 それを半身になって躱すティアラのレイピアが、逆に刺客を横に掃う。

 刺客も身体を後ろに下げて、それを避けた。

 なかなかの腕前である。


 「助けてくれ。」

 ティアラが戦っているのを知った客のひとりが、助けを求めて駆け寄ってくる。

 他の客もそれに続く。

 「ちっ」

 客が邪魔で思うように戦えなくなることに、ティアラは舌打ちした。


 「サリー、逃げますよ。」


 ティアラは手にしたレイピアを捨て、いきなりサリーの腕を掴むと、そのまま両手で抱き上げた。

 「ティアラさん、何を?」

 「黙って、舌を噛みますよ。」

 そう言うが早いか、刺客に向かって駆け出した。

 その思いがけない行動に刺客たちは一瞬戸惑ったが、すぐに気を取り直し、ティアラを迎い撃つべく身構えた。

 それに反応してティアラの足が床を蹴った。

 飛び上がったティアラの背中から白い翼が出現し、刺客の頭上を滑るように飛び越えたティアラは、会場の窓を突き破り、外へ飛び出した。


 【王者の輝き亭】の中庭に降り立ったティアラは、すぐに翼を背中にしまい、サリーを抱いたまま走り出した。

 「ティアラさん、いま、背中から翼が…」

 「気のせいです。」

 サリーの疑問を無視したティアラは、安全な場所を探して検索魔法(サーチ)を使った。しかし、会場の外にも刺客が待ち構えており、安全な場所は見当たらない。

 そうこうしているうちに、外にいる刺客がティアラを囲んだ。

 「サリーさん、少し我慢してください。」

 そう言うと、ティアラはそばに立つ木に向かってサリーを放り投げた。

 「きゃあ!」

 放り投げられたサリーは、枝が密集するところに引っかかり、そのまま落ちないように枝にしがみついた。その下では、ティアラが自分を囲む刺客を睨みつけていた。


 ティアラは、背中に手を回し、別空間の箱(サブスペースボックス)から銀の槍を取り出した。

 それをサリーは固唾を飲んで見守る。

 そして、もう一人、はるか上空で同じように見守る女がいた。

 「へえ、おもしろそうじゃない。」

 モルとともにいたベルトークだ。

 二人の注目を浴びながらティアラの戦いが始まる。


 ティアラを囲む刺客7人は、会場に乱入してきた一団とは違い、仮面をつけていない。しかし、その素顔は仮面をつけているように無表情であり、一様に死んだような目をしている。

 しかし、殺気だけは中庭を埋めるほど全員から迸っており、ティアラを無事返すつもりは毛頭ないらしい。

 それを受けるティアラも無反応で、無表情だ。

 

 刺客が一斉にティアラに襲い掛かる。

 手にしたブロードソードが八方からティアラを斬りつけた。

 しかし、ティアラには傷ひとつ、つけられない。

 すべて絶妙なタイミングで躱したのだ。


 刺客たちの無表情な顔から、驚きの声が小さく上がる。

 その隙をついて、ティアラの槍が素早く繰り出された。

 一人の喉が貫かれるの始めとして、引き抜いた槍の石突きで後ろにいる刺客の顔面を割り、槍を横に薙ぎ払って二人の刺客の首を切り裂いた。

 一瞬にして4人の刺客が倒された。


 その光景に刺客は一旦、距離を取り、ブロードソードを正眼に構えた。その後ろに残りの二人が隠れるように立つ。

 睨み合う短い間があく。

 何かを仕掛けてくることは、その場の緊張感が教えていた。


 先頭の刺客が剣を構えたまま駆け出す。後ろの二人も同様に掛ける。

 正面からは一人に見える。

 無防備に先頭がティアラの前に身をさらけ出した。

 そのままティアラの槍に自ら刺さりに行く。

 「!?」

 その不可解な行動の意図が知れないまま、刺客の身体をティアラの槍が背中へと貫き抜ける。

 そのとき、刺客がその槍を両手で握った。

 ティアラの槍が奪われた形だ。


 その刺客の後ろから黒い影が頭を飛び越えて、ティアラに向かってくる。

 手にはブロードソードだ。

 それがティアラの頭を断ち割らんばかりに振り下ろされる。


 「防御魔法(シールド)

 ティアラの前に魔法の盾が出現し、ブロードソードを防ぐ。

 だが、今一人が先頭の男の股間をすり抜け、ティアラの足元に姿を現すと、手にしたショートソードを下から突き上げた。

 ティアラの腹部が刺し貫かれかと思われた。


 その瞬間、ティアラの右足が今一人の刺客の腹部を蹴り上げた。

 そのすさまじい蹴りに、刺客の身体は浮き上がり、ブロードソードを振り下ろしていた刺客にぶつかり、ともに宙を舞い上がっていった。

 放物線を描いて中庭の木にぶつかり、そのまま落ちて、二人は動かなくなった。


 その光景を見た槍に貫かれた刺客は、驚きの表情を満面に残したまま絶命した。


 刺客を退けたティアラは、倒れた刺客から槍を引き抜き、木にしがみついているサリーを助けるべく、その木に歩み寄った。

 

 そのとき、殺気と奇声と共に、なにかがティアラの頭上から降ってきた。


 「ひゃっほー!」


 間一髪、ティアラの身体が横に飛ぶ。

 ティアラが元いた位置が爆散する。


 その粉塵から姿を現したのは、人の背の丈ほどある斧を背負った女であった。

 赤いメッシュの入った黒髪に、肩当と胸当て、手甲に脛当ての軽装の、一目戦士とわかる女。ただ、その雰囲気は狂戦士(バーサーカー)の狂気を纏っている。


 「うふふふ、見てたよ。あんた、やるじゃあない。」

 「一応お礼は言っとくわ。ありがとう。」

 「あたいと戦おうよ。」

 いきなりの申し出に、ティアラは面食らった。

 「どうしてあなたと戦わなきゃならないの?」

 「どうしってて、あんたが強いからさ。」

 「強いと戦うの?」

 「そうさ、弱い奴と戦ってもしょうがないだろ。強い奴と戦って、そして勝つ。それ以上の喜びはないじゃない。」

 女は、唇に微笑みを浮かべ、巨大な斧を軽々と構えた。

 「いやだといったら。」

 「上にいる女が死ぬだけ。」

 「しょうがないわね。」

 ティアラは不承不承(ふしょうぶしょう)承諾した。

 「そうこなくちゃ」

 「あなた、名前は?」

 「ベルトークってんだ。あんたは?」

 「ティアラ」

 そう名乗ると同時に、ティアラの身体が一陣の風となった。


 ティアラの槍がベルトークを貫かんと、鋭く伸びる。

 それをベルトークの巨斧が弾く。

 それが連続して続く。

 しかし、ベルトークは巨斧を羽のように軽々と振り回し、ティアラの槍を悉く弾き返した。

 「どうした?もう終わりかい。」

 ベルトークが挑発する。

 それにティアラは無言で答えた。

 「じゃあ、今度はこっちから行くよ。」

 口に笑みをたたえたままベルトークの巨斧が風となってティアラに迫る。それを軽々と躱すが、巨斧の連続がその後に続く。

 その連続攻撃を今度はティアラが躱し続けた。

 

 ベルトークの連続攻撃のなか、下から振り上げた巨斧を、ティアラがスウェーバックして躱すと、ベルトークは振り上げた巨斧をそのままティアラの肩口に振り下ろした。それを待っていたように半身で躱したティアラは、そのまま地面を蹴り、ベルトークの頭上を飛び越して背後に立ち、一瞬の隙をついて槍を突き出した。

 躱す間もなく、槍の穂先がベルトークの胸を貫いた。


 「ぐっ」


 短い悲鳴の後、ベルトークが片膝をついた時、片側にあった巨斧がひとりでに地面を滑り、その刃先がティアラの下半身に迫った。

 「防御魔法(シールド)

 魔法の盾が前面に展開し、巨斧と防御魔法(シールド)が衝突した。

 その衝撃で防御魔法(シールド)は粉々に破壊され、ティアラは後方に吹き飛ばされ、そのさい、槍が手から離れてしまった。


 「惜しかったね。いい線いってたけどあたしには通用しないな。」

 手に巨斧を戻したベルトークは、平気な顔で立ち上がり、胸に刺さった槍を引き抜いてその場に投げ捨てた。

 「武器は手にない。さて、どうする?」

 「さて、どうしようかしら?」

 さらっと言いのけるティアラに、ベルトークは嘲笑を向ける。

 「強がりもどこまで通じるかしら?」


 巨斧を改めて手にしたベルトークが地を駆けた。

 そのスピードを生かした攻撃がティアラを襲う。

 それを躱し、距離を取ろうとするが、ベルトークのフットワークと巨斧の動きは巧妙で、なかなか距離を取れない。一定の距離を保ったままベルトークの巨斧がティアラを切り裂かんと振り回される。

 (あれだけ大きな斧なのに重さを感じない。それでいてこの威力。なぜ?)

 「あれこれ考えない方がいいよ。反応が遅れる。」

 ベルトークの言った通り、一瞬、ティアラの反応が遅れ、回避が不十分になった。巨斧の刃先がティアラの腕を掠める。


 「チッ」

 バランスを崩しながらもティアラは、ベルトークの背後に廻りこむ。しかし、回り込んだ時、巨斧の柄が突然伸び、ティアラの腹部を打った。


 「うぐっ」

 短い悲鳴とともにティアラが尻餅をつく。

 「死ね!」

 頭上から巨斧が降ってくる。

 

 ティアラの背中から白い翼が出現し、地面を滑るように飛ぶ。

 そのあとに巨斧が地面を穿った。

 地面の大穴を確認しながらティアラは、上空高く飛び上がり、そこで静止した。


 「その翼は…?」

 ベルトークがはじめて驚きの表情を見せて、上空を見る。

 それは木の上にいるサリーも同様だった。

 「天使…?」


 天高く浮かぶティアラの姿は天使そのものだった。

 「おまえの正体は天使だったのかい?」

 ベルトークの問いにティアラは答えない。

 かわりにティアラの目が紅色(あかいろ)に輝く。


 ティアラがなにもしてこないことに、ベルトークは訝しげな顔をしていたが、やがて口の端に笑みを浮かべると、その身体が浮かびあがり、いきなり急上昇を始めた。

 宙に浮くティアラに向かって巨斧を振るう。

 ティアラはそれを軽々と躱して、距離を取った。

 そのティアラに向けて、ベルトークが巨斧を突きつけた。


 「あたいが空を飛べないとでも思った?」

 ティアラは目を紅くしたまま黙っている。

 「あんたが天使なのは驚いたけど、それだけ。あたいの勝利は動かない。」

 「なぜ、そう思うの?」

 「だって、あたいはあんたより強いもの。」

 呆れるほどの自信を見せるが、あながち冗談でないことはティアラにはわかる。ただ、一点を除けば。

 「もうそろそろ終わりしようか?」

 「賛成ね。サリーをいつまでもあのままにできないし。」

 「あたいに勝つつもり?」

 嘲りの笑いがベルトークの喉の奥から漏れる。

 「そのとおりよ。」

 ティアラの返答にベルトークの顔色が変わった。

 気に障ったらしい。

 「後悔しながらあの世へいくといい。」

 巨斧を大きく振りかぶったベルトークが、いきなり加速してティアラに向かって飛んだ。


 まさしく一陣の風のように迫る。

 「ホーリー・ジョベリン (聖光の投槍)」

 ティアラの右手から光る槍が出現すると、それをベルトークに向かって投げつけた。

 光の線がベルトークを貫こうとした時、巨斧から薄紫色の光が迸り、ベルトークの周りを包む。それにぶつかった光の線が光の粒子となって飛散した。

 

 「防御魔法はあんただけの専売じゃあないよ。」

 薄紫色の光の幕を纏ったまま、ベルトークの巨斧がティアラを断ち切る。

 寸前で回避したティアラは、ベルトークの頭上に位置し、再びホーリー・ジョベリンを放った。

 それも複数。

 ベルトークは、それを防御魔法で悉く防ぎながら、猛スピードで迫り、巨斧でティアラを断ち切ろうとする。それをティアラは、柳に風のごとく躱す。


 「ちょこまかと。」

 苛つくベルトークが巨斧を両手で持ち直すと、巨斧が青白く輝きだし、やがて、二つに分裂した。

 「フォロワーズ・アックス (従者の斧)」

 ベルトークが手にするものと同じ巨斧が隣に浮かぶ。

 「二つの斧、どこまで躱せるかしら。」

 ベルトークの目が光ると同時に、浮かぶ巨斧がティアラに向かって切り込んだ。

 それを躱しながらホーリー・ジョベリンを撃ち込む。

 ベルトークはそれを躱しもせず、防御魔法で防ぎながら巨斧を振り下ろす。その横から浮かぶ巨斧が切り込んでくる。

 「リティアリビ・ジャスティス(因果応報)」

 ティアラを光の球体が包み込む。

 打ち込まれた二つの斧は、球体の表面を滑るように進み、一本はあらぬ方向に飛び。もう一本はそのまま戻って、ベルトークの身体に喰い込んだ。

 「ぐわっ!?」

 深々と食い込んだ巨斧を抱えるようにして、ベルトークは地面に落ちていった。


 それを木から見上げていたサリーは、ティアラが勝利したと一瞬思った。しかし、次の瞬間、サリーの目に信じられないものが映った。

 あらぬ方向に飛んでいったもう一本の巨斧が、ブーメランのように戻り、ティアラに向かったのだ。

 相手を倒したと思っているティアラは、無防備状態である。

 サリーは危険を知らせるために叫ぼうとした。

 しかし、すでに遅く、巨斧はティアラの背後に迫っていた。

 

 思わずサリーは目を瞑る。


 静寂が流れる。

 

 サリーは悲鳴も何も聞こえないことに訝しがりながら、恐る恐る目を開けた。


 相変わらず、宙に浮くティアラがいる。

 その左手にはベルトークの巨斧が握られていた。


 「残念だったわね。」

 ティアラが巨斧に語りかける。すると、巨斧から返答が返ってきた。

 「どうして、わかった?」

 「私のホーリー・ジョベリンを避けもせず、向かってきたから。見た目の女が本体じゃあないなと思っただけ。」

 「思っただけ…?」

 「斧を二つに分裂して、同時攻撃をかけてきて、ああ、誘っているなと思ったの?」

 「そして、私は誘われたわけか?」

 「そ、ご苦労さんだったわね。」

 ティアラが握っている巨斧に目を向け、哀れみの情を見せる。

 「おまえ、何者(なにもん)だ?」

 「答える必要はないわ。クリーンオブサンライト(浄化の陽光)」

 そう言うと、ティアラの左手が眩く輝いた。

 「ぎゃあああぁぁ~‼」

 光の中で巨斧は砂のように崩れ、中から黒い霧のようなもの吹きだすと、それも光の中で霧散していった。


 絶叫が途絶え、静寂が再び蘇ると、ティアラはサリーがしがみつく木に向かってゆっくり降りていった。

 夢心地の表情をして、木にしがみつくサリーを抱き上げ、地上に降りたティアラは、サリーを抱いたまま歩き出した。

 「ティ・ティアラさん……、あなたは……、天使なのですか?」

 「いいえ。」

 「でも、背中の羽根が…」

 ティアラは背の羽根を急いでしまい、何食わぬ顔で答えた。

 「気のせいです。」

 

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