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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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5 プリムラ、晩餐会を楽しみにする

 アウローラを陰から見送ったプリムラは、昨日買い損ねた食材を買うために、港ブロックへ出かけた。


 市場は相変わらずの盛況で、売り子の声があちこちから響き渡り、一種独特の雰囲気を作っている。

 プリムラは昨日と同じ商店へ向かい、店主に声をかけた。

 「いらっしゃい。やあ、あんたかい。昨日はすまなかったね。」

 プリムラの顔を見た店主は、すぐさま頭を下げた。

 「いいのよ。それより昨日の食材はそろっている?」

 「もちろんさ。朝一番で全部そろえたよ。他にもおすすめの食材がはいっているぜ。」

 そう言って店先に並ぶ食材をプリムラに披露した。

 「このスキャラップなんかどうだい?今朝水揚げされた天然ものさ。」

 店主が指し示す箱の中に二枚貝が並んでいる。

 「貝柱はある?」

 「もちろんさ。」

 そう言って店主は別の箱を出す。

 白いスキャラップの貝柱がおいしそうに並んでる。

 「これももらうわ。それから“NORI”はどこにあるかしら?」

 「“NORI”かい?それならボイドの店がおすすめだぜ。」

 「そう。じゃあ、行ってみるわ。品物は表に運んでおいてくれる?」

 「馬車でも待たせているのかい?」

 「ま、そんなものよ。」

 そう言ってプリムラは市場の奥へ歩いて行った。店主と手伝いの若い者は、プリムラの注文した品を箱詰めして、台車に乗せて表に運んでいった。

 

 「親方、表に運んだはいいけど馬車なんてないぜ。」

 「そうだな。」

 店主と若い者は品物を運ぶための馬車がいないことに訝しがり、もしや、だまされたのかと不安を抱き始めた。

 そんなとき、プリムラが二人の前にやってきた。

 しかし、馬車もなにも連れていない。

 「お待たせ。良い“NORI”が手に入ったわ。」

 プリムラは上機嫌だが、二人は不安が増していた。

 「お客さん、馬車はどこなんだい?」

 店主が疑い深い目でプリムラを見た。

 「馬車なんてないわよ。」

 「え?じゃあ、どうやってこの品物を運ぶんだい。」

 店主と若者の後ろには山積みの箱がある。

 「私が運ぶのよ。」

 「お客さん、冗談言っちゃいけないよ。」

 店主の疑惑は頂点に達した。

 「いいから、この上に品物を置いて。」

 そう言うと、プリムラは持っていたバックから一枚の布を取り出した。


 黒地に白い蔦模様をあしらったごく普通の布だ。


 それを地面に置くと、プリムラは積んである箱を取り上げ、その布の上に置いた。 

 店主と若者は首を傾げながらプリムラの後に続いて、その上に箱を積み重ねていった。積み重ねられた箱のせいで、布はすぐに見えなくなる。しかし、プリムラは平気な顔をしていた。

 やがて、箱を積み重ね終わると、プリムラはほんのちょっと出ている布の先をつまみ上げた。すると、布があっという間に大きくなり、プリムラの背の半分ほどあった箱を包み込んでしまった。それだけでなく、布は徐々に小さくなり、片手で持てるほどの小さな包みになってしまった。

 それを見ていた店主と若い者は、呆けたように口を開け、しばらくプリムラと包みを見つめた。

 「あんた、そ、それは……」

 「便利でしょ。特別なアイテムなの。」

 「初めて見たよ。」

 「今日はありがとうね。また、なにかあったらお願いね。」

 そう言うと、エプロンのポケットから革袋を取り出し、それをまるごと店主に渡した。

 「お客さん、これじゃあ多すぎるよ。」

 「とっておいて。また、お願いね。」

 笑顔を残してプリムラは市場から去っていった。


 「さて、晩餐会までまだ時間があるし…」

 独り言を言いながらプリムラは港地区をぶらぶらしていると、ある人物に目が止まった。

 「おや、あれは…?」

 市場からはなれた倉庫の陰に二人の男が隠れるように立っている。

 一人は見知らぬ男だが、もう一人は見覚えがある。昨日、ダントンといっしょにいた若い者だ。

 その若い者が男から何かを受け取っていた。

 興味をもったプリムラの視線が鋭くなる。

 まるで望遠レンズのようにその受け取った物が拡大された。

 「あれは、グローブフィッシュ?」

 その身は味わい深く、刺身よし、から揚げよし、鍋にも最高の高級魚だが、その肝は猛毒だ。

 「今日の晩餐会に使うのかしら。それにしてはこんなところで…?」

 若い者はグローブフィッシュを袋に入れ、カバンに突っ込むとそそくさと立ち去っていった。

 その行動はいかにもあやしい、と感じたプリムラは、好奇心に勝てず、その後を追い始めた。


 若者は辺りを警戒しながら通りを先に進んでいく。

 プリムラは気配を消しながらその後についていった。その胸にはなにかの面倒事が起きる予感がしていた。

 (面倒事は避けろと言われたけど、好奇心のほうが勝っちゃうのよね。)

 思わず笑みが浮かぶ。

 若者はどこに立ち寄るでもなく、通りを進み、やがて見えてきたひときわ大きな建物に真っすぐ向かっていった。

 目立つ看板が建物に掲げてある。

 【王者の輝き亭】

 今日、晩餐会が開かれる会場だ。

 若者は裏通りに入り、建物の裏口から中に入っていった。

 プリムラもそっとその裏口に近づくと、閉められたドアに耳を当てた。

 「ジェリコ、どこへ行っていたんだ?」

 「ああ、親方から追加の品を頼まれて、取りに行っていたんだ。」

 「親方が…?」

 「おい、無駄口叩いてないで、さっさと下拵えをしろ。時間は待っちゃくれないんだぞ。」

 奥から別な声が響き、ジェリコと呼ばれた若者ともう一人の若者が返事をしながら奥へ引っ込んでいくのが、ドア越しにわかった。


 「ふーん、なにかありそうね。」

 プリムラの好奇心は更に燃え上がった。

 「今日の晩餐会が楽しみだわ。」

 そう思いながらプリムラは帰路についた。


 それから数時間後、プリムラは晩餐会に出席するために身支度を整えていた。アウローラとティアラは出かけたままで、まだ戻っていない。アリスは昨日言っていたカジノでの勝負に出かけた。ローザは今日も工房周りだ。

 「アウローラは戻らないでそのまま出席するつもりかしら?」

 シュタルツ伯爵とかいう人物に連れられて出かけたが、どうなったのか?

 「ま、子供じゃあないから大丈夫でしょ。」

 それはまだ戻らないティアラやローザに対しても同様の安心感であった。

 

 今のプリムラは、いつのもゴスロリ調の服装ではなく、貴族然としたナイトドレスだ。白が基調だが、その中に印象的な黒の模様が入っている。

 黒真珠で統一したイヤリングとネックレスをし、蘭をモチーフにした髪飾りをつけると、どこから見ても貴婦人だ。

 多少というかだいぶ、豊満(ぽっちゃり)だが。

 プリムラは姿見の鏡でドレスをチェックすると、白のロンググローブを両手に装着して部屋を出た。


 一階に降りると、カウンターに近づき、おもむろに部屋の鍵を置いた。

 「出かけます。たのんでいた馬車はもうついているかしら?」

 プリムラの、体形を感じさせない、美しさに一瞬見とれた支配人は、すぐさま営業の笑顔を見せて、

 「もちろんでございます。玄関前に待たせております。」

 鍵を受け取り、うやうやしく頭を下げた。

 「そう、ありがとう。」

 礼をいうとプリムラは、玄関の方に歩いて行った。

 玄関前のドアボーイがドアを開け、そこ抜けると別のドアボーイがプリムラを馬車に案内した。

 「ありがとう。」

 そう言ってボーイに銀貨を一枚渡した。

 ボーイは深々と頭を下げ、それを横目にプリムラは馬車に乗り込んだ。

 

 プリムラの乗車を確認した御者は、手綱を鳴らして、馬車を走らせた。

 行く先は【王者の輝き亭】だ。

 ダントンの作る料理も楽しみだが、それ以外になにかが起きる予感にプリムラは興奮していた。

 「アリスのことは言えないわね。」

 ほくそ笑みながらプリムラは馬車に揺られながら一路、【王者の輝き亭】に向かった。


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