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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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2-5 交易都市イースドアにて その五 ローザ、アイテムに惹かれて…

 ローザが宿屋を出て、真っ先に向かったのは鍛冶工房が立ち並ぶ南の区域であった。宿屋の前で辻馬車を捕まえ、地図で捜した場所を指し示し、遊園地に向かう子供のような表情でローザは馬車に揺られた。


 二十分ほどして目的地に着いたローザは、馬車から降りるとすぐに通りに並ぶ鍛冶工房を次々と覗き込んだ。その姿はきれいな洋服やかわいい人形にはしゃぐ子供のそれであった。

 通りには工房とともに武具屋や魔法具屋も立ち並んでいる。ローザはそのうちのもっとも大きな魔法具屋を見つけると、迷うことなく中に入っていった。

 店内は相当な広さで、ガラス製のケースがきれいに並んでおり、その中には様々な魔法具が陳列されていた。

 ローザはさっそくガラスケースに取付き、中を覗き込んだ。

 事前にティアラに調べてもらった魔法具屋であるが、話以上に種類がある。しかも、すべてが高級品だ。中にはアイテムひとつでひと財産になりそうなものもある。

 「すごい。」

 ローザは目を爛々と輝かせて、アイテムひとつひとつを見つめた。


 「お嬢さん、なにか気に入ったものはあった?」

 女性店員のひとりが腰をかがめてローザに尋ねた。

 「ねえ、おねえさん、これ見せて。」

 ローザはケースの中にある腕輪を指差した。

 何かの植物の絵柄が刻まれた金色に輝く腕輪だ。

 「なかなかお目が高いわね。」

 そう言いながら店員は腰から鍵を取り出すと、それをケースの鍵穴に差し込み、鍵を開錠すると、ケースの中からその腕輪を取り出した。

 そして、ケースの上にある黒い布の上にそれを丁寧に置いた。

 「きれいね。」

 ローザはその腕輪をしげしげと見つめた。

 「これは癒し効果のある腕輪で、つけているだけで体力を回復し、疲れや不眠などを解消してくれるの。」

 自慢げに話す店員を横に、ローザは腕輪を品定めした後、それをそっと持ち上げた。

 「あ、気を付けてくださいね。高級品ですから。」

 完全に子ども扱いしている。

 それを無視して、ローザは腕輪を鼻先に持ってきた。

 「ふむ、自慢するだけあるわね……、うん?」

 ローザは腕輪を目の高さに持ってきて、それを覗き込むように見つめると、急に店員に顔を向けた。

 「これ、いくら?」

 「え?」

 子供がこれを買うのか──という不審げな表情を見せながら店員は、懐から手帳を取り出し、ページをめくった。

 「金貨3枚ですね。」

 「そう、じゃあ、これちょうだい?」

 「ええ⁉」

 店員は素っ頓狂な声を出して驚いた。

 「お嬢さんが買うの?」

 「そうよ。それとも私には売ってくれないの?」

 「いえ、そうじゃあないけど…、金貨3枚ですよ。」

 いまだ懐疑的な店員の前でローザは懐から革袋を出し、中から金貨を3枚取り出した。

 「これでいい?」

 「け・けっこうです。」

 店員は驚きの顔を引きつった笑いでごまかそうとしたが、ローザはそんな店員の努力など無視して腕輪を取り上げた。

 「あ、お包みします。」

 何とか挽回しようとする店員の声を背中で聞きながら、ローザはさっさと店から出ていった。


 表に出たローザは先ほど買った腕輪を取り出し、目の前に掲げた。

 「これが癒しの腕輪ね。」

 疑い深くその腕輪を見ていると、その背後にそっと近寄る者があった。


 ローザの背中に、近寄る者のただならぬ気配が触れた。

 黒い影がローザの手元に近づく。


 ローザの持つ腕輪がその影に掠め取られようとした。

 しかし、いち早く気づいたローザがその影、小さな手を躱し、足を軽く掃った。


 「あっ!」


 小さな悲鳴とともに、足元に汚いローブを羽織った小さな人間が転がった。

 よく見れば子供だ。

 子供は急いで起き上がり、その場から逃げ出そうとした。しかし、ローザの左手が子供の襟首をつかみ、それを許さない。


 「は、離せ!」

 「人の持ち物を狙っといて逃げる気?」

 「うるせい!」

 子供がローザの向う脛を蹴ろうとしたが、そんなちゃちな攻撃はローザには通用しない。すぐに躱され、引き倒されてしまった。


 その上に跨ったローザは、汚いフードをめくる。

 薄汚れているが、目鼻立ちのきっちりとした中々の美形だ。しかし、あきらかに十代はじめの子供だ。

 「く、くそ!」

 何とか逃げ出そうともがくが、ローザの予想外の重量に体の自由がきかない。ただ、悪態をローザに投げつけるだけだった。

 「さて、どうしようかしら。」

 「衛兵に突き出すなら突き出せよ。」

 子供はあきらめたのか、急に大人しくなった。

 観念したと思ったローザは、子供の上から離れ、思案気に子供を見下ろし、子供も急に体が軽くなり、ゆっくりと立ち上がった。

 「ち、おれも焼きがまわったぜ。こんなガキに捕まるなんてよ。」

 「ガキ呼ばわりは心外ね。あなたより年上よ。」

 ローザは本当に心外そうな顔をして子供を睨んだ。

 「そうかよ。おれと大して変わらないと思うがな。」

 子供のくせにその辺のチンピラと変わらないような口調だ。なにがそうさせたのか、と思い至るローザではない。

 「ま、今日のところは見逃してあげるわ。さっさと行きなさい。」

 「礼は言わねえぞ。」

 「言われたらゾッとするわ。」

 憎まれ口には憎まれ口で返すローザ。しかし、なにか憎めない相手だとローザは思った。

 そんな思いも知らず、子供はさっさと路地裏へ駆けていった。

 それを見送ったローザは、鍛冶屋めぐりを再開すべく、通りを歩き始めた。


 夕暮れ時、ローザは鍛冶工房の地区から自分の宿屋に戻った。

 部屋に戻るとすでに他の四人が戻っていた。

 皆が皆、なにやら楽し気な笑いを浮かべている。

 「ただいま。」

 ローザはそんな皆の顔を見廻しながら、部屋の中央にあるソファに腰を下ろした。

 「遅かったわね。ローザ。」

 プリムラがカウンターでお茶の用意をしながら尋ねた。

 「ゆっくりと鍛冶工房を見て回ったからね。」

 「興味のあるものはあった?」

 アリスが宙に浮いた姿勢のままローザに尋ねた。

 「工房がずらっと並んでいるの。その音を聞いているだけでも興奮するわ。」

 ローザは夢心地な顔で、昼間回った通りの情景を思い浮かべた。

 「それはよかったわね。」

 プリムラが用意したティーカップをテーブルに並べていく。そして、そのカップに次々とお茶を注いでいった。


 「アリスもなんか楽しそうな顔してるじゃない。いいことでもあったの?」

 ローザが宙に浮かぶアリスを見上げて尋ねた。

 「うふふ…」

 意味ありげな含み笑いをしながらテーブルの上に降りたアリスは、カップの一つを取り上げた。

 「これ、行儀が悪い!」

 プリムラが目を吊り上げて怒ると、それに舌を出すアリスは、再び宙に浮かびあがった。カップに口付けると、アリスはまた含み笑いを浮かべる。

 「なに、気持ち悪い。」

 プリムラが少し引いた表情をすると、アウローラが横からテーブルのうえのカップを取り上げながら口を開いた。


 「熱くなるようなことでもあった?アリス。」

 「ええ、明日、ちょっとした勝負があるの。」

 目を輝かせて、明日の勝負に心躍らせているアリスを見て、アウローラは羨ましそうな目をする。

 「アリスの相手になるような人がいるの?」

 「わからないわ。でも、熱くなる勝負ができる予感がするの。」

 アリスの表情は楽しげだ。それに対してアウローラはため息を吐く。

 「どうしたの?アウローラ。」

 心配そうに尋ねるプリムラに、アウローラは苦笑いをする。

 「ちょっと晩餐会に招待されてね。」

 「なになに、興味ある。」

 ローザが喰いついた。


 膝を乗り出して聞き耳をたてるローザに、アウローラは闘技場での出来事を話した。それを聞いて、ローザだけでなく他の四人も驚きの目でアウローラを見つめた。特にプリムラの関心の度合いは他の娘たちより抜きんでている。

 「で、その晩餐会ってどこでやるの?」

 「王者の輝き亭よ。」

 アウローラの答えにプリムラの目が大きく見開いた。

 「なになに?プリムラ、その場所知っているの?」

 また、ローザが好奇心満タンに喰いついてきた。

 「私もその宿屋で晩餐会に招待されているのよ。」

 「え、プリムラも?」

 今度はアウローラが目を見開いた。

 「ええ、昼間市場でひと悶着あってね。食材を譲る代わりに、食事に招待しろと言ったのよ。」

 と、市場での出来事をかいつまんで皆に語った。

 「へえ、偶然とはいえ、同じ晩餐会に招待されるなんて、おもしろい。」

 ローザの好奇心は頂点に達している。

 「そんなことないわよ。」

 「でも、招待を受けたんでしょ。好みだったの?」

 今度はアリスが茶々を入れてくると、それに対しアウローラは腹立たしげな目でアリスを睨んだ。

 「アリスこそ、勝負の相手に入れ込まないでよ。あんた、惚れっぽいんだから。」

 「そんなの嘘よ!わたしこそ、主様一筋なんだから。」

 アリスが珍しく顔を赤らめて、必死に抗弁した。

 それを見て、アウローラをはじめ四人ともが笑みを浮かべた。

 険悪な空気が流れそうになったその場は、すぐに和やかな場に変わった。


 「ともかく、揉め事だけは起こさないようにね。」

 アウローラがそう皆に注意すると、ローザが少し考えるそぶりをみせた。その様子が気にかかったアウローラが尋ねる。

 「どうしたの?ローザ。」

 「ちょっと気になることがあってね。」

 「なになに?」

 アリスが興味津々に目の前に飛んでくる。

 「これ。」

 ローザがポケットから金色の腕輪を取り出した。昼間、購入した癒しの腕輪だ。

 「へえ、きれいな腕輪ね。見せて。」

 アリスが手を差し出すと、ローザはその手に腕輪を乗せた。

 「ふうん、なかなか凝った作りね。…うん…?」

 アリスの顔に不審な色が浮かんだ。

 「ローザ、この腕輪、ちょっとおかしんじゃあない?」

 「わかる。アリス。」

 アリスが腕輪をしげしげ見ていると、他の三人も興味深そうな顔でアリスの元に集まった。

 「ねえ、なにがおかしいの?」

 プリムラが尋ねると、ローザがアリスから腕輪を引き取って、プリムラの目の前に翳した。

 「これ、癒しの効果があるといってたけど、それ以外に別の効果もあるのよ。」

 「え、なに?」

 「魅了の効果。」

 「魅了?」

 プリムラがローザから腕輪を取ると、不思議そうに腕輪を見つめた。

 「癒しの効果だけじゃあないの?」

 アウローラが尋ねると、ローザがいつになく真面目な顔で説明を始めた。


 「癒しの効果は確かにあるのよ。そうした術式が施されているから。でもね、その術式に巧妙にカモフラージュされた魅了の術式が施されているの。」

 ローザはプリムラから腕輪を取り返すと、それを指で回し始めた。

 すると、空中に複雑に絡み合った魔法術式が浮かびあがった。

 「見て、この術式の下層部分にもう一つの術式が存在するの。癒しの効果を与えながらある一定の時間がたつと、魅了の効果が現れるようになっている。ものすごく高度な細工よ。」

 ローザの目が輝いている。

 細工の見事さに興奮しているのだ。

 「でも、なんか胡散臭いわね。」と、プリムラが言うと、

 「なにか、あるようですね。」と、ティアラが同調した。

 実際、ティアラは人さらいの現場に出くわしている。しかも、そのさらわれようとした相手は、どうやら高貴な身分の者のようなのだ。

 「何度も言うようだけど、面倒ごとには関わらないようにね。」

 アウローラが四人に向かって念を押すように言った。

 だが、アウローラをはじめ五人全員が何かしらの面倒ごとにかかわっているという予感を感じていた。

 それが興味深いものか、警戒すべきものかは別として。

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