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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人たち  作者: 甲陽晟
エピソード1 おいしいプリンと魔王討伐
3/77

2 プリンには金龍鶏の卵が絶対必要なんです、と言ってね…

 飛び出していってから十分ほどで、アウローラがおれのところに戻ってきた。

 「お騒がせしました。」

 目の前に降りてきたアウローラは、衣服の埃を掃い、髪型を整えて、おれにうやうやしく頭を下げた。

 「どこへ行ってたんだ?」

 知らぬふりをしておれは聞く。

 それにアウローラは、かわいい笑顔で答える。

 「なんでもありません。ちょっと注意しに行っただけです。」

 その注意がどんなものか、なんとなく想像がつくが、おれは気にする素振りも見せず、馬車に乗り込んだ。後からアウローラたちも乗り込み、馬車は走り出した。


 「城に帰りますか?」

 というアウローラの問いに、

 「そうだな。プリムラのプリンも食べたいし。」

 おれの返事に、プリムラが少しこまったような顔をした。

 「わかりました。城に戻ります。」

 「あの……」

 アウローラが城への転移を行おうとしたとき、プリムラがすまなそうな顔をしながら口を開いた。

 「どうした?プリムラ。」

 「実は、プリンなんですが…」

 「うん?プリンがどうした?」

 「材料がないんです。」

 プリムラが上目遣いにおれを見ながら、消え入りそうな声でしゃべりだした。

 「材料がない?」

 おれの中でプリムラの言っていることが、いまだピンと来ていない。

 「どういうことだ?」

 「他の材料はあるのですが、肝心の卵を丁度、切らしておりまして…。」

 プリムラがその豊満な身体を小さくしながら答えた。

 「うん?卵がないって、一つもないのか?」

 「いえ、他の卵はあるのですが…」

 「他の卵ではダメなの?」

 アウローラもピンと来ていない様子で尋ねた。もっともアウローラはこと料理に関しては、てんでダメなのだが。

 「旦那様に差し上げるプリンは、金龍鶏きんりゅうけいの卵でないと、ダメなのよ。」

 「金龍鶏?」

 皆が首を傾げた。おれも同様だ。

 「あの、まろやかで、トロリとした舌触りに、確かな食感を出せるのは、金龍鶏の卵だけなのよ。」

 プリムラの必死の訴えは、料理人としての誇りがヒシヒシと感じられた。そこまで言うのであれば、金龍鶏の卵でないとダメなのだろう。

 「それは手に入るものなのか?」

 「はい、丁度、このあたりの土地は、金龍鶏の養鶏をしているところなのです。」

 「なら、さっそく手に入れないとな。」

 プリムラのプリンは、何をおいても優先される。

 「プリムラ、どのへんに養鶏場があるの?」

 「確か、この近くの村だったと思うんだけど。」

 「ティエラ、探してみてくれ。」

 おれにそう言われ、ティエラは中空を見つめ始めた。すると、ティエラのあおい目があかく変色した。

 「ここから東に十キロの地点に村があります。」

 「そこよ。そこへ向かって。」

 プリムラが御者にそう命令すると、馬車はその村に向かって駆け始めた。


 三十分ほどして、馬車は村の見える丘の上に辿り着いた。

 「あそこ?」

 アリスが馬車から顔を出して、村の全景を眺めた。

 「小っちゃい村だね。」

 その隣からローザが顔を出した。

 「じゃあ、プリムラ、卵を手に入れてきてくれ。ちゃんと金を払うんだぞ。」

 「ご心配なく。」

 プリムラが笑みを浮かべながら馬車を降りた。

 「ティエラ、一緒に行ってくれないか?」

 「承知しました。」

 「くれぐれも、揉め事は起こすなよ。」

 馬車を降りた二人に、おれはしつこいように釘を刺した。

 「大丈夫ですよ。旦那様。」

 「行ってまいります。マスター。」

 二人は意気揚々と村へと向かった。

 おれはその後ろ姿を、心配そうに見送った。


 みんなと別れたプリムラとティエラは、ほどなく村に到着した。

 「なんかさみしい村ですね。」

 ティエラが辺りを見回しながらポツンと言った。

 「ティエラ、卵を扱っているお店を探してくれる?私は直接、養鶏場に行ってみる。」

 「わかりました。」

 プリムラとティエラは、二手に分かれて村に入っていった。

 

 メイン通りと思われる道をまっすぐ進むプリムラは、村人がほとんど見当たらないことに違和感を覚えた。

 「ほんと、人がいないわね。」

 プリムラは養鶏場があると思われる場所を探すために、最寄りの家のドアを叩いた。

 「すみません。ちょっとお聞きしたいのですが。」

 しかし、返答がない。

 「留守かしら。」と思い、隣の家のドアを叩いた。

 結果は同じであった。

 そのとき、人の気配を感じたプリムラが後ろを振り向くと、向かいの家の窓に男の顔が見えたが、すぐに窓が閉められた。

 「なに、あれ。」

 プリムラはため息をつきながら、更に歩き続けた。すると、前方の角からティエラが姿を現した。

 「ティエラ、どうだった?」

 「人が見当たりません。というより、我々を避けているようですね。」

 「そうみたいね。ねえ、あなた、養鶏場がどこにあるか、見てくれない?」

 プリムラの頼みに、ティエラの目がまた紅くなった。

 「こちらの方向に養鶏場らしきものがありますね。」

 「そう。」

 ティエラが指差した方向にプリムラが歩き出すと、その後に続いたティエラが、付け加えるように語りかけた。

 「ただし、人が何人かいます。」

 「そりゃあ、養鶏場の人が何人かいるでしょう。」

 「いえ、どうみても村人とは思われません。」

 「じゃあ、なんだっていうの?」

 「魔人かと。」

 ティエラの報告にプリムラの眉間に皺が寄った。


 村はずれまで歩くと、養鶏場と思われる建物が見えた。その近くに五人ほどの男が立っている。二人は村人のようだが、三人は明らかに魔人だ。

 「全部持っていかれては、困ります。」

 初老の男が必死に訴えている。

 「ザイラス様の命令だ。」

 「しかし、卵だけでなく、金龍鶏全部を持っていかれては、われわれは明日からどうやって生活していけばいいんですか?」

 「そんなこと、知るか!」

 そう言うと魔人の一人が初老の男を突き飛ばした。

 「村長。」

 若者が倒れた村長を抱き起しながら、魔人を睨みつけた。

 「なんだ、その目は。文句でもあるのか?」

 魔人が嘲笑を浮かべながら、若者に顔を近づけた。

 「この村を燃やされなかっただけでもありがたく思え。」

 そう言い捨てると、魔人は背を向け、養鶏場に向かった。

 「さあ、さっさと残りの鶏を運ぶんだ。」

 後の二人に指図すると、二人は頷きながら養鶏場の中に入っていった。

 そんな場面にプリムラとティエラが出くわした。

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