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からっぽやみな魔王(おれ)とチートな愛人(つま)たち  作者: 甲陽晟
エピソード3 ショッピングと篭絡の魔女
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2-3 交易都市イースドアにて その三 アウローラは闘技場で…

 宿屋の前で皆と別れたアウローラは、まっすぐ闘技場に向かった。

 闘技場は都市の西側ブロックに位置する。

 その一帯は、巨大な円形の闘技場を中心に様々な店、たとえば武具屋や道具屋、はたまた軽食屋などなど、が軒を連ねている。また、闘技自体が賭けの対象になっているらしくノミ屋も見かける。

 そんな活気づいた街中(まちなか)をアウローラは、女性冒険者という出で立ちで、歩き回っていた。

 「なかなか、おもしろそうなところね。」

 興味津々で辺りを見廻していたアウローラの視線があるところで止まった。


 円形闘技場である。


 その入り口には入場券売り場があり、何人かが並んでいた。アウローラもその後ろに並び、しばらく待っていると自分の番が来た。

 「ひとり。」

 「銀貨一枚だよ。」

 売り子のおばさんに言われて、アウローラは革袋から銀貨を一枚取り出し、相手に渡した。すると細長く平たい木片を渡された。そこには文字と数字が書いてある。座席券だ。

 それを手にしてアウローラは入口へ歩いて行く。

 その様子を軽食屋のテラスから見ている青年がいた。

 栗毛色の髪に青い眼、上等な外出着を着たその青年は、アウローラが闘技場に入ると、その後を追うように闘技場へ歩いて行った。

 しばらくして、軽食屋から出てきた一人の女性。しかし、その服装は傭兵のように革の胸当てに鎖帷子(チェインメイル)、腰にはロングソードというおよそ女性らしからぬ服装であった。

 その女性は手にしたコップを持ちながらだれかを探すように、辺りを見渡した。そして、そばを通る店員を捕まえて、尋ねる。

 「ここに座っていた人を知らないか?」

 「え?ああ、あの人なら闘技場に入っていきましたよ。」

 「闘技場へ?」

 女性は持っていたコップを店員に押し付けると、闘技場に向かって駆けた。


 闘技場の中に入ると、まず上にのぼる階段があり、そこを登ると廊下が闘技場を囲むように伸びている。その中にも出店があり、食べ物や飲み物、いろいろなグッズも売られている。

 客席が石造りのため、尻に敷くクッションも貸し出されている。

 アウローラはそのレンタル屋でクッションを借りると、そのまま内階段を登り、観客席に出た。

 円形の客席は観客で8割がた埋まっている。闘技場はかなりの人気のようだ。

 アウローラは自分の席を探し、しばらく歩いて行く。やがて、自分の席を見つけると石造りの席にクッションを置き、闘技が行われる敷地に目を向けた。


 そこは楕円形の敷地で、砂地になっている。


 意外に広いなと思っていると、観客の声援が大きくなり、楕円の頂点にある出入口二ヶ所から剣闘士が現れた。

 片方は全身鎧(フルプレートアーマー)に身を包み、手にはブロードソードを握っている。片や、金属製の胸当てと手甲、脛当ての軽装に両手に小刀を握っている。

 破壊力と速力の戦いのようだ。

 開始の銅鑼が鳴ると、両者は間合いを取って戦いの構えを取る。

 それを見ていたアウローラは、退屈そうな顔をした。

 

 「つまらなそうですね。」


 突然の声がかかり、アウローラは驚いた顔をする ──ふりをした。

 先ほどから自分の後をつけている者がいることには気が付いていた。どんな人物なのか、どのようにアプローチをかけてくるのか、興味をもって待っていたのだ。

 その人物がようやく声をかけてきた。

 ここは驚いたふりをするのがいいだろうと、アウローラはその演技をして、声をかけてきた人物へ顔を向けた。


 目の前に一般のいうところの美青年(イケメン)がいた。

 さきほど軽食屋のテラスにいた栗毛色の髪を持つ青年だ。


 「興味がありませんか?」

 さわやかな笑顔でアウローラに話しかける青年は、アウローラの隣に遠慮なく座った。

 「興味がないわけじゃあないわ。」

 「しかし、退屈そうな顔をしてましたよ。」

 白い歯を見せながら相変わらずの笑顔を向ける青年に、アウローラは無視するように剣闘士の戦いに目を戻した。

 「期待したほどではないからがっかりしているのよ。」

 そう答えてアウローラは、ほぉと息を吐いた。

 「まあ、あれは二流筋の剣闘士ですから、期待はずれといえば期待はずれでしょうね。」

 青年も闘場(リング)に目を向け、頬杖をついた。

 「一流どころは違うというの?」

 「それはもちろん。この闘技場には千戦無敗の王者がいますからね。」

 「千戦無敗…?」

 その言葉を聞いてアウローラの眉がわずかに吊り上がった。

 その表情の変化を見逃さず、青年は青色の瞳をさらに近づけた。

 「興味を持たれたようですね。しかし、あなたのような美しい方が闘技に興味を持たれるとは珍しい。」

 歯の浮くような言葉と思いながら、アウローラはそのことを顔には出さず、ただ、愛らしく微笑んだ。

 「男勝りと思われるでしょうね。」

 「いえ、趣味が合うお方と出会えたことに感謝してますよ。」

 「感謝?だれに…?」

 「運命の女神ですよ。」

 「まあ…」

 アウローラは心の中で呆れたような顔をしたが、面には一切出さない。ただ、貴族の令嬢のように涼しく笑いかけるだけである。


 「どうですか?これからお食事でも。」

 「ま、大胆な方ですわね。素性もわからないうちから。」

 「これは申し遅れました。私はバルトシュタイン皇国のアイ…アイザック、アイザック・シュタルツ伯爵と申します。」

 アイザックは軽く頭を下げた。

 伯爵という肩書に軽く驚きの表情を見せるアウローラは、こちらもそれなりの態度で返答する。

 「ご丁寧にありがとうございます。私はアウローラ・ダウネーと申します。」

 「ダウネー殿。あなたの美しさにぴったりのお名前ですね。」

 更なるさわやかな微笑みでアウローラを魅了しようとするが、アウローラには背中がかゆくなる言葉としか聞こえない。

 「お褒め下さり、感謝いたします。」

 「いえいえ、本当のことですから。それでお食事はいかがですか?」

 そういえば、食事に誘われていたんだ、と思い出したアウローラは、面倒ごとになりそうだと、断ることに決めた。

 「まだ、闘技は続くようですし、その千戦無敗の王者も見てみたいですし。」

 「このあともあなたの興味を引くような試合はありませんよ。それに王者は、今日は出場しません。」

 「あら残念。」

 アウローラは本当に残念そうな顔をした。

 「ですから、これから場所を変えて、食事でもしながら同じ趣味の話でもしましょう。」

 アイザックがアウローラの手を握ってきた。


 アウローラの全身に悪寒が走る。


 「すみません。今日は他に用事がありますので。」

 「ならば、明日、明日の夕食にお誘いしましょう。私は【王者の輝き亭】に宿泊しています。そこで明日、特別な晩餐会が模様されます。そこへ招待しますよ。」

 「え、ええ…」

 いままで経験したことのない妙な圧に、アウローラは思わず首を縦に振ってしまう。それを見て、アイザックは満面の喜びを表した。

 「では、明日の夕刻。お待ちしてますよ。ダウネー殿。」

 アウローラの両手をぎゅっと握ったアイザックは、すぐにその手を離すと、立ち上がりさっさと出口のほうへ歩いて行った。

 残されたアウローラは呆れかえりながら、おもしろそうだという好奇心が心の内にむくむくと膨れ上がるのを感じていた。

 

 観客席から廊下に出たアイザックに声をかける者がいた。

 「殿下、捜しましたよ。」

 先ほど軽食屋にいたロングソードを携えた女性だ。

 「ローラか。」

 「勝手に歩き回ってこまります。何かありましたらどうすのですか?」

 ローラと呼ばれた女性は、心配そうな表情を前面に出して、アイザックに苦言を呈した。

 「わかった、わかった。だが、そのおかげで素敵な出会いをしたぞ。」

 「素敵な出会いって。また、どこぞのご婦人に声をかけたのですか?」

 ローラの顔が呆れ顔に変わった。

 「明日、晩餐会に招待した。失礼のないようにもてなしてくれ。」

 「明日の晩餐会にですか?しかし、あれはイースドアの有力者たちを招いた大事な会ですし、例の王女との接見の場ですよ。」

 驚くローラをアイザックは手で制した。

 「わかってる。彼女が来てくれれば目くらましになるだろう。」

 「目くらまし?どういうことですか。」

 「明日になればわかる。それから明日、おれはシュタルツ伯爵だからな。」

 「シュタルツ伯爵?」

 その名前にローラは驚き、首を傾げた。アイザックの意図が図れないためだ。

 「わかったな、ローラ。明日のおれはシュタルツ伯爵だぞ。」

 笑いながら念を押すアイザックは、出口へと歩いて行った。

 その後をローラは慌てて追いかける。

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