後日の話
アウローラたちが魔王ジンの城から立ち去って、一週間後のことである。その場所に飛んで来た一匹の竜がいた。
全身、蒼く染まったその竜は、めざす城を見つけられず戸惑っていた。
場所的には間違いない。
何度も行き来したところだ。間違うはずがない。
しかし、めざす城がない。
かわりに瓦礫の山がある。
まさかと思い、蒼竜ことロボスは、そこへ降り立った。
青い靄が全身を覆い始め、徐々に縮んでいくと、ロボスは人型と化した。
「どういうことだ?」
あまりの状況の変化に思考が追いつかない。
それは足元の仲間の死骸に気づくのを数秒遅らせた。
「これは……」
目の前に、石敷きの広場にめり込んでいる同じ四支柱のひとり、アクレアースの死骸があった。すでに半分ほど腐敗している。
「アクレアース…」
しばらくその場で呆然と佇んでいたロボスは、自分の主人のことに思い至った。
「そうだ、魔王様は──」
辺りを見渡す。
すると、城の横に連なる山脈のひとつに、大きな亀裂があるのが目に入った。しかも、よく見ると竜の形のように見える。
ロボスは、不安の予感を胸に、その場所へ飛ぶべく、翼を広げた。
岩と背の低い植物が点々と広がる山肌に近づくと、ロボスが発見した亀裂の形がより鮮明になった。
確かに山肌が竜の形でえぐられている。
もしや、竜がここに激突したのか。
しかし、死骸が見当たらない。
かわりに黒い灰が所々に積もっていた。
「まさか…」
更に近づき、黒い灰をすくい上げる。
「魔王ジン様……?」
決して考えてはいけない想像が、頭から離れない。
すくい上げた黒い灰が手から零れ落ち、流れる風にそのまま散っていく。
ロボスは更に亀裂を見渡した。
すると、石と石の間になにかが挟まっているのが見えた。拾い上げるとそれは黒い結晶のようであった。
「なんだ、これは?」
自分の知識にはないそれをロボスは、しばらく眺めていたが、捨てるのももったいないと思ったか、その結晶をポケットにしまい込んだ。
亀裂から広場に戻ったロボスは、瓦礫の破片のひとつに腰かけ、思案に暮れていた。
「さて、これからどうする?」
自分の主人は多分、死んだのだろう。
主人の敵を討つか?
しかし、だれが魔王ジンを討った。
そんじょそこらの騎士や魔導士が倒せる相手ではない。
すると、勇者か?
しかし、それも違うような気がする。
倒され方があまりに熾烈だ。
それに勇者が動けば、ロボスに情報が入らない訳がない。
そんなことを考えていたロボスは、不意に自分以外の気配を感じ取った。
「だれだ?」
気配のする方向に目を向けると、そこに降りてきたのは一人の道化師だ。
顔を真っ白に塗り、口元を紅で大きく書き、左の目の下には黒い涙の模様が描かれてある。
銀色の長髪が肩を越し、腰まで伸び、服は金銀の刺繍に赤青の宝石がボタンとして縫い付けられている。
その姿を見て、ロボスは少し警戒心をあげた。
「ごきげんよう。」
軽い口調の甲高い声が道化師から発せられた。
「ルミュエールか。」
ロボスが目を合わさぬように、あらぬ方向に視線を向けた。
「ロボス、お城はどうしたの?」
からかうようにルミュエールが辺りを探す。
「見ての通りだ。」
ロボスは後ろの瓦礫の山を親指で指し示した。
「ふうん、やっぱりか。」
「やっぱり?」
ロボスが視線をルミュエールに向けた。
「一週間前、この辺で大きな魔量の揺らぎがあったから調べにきたのよ。」
「アルカイトスの命令か?」
「アルカイトス様でしょう。」
ルミュエールが不機嫌な顔つきになった。
ロボスの口の端に笑みが浮かんだ。
「そうだな、アルカイトス様だな。」
そう言ってロボスは立ち上がると、ルミュエールへ歩み寄りはじめた。その行動にルミュエールは思わず、身構える。
「ルミュエール、アルカイトス様のところに連れて行ってくれないか?」
「アルカイトス様のところに?」
「ああ、お見せしたいものがある。」
そう言ってロボスはポケットに手を触れた。
「それって何?見せてくれる。」
「ここではだめだ。アルカイトス様の御前でお見せしたい。」
猜疑の目に笑みを足した顔で、ロボスはルミュエールを見た。その顔を見て、ルミュエールは両手をあげて、身体を竦めるポーズをする。
「わかったわ。一緒に行きましょう。」
そう言うと、ルミュエールの身体がふわりと浮き上がった。
ロボスもその後に続いた。
「アルカイトスに乗り換えるのも悪くない。」
その言葉は、風で吹き消され、ルミュエールには聞こえなかった。
************************************
アウローラとの温泉旅行から一ヶ月ほど経ったある日。
おれは、昼食を終え、ひと眠りしたあと、何とはなしにプリムラの聖域たる調理室へ向かった。
城の調理室は、異世界の高級ホテル並みの広さと設備を誇る。ピカピカに磨かれたキッチン、いくつも並ぶ高火力のコンロ、野菜や肉、魚介類などの食材を保管する魔法の保管棚。数えきれないほどの鍋やフライパンなどの調理具が整然と棚に並び、別の部屋には古今東西の食器類が美しいまでも整理陳列されていた。床は汚れ一つもなく、きれいに掃除されている。
プリムラの性格がよく表れた調理室だ。
その中を歩いて行くと、奥からプリムラが駆け寄ってきた。
調理室の奥がプリムラの自室である。
「旦那様、いらっしゃいませ。」
「ちょっと遊びに来た。」
「なにも調理室からいらっしゃらなくても、通常口はいつでも開いております。」
プリムラの自室は、調理室以外にも別に出入口がある。しかし、おれはあえて調理室から入った。
一番の理由は、ここがプリムラの絶対聖域だから。そこでいけないことをすることに、おれもプリムラも気持ちが昂る。
おれはプリムラに近寄るといきなり抱きすくめた。
「旦那様、なにを?」
「今日はプリムラのところで寝る。」
そう言うとプリムラの頬が赤く染まった。
それから数時間後のプリムラのベッドのうえ。
おれが寝返りしたとき、プリムラがおれの耳にそっとささやいた。
「来月を楽しみにしてますね♡」
「─── えっ?」
おれが振り向くと、プリムラが微笑んでいる。
その顔を見て、おれの頭に閃くものがあった。
(プリムラ、おまえもか──⁉)
ようやくエピソード2を公開できました。
楽しんでいただけましたでしょうか?
半年以上もかかってしまい、我ながら遅筆だなあと思います。
あいかわらず「おれ」は無責任でスケベですが、今回はアウローラのためにがんばろうとしています。
愛人たちのチートぶりはかわらず、今回は竜と戦って、それを一蹴しています。
いま、エピソード3のストーリーを練ってます。
エピソード4まで続く予定です。
そのときまでには「おれ」も力を発揮するのでしょうか?
それともからっぽやんで、愛人に丸投げで逃げちゃうかな。
今後の展開、楽しみにしてくれますと、私も筆がはかどります。
応援とPVがたくさんあると、わたしも頑張れると思います。
よろしくお願いします。




